それも好き。小さくても好き。君だから好き。好きっていうのは心地良いものですね。
だから続きです。姉貴は、その、まだ。
今回は途中から苦いです。甘さは苦さを添えてこそ引き立ちますから。
「Karに愛情を伝えたいんですがどうすれば良いですか」
お便りを送ったのは目の前の愛の伝道師、通称UMP9だった。俺の大胆なアプローチに対してもニコニコとしているのは、薄汚れた大人には少し眩しさすら感じる。
暗めのブロンドに琥珀の瞳、これだけではさっぱり伝わらないだろうが彼女はかの悪名高きUMP45の妹である。
9が上機嫌にぴょんぴょんと俺の周りをうさぎ跳びをする、まるで犬のしっぽのようにツインテールがひょこひょこと跳ねた。
プリーツスカートが大変短いので色々と危険なのだが、まあ言っても無駄だろう。上はシャツの上からパーカーを着込んでいて完璧なのだが。
一体姉妹でどうすればこう差がつくのか。
「指揮官って時々周りが引くぐらい直球で来るよねー!」
「真面目な質問だぞ、お前は相手に好意を伝える能力だけは一流だ」
端的にいうと、9は俺が大好きなのである。いや引かないでくれ、これは本人が行動で示しているのだ。
勿論親愛の好きで、まず作戦から帰投するとベタベタと抱きついてくる。頬を擦り合わせてくるのは慣れるには慣れたのだが、あんまり肌が柔らかいので罪悪感は抜けない。
そして日常的に挟んでくる「指揮官好き」発言。
幾ら何でも俺だって分かる、何でもない相手には此処までしないだろう。
「いやいや、私はそういうのすっごくヘタだよ?」
「は? お前自己分析能力ゼロかよ」
流石にこれで下手なら俺は下手どころか才能がないの部類になってしまうではないか。
9が俺の前まで戻ってくると、困ったようにえへへと歯を見せて笑う。
「伝わってたら私にその質問は出来ないもん、怒ってはないけどさ」
「…………? 俺は怒られることしてるかな」
「怒られると言うか、他の子にしちゃ駄目だよってだけ。私は平気~」
よく分からないことを言ったかと思うと、9はわざとらしく自分の両頬を叩くとまたいつもの笑顔に戻ってしまう。
9は基本的に裏表がなく、また俺に素直な返事をしてくれる。だが時々こういう俺には計りかねる言動をするのが困りものだ、詳しく聞こうとしても困ったような顔をして答えてくれない。
――話が逸れたので戻す。
「まあ、ヘタでも良いから案をくれって話」
「じゃあまずは言葉だよね!」
「毎日君が一番だと言っている」
「えー、じゃあハグ!」
「した」
「キス!」
「した」
「もう夜のお誘いしかないよ! 言わせないで欲しいな!」
「した」
「でも伝わってないの?」
伝わってない。
「足りてない」
「欲張りさんめ~、でも今ので指揮官がそう思う理由は分かったよ?」
あっけらかんと9が言い放つ。思わず机から身を乗り出そうとして膝を打った。
「な、何だと…………いてて」
「大丈夫? いたいのいたいのとんでけーっていうのして欲しい?」
いやそんな年じゃねえな俺。
言外にそんな気持ちを込めた視線を送ってみると、9は机の上に散らばっている書類をひょいと持って隠れる真似事をする。
ゆっくりと横から顔を出してきた。
「でも指揮官、Karちゃんには言ってもらってるよね」
「な、何故それを!? アレは外では」
「勿論適当に言っただけ♪ 指揮官チョロいね!」
「クソォ!?」
前言撤回だコイツはあくまで45の妹らしい! なんて巧妙な罠なんだ畜生め!
鬼の首を取ったように口元を押さえてにししと笑う9。やってることは至って外道なんだがちょっと可愛いから洒落にならない、小悪魔め。
「指揮官子供っぽい」
「お前が言うな」
「私は大人だよ、今だって大人のレディの対応だからね!」
お前は何を言ってるんだ。
9はそれきり暫く考え込むような仕草をして辺りをウロウロとしていたが、やがて意地の悪い質問でも思いついたような笑みを零しながら俺を無理やり立たせてくる。
「な、何だよ急に」
「じゃあさ、状況把握も兼ねて私にKarちゃんにすることしてみて!」
急に何を言い出すんだこの子。
思わず目を白黒させて言い返す。
「いやいや駄目だろ」
「良いじゃん、私は平気だし言いふらさないよ?」
「うーん、そうか…………そういう問題か?」
「そういう問題だよ?」
そういう問題なのか。
まあこういう事が公衆の面前で憚られるのは被害が精神的に及ぶからなんだし、誰も被害を被らないのならして良いのか。言われてみればそうかもしれない。
琥珀色の瞳とじーっと見つめ合っていると、何だかその言葉には妙な信憑性が有るような気がしてきた。熱に浮かされているような感じもするが、ならばそれは良い蛮勇とでも前向きに捉えよう。
9がニコニコと手を大きく広げて急かしてくる。
「ほらほら、遠慮せずに!」
「…………引くなよ、お前が言ったんだから」
前置くだけ前置いた。
指揮官の目の色が変わった時に9は後悔した。
――あっ、これ耐えられるかな。
思考が続く間もなく、彼の何時になく真剣で柔らかい眼差しが9の横を通り過ぎていく。あまり割れ物に触るようだったので、それが抱擁だと気づいたのは数秒後の状況証拠から。
彼の手付きは非常にぎこちない。先程の口ぶりから、それは慣れていないのではなく「抑えている」というのが理解できてしまう。
そればかりは反則だと思ってしまった。それを、恐らくKar98kは知らない。
彼がどうして強く抱き締めないのかも、盲目になれる程彼女を想っていることも。全部、今は9だけが知っている秘密。
その立ち位置で諦めたから、一歩引こうとしたからこそ見せられる悪夢。それが優しいものであれば有るほど、手探りに手が回されていくほど心が締め付けられる。
だって彼女に向けられたものじゃないから。彼がKar98kという人形に向けているものは、9どころか他のどの人形とも違うものだと頭は勝手に演算してしまう。
彼は目の前に居るのが誰なのかも忘れている。背丈も、髪の色も、表情も、服装も、髪の匂いだって違うのに居もしない人形に酔えている。それだけ大事だから、鮮明に思い出せるから、恋しくなるから。
耳元で漏れる彼の吐息は荒い。突きつけられた彼の鼓動は速い。状況証拠だけで9は、ちょっと笑えなくなってくる。
「…………」
彼が顔を見ないのを9は感謝している。怒ってはいない、自分がそうして欲しいと言ったことだから。
ついつい手を彼の背中に回しそうになる手を必死で抑えた。それは違う、それはしてはいけない。彼はソレに応えてくれる確信があったが、あったからこそしてはならない。
苦しむのは自分で。勝手に喜ぶのも自分だけ。身勝手な形は必要ない。彼は彼女のもので、彼女も彼のもの。自分が手を伸ばすのは唯の泥棒だ。
――何時まで経っても離してくれないんだね、困るなあ。
暴れて仕方ない感情を嬲り殺しにすると、9はそっと彼の肩を押して顔を逸らした。熱量が消えていく。
「な、やっぱ引くだろ…………俺も流石にアレだとは思うんだが」
普通に喋ってくる男の声に9は声が震えそうだったが、辛うじて体裁を取り繕って
「――――――忘れ物思い出したから、取りに行ってくるね!」
そう言って顔も合わせずに逃げた。
「とゆー訳で、Karちゃん連れてきたよ!」
「えっと、指揮官さん。これはどういう…………」
背中を押されるままに困惑混じりに俺と向かい合うKar。紅い瞳がコロコロと揺れて疑問を投げかけてくるが、俺だって仔細はわからないのだ。
一体何がしたいのだろうと俺達は同時に9の方に目線を寄せたが、9は小さい悪巧みをしているような含み笑いをしている。45のそれと比べれば数段可愛い部類だ。
「指揮官、今からKarちゃんには告白してもらおうと思うんだ!」
「What's?」
何で。言葉に出来ないけど何で。
唐突に地獄絵図の予想図を叩きつけられたKarはゆでダコのように顔を真赤にすると、小走りで9の所へ向かうと肩を持って揺らし倒す。
「こ、これはどういう事かしら! 9ちゃん!?」
「いや~、まあ、必要な、事、だから――――――Karちゃん、喋りにくいよ~」
尋常ではない速度で前後に振られる9。笑顔こそ崩さなかったが、流石に喋りにくくて酷いぶつ切りになっていたようだ。
Karも無自覚に力を入れていたらしく、驚いたように大仰に手を離すと乱れていたコートを着直す。9に咎めるような態度はなかったが、ちょっとだけ申し訳なさそうにKarが上目遣いになる。卑怯な女だ、全く。
「と、取り乱してしまいました。ごめんなさいね」
「良いよ、面白いしね~。それより理由とか聞いておきたい? 今の様子だと」
今しれっと9が面白いって言ったぞ。これは45の妹だわ。
笑ったまま普通に話題を進行させる9には余裕が見える、Karがあんまりあたふたとしてるからそう見えている可能性も低くはないが。
Karがちらりちらりと俺の方を見ると目線を逸らしてしまう。俺がその視線に気づいてないとでも思ってるのかもしれない。
「当然です。射撃場からわざわざ引っ張り出してきて用事が告白、だなんて流石に不自然ではなくて?」
「いやね、指揮官が聞きたいって言うから」
「これっぽっちもそんな事言ってないけど」
ウインクしたからって俺が口裏を合わせると思ったか。そのオフショットを脳内保存して終わりだよ、可愛いなお前。
息をするように嘘をついた9は疑われないどころか、何故か俺がKarから咎めるような視線を頂戴している。何で、何で俺は信用してもらえないのおかしいよね。
9は仕方ないな―、と漏れるように笑う。
「指揮官が愛情を伝えられてない云々ーって悩むのは「公衆の面前でイチャツイてない」、これだけだよ」
Karがこちらに凄い勢いで振り向くと、呆れたような顔をしてくる。
「指揮官さん!? 相談相手を間違えているのではなくて!?」
「Karちゃん何気に失礼だなあ」
口端が吊り上がったのも束の間、9がKarの帽子をひょいと奪ってしまう。
「あ! ちょっと、9ちゃん、返してくださるかしら!?」
「ヤダー」
9が手を高く上げると、Karがぴょんぴょん飛び跳ねながら帽子を追いかける。9の方が圧倒的に背が高いのも有って取り返せる気配はなく、白銀の頭が視界の端で明滅する。
「それで、要するに今のはね?――――――」
9の話が耳に入ってこない。Karが飛び跳ねているのが気になりすぎるのだ。
Karは元々人形でもそこそこ小柄な部類では有るが、高身長気味の9と並ぶと尚更小さい。しかも飛び跳ねてる分子供っぽさがマシマシなのがタチが悪い。
跳ぶたびに長い銀髪とともにコートがふわり、ふわりと浮き上がるのは海月のようで面白いのだが、もう少し下に目線を寄せると――――――うーん、これは言った方が良いか。
帽子に夢中のご令嬢を呼び止める。
「Kar、おいKar。ちょっと忠告しておくぞ」
「何でしょうか? 今! 忙しい! のです! けど!?」
「跳ぶたびにチャールストンが浮き上がってパンツ見えてるぞ」
「――――――――っ!?」
後ろを向くと口をアワアワとさせたKarが急いでチャールストンの端を摘まむが、それはそれで跳びはねている意味がないのでは? と思ってしまう。
もう怒っているのか恥じらっているのかも分からない、そんな感情が沢山花咲いたような真っ赤っ赤の顔。やっぱり彼女は色鮮やかで、それが整った顔より、優しい言葉遣いより、育ちの良さなんかよりもよっぽど俺が好きな所だ。
「み、見ないでください!」
「いやガン見するだろ俺は男の子だぞ。っていうか黒か、珍しいな…………」
いつもは白だった気がするんだが。俺が頼んだらってレベルだったな、黒穿いてたの。
「だって指揮官さんがソッチのほうが可愛いって言ってくれたから…………じゃ、じゃなくって!」
かーっ! 全く、君はすーぐそういう事言う! 好き!!!!!!!
もう見ざるを得なかった。むしろパンツ以外見てないぞ俺は、見なくてはなるまい。俺は彼女の見目の全てを愛おしく思うという結論こそ揺らぎはしなかったが、現在のチャームポイントだけに視線を一心に浴びせてみせた。
視線に勿論気づいているKarが目をギュッと瞑ると涙を零す。その一杯一杯の表情さえ何故か愛おしい、これはどうやら変なスイッチが入ったらしい。君が悪いんだ、君が。
「指揮官さんのえっち! へんたい!」
「かわいい…………誓約しよ――――――してたわ。至福…………」
何やら耳まで赤くして俺に怒っていた気がするが、もう全く耳に入ってこなかった。跳びはねてるのも、泣きそうなのも、もう何か全部好き。今日は寝かせてやれなさそうだ。
代わりに
「こう見せつけられるとこっちも折れざるを得ないからね~…………」
と楽しいような、呆れたような、悲しいような、何だか複雑な表情で微笑んでいる9の声ばかりが俺の耳に残響していた。
あとがきと返信を女性風かつ一般書籍っぽくしてみたいと思います、ロールプレイが好き。何処までが演技かは想像にお任せします、正直ちょっと恥ずかしいけどこれぐらいが楽しい。
今までのものも口調はこっそり差し替えた。怒らないでね。
という訳で挨拶代わりとなりますが「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜いた」第三話、如何でしたか?
え、何。詐欺ですか? 言い訳して大丈夫ですか?
理由は簡潔に。私は皆が好きなので、誰かを脇役にするような書き方は控えてみよう。急に思い立っただけです。
Kar98kには彼女だけの幸せが。UMP9にはUMP9だけの地獄が。表立っている砂糖菓子ばかりではなく、偶には珈琲も飲んでほしいという我儘です。
珈琲の後の甘いお菓子は一層甘い。そういうものではないですか?
言い訳おしまい。今後はドイツの文化等、気軽に詳しくなっていってもらえるようにしてみます。
遅くなりましたが読者の皆様、ありがとうございます。見ての通り無給の自営業みたいなものですから、編集者様やイラスト担当様より貴方を重宝しています。勿論、イラストの類は随時歓迎しています。推薦やランキング入りは達成してしまっていて、次の目標はファンアートですから。
ちなみにもっと重宝するものは高評価です。もう私はこれに関する恥じらいはない、必要ですからください。違法な募金みたいなものです。
ちなみにこの作品の投稿基準は「読み終わった後に『今夜は抱いてあげような』って指揮官に半ギレで迫りたくなる」程度の内容としています。だから時々えっちな訳ですね。
では、次回も風向きが会えばお会いしましょう。後は感想とかね。
――このキャラ、割と喋りやすいのは内緒。