指揮官は別人、イケメン好きだからいろいろ書こうね。
守るべきモノ
「第一部隊、只今帰投しました」
扉が開くなり、薄笑いをした彼女が真っ先に歩いてくる。硝煙に汚れていても宝石は美しいものだが、その鼠色の髪の灰の輝きは衰えていない。
しかし様子を見るには悪い結果ではなかったようだ、少しだけ安心する。
暫く様子を眺めていると、黄金色の瞳が私を見つめて細められているのに気づいた。何時もの事だが何を考えているか私には計りかねる。
取り敢えず業務報告を聞くことにしよう。
「ご苦労だった。戦果は――――――」
「指揮官、ただいまーっ!」
聞く前に飛び込んできた9で言葉が途切れる。慣れてはいるが年頃の娘(AIだが、そういう問題でもない)が気軽に抱きついてくるのはいかがなものだろうか。
注意しよう、しようと思いつつも結局流されて軽く抱きしめてやる。9のコロコロとしたアンバーの瞳を一心に向けられてしまうと、邪険にするのも可哀相になってしまう。私ならそれ程問題もないからだろうか。
「よく帰ったな、様子を見るには結果は上々のようだ」
「うん! ちょっと損害は出てるけど大したことないよ!」
「それは何よりだ」
あんまり強くしてやる気も起きず、やんわりと9の身体を押しのける。今度は45の方へ行って騒ぎ出したので杞憂だったのかもしれない。
「試験的な自律作戦だったが、これなら今後も様子を見次第可能である――――――それで大丈夫だろうか」
「そうですね。問題はないかと」
淡々と、同時に自信を込めた45の返事には頼もしさが有る。
いつもより少し背伸びをした自律作戦を任せてみたのだが、聞いての通り問題は無かったようだ。勿論今回は一線級に任を与え、普段駆り出されている部隊には束の間の休息を満喫してもらっている。
仕事は怠っていないつもりだが心配だ――――――この手の試みをする度にそういう感情に駆られるが、45曰く「自信を持って良いんじゃない?」、9曰く「もっと信用してよ―」だそうだ。
全くその通りなので少し申し訳なくなってくる。
「では第二部隊にもタイミングを図りながら任せることにしよう。ご苦労だった、今日は仕事を他に充ているからじっくり休むと良い」
「やったー!」
「分かりました、それでは――――――行くよ9。失礼します」
手際よく9の手を引いた45が静かに扉を閉めた。
「…………45、これはどういう事だ?」
「休憩を取ってるんだよ?」
私の膝に乗る必要はないと思うのだが。
45は上機嫌に乾かしたばかりらしい、シャンプーの甘い匂いの漂う髪を梳く。机の上にはギリギリ仕事ができる程度に私物を置き散らかされてしまっていた。
――休んでいいと言っているのに。
「休憩の時まで上司の面倒を見ていては疲れるだろう」
「これが私の休憩のつもりなんだけどな~」
「…………そうか」
変わっているとは思うが、別に仕事は出来るのでとやかく言う気もない。私は寛いだり休むことは苦手だ、勝手も分からない。
何時も通りに書類仕事を片付ける。このご時世にまで紙で書いている自分のアナログさ加減は呆れてしまうが、銃火器以外の精密機器はあまり触れないし触りたくない。
「相変わらず速いし見やすい字だよね、前はデスクワークのお仕事してたの?」
「いや、銃を持つ仕事だったとだけ」
面白みもなければ存在するべき仕事でも無かった。私があまり喋りたくないことを悟ってくれたのか、45はそれきり聞いてくることはなかった。
暫く静かにごそごそとしていた45だが、ふと私の右腕を見ると目を見開いてゆっくりと擦る。
「…………今なら人間っぽいガワとか、有るんじゃない?」
45が何処か申し訳無さそうな顔つきになる。本心をいつも隠しているからこそ、彼女の本音は分かりやすい。
――私の右腕は義手だ、左足も同じく。
生身で戦場に出たことが有って、その時に無くした。45は事情が事情だからとそれに負い目を持っているらしい、9から聞いたことだ。
「そういうものは高い。ガワなど無くとも機能に問題はないし、メンテナンスも楽だ」
「……そうだね、そう思う方が合理的だよね」
そう言うと45は書いている書類の方に視線を逸らした。量はだいぶ減ってきていたが、それは元の量に比べればでしか無い。
静かに時計の針が刻まれていく。彼女の小さな背中をみやりながら書いていると、この薄っぺらい文字に有る真実が誰に押し付けられているのか――――なんて事を少し考えてしまう。
「君が見たくないと言うなら、生体パーツに変えても構わない」
「えっ?」
「私の手を見る時に君は悲しそうな顔をする、嫌だというなら――――」
「いや、そういう事じゃない」
慌てたような様子で持ち上げた右腕を机に抑えつけてくる。
「…………自分のしたいようにすれば良いのに」
「私は君の気分を害したくはない。それがしたいことだ」
困ったようなたじろぐような弱々しい目をすると顔を逸らされた。
分からない、あまり自分に感情の起伏がないから彼女がどういう気持ちなのかもはっきり分からない。
――だから、それを分かっている彼女もしっかりと言葉にしてくれる。
「嫌な気分じゃないよ。フクザツだけど、誰かが初めて私に一生懸命になってくれた証だもん」
「私はこれで君達には一生懸命だ、あの時に始まったことじゃない」
「分かってるけど、ちゃんと形になったのはあの日が初めて」
明確になったのはあの日が初めてか。
「でも、それで指揮官の腕と足が無くなっちゃったのも事実」
「人体の代替パーツには困らない時代だ、気にすることか」
「そんな時代だからこそ、生身の身体はとても大事だよ。だから、ちょっと申し訳ないと言うか」
それは普通の人間に言われてもそうか、と言えたが彼女が言うと説得力が有った。全てが人間を模した人形だからこそ、その言葉には意味がある。
一頻り考えてはみたが、だが結論は大して変わらなかった。
「だが私は君がとりわけ大事だ。君が傷つくなら排除したい」
「指揮官、そういうのを女の子に言うと誤解されちゃうよ?」
「そうなのか」
「そうだよ?」
45は時々、こういう事を言うと焦ったような困ったような狼狽した様子で取り繕う。
誤解も何も事実をそのまま言っているのだから誤解できない筈なのだが、人形の情緒は人より複雑なものなのかもしれない。
右手の薬指の指輪を眺めながら、少し頬を赤くする。45は肌が白いから、特に顕著だ。
「こんなものまで渡しちゃってさ、本気になったらどうするつもりなの?」
「誓約は性能向上に直結する。君は優秀だ、どうせならばもっと肌に傷をつけずに帰ってきて欲しい」
「卑怯だなあ、指揮官って」
卑怯、卑怯と呟いてしまう。45の表情は何時も通り小さく笑っているだけで、真意ははっきりと掴めない。
答え合わせ、とでも言わんばかりにじっくりと間を置くと続ける。
「だって「もっと活躍して欲しい」じゃなくて「傷つかないで欲しい」でしょ? それってプロポーズみたいなものだよ?」
「成る程、ならばプロポーズなのかもしれないな」
「――――――――っ!?」
突然耳まで逆上せたように真っ赤になった45が、口を無理やり引き結ぶと目を逸らす。
端的に事実だけ見ればそうなのだろうという結論だったが、そんな馬鹿馬鹿しいことでも言っただろうか。
焦ったように45がぼそぼそと何か呟く。
「そ、そういう事ばっかり言うのは本当にズルいよ…………本気になったらソッチが困るのに」
「私が困る?」
「こ、困ると思うよ!」
ではしないようにしてみようか。何をどうすれば良いのかさっぱりだが。
顔も合わせずに忙しなく動いているので仕方なく書類作業に戻ろうとすると、私の手に気づいた45が何処となく怒ったように書いていた紙をひったくってしまう。
「返してくれないか」
「ヤダ、タダじゃ返さないから」
「となると、君は何と交換条件にするつもりだ」
出来れば私で払える対価だと助かるのだが。これでグリフィンに申請なんてする羽目になってはアチラに迷惑だろうし、私の運営能力も問われてしまう。
暫くいつもより拗ねたような目つきで私を睨んでいたが、それでは全く分からないというのは再三言ってきた通り。
少し捨て鉢じみた、らしくない大声。
「じゃあ週末にショッピング行ってくれたら良いよ!」
「――――――? そんな事でいいのか、構わないが」
「――――――――!? まあ、どうせ放っておいたら寝るか銃を触ってるか勝手に仕事してるかだしね! 指揮官の健康管理まで気を遣って私ってエライと思うな!」
「そうだな。有難う」
「その返事は欲しくない!」
何で彼女は私に怒っているんだ? こうなると途端にコミュニケーションが取れなくなっていつも力不足を感じてしまう。
それからずっと妨害してきた45に押し負けて、私が少し休憩することになった話については、また後日話すとしよう。
『人形達に撤退命令を出してくれ』
ヘリアンの重々しい口調に指揮官の顔が僅かに陰る。
ある合同作戦での話だった。彼は適性試験でも「ある二人」に比べれば見劣りするが高成績を叩き出し、結果として十分な人形を貸与された矢先のことだ。
作戦が始まるに連れ攻略は難航していった。報告にない幾つかの新型鉄血兵のせいである。
「………………それは、彼女達を見限れと」
珍しく熱の込もった重い声に、横で聞いていた協力先の指揮官も驚いた顔をする。彼はそれまでに如何なる状況であっても大きく感情を見せていなかったのだ。
彼女達、とは45と9の事。この二体は特殊な事情で今は明るみに出せる人形とは言えず、横の指揮官には「人形が居る」レベルの情報しか与えられていなかった。
偶々試験運用に選ばれた彼だけが二人を知っている。
『そうだ』
「ちょっと待ったヘリっち、多分俺にやったら隠してる人形のことだろうが今見捨てる必要はないだろ? 別にそれぐらい――――――」
庇うような形で入ってきた指揮官を彼が止める。
「いや、それで他の人形達までロストすれば元も子もないのは事実だ。あの人は正しい」
「でもアンタ明らかに――――――」
彼の顔を見て指揮官が止まる。凄まじく荒れた剣呑だった、「もう黙って欲しい」と僅かに残った冷静さが無理やりせき止めるような切実な表情。
――尚更ダメだと思うが、まあ良いか。本人が嫌がってるし。
支離滅裂な彼の態度に呆れつつ、しかし一々口出しするべきでもないからと指揮官が引っ込む。
「了解、
『…………すまない。貴官には辛い決断をさせてしまった』
先ほどと打って変わった何処か吹っ切れた返事が返ってくる。
「いえ、私は指揮官です。大多数の利益のために部隊を動かすのは当然の義務でしょう」
『そう答えると分かるからこそ謝罪する。本当にすまない、宜しく頼んだ』
ヘリアンからの通信が一旦切れると、指揮官が彼に複雑な表情を向ける。
「アンタ、もっと上司に逆らってみた方が良いと思うんだが」
それは心からの言葉だった、面倒事に真っ向から立ち向かう趣味のない指揮官の珍しい衝突も厭わない言葉。
彼の表情はそれほど酷いもの――――――だった。
今は違った、突然護身用に持参していたWA2000を持った彼に指揮官が目を剥く。
「…………ストップ。何する気だよ?」
「――――――不躾なお願いなのは分かっているが、貴方しか頼れる人が居ない。部下を、宜しくお願いします」
淡々と武装を整えていく彼に指揮官が騒ぎ立てて服を引っ張って連れ戻す。
「待て待て待て! は? まさかアンタ生身で行くの!? 鉄血相手に、単騎!?」
「そうだが。『部隊を』動かすのは大多数の利益に向けてであり、撤退させるのは『部隊』と答えた。嘘はついていない」
――そういやそうだったわ! いやでも、バカだろ!?
「どうしてもって言うならもう止めないが、命かけるほど大事なものって有るか!? アンタが死んだらそれこそ他の人形のメンタルがイカれる、気持ちはお察しするが今は歯止め効かせてくれない!?」
「…………それは違う。いや、正しいが『私にとって』正しくない」
あっという間に装備を整えきってしまった彼が、漆黒の瞳で指揮官を真っ直ぐと貫く。
「指揮官は何かを守る仕事だ――――――――守りたいものも守れない人間に、指揮官がやっていけるとは思えない」
そう言うと銃を構えながら、少しだけ申し訳なさそうに頭だけ下げて視線を落とす。
「後は頼んだ…………仕事量を増やしてすまない、いつか借りは返す。金でも休暇でも無理やり都合してみせる事を約束しよう」
そのまま彼は恐ろしい前傾姿勢で敵陣地方向へとテントから走っていってしまう。
臨時作戦室に静寂だけが残る。取り残された指揮官の顔は暫く呆けていたが、ふと入った無線に頬を叩く。
――ああもう、トンデモナイやつだな!
「――――――――聞こえるか、A-10部隊! 今からお隣の指揮官が臨時で指揮を執る。生きて帰ってきたらクルーガーに俺の給料アップと、ブラック労働の改善を申し出ること! これ絶対な、という訳で状況報告。命がけで走って逃げろ、死んだら寝覚めが悪いからな!」
そう言って半ばやけっぱち気味に指揮を執りだした。
二人きりになるとデレデレの45欲しくない…………私欲しい。ほしかった、つくった。
好きなのに意外と書けなかったから苦労しましたね。
時々別の指揮官とお喋りして欲しいなあみたいな願望。書くかもしれないし全く書かないかもしれないですね、正直気分。
それよりCPを別にしてみたくはなるかもしれない。
【指揮官】
本当は寡黙系イケメン。不器用極まりない。
見捨てられた45と9を助けに行って右腕と左足を喪失。今は義肢、45は妹扱いする事が多い。誓約はお守りのつもり、お馬鹿です。
仏頂面だが無感動ではない。生身のくせにかなり強い、仕事以外がとても適当。
愛銃はWA2000、サブで2040年台モデルのアパッチ・リボルバー。浮気と45によくからかわれる。
性格のモデルは葛木宗一郎。
【指揮官その2】
畳返しとかはしない、元々畳返しが十八番な予定だったけど相談を躊躇って敢え無く頓挫。元々は「え、指揮官行っちゃったら誰が指揮取るの?」って素で思ったから生えた。
合同作戦の後は指揮官に無事休暇をもぎ取ってもらっている。曰く「ゴリラはクルーガーだけじゃダメですか」とのこと。
【UMP45】
デレデレしてる。笑顔で殴ってこない。
べた惚れ。立ち止まってニヤニヤしてたら「指揮官のこと考えてる…………」とか囁かれるレベル。
人前でベタベタしたくない。でも指揮官をホールドする為にたまーにベタベタする。特に効果はない。
むしろ指揮官がど直球で凄いことを言うので基本たじたじになる。