悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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誤字報告ありがとうございます。日本語が不自由な作者でご迷惑をお掛けいてします。
今からもお世話になると思いますが訂正していない部分は日本語的に間違っていても、私が「この表現がいいの!」となっている部分ですのでご了承の程をお願いします。

この場をお借りして、改めて感謝をば。
ホント、ありがとうございます。

※NL描写があります。
なんやこの注意書き……


12.悪役令嬢は贈りたい!

 舞踏会という名の社交界において俺という存在は壁の花に徹しなければならない。

 王族であるリゲルの許嫁であり、あのゲイルディアの娘だ。壁の花になりたくなくても壁に飾られるのが宿命みたいな物だ。

 というか、貴族の親が何を言い聞かせているのかわからないけれど、皆俺に話し掛けてくれないのである。決して俺が嫌われているとか、そういう理由ではない。きっと。たぶん。過分な評価が悪いのだ。

 シャリィ先生がこの場を避ける理由はある程度理解できる。ニコニコと笑いながら皮肉を交わし、ゲイルディア当主がいない事をいい事に俺にまで探りを入れてくるような場所である。シャリィ先生なら「本を読んでいる方がマシ」とでも言うに違いない。

 

 けれども俺はゲイルディアの娘である。お母様とお父様が俺をこの場に出すことに躍起になっているのである。俺自身も出なければいけない事を理解しているけれど、出来ることならばあまり出たくはない。

 確かに着飾ったご令嬢達を視界に入れるのは非常に目の保養になる。咲き誇る花達を見るのは非常に素晴らしい。俺から声を掛けたら避けられる事を除けば。

 

 舞踏会に一番最初に出た時はよかった。ゲイルディアという看板を背負いはしていたけれど、幼さの抜けきらない少女達に気軽に声を掛けて談笑を楽しむ事が出来たのだ。加えて俺よりも年上のお姉さま達にも社交界の在り方を学んだものだ。先手を取って目に見えるような嫌味を叩きつけられ、数日後には謝罪のお手紙を頂いた訳である。次の舞踏会で俺を見かけた瞬間に顔を青くしてこっそりと逃げ出すか、下手な笑顔で俺に謙って更に下手な探りを入れてくるかのどちらかにならなければきっといい関係になっていただろう。

 花たちの争いというのは美しさを競う事の他に自身の背負った看板を用いて殴り合うという貴族特有のマウントの取り合いがあるのだけれど、全く以てそんな事に興味の無い、というか花に価値を見出そうとする俺とは隔絶された世界の争いなのだから静観しながら笑顔を浮かべる事を徹底していたらこうなったのである。

 確かに、俺も悪かった。俺は花を手折る側ではなくて花そのものである事を理解していた訳だし、そりゃぁゲイルディアの名前を背負っていた訳であるから調子に乗って花を愛でる事も出来ずに必死だったのだ。お嬢様の状態を維持しながら目立たずに、波風を立たせないようにした結果が今なのである。俺が何をしたって言うんだ。俺は悪くない。

 

 まあ、花達が避ける事も、変に媚びてくるのも、いいとしよう。可愛いし、綺麗だし、許そう。俺は心が広いからな。こっちに探りを入れてくるのも、許そう。情報を漏らす事はないし、勝手に漏れてくるアチラさんの情報もある。精査の必要はあるだろうけど、それは俺の仕事じゃないし所詮令嬢から漏れ出てくる情報だ。政治的な価値はそれほど無いだろう。有力そうな物はお父様にご報告させていただきますね!

 

「貴女はまるでこの場に咲いた大輪の花だ。成長なされて増々美しくなった」

「ありがとうございます」

 

 虫唾が走る。

 舌打ちをして目の前にいる男を睨みたい気持ちを抑え込んで笑顔を貼り付ける。

 花達が何をしようが俺は怒らない。ああ、そうさ。なんせ可愛らしいのだから、怒る必要がどこにあろうか。だが、俺に言い寄ってくる男は俺の手ではなくて是非とも地面とキスでもしていてほしい。

 これで四人目である。あー、モテてツライわー。マジツライわー。誰か代わってほしいなー、マジで代わってくれ。

 このまま踊りに誘われるまでがワンセットな訳だけど、本当に勘弁してほしい。社交界に出席したくない理由の大半がこういった馬鹿が原因である。けれどゲイルディアの名前のお陰で俺は出席しなければならないし、許嫁の都合もある。

 俺の許嫁が王族である事はわかってる筈なんですが……。リゲルが来るまで談笑するぐらいならいいんだけど、踊りどころか婚約まで申し込んできた奴が居た時は驚いた。その時は笑いながら「冗談はよしてくれ」とお嬢様言葉を吐き出したけれど、ドコかにドッキリ成功とかの看板でもあったんですかね? それともコレも王族に入る為の試験か何かでどこかで監視されてたんですかね? まあ次の舞踏会でも相変わらずだったから絶対違うけどな!

 

「――是非とも一曲ご一緒していただけますか?」

「申し訳ありませんがお断りいたしますわ。貴方も許嫁がいた筈ですが」

「ハハッ、流石ゲイルディア家の神童と言われるだけあり耳が早い」

 

 てめぇが言ったんだよ。クソが。

 

「親が勝手に決めた許嫁です。貴女も、そうでしょう?」

 

 ニタリと笑った男に俺もニッコリと笑う。頭の中に彼の出自と身分を思い出す。この舞踏会の主催の事も考えなくてはならない。

 魔法式で頭を吹き飛ばすとか、そういう事はしてはいけない。

 

「生憎、この手を取ってくれるのは貴方ではありませんわ」

「ディーナに何か用かい?」

「……いえ、ただ談笑していただけですよ、リゲル王子」

 

 よく言う。リゲルからは見えなかったと思うけど、思いっきり顔を顰めたのは見たからな。それでもちゃんと笑顔を浮かべて対応できているのはいい事だ。地に落ちてた評価を少しだけ浮かしてやろう。

 立ち去る男を見送る事もなく俺はリゲルへと頭を軽く下げる。

 

「御機嫌よう、リゲル様」

「ああ。少し遅かったかな?」

「ええ。お陰で彼で四人目ですわ」

「毎回言ってるけど、僕は構わないんだぞ?」

「毎回言いますが、私が構いますの」

 

 絶対イヤだ。何より俺が馬鹿と踊る事でゲイルディアの評価並びにリゲルの評価も落ちるかもしれない。まあリゲルの評価が落ちるよりも俺をバカ女扱いして切り捨てる方が早いだろうが。

 何にしろ、こうして成長しても俺はリゲルへの誓いをちゃんと守っている。つーか、守らなかったら舞踏会の花達を端から端まで手折っていた事だろう。それこそ歯の浮くようなセリフを吐き出していたのは俺に間違いない。ゲイルディアの名前のお陰で花は逃げてるんだけどな!

 

「ディーナは綺麗だからね」

「そんな事はありませんわ。あの方たちは私が失敗する事を望んでおられるだけですわ」

 

 そうでなければ王族の許嫁に言い寄る事もないだろう。

 彼らの口車に乗せられたが最後、俺とリゲルの関係はさっぱり無くなる事だろう。それはそれで、リゲルの為であるかもしれないけど、今はまだ誓いを守らせてほしい。

 綺羅びやかな天井を見上げて、小さく息を吐き出して気持ちを切り替える。

 

「貴方が来たという事は、今日の主役もそろそろ来る頃かしら?」

「うん。僕は主役に言い付けられて早めに来たからね」

「あら、言われなければ私の元に来てくれなかったのかしら?」

「さぁ? どうかな」

 

 ニコニコとしながら答えを濁したリゲルをジトリと見てみれば肩を竦められた。

 こういう事を言いながらもちゃんと俺の所に来てくれる辺り、優しさが見て取れるし、まあ男の子の見栄という物だろう。俺はよく知ってるんだ。ここまで口も表情も上手くできなかったけれど。

 

 ざわりと着飾った貴族達が賑わう。どうやら主役が登場したらしい。

 差し出されたリゲルの手に自身の手を添えてやれば優しく握られて導かれる。

 

 ああ、俺はニヤついてないだろうか。きっと妄想しているよりも可愛い事だろう。きっと想像しているよりも綺麗に決まっている。

 ソレは天使であった。

 それは女神であった。

 両方の素質を孕ませた可愛さの化身がそこには在った。

 緊張で少しだけ顔が強張っているけれど、そこも愛嬌だろう。可愛い。可愛いかよ。

 ニヤついてない? 大丈夫? 何回も顔を合わせているけれど、こうして着飾った姿は初めてなんだ。リゲルに聞こうにも俺の印象を崩す訳にもいかない。連れられている事をいい事に目を閉じて意識を集中して魔法式を解いていく。

 よし、落ち着いた。目を開く。可愛い。

 

「ディーナお姉さま!」

 

 可愛さの化身であらせられるスピカ様がこちらを見て満面の笑みを咲き誇らせた。ウ゛ッ。やめろ! 俺を殺すつもりか! もっと笑って!

 本心を隠す事は慣れてしまったので、軽く頭を下げて表面だけをニコリと微笑ませる。

 

「お久しぶりですわ、スピカ様。今日は一段と御綺麗ですわ」

「えへへ。ディーナお姉さまもとっても綺麗だよ」

「ありがとうございます」

 

 は? おまかわ。

 けれど授かったお褒めの言葉はしっかりと受け取っておかなくてはいかない。言葉って物質化できない? どうにかして家宝にしたいんだけど。

 社交界、というべきか、公的な場所に初めて足を踏み入れた無垢で純白の存在は相変わらず可愛い。どうにか技術革命とかでカメラとか写真とか今すぐできないかな? 魔法式で写し込んだらいけるか? クッ、俺が天才だったら……! シャリィ先生はどこに居ますか!? スピカ様には挨拶する為に居る筈だろ! いや、挨拶がある程度人数捌けるまでどっかに消えてそうだなあの人……。

 

「お兄さまがずっとそわそわしていて――」

「スピカ!」

「あら、そうでしたのね。ありがとうございます。リゲル様」

「……別に。僕が先に行きたかっただけだよ」

「ええ。ではそういう事にしておきましょう」

 

 顔を少しだけ赤くしながらムッとしたリゲルをクスクスと笑いながら密告してくれたスピカ様にこれ以上リゲルをイジメないように口元に人指し指を置いて流し目で見る。スピカ様はどうやら意図を察してくれたようで同じくクスクスと笑いながら頷いてくれた。可愛い上にかしこい。最強かな?

 さて、こうしてリゲルに案内されていの一番にスピカ様にご挨拶できたのだから準備していた物を渡しておこう。

 

「スピカ様、お手を宜しいでしょうか?」

 

 首を傾げながらも小さな手を差し出してくれるスピカ様の前に傅いて片手で少し持ち上げる。

 隠し持っていた()()()()()()()を連ねた装飾品をスピカ様の手首に巻き付けて金具で軽く固定する。大きい物でもビー玉よりも小さな石達がジャラリとスピカ様の手首で音を鳴らす。

 ここ数ヶ月、スピカ様が社交界のデビューに合わせて色々と編み込んだブレスレットである。素材は宝石と金具。刻み込んだ文字達に意味はそれほど無いけれどシャリィ先生から雑学として教わったエルフに伝わっている魔除けの意味を沢山詰め込んで俺の魔力をしっかりと溜め込んだ。でゅへへ……スピカたん、これで毎日一緒だよ……。

 王族への贈り物という事で完成した瞬間に王族が抱えている魔法使い殿に安全確認を行ってもらい許可は頂いている。というか、魔法使いさんに言われたのは厭味ったらしく「装飾品の鑑定は私ではなく商人に頼むべきでは?」なんて吐きやがったのでこの国の魔法使いの未来が少しだけ不安になった。

 俺の知らない知識だけで呪いとかも存在してるんじゃないの? エルフに魔除けが伝わっている訳だし。マジで大丈夫? リゲルとかスピカ様をそういう脅威から守れるの?

 

「きれい……」

 

 手首に収まったブレスレットを光に翳したり、マジマジと見たりしているスピカ様がポツリと呟いた。可愛いよスピカ様可愛いよ。

 

「ありがとうございます。魔除けのブレスレットですわ。形が少し崩れてしまいましたが、効力は私の先生のお墨付きです」

「お姉さまが作ったの!?」

「ええ。スピカ様に似合うよう、心を込めて作らせていただきました。気に入って貰えたなら、私も嬉しいですわ」

「すっごく嬉しい! ありがとう、ディーナお姉さま!」

 

 ほぁぁぁ、スピカ様が抱きついてきたんじゃぁぁ……ウ゛ッ……。

 

 

 終始ニコニコしてくれていたスピカ様を永遠に眺めていたい気持ちだったけれど、本日の主役を独占する訳にもいかずにすごすごとスピカ様の前から下がって静かなバルコニーで夜風に当たる。

 なんでか火照った頭に涼しい夜風が気持ちいい。そんな俺の隣には少しムスッとしているリゲルがいる。

 

「……私はもう暫くここで涼んでから戻りますので、先に戻ってくださっても構いませんわよ?」

「僕が好きでここにいるだけだよ」

 

 ふむ。賑やかな所に戻りたい訳じゃないのか。

 

「急いで助けに来てくれてありがとうございます」

「それは……もういい」

 

 余計にムスッとしてしまった。確かに改めて突いたのは失敗だったな。謝罪を一言入れてから、どうしたものかと迷ってしまう。

 うーん。リゲルがこんなに拗ねてるなんて初めてな気がする。今までは隠してたのか? 気付けなかった俺も悪いかな。

 

「……僕にはあんな贈り物なかった」

「あら、スピカ様に嫉妬してくれたんですのね」

 

 ボソリと呟いた言葉に返してみせればリゲルの顔が真っ赤になっていく。お兄ちゃんだもんな……スピカ様の前で我慢していただけ大人なのだろう。

 成長している許嫁を嬉しく思うと自然と笑みがこみ上げる。隠す事もせずに微笑みながらリゲルの頭を優しく撫でてやる。

 

「今度そちらに向かう時には用意しておきますわ」

「本当か?」

「私がリゲル様に嘘を吐いた事がありましたか?」

「……楽しみにしてる」

「はい。楽しみにしておいてくださいまし」

 

 必要最低限の嘘は吐いている、という事はリゲルに隠しておこう。

 ムスッと拗ねていた顔をどうにか元の表情に戻したリゲルを見送りながら、こういう所は王族よなぁ、と思ってしまう。俺の様に大人が子供になっている訳ではなく、王族としての教育の賜物だろう。

 機能として魔除けが働いているかもシャリィ先生から聞いておいた方がいいかもしれないし、大きさの丁度いい宝石を購入するお小遣いも……お父様から()()()するしかない。

 すり減っていく財布と貯金に少しだけ気落ちしてしまうけれど、どうしてか俺の顔は笑っていた。やっぱ、充足感があると違うな。

 

 

 

 

 

 後日、約束通りにリゲルに自作魔石をワンポイントとした簡単なネックレスを贈呈すると、それを見たスピカ様が頬を膨らませてしまったのだけれど、それはまた別の話である。

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