悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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13.悪役令嬢は任されたい!

 年を重ねる毎に成長を見守るのはなんと楽しいのだろうか。

 

「どうかしたの? ディーナお姉さま」

「何でもありませんわ。スピカ様」

 

 こうしてスピカ様と王城の庭で優雅にお茶をするのもかれこれ何度目になるだろうか。控えるメイドさんの顔も幾らか変わっているというのにスピカ様の顔は日毎に可愛くなっている気がする。

 手首にはしっかりと俺があげたブレスレットが小さな音を鳴らしている。実に、素晴らしい。このままどうにかスピカ様を俺の物にしたい。百合ハーレムの中に入れたい。

 可愛い妹分、と言えば王族であるスピカ様に失礼になるのかもしれないけれど、可愛いものは可愛いのだ。もっと愛でさせろ。四年前から実の弟である筈のアレクが俺の事を避けてるんだ……。ゲイルディアの噂が原因ではない……、つまるところ俺の責任になるのだけれど身に覚えはない。可愛い弟なのに……思春期だと思ってあまり触れないようにしているけれど、それが正しいかはわからない。

 お父様もお母様も姉弟関係に関しては口は出してこないし。代わりにアマリナを愛でるしかないな!

 

「ディーナは僕のもとへ来たんじゃないのか?」

「あら、許嫁を放っておいて剣術の訓練へ行ったのはリゲル様ではないこと?」

「それは……あ、そうだ。ディーナは初めてだったかな。彼はレーゲン。僕と剣を習っているんだ」

 

 逃げやがった。それに対して目くじらを立てる意味もないので細めた目を彼の隣にいる騎士へと向ける。

 軽装な格好であるのは先程までリゲルと一緒に鍛錬へと勤しんでいたからだろう。それにしてもガチガチに緊張しているのが見て取れる。顔は強張っているし、無理に作ろうとしている笑顔がなんとも言えない。

 

「初めまして、レーゲン・シュタールと言い――申し、ます、です」

「私はディーナ・ゲイルディアですわ。シュタールと言えば第一軍団長と同じ家名ですが」

「はい。俺の……ワタシの父デス、ます」

「言葉は楽にして構いませんわ」

「それは助かる。どうにも敬語ってのには慣れなくてな」

 

 ニッと歯を見せて爽やかに笑う好少年である。リゲルも仕方ないな、という風に肩を竦めている。どうやら彼はリゲルの時も同じ事をしたらしい。

 

「貴方、リゲル様にもその口調なのかしら?」

「ん? ああ。そうだぞ」

「……頭が痛くなりますわね」

 

 騎士見習いとしてどうなのか。王族に対して敬語無しは。仮にもどころか直系で一番上にいる上司だぞ。いや、その辺りを言い始めるとヘリオも俺に対して普通に喋らせているから人の事は言えないけれど。

 それでも頭が痛くなる事は確かである。飼い主と奴隷を王族と騎士で比べる意味もない。

 

「僕は構わないんだけど」

「リゲル様が構わなくても他が黙っていませんの」

「俺だって人の目がある所じゃちゃんと敬語だぞ?」

 

 ほんとぉ? 自信満々な彼からリゲルへと視線を向ければそっぽ向かれた。嘘かよ。

 溜め息を一つ。まあリゲルの交友関係に関して俺がとやかく言える立場ではない。許嫁だけれど、そこまで彼を束縛する気にもなれない。俺も勝手気ままにしている訳だし。

 

「お兄さまもレーゲンさまも。今日はわたしのお姉さまなの!」

 

 俺が二人に構いすぎたのか、スピカ様が俺にしがみついて離さないようにしている。痛みが吹き飛んだ。スピカ様は可愛いなぁ。クッ、鼻が熱い。

 今日は表側の理由としてリゲルに会いに来た事にしているけれど、スピカ様とイチャイチャしたいという本心は確かにあった。十割ぐらいあった。

 リゲルの訓練時間を調べて、その時間に合わせたのは俺だし、訓練も大事だから向かわせたのも俺である。クククッ、全てこの俺の計算通りなのだ!

 

「スピカ、僕の許嫁なんだけど?」

「お兄さまもレーゲンさまも来年からお姉さまと学校に入るから、今日はわたしのお姉さまなの!」

「あら、困ってしまいますわ」

「代わってやろうか?」

「結構よ」

 

 吹き飛ばすぞ。誰が譲るか。

 訓練を見てた限りヘリオにも勝てそうにないお前に誰がこの場を譲るというのか。スピカ様に触りたくば俺を倒してからにしろよ。

 しかし、リゲル相手だからか俺が見てわかるぐらいには手加減をしていた。彼の実力の底は見えないから、実際俺が勝てるかどうかはわからない。スピカ様の為なら勝てる。勝つ。勝つ以外の選択肢など必要ない。

 

 可愛いスピカ様の頭を撫でて宥める。怒ってる顔も可愛いけど、やっぱり笑ってる顔の方が可愛いんだよなぁ。当たり前だよなァ。

 

 

 シルベスタ王国に作られた学校という施設は全寮制であり、その間は長期休暇や何か特殊な事例がない限りは親元を離れる事になる。学ぶことも戦術であったり、魔法であったり、剣術や馬術などの事ばかりである。当然、数学や語学などの分野もある。それらを十五歳から十八歳までの三年間で叩き込まれる訳である。

 学校では平民も王族も関係ない、とは謳っているが今となってはそんな事はない。

 平民も学校に入る事はできる。できるが、巨額の入学資金が必要となりソレを容易く支払う事のできる貴族連中や商人達の子供が入るのである。初代の王様が求めていただろう教育機関は既に形骸化していると言ってもいいかもしれない。

 商人達が学校に入る意味は勉学的な意味では薄い。それこそ魔法や剣術など騎士や魔法使いにでもならない限り必要となる場面は少ないだろう。彼らは剣を持って戦う人ではなく弁舌と商品で生き抜く商人である。だからこそ、学校という施設に巨額を支払っても入学をする。なんせ、そこには貴族が存在しているのだ。上手くいけば大型顧客を手に入れる事ができる。

 貴族連中で言えば、横の繋がりの意味もあるし、何より箔が付く。騎士としての役割もあるし、半ば義務的な面もある。

 

 二年程歳の離れているスピカ様と同じ学舎に通うのは一年だけになる。俺に耐える事ができるのだろうか。無理かもしれない。でもおいら頑張るよ。

 騎士としての過程をすっ飛ばす意味も含めてヘリオも入学させておきたい。彼が自由になった時に役に立つだろう。ヘリオも書類上俺と同じ年齢にして、一緒に入学させとくか。アマリナは……放すつもりないし、下手に騎士称号とか得られてアッサリどこかに行かれると困る。大変困る……。

 

「長期休暇になればスピカ様のもとにも来ますわ」

「ほんとう?」

「ええ。可愛い私の妹分ですもの」

 

 頬を撫でて瞳を見つめる。すべすべの肌である。目もくりくりで可愛い。

 ああぁあぁぁあああ離れたくねぇぇぇぇええなぁぁああああ!! 俺の入学期遅らせてもいいんじゃね? いや、リゲルの許嫁としての役割でそんな事許されないし、ゲイルディアの名前にも傷がつくし、アレクの事を先輩と呼ばなくてはいけなくなる……それは姉としての威厳がですね……。

 顔を真っ赤にして俺に抱きついてきたスピカ様をしっかりと抱きしめておく。はっはっはっ、可愛い奴め。俺って今鼻血とか出てない? 大丈夫?

 

 

 

 

 しっかりとスピカ様成分を補給した俺はニッコニコしながら王都にある自邸に戻ろうとする。今日のスピカ様も大変可愛かった。沢山抱きついてくれるし、いい匂いもするし、成長してきて柔らかい部分が増えてきた。実に、素晴らしい。

 

「ディーナ・ゲイルディア様。少々よろしいでしょうか?」

 

 振り返ればメイドさんが一人。まだ王城に居たけれど、さて、どこの馬鹿がゲイルディアを悪事に誘いに来たのだろうか。

 目を細めてメイドさんの頭から足先までを確認する。その程度でどの貴族かなどわからないけれど、綺麗な人を目にするのに意味なんて無い。

 

「誰の誘いでしょうか?」

「……」

「沈黙、ですか」

 

 ここまで堂々とした誘いというのは初めて受ける。いつもならば手紙などで回りくどいやり取りをして、俺からお父様へと繋ごうとするのだ。

 だからこそ、こうして俺個人を目的にしているであろう誘いというのは初めてでもある。

 相手は誰かわからない。頭の中に登城しているであろう貴族達の名前を並べていく。そんな事をした所で俺にはさっぱりわからないけれど、果たして相手は誰だろうか。

 一体どんな誘いを受けるのだろうか。一度経験しとくべきか。まだ子供の戯言で終わらせる事のできる年齢であるし、ゲイルディアとして話を受けなければいいだろう。何かあった時は……お父様に助けてもらおう。

 

「誘いに乗りましょう。案内してくださるかしら?」

「ありがとうございます」

 

 くるりと踵を返したメイドさんの後ろを歩く。しかし……いいお尻してますねぇ!

 

 

 連れてこられたのは王城であるというのに豪奢ではなくどちらかと言えば簡素な部屋である。尤も、置かれている机や敷かれた絨毯などの調度品は質が高いけれど。

 誰も居ない部屋でメイドさんもどこかに行ってしまったし。何をする訳でもなく椅子に座っておく。

 さて、どこの馬鹿だろうか。

 頭の中で馬鹿候補を考えながら誘われるであろう内容を予測する。予測した所で全く的外れになるかもしれないけれど、暇つぶしには丁度いい。

 背後にある扉が開かれた音を聞いて、俺は首を回して相手を視界に入れる。

 

「む、どうやら待たせてしまったようだな。許せよ、ディーナ嬢」

 

 ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!?

 慌てて椅子から立ち上がって相手に向かって膝を突いて頭を下げる。アイエエエエエ!? オウサマ!? オウサマナンデ!?

 カンラカンラと笑いながら許しが出されたので頭をあげる。間違いなく、王様である。コワイ! 俺が何をしたっていうんだ! もしかしてスピカ様の事をクンカクンカしてるのがバレたっていうのか? それとも贈った魔法式編み込んだブレスレットが悪かったのか!? 悪いことしか思いつかねぇ!

 

「そのままでは話もできん。座って楽にしてもいいぞ。取って食いする訳でなし」

「で、ではお言葉に甘えさせていただきます……」

 

 王様が向かいの椅子に座った事を確認して、俺も促されたので椅子に座る。もうやだ……帰りたい……。礼儀作法は叩き込まれてるけど、王様相手はまた別な気がする。

 口の中が乾いてきた。

 

「さて、ディーナ嬢に一つ頼みたい事がある」

「頼みたい事、でしょうか」

「そうだ。来年リゲルと共に学校に通うディーナ嬢に、だ」

 

 頭をフル回転させて、王様の言いたい事を考える。嫌な予感しかしない。誘いなんて乗るんじゃなかった。いや、乗らなかったとしてもどうせ呼び出されてただろう。ツライ。

 

「リゲル様の護衛、でしょうか?」

「ああ。そうだ」

「……それはレーゲン・シュタールがする予定なのでは?」

「察しがいいな」

 

 ニヤリと笑った王様が実に怖い。お父様よりも愛嬌があるくせにホント怖い。

 

「シュタールの倅は表向きの護衛だ。護衛としての任務は遂行してもらうが、目に見える脅威だけにしか対応できん」

「目に見えない脅威に対して……リゲル様を陥れようとする者達を事前に止めろ、と?」

「俺にも敵は多い。行動に出ていないだけでな。その点、リゲルは俺よりも御しやすいだろう」

 

 言っている事は、理解できる。ゲイルディア、という家名であるからこそ出来る事もある。役回り的に丁度いい立ち位置にいる事も、納得はできた。

 

「……では、陛下。まずは私という存在が不穏分子です」

「……ほう?」

「私はあのゲイルディアの娘です。こうして陛下と二人きり……という訳ではございませんが、ある程度の距離まで接近できる所まで来ました。クラウス・ゲイルディアが仕込んだ毒であり、陛下ではなく御しやすいリゲル様の許嫁として存在している私こそが、現状見えざる脅威ですわ」

 

 だからそんな任務俺には無理です。勘弁してください。俺には学校でお姉様プレイするっていう夢があるんです。姉妹制度とか勝手に作って百合ハーレムを作ろうとしてるんです。

 リゲルと離れる事になっても、まあ別にいい。二年後にはスピカ様が学校に来るのだからこの脅威への対抗を考えておけばいい。抜け道は沢山作るし、何よりスピカ様に対しては積み重ねがある。大丈夫だ。何も問題ない。

 

「クククッ、ハハハハハハ! 自身を脅威だと言い、父であるクラウスこそ悪だと言うか。なるほど、確かにアレは悪人面だからなクククッ」

「……」

「おっと、すまんな。娘であるディーナ嬢を前に父親を誹ってしまった。許せ」

「いえ、お父様の評価として『悪人』でないだけまだ良い方ですわ」

「そうだな。アレは悪人として噂されているからな」

 

 笑いながら変わらずお父様の事実を口にした王様はわざとらしく咳き込んで、まだ笑いが収まっていない顔で口を開く。

 

「クラウス・ゲイルディアは悪人ではない。それは俺が保証しよう」

「……かしこまりました」

「信じていないな?」

「いえ。少し、安心しております」

 

 王からの保証なら、と安心はできるけれど、でもゲイルディア当主だぜ? あの悪人顔だと絶対何か考えてるって。じゃなきゃ俺を許嫁になんてしないって。

 

「それにディーナ嬢とリゲルの許嫁を決定したのは俺だ。そして今現在も俺はディーナ嬢をリゲルの許嫁にした事を正しいと思っている」

「……そうやって期待を掛けて逃げ道を塞ぎますのね」

「バレたか。が、お前はこの頼み事を受けてくれるさ。お前の父のように、な」

 

 王様の前で不敬に当たるだろうけれど、大きく溜め息を吐き出す。逃げ道がなくなってしまった。

 リゲルを守る事に対しては別に構わない。俺が一方的にしたリゲルへの誓いもある。元々言われなくてもしていただろう。消極的だっただろうけど。

 天井を向いて、大きく呼吸する。

 逃げられないのなら、飛び込んでしまえばいい。逃げ出す意味もない。責任があるだけである。できれば逃げたい。好き勝手百合ハーレム作ろうと思ってたけど少しだけ制限が掛かってしまった。

 頭を切り替えて、王様へと向く。

 

「護衛の件、お受け致します。リゲル様には隠した方がよろしいでしょうか?」

「そうだな。頼んだ俺が言うのもなんだが、許嫁に守られているというのも男の矜持に関わるだろう」

「わかりますわ」

「……察しのいい嫁でリゲルが羨ましいよ」

「いいえ。私は欲深い女ですので……二つほどお願いがあります」

「なんだ? こっちは無理を頼んでるんだ。できる限りはしよう」

「では、初代シルベスタ王が書いたという古文書の原本を拝見させていただきたい」

「……翻訳された物があった筈だが」

「翻訳された物は全て読みましたが、どれも内容が違っていましたので。一度原本を読みたいのですわ」

「……ふむ。まあいいだろう。持ち出しは出来んだろうが……。もう一つは?」

「私のメイドに入城の許可を」

「申請すれば通るだろう」

「ベリル人の奴隷、という事で却下されましたわ」

 

 俺が内容を言えば王様は初めて顔を顰めた。どうにかこの要件は通しておきたい。

 何より、初代シルベスタ王の本を読むのに集中したいから俺の世話をしてほしい。他のメイドでは気が抜けないのでアマリナでしか無理だ。

 

「……他のメイドではダメか」

「アレは私の所有物であり、私の肉体の一部でもあります。許可を戴きたい」

「……女のメイドであるなら、騎士称号を得る事も難しいか」

「私も考えましたが、すぐに、というのは中々難しいもので……」

「いいだろう。許可させよう。が、あまり無茶な事はしてくれるなよ? 俺が宰相に怒られる」

「ご安心くださいまし」

 

 宰相に怒られるように努力しなくちゃなぁ、俺もなぁ。

 アマリナの許可を得たので、邸宅に連れてきてるアマリナをこっちに連れてくる事ができるし、初代シルベスタ王……恐らく転生者の記録も見る事ができる。

 他に頼むような事もなかったし、お金とか貰っても困るし、領地とかもっと困るし、今の立ち位置で満足してる俺からすれば知識欲の方が重大なのである。

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