悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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22.悪役令嬢は教えたい!

 俺にとって学校の魔法授業というのは実につまらない物である。それは教員が教える事に特化していない訳ではなく、ただ単純に俺に魔法を教えてくれたのがシャリィ先生である事が起因している。

 魔法式なんて物はまさに学問である。どういった式を用いれば、どれほどの魔力を挿入すれば、どういった結果が出るのか。実際に魔法式を学んだ結果として机上理論としてある程度は組むことができる。勿論、失敗するのだけれど。

 その魔法式は所謂魔法業界に於いて異物扱いされている物だ。想像魔法の方が勝手がいいから仕方ない部分もあるのだけれど……。まあそれはいい。確かに想像魔法の使い勝手がいいのは確かである。

 

 ともあれ、想像魔法を扱う授業は俺にとって暇でしかない。それこそ、想像上でしか展開できない故に、理論として教える事もできずに実践として組み込まれているのだから、ショートカットを仕込んだ指パッチン一つで魔法を行使する事のできる俺は思考すら必要ではなく、実に意味の無い授業になってしまった。

 青空の下で魔法を実践している中、魔法を行使するフリをしながらチマチマと机上理論を組んでいる訳である。というか俺の場合、ガンガン魔法を使うと魔力不足で倒れてしまう。あれから改めて魔力をブレスレットに補充しているけれど、今はしていないし。

 どうにか仕込んだ魔法式を外部に持ち越せないだろうか……。やっぱり魔法式で使っている式をどうにか解析して文字か何かにするしか無いのだろうか……。シャリィ先生に教えてもらった魔除け用の文字はエルフの魔法だったっけか?

 

「ディーナ・ゲイルディア。少しよろしいか?」

「何か用でしょうか?」

 

 珍しく話し掛けてきた講師に体をしっかりと向けながら反応する。この講師、俺の事というよりは魔法式が嫌いだし、俺もこの世界の魔法使いの事が嫌いだからお互いに不干渉貫いてたのに、なんだってんだ?

 講師の後ろにいるベーレントもなんでか申し訳なさそうな顔をしているし……。

 

「アサヒ・ベーレントの魔法を見てやってほしい」

「あら、それを見るのが講師の役目ではなくて?」

「誰かに教える事も成長の一端となろうよ」

 

 要は面倒事の押し付けか? はたまた、他に何か要因があるのか……。どちらにせよ、面倒事である事は間違いないだろう。厭味ったらしい笑みがソレを如実に示している。

 断れば断ったで俺の成績にも響かせるつもりなのか、結果も過程も面倒そうであることには間違いない。

 

「わかりましたわ」

「では頼んだぞ」

 

 話が終わればベーレントを置いてそそくさと俺たちから離れる講師。吐き出したくなる溜め息をどうにか胸の内に留めて、置いていかれてどうにも不安そうな顔をしているベーレントへと視線を向ける。怖がられている理由は沢山あるからその印象は仕方ないとする。彼女の表情とか感情をコントロールしろっていうのも酷である。

 

「ごめんね、ゲイルディアさん」

「構いませんわ。貴女の意思でもないでしょうし。それで、何がわかりませんの? と言っても、想像魔法は専門外ですので、教えられる事も少ないと思いますが」

「その、えっと……魔法がそもそも使えなくて……」

「ああ、なるほど。わかりましたわ」

 

 わかる……。魔力が何かとか全然わからないんだよな。よくわかる。いや、ベーレントがそんな状態かはわからないけれど。

 となれば、まずはベーレントがどういう状況であるかを正確に把握しないといけないのか。先生はどうやったんだっけか。魔法式に関して長々と語れば理解してくれるだろうか……いや、先生を煽ってる訳じゃない。

 思考していればベーレントが驚いたように俺の方を見て固まっている。どうしたんだ? え、何か俺が変だった?

 

「どうかしましたの?」

「えっと……驚かないの?」

「魔法が使えない事を? ああ、確かに私達の年齢なら大小はあれど魔法は使えて当然ですものね」

 

 俺がそうであったからスッカリ抜けてしまっていた。本質的に魔力の無い人間ならともかく、だいたいの人間は魔力を少なくとも保持しているし、想像魔法なんてキッカケがあれば使えて当然の物なのだろう。

 ああ、だからあの講師はどう教えていいかわからずに俺に投げたのか。面倒事を面倒な奴に任せて、達成できなければ面倒な奴を適当に罵れるという訳である。クソかな?

 

「私も昔は使えなかったから驚く理由にはなりませんわ」

「はぇ……ゲイルディアさんってなんでもできると思ってた」

「なんでもはできませんわ。できる事だけですわ」

 

 それに、俺のできる事など限られている。できる範囲も限られている。俺ができるような事など、誰かは容易くできる事ばかりでしかない。

 なんでもできるのならば、アマリナを守る事もできただろうし、アレクとの決闘も上手く収める事もできただろうし、リゲルを危機から遠ざける事だってもっと上手くできる事だろう。魔法だって、剣だって、(はかりごと)だって、俺よりも上手にできる者は沢山いる。

 

「私の事はいいですわ。では……そうですわね。想像魔法に関して、少し説明しますわ」

 

 頭の中に、人差し指の先に小さな火が灯るように強く思い浮かべる。自身が基礎として幾度も繰り返した想像。今となっては道筋に魔力を通せば簡単にできる事を、回り道をして単なる想像だけで熟す。

 火の色。熱さ。空気中の酸素を燃焼させて燃え続ける、けれども小さな火。腕に少し多めの魔力が通り抜けて指先に僅かな温もりが灯る。

 

「頭の中に強く思い浮かべて、それを現実へと映し出す。これが想像魔法の概要ですわ」

「思い浮かべれるだけでいいの?」

「そうですわね。あとは魔力を通せばできる筈ですわ」

「……魔力」

 

 ああ、なるほど。ベーレントも昔の俺と同じ感覚なのだろう。魔力とかさっぱりわかってないんだよな。わかる……。

 今となっては俺には当然のようにある物で、感じられる物であるし。他の人達もそれは当然のように感じている物だから、教えようがないのだろう。それは誰にでも当然の事で、感知できる事が当たり前なのだから。魚に泳ぎ方を聞いているのと同じだろう。

 そう考えれば、シャリィ先生の異端さが際立つな。あの人、当たり前の事をしっかりと意識して解明している訳だし。そりゃぁ他の魔法使いからすれば異端に映るのかもしれない。俺にとってはありがたい存在なのだけれど。今度帰ったら感謝の言葉を伝えておこう。きっと照れた顔が見られるに違いない。

 火を消して、ベーレントへ手のひらを上に向けて差し出す。

 

「手を貸していただけるかしら?」

「えっと、はい」

「瞼を閉じて、私の手に集中なさい」

 

 恐る恐る差し出された手を優しく握って瞼を閉じる。自分の魔力の通り道から、彼女の手へと魔力を送る。魔力の通り道を俺の少量の魔力が駆け上がる。

 きっと、彼女も昔の俺のようにぞわりとした異物感が腕を駆け上り、胸の内側に触れている筈だろう。

 ん? なんだこの塊……。感覚的には魔力なんだけど、デカくない? 俺と比べるとコップとプールぐらい差があるんですがそれは……。シャリィ先生よりは流石に少ない気がするけど、これで魔法使えないってマジ? 使いたい放題なのでは……?

 

「わかります?」

「なんか、こう……ミントガムみたいに、スーって腕の中通ってきて……ふわって胸の所で広がって」

「え、えぇ……? それが魔力ですわ」

 

 なんで? 俺が最初に感じてたゾワゾワどこ……? 俺の時はすごい異物感だったんですけど?

 いや、まあ魔力の感じ方なんて人それぞれなんだろう。シャリィ先生にも伝えておかなきゃ……。

 手を離せば何度か瞬きをして俺を見るベーレント。その目は輝かしい。眩しい。そんな目で俺を見ないで……邪な感情を持ってる俺が溶けちゃうから見ないで……。

 

「これが、魔力……」

「……今のは私の魔力を貴女に送り込んだだけですわ。貴女の中にも、その感覚がありますわ」

「ホント?」

「ええ」

 

 本当だよ。チクショウ。そのバカでかい魔力でなんで気付かないんですかね? つら……。

 顔に笑みを携えながら胸に手を置いて自分の魔力に集中しているだろうベーレントを見守る。きっと彼女はスグに見つける事ができるだろう。俺と違ってわかりやすいからなぁ!! 俺にももっと魔力があればなぁ!!

 彼女なら想像魔法も容易いだろう。魔力おばけっぽいし。通貨は簡単に支払える筈だ。あとは想像を確固とした物にして、簡単な魔法が行使できればお役御免だろう。

 なんとも短い指導であった。そこに感慨などないから泣きもしないけれど。

 

「あった!」

 

 そんなベーレントの声と共に、彼女を中心に突風が吹き荒ぶ。吹き飛ぶ事はないけれど、僅かに後ずさりして風圧に目を細めて顔を腕で守る。

 風、ではない。単なる魔力の放出だと思う。その魔力が勢いよく彼女から吹き出て、辺りの空気を押し出したんだろう。たぶん。きっと……。シャリィ先生なら実践できるか? 俺には無理だ……。

 

「ベーレント! 魔力を抑えなさい!!」

「え!? ふぁぁっ!? ごめん!!」

「謝るのはあとでいいですわ!」

「えっと、えっと」

「落ち着きなさい、アサヒ・ベーレント! そうすれば勝手に収まりますわ!」

 

 俺の言葉が耳に届いたのかベーレントは何度か深呼吸をして魔力の放出を抑える。あれだけ魔力放出したくせになんでコイツ倒れないの? 俺たぶん一秒も保たないと思うぞ?

 舞い上がった土埃を払い、制服に付いた分をはたき落とす。なんて羨ましい魔力だろうか……。やっぱりリゲルと子を産ませるべきなのでは? 魔力って遺伝するんだっけ? そういうのもシャリィ先生は知っているのだろうか……。そんなシャリィ先生に子作りの仕方を聞くなんて! げへへ。

 

「大丈夫ですの?」

「その、ゲイルディアさん……」

「何かしら? 体が怠いとか、どこか痛むとかありますの?」

「ごめんなさい!!」

「何がですの? ああ、別にあれが攻撃だなんて思ってませんわ」

「えっと、その……」

「なんですの? ハッキリ言いなさい」

 

 なんとも煮えきらず、こうしてムッとした表情を作ってみせてもベーレントは視線を左右に動かしたり、俺の下半身をチラリと見てはまた逸らす。

 首を傾げて自分の下半身を見ても、普段通りである。いや、少し土埃が付いているか。

 

「その……スカートが……」

「?」

「さっきの間……ずっと捲れてて、中が……」

「……ああ、なるほど」

 

 つまり、さっきの魔力放出の風圧で俺のスカートが捲れ上がって、その内部を晒していた訳だ。なるほどなぁ。

 俺は今ちゃんと笑顔だろうか。いや、まあ俺のスカートの中身なんて見ても誰も得しないだろうけれど、ゲイルディアというか貴族として、淑女として問題だろう。

 なんか頭が痛くなってきた。空を向いて、深呼吸を一つする。よし、心が落ち着いた。

 

「ベーレントさん、少しよろしくて?」

「ヒッ!? ご、ごめんなさい!!」

「待ちなさいベーレント!!」

 

 脱兎の如く逃げやがる不届き者を追いかける。

 なんだアイツくっそ速ぇ!! 使えるようになった魔力で強化してやがるな!? 絶対逃さんからな!!

 

 

 

 

 

 はい。逃げられました。辛い……。

 鍛え抜いた速力も魔力強化には追いつかなかったよ……。しかもあっちの魔力は凄くあるんだ……。俺のスタミナもそこそこあるけれど、無理でした。無理ぃ。

 

「無理ぃ……」

「俺は楽しく酒を飲むつもりだったんだぜ? なんで君を慰めなきゃいけないんだ?」

 

 俺は楽しくお酒を飲むつもりだったんだ。それは間違いない。楽しみだったんだ。久しぶりのお酒なのだ。今日の色々とかようやくアサヒ・ベーレントの調査も一区切りついて飲むのだ。ヘリオ? アイツはアレクの世話で来てないし、一人で飲むなんて初めてだからちょっと楽しみにしてたんだ。

 それで、なんで目の前に調査対象がいるんですかね? 確かに行きつけの酒場にした俺が悪かったし、ベーレントがここで働いてるのも知ってた。でもなんでコイツは仕事もせずに俺と同じ席に座ってるんだ?

 

「だってぇ」

「それに仕事はどうした仕事は」

「今日は休みでーす」

「ああそうかい。それで、酒場に来て酒も飲めずにヘコんでる君を慰めようとしている俺に言葉は?」

「さんきゅー」

「ハハハ、意味はわからないけど温かい言葉だ。素敵だね。マスター!! 強い酒を持ってきてくれ!」

 

 何この娘飲んでるの? 大丈夫? 未成年飲酒だよ? いや、ここの法律じゃ問題ないんだけどさ。

 ベーレントの持っているジョッキの中身を確認してもお酒ではない。柑橘系の香りはするけれど、酒精はない。素面でこれってのも中々ヤバイと思うんですが……。

 持ってこられたグラスに口を付けて一口だけ含む。舌に転がして、喉の奥に通すと胃が焼けるように熱くなる。湧き上がった熱が鼻から抜ける。熱を逃がすように吐息を吐き出せば自然と口角が上がる。

 

「それで? アサヒちゃんは何を悩んでいるのかな?」

「聞いてくれるの?」

「ちょうどお酒のアテが無くてね。人の不幸は蜜の味と言うだろう?」

「ディンくんってさ。趣味が悪いって言われないの?」

「辛辣だね。さて、肴が無くなってしまったから何か頼もうかな」

「待って、聞いて……聞くだけでもいいから」

「そう言って、応えないと怒るんだろう? 女性の常套手段じゃないか」

 

 適当に流していたら「なんで聞いてないの!?」って言われるんだ。俺は詳しいんだ……。

 机に突っ伏しながら俺を睨んでいたベーレントであるが、俺が肩を竦めてやれば溜め息を吐き出された。

 

「ディンくんってすっごく遊んでそうだよね……」

「失礼だな。これでも俺は一途だよ」

「ふーん……泣かせた女の人は何人?」

「数えられないね」

「ほらぁ!」

 

 カラカラと笑って誤魔化す。俺の前で泣いたのはスピカ様とアマリナだけだし、スピカ様に限ってはぐずっただけである。他の女の子は俺を見たら逃げるんだもんな……泣いてるかもしれないけど、俺には絶対見せないんだぜ……怖いからな……。

 まあそれはそれとして。ベーレントがヘコむような事は何かあっただろうか……。リゲルとの関係ならそれなりに上手く行ってる筈だし、喧嘩をしたとかそういう話も聞かない。イジメに関しても今は鳴りを潜めている筈だ。

 

「今日の実習で、その……ゲイルディアさんを怒らせちゃって」

「……君は何をしたんだい?」

「その、魔法が暴発して……その、言えない」

「ふむ。なるほど。淑女としての矜持でも傷つけたかな?」

「知ってるんじゃん!」

 

 笑いながら肯定する。

 本人だからね……。噂が立ちそうだったけど潰したのも俺だし。俺とベーレントが拗れるとまた面倒なイジメとか発生するし。今回はディーナ・ゲイルディアの矜持が――、とかで威圧していったから、まあ陰では広まってるだろう。口にした奴の所に訪問していけば、きっと皆黙るだろうけど。

 それはそれとして。本当に気にしなくてもいいんだよなぁ。事故だし。パンツ見られた所で誰か得するわけじゃないし。

 

「きっと大丈夫だと思うよ」

「無理だって……だってゲイルディアさん凄く怒ってたし」

「本当に怒っていたなら君は今頃俺と喋ってなかっただろうね」

「……どういう事?」

「あのゲイルディアだぞ? 本当に怒り狂っていたなら決闘を理由にして君を殺していただろうね」

「ゲイルディアさんはそんな事しないと思うんだけどなぁ」

「……それは解釈違いだ」

 

 ゲイルディアならするだろう。間違いないね。するからな。

 本当に、怒り狂っていたのならば、捕まえる捕まえないという問題ではない。決闘に持ち込めば、小娘程度殺せる。そこに貴族としての矜持が入るのでどうなるかはわからないけれど。決闘に持ち込まなくても、誰にも知られないように殺す。リゲルにも、アレクにも、レーゲンにも、お父様にも、誰にもバレないように、殺す。

 別に怒るような内容でもないし、ベーレントはリゲルのお気に入りだから手を出すことはしたくないけれど。

 

「ああ、決闘で思い出したけれど。随分と無茶をしたみたいだね」

「無茶?」

「ゲイルディアの姉弟の決闘に首を突っ込んだだろう? 運が悪ければ死んでたぞ」

 

 本当に、変な事に首を入れないでくれ。あの瞬間、俺の立場なら殺しても何も問題はなかったんだ。生じる問題なんて貴族の誇りを汚したベーレントと銘打てばいくらでも出来ただろう。

 それをしていないのは、あの瞬間、確かに俺は助かったと思ってしまったのだ。頭に血は昇っていたけれど、ある程度冷静だった。たぶん。

 

「あれは……だって、弟さんだったんだよ?」

「それでもだよ。君とゲイルディアは関係無いし。何より、君はゲイルディアの事を嫌っていただろう?」

「嫌ってはないよ? ちょっと怖いけど、いい人だし」

「……そうかい」

 

 顔を冷ますようにお酒を一口。こうして他者の評価をちゃんと聞く機会がないから変に照れてしまう。いや、照れてなんかない。

 

「ともあれ、下手に貴族の決闘に首を突っ込まない事だ。文句も言えない内に殺されてしまうからね」

「……ホント?」

「ああ。だから君は運がよかっただけだよ。今後はしないでほしいね」

 

 俺の邪魔もできればしないでほしい。それはたぶん無理な話だろうけど。

 彼女のお陰でアレクを殺さなくてよくなったのは事実だから、この程度の助言は許されるだろう。尤も、助けられたディーナとディンは別人物なのだけれど。

 

「心配してくれてるの?」

「酒の肴が無くなるのは困るからね」

「むぅ。ディンくんってたまに酷くなるよね」

 

 さらりと笑いながら流してみせたけど、彼女が無茶をして何かあればリゲルが困るし悲しむかもしれない。それは俺にとって許容できない事だろう。たぶん。

 ただ彼女が単純に危機に陥ったとして、それをリゲルが感知していないのであれば俺は容易く彼女を切り捨てるに違いない。それだけはよくわかる。

 

「まあ、君は運がよかった。無茶はするな。これに尽きるね」

「気をつけます……」

「よろしい。それとゲイルディアにあまり近づかない方がいいね」

「それはヤダ」

「怖い物には近付かないものだろうに」

「それでもわたしはゲイルディアさんと仲良くしたいもん」

「……ああ、そうかい。なら十分に気をつけてくれ」

 

 どうにも、何も言えなくなってしまう。

 残ったお酒を呷って、無理矢理意識を逸らす。アルコールのお陰で顔が熱く感じる。いやぁ、まったく飲んでなかったからお酒に弱くなったな!

 

「ん? ……ディンくんって香水とか付けてる?」

「何も付けてはいないが、誰かの香りが付いたかな?」

「ふーん……? ゲイルディアさんと似たような匂いがしたんだけど」

「淑女が犬の真似ははしたないね。しかし、あのゲイルディア嬢と同じ匂いか。はて、誰の香水だろうか」

「一途って言ったよね?」

「本命にはね」

 

 はぐらかしながら少しだけ驚く。時間にしても香りはほとんど飛んでいるし、そこまで強い香水を使っているわけでもない。え? 何? 俺自身が臭ってるの? それは困る。大変困る。

 誤魔化すように、新しいお酒を頼んで、彼女の悩みも聞いたことであるし肴を頼んでいく。彼女の願いは聞く事だけなのだから、おしまいでいいだろう。どうにも彼女と喋っていると感覚が狂う気がする。

 戻ってアマリナに晩酌してもらおうかなぁ。でも、アマリナはちゃんと休んでほしいしなぁ……。俺の部屋で寝てるから休むも何もない気がするけど。

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