悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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27.悪役令嬢は確約がほしい!

 こちらの都合など大凡無視して社会は動く。王城へと向かいながらぼんやりとそんな理不尽を考える。

 体調的には健康体であるけれど、これでも怪我人である。体が鈍らないように動いていればアマリナからいい顔をされないぐらいには怪我人なのだ。ヘリオは付き合ってくれるけれど。

 それでもその理不尽は理不尽なりにこちらの気を使っている事は理解出来てしまうのも、また面倒を加速させたと言ってもいい。

 

 個人でオークを倒したらしいゲイルディアご令嬢に報奨を与えなければならない。という事情は早急に処理すべき事であるし、処理が遅れれば遅れる程に王への不信感もつのるだろう。俺が怪我人という事も考慮すれば、この程度の時間を稼いでくれた陛下かお父様に感謝しなくてはならない。お父様は表情に出さないけど、あまり今回の事に乗り気ではなかったし。

 

 ともあれ、先に聞いていた事情からいつものドレスではなく、騎士としての礼装である男物の服と剣を帯びている俺である。一応、ドレスで登城する事も考えたけれど、右腕は指先まで包帯に巻かれているし、解いた素手は浅くなってきた傷とハッキリとした魔力線が通っているのが見えてしまう。それなりに歪に見えてしまうので薄手の手袋が出来る騎士服となった訳である。長袖なら包帯も隠せるし、手袋も出来る。どちらかと言えばドレスよりもこちらの方が俺としても楽なのだ。

 

 メイドさんに案内してもらいながら見慣れた廊下を歩いていれば、廊下の奥の方に見知った顔が見える。天使かな? 天使だったわ。

 その天使は俺を見つけると驚いたような顔を少しだけして、笑顔を浮かべてお淑やかさを元気に変換して走ってくる。

 

「ディーナお姉様!」

「お久しぶりですわ、スピカ様」

 

 はぁんわぁぁああ、相変わらず可愛いんじゃぁ。

 抱きついてくるスピカ様をしっかりと抱きとめてからクルリと一回転。地面にゆっくりと下ろしてからスピカ様を見れば不満な顔をされた。もう一回転した方がよかった?

 

「もう! 私はそんなに子供じゃないです!」

「それはごめんなさい。可愛くて、つい」

 

 子供らしく頬を膨らませてプリプリと怒ってしまったので、苦笑を浮かべながら謝罪をいれておく。

 可愛い、と言えば顔を赤らめてほっぺを両手で抑えるスピカ様。やっぱり可愛いじゃないか!

 女の子みたいに柔らかくて甘い匂いがするし、太陽みたいなポカポカする匂いもする。そこに可愛さが加わるんですよ。最強では? 最強だったわ……。

 抱き上げたり、クルクルしたりするのに不便のないパンツスーツでよかった。もう一回転やっぱりしない? 抱きしめたいんだけど許されないですかね?

 

「今日のお姉様は格好いいです!」

「ありがとうございます。スピカ様も相変わらずお可愛いですわ」

 

 この娘、成長は見れるんだけれど、本当に可愛いままなんだよな……。それこそ女としての成長もしているんだけれど、まだ成熟しきっていないというか、ああ、いや、思考がオッサンのようだ。

 可愛い物は可愛い。それでよし。美少女は可愛い。

 

「今日はどうなされたのですか?」

「陛下に呼ばれましたの。以前の事で少し……」

「以前? お姉様、また無茶をなされたんですか?」

「無茶という程ではありませんわ」

「一人でオークに立ち向かったのに?」

 

 かしこい。いや、噂話を聞いただけなのかな。でも俺の右手を優しく握ってくれている辺り、たぶん全部知られているんだろうなぁ。可愛い上に賢いとか天使かな? 天使だったわ。

 どう誤魔化せばいいものか。たぶん「無茶はしてない」と言っても聞いてくれなさそうだし。陛下に呼ばれているのを理由にしても後々詳しく聴取されるに違いない。こんな可愛い娘に聴取されたら俺は全部出ちゃうのでそれは避けるべきだろう。で、出ますよ……。

 

「確証を得ている事は無茶とは言わないでしょう?」

「……それで怪我をしたら意味がないです」

「それもそうですわね」

 

 確証なんて無かったけれど、それは言わないでおこう。こうして悲しい顔を余計にさせるだけだし。怪我をした事実は知られているのだから否定もできない。

 今も右目は閉じているし、変に勘繰られる前にスピカ様から離れた方がスピカ様的にも得策だろう。

 

「では、私は失礼いたします。スピカ様も、お勉強から逃げ出してるのでしょう?」

「……お姉様は匿ってくれないんですか?」

「可愛い顔でお願いしてもダメですわ。……向こうの角から教師の方が出てきますよ。逃げるなら庭の方がオススメですわね」

「やった。ありがとうお姉様!」

 

 元気に逃げていったスピカ様を見送って、少ししてから角から慌てた様子で何かを探している教師であろう人が出てきた。慌てていてもやはり貴族であるからか俺を見つけてはギョっと驚いた顔をして頭を下げてくれる。

 スピカ様を教えるなんて羨ましい事をしている教師さんには庭の方に逃げた事を伝えて、適当に時間を掛けてから向かうようにもお願いしておく。今までも頑張っているのだから、少しぐらいの息抜きは許されるだろう。

 時間を掛けるように、と言ったのに庭へと駆け足で向かった教師さんであるが、真っ青な顔はきっと酸欠か何かに違いない。ゲイルディアとかいう悪名轟く貴族のご令嬢に会ったから、という訳では決してないだろう。オドシテナイヨー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな。急遽呼び出してしまって」

「いえ、陛下。いつ何時であろうと、陛下からお声が掛かれば参上いたしますわ」

「それは嬉しい事だ」

 

 クツクツと笑っている陛下であるが、歳には勝てないのか少し痩せたように思える。それを口に出すことは無いけれど。黒髪の間にも白が増えたような気もする。

 一年と少し前に、今日と同じ部屋で見ていたからか、その違いが余計に顕著に見えてしまう。

 個人的に言えばこうして悪名の高さが証明されてしまったゲイルディアのご令嬢と二人きりで王様が会うなんて事はあまり褒められた事ではないとは思う。そのご令嬢本人がこうして思っているのだから、世話がないが。

 

「まずは感謝をしておこう。リゲルを助けてくれてありがとう」

「当然の事をしたまでですわ」

「しかし、オークを単独撃破とはな」

「……陛下、一つ訂正させていただきますが、私が単独で魔法を使い倒したのは事実ですが、あの場には同輩であるアサヒ・ベーレントも居ましたわ。彼女もまた一役買っています」

「……俺が聞いていた仔細とは違うな。そう考えると……お前に報奨を集中させたい誰かか?」

「ならお父様が犯人に違いありませんわね」

「ハッハッハッ。相変わらずのようだなディーナ嬢。あまりクラウスを泣かせてやるなよ」

 

 あのお父様が泣くなんて。たぶんお母様に愛想を尽かされた時ぐらいだと思う。それも、お父様の名誉の為に言わないけれど。

 あまり、あの顔で泣く姿を想像したくない、という俺自身の気持ちも当然あるのだけれど。

 

「それで。どう思う」

「私に集中させて利を得る方々の根回しでしょう。急がせたのも甘い蜜を早く吸いたいから、だとは思います」

「俺もそう思う。ディーナ嬢の怪我の事もあったからな」

「今頃お父様は面倒事に巻き込まれているに違いませんわ」

「俺もそう思う。アイツも相変わらずか……。それで、怪我の調子はどうだ? 右目は見えていないのか?」

「傷は大凡塞がっていますわ。右目も、それほど重症ではありません」

 

 安心したように、或いは俺の言葉に納得をしてくれた陛下は「うむ」と一言だけ零して水を一口飲み込む。

 嘘は言っていない。俺が死ぬ頃にはリゲルの体制も万全にするつもりだし、アサヒとリゲルの関係もそれなりには進んでいる筈だし。リゲルが求めない限り子を産むつもりも無いから跡継ぎ問題もアサヒが解決してくれるだろう。いざ、子を産む事になりそうだったとしてもその頃には時既に遅し、みたいな状態になっていれば御の字である。

 

「アサヒ・ベーレントについてだが、ディーナ嬢の意見を聞きたい」

「イイ娘ですわね。魔力適正も高く、容姿もいい。貴族としての心構えは少し気になる部分もありますが――」

「俺の言い方が悪かった。リゲルとベーレントとの関係はどう思っている?」

「……今は歓迎していますわ。私はリゲル様にとって『守る対象』には成れなかったので」

「……お前は、本当にいい女だな」

「あら、陛下に口説かれるだなんて名誉な事ですわね」

「戯言だ。流せ」

 

 クスクスと笑っていれば口をへの字に曲げて不機嫌を表情に出される。これ以上弄るのは不敬になるだろう。

 コホン、と一つ咳払いをしてから口を改めて開く。

 

「先程も言いましたが、オークの討伐は私とアサヒ・ベーレントの二名で行った事です」

「わかった。が、どうする? ベーレント嬢にも報奨を与えるか?」

「それは得策では無いでしょう。今の状態で渡せば私を押し上げた輩達に潰されるのは目に見えています。故に、確約を頂きたい」

「ほう」

「アサヒ・ベーレントとリゲル様との関係の許しを」

 

 一拍だけ間が開いて、陛下が乱暴に自身の髪を掻いて深い溜め息を吐き出した。こちらを見る目は睨めつけるような鋭い視線ではなく呆れたようなジト目である。

 

「本当にお前は……わかった。文書には残せないが構わないな?」

「ありがとうございます。それともう一つ」

「なんだ? 次はアイツらの子を先に産ませろなどとは言わんだろうな?」

「言いませんわ。オークの討伐で動きすぎたのでリゲル様が王命に気付く可能性があります」

「……わかった。別の者に――」

「いえ。もしもバレた場合、リゲル様から言及された場合に白状する許可を頂きたい」

「なるほど。しかし、リゲルが言わなかった場合はどうする?」

「今まで通り、私がリゲル様を脅威から守りますわ」

「…………わかった。が、あまり無理はするなよ。お前もまた国の宝だ」

「私は、宝を守る豪華なだけの箱であれば満足ですわ」

「本当に、いい女だよ。リゲルには勿体無い」

 

 流せ、と先ほど言われていたのでクスクスと笑みを浮かべるだけで陛下の言葉を流してみせる。

 豪華なだけの宝箱であるけれど、鍵は厳重にするし、なんなら盗掘者を弾き飛ばすトラップまで準備してやろう。その事を周知させていれば、宝箱を開ける輩もいなくなるだろう。

 それを周知させる為の、俺が騎士称号を得る為の式典の打ち合わせを陛下と決めていく時間は緩やかに過ぎていく。

 

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