悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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修正致しました。だいたいの流れは一緒です。
ルートにも影響が出たので、軌道修正もしております。悪しからず。


28.第二王子は信じたい!(修)

 彼女は完成された芸術品であった。或いは、成長する芸術品と言うべきなのだろう。

 月日を重ねる毎に美しさには磨きがかかり、その美しさを周知のモノとした。

 

 初めて会った時、彼女の事は年の離れた女の子だと思った。それは自分よりも遥かに成熟していて、大人のような物言いだったからであるし、何より彼女が自分を見る視線がそれまで幾人か出会った娘達とは違っていたからに他ならない。彼女が同じ年齢だと知った時は驚いたのも事実である。

 彼女はいつだって自分を導いてくれた。それを悔しいと思ったことはない。自分にとってそれは幼少期から続けられた自然な事であったし、何より強引に引っ張るのではなくこちらの意見を尊重し、彼女が道標となってくれたのだから。

 

 彼女の家名はよく耳にした。それはいい理由などではない。単純に、良くない噂話にその家名がよく出ていたという話だ。幼い頃に何故否定しないのかを聞けば「仕方のない事」と悲しそうに笑うのだ。

 同じく幼い彼女であったけれど、頭もよかった彼女だから知っていたのかもしれない。

 それでも彼女は自分と居る時はただ穏やかで、微笑みを絶やす事はなかったし、花を愛でる事もした。いや、レーゲンと出会った時は少し呆れていたか。

 

 

 彼女は、只々優秀であった。

 勉学にしても、思考にしても、剣の腕にしても。それでも彼女は俺を立ててくれていた。きっとそれは、俺が王族であるからであろう。

 それでも、王族である自分と貴族である彼女が仲違いをする理由にはなりはしない。

 

 リゲル・シルベスタはディーナ・ゲイルディアを好きである。これが恋愛感情かと問われれば、肯定するだろう。けれどもそれは正しい恋愛感情ではない。アサヒと出会って、俺はソレを理解する。

 

 

 

 三日後に控える騎士叙任式の内容を聞いてディーナならば当然であろう、という感情は元々あった。それだけの事をしたのは周知であるし、何よりディーナという存在は完璧であった。

 けれど、同時にあの場に一緒に居たはずのアサヒが同じ扱いではない、という事に疑問が生じる。何故アサヒは除外されたのか。理由がわからない。

 耳にする噂話達は「ディーナが単独でオークを撃破した」という事ばかりだ。昔はゲイルディアを貶めるように悪く言う口が、今や称賛を口にするのは中々に滑稽に思えた。

 何故、アサヒは話題にも上がらない。まるで元々その場には居なかったように語られる。

 考えれば考える程、違和感を覚えてしまう。

 

「殿下。この度はおめでとうございます」

「……イワル公爵。その祝辞はディーナに言うべきです」

「いえ、婚約者である殿下も鼻が高いでしょう」

 

 

 糸のような開いているかもわからない瞳が人懐っこく笑い、細い体を隠すように綺羅びやかな服に着られた男から声を掛けられて思考を一時止める。親族、と言っても遠縁であるイワル公爵にも当たり障りない笑みと既に言い慣れてしまった言葉を吐き出す。

 人懐っこい笑みを浮かべていたイワル公爵はこちらを見て、ふむ、と一言だけ考える素振りを見せてから首を傾げる。

 

「しかし、殿下はこの度の叙任式に疑問をもっておられるようだ」

 

 思考を言い当てられて笑みが崩れそうになる。なるべく間を開けずに肩を竦めてみせ、頭を振る。

 

「何を馬鹿な」

「そうですかな? 私が調べた所、オークの討伐にはもう一人いた、とか」

 

 細く開いた瞳がこちらを捉える。その『もう一人』について知っているぞ、と視線が告げている。

 彼が何を調べたかなどわからない。その言葉と視線から俺の違和感をイワル公爵は解消できるであろう答えを持っているのだろう。

 

「……何を知っている?」

「何故、ベーレント家のご令嬢が任命されなかったか」

「誰かが仕組んだ事なのか?」

「少し考えればわかる事でございます。例えば、今回の報奨を独り占めする為、とか」

「ッ、ディーナが仕組んだと言うのかッ!?」

「そこまでは申してません。が、そう考えれば筋は通りますな」

 

 何を馬鹿な事を。ディーナがそんな事をする訳がない。そんな事をして、報奨を独り占めをして、何の得があるというのだ。

 思考を落ち着ける。怒りを落ち着けて、声を荒げた事を謝罪する。イワル公爵は俺の疑問に答えただけなのだ。

 それでも、その答えは俺が求めていた答えなどではない。

 

「失礼ながら、殿下。あの女は地位を求めています。いいえ、ゲイルディア家と言った方がいいでしょうか」

「それ以上喋るな、イワル公。この場で不敬を問うてもいいのだぞ」

「それは恐ろしい。しかし、殿下。それでも一つだけご忠告させていただきます。ゲイルディアにはお気をつけください」

 

 そう言い残して頭を下げてから去ったイワル公の背中を見つめる。

 大きく息を吸い込んで、頭を落ち着けてから強く握りしめていた拳から力を緩める。

 否定をする。そんな事は無い、と否定する。

 ディーナ・ゲイルディアという女はそんな事をするような存在ではない。けれど、もしもディーナが仕組んだ事であるのならば、確かに全てに理由が付けられる。けれど、その理由が『報奨を独り占め』というのが矛盾してしまう。

 自身の知るディーナは与えられる金銭や地位にそれほど頓着しない。加えて、最近のアサヒとの関係を知っていれば余計に矛盾してしまう。

 

 ならば、何故。誰が。

 

 部屋に到着して、椅子に深く腰を掛けて思考の沼から息継ぎをする。どれほど考えても答えには辿り着きはしない。

 それでもソレは考えなくてはいけない事であった。事実を正確に知る必要があった。

 

「よぉ、リゲル。お疲れだな」

「レーゲンか」

 

 相変わらずノックすらせずに扉を開けた幼馴染であり、俺専属の騎士見習いであるレーゲンが部屋へと遠慮もなしに入ってくる。

 俺の様子を見てカラカラと笑っていたレーゲンは俺の様子を見て首を傾げる。

 

「……どうかしたのか?」

「いや……」

 

 一度口を噤む。自身だけの思考では解決出来ない事があるのは理解している。それに情報が足りないのも事実であった。

 けれど、手段が無い。

 

「レーゲン、頼みがある」

「おう。オレに出来る事なら何でもするぜ?」

「ディーナの事だ」

「ゲイルディア嬢? ははーん、なるほど秘密の贈り物をするから好みを探ってほしいんだんな」

「違う。ディーナの事を調べてほしい」

「……どういうことだ?」

 

 茶化すような雰囲気はなりを潜め、スッと騎士としての彼が顔を覗かせる。護衛としての彼をこうして使うのは気が引けるけれど、今の自分には手段が無さすぎる。けれども、これは調べなくてはいけない事実でもある。

 否定していた事が、もしも事実であったならば。想定しうる最悪であったのならば、今ここで手を打たなくてはいけない。

 

「今回の叙任式を仕組んだ嫌疑を掛けられている」

「ゲイルディア嬢が? なんでまた」

「それが知りたいんだ。できるか?」

「……わかった。二日くれ」

「短いな」

「急ぎなんだろ? リゲルは俺に命令してくれればいいさ。騎士(オレ)はソレに応えるだけだ」

「……ディーナを調べてくれ」

「お任せを、殿下」

 

 ニッと歯を見せて笑うレーゲンは急ぎ足で部屋から出ていき、遠ざかる足音を聞きながら瞼を閉じる。

 浮かんでくる思考を否定し続ける。矛盾を探す。探す。探す――。

 

 

 

 

 

 

 二日して、レーゲンの調査報告を聞きながら頭で情報を纏めていく。

 ディーナがしていたこと、ディーナ・ゲイルディアが命令していた事、彼女が何を目的にしているか。

 彼女は暗躍していた。それはきっと事実だろう。()()()()()()()()()()()()()()()。そのどれもが巧妙に隠され、けれど日の下に晒された。

 

「……これは全て事実、なのか?」

「ああ。信じたくない気持ちはわかるが、事実だ」

「……そうか」

 

 どう反応すればいいのか、怒ればいいのか、悲しめばいいのか、それとも別の感情が適しているのかはわからない。感情だけでいうのならば、否定したかった。

 事実の中にはアサヒの経歴の調査もあった。同時にその為にアサヒを貶めていた事も。

 何故。どうして……。

 

 思考を落ち着ける為に深く息を吐き出す。頭の中に在るディーナの印象を消し去り、客観的に事実を見つめる。

 この事実から見れば、ディーナ・ゲイルディアは地位を求めている。正確にはゲイルディア家と言うべきだろう。その刺客として選ばれたのがディーナであった。

 幼い頃に俺へと接近し、そして許嫁の地位を勝ち取った。そしてその地位がアサヒの存在によって揺らいでしまった。だから、アサヒを貶めた。

 道筋は通っている。アサヒとの関係もこの事実を隠す為であろう事は容易く想像できた。疑いが掛かってもアサヒとの仲を考えれば否定せざるを得ない立ち位置にいる。

 

「どうするんだ?」

「……少し一人で考えさせてくれ」

「わかったよ。でも早めに手を打った方がいいだろ」

「ああ。……そうだな」

 

 それでも、と否定したかった。それは俺の感情だ。

 レーゲンが部屋から出ていき、改めて大きく呼吸をする。俺はどうすればいい。救いを求めたところで、誰も答えてはくれない。

 もしも、もしもである。俺の思考が正しいのならば……それは恐ろしい事だ。一緒にいた存在が打算で、計算の上で、そしてそれは全て嘘なのだ。

 喉元に上がってきた違和感を無理やりに飲み込んで、思考する。それでも正しい答えには行き着かない。

 

 否定する。信じたくない。

 否定する。信じたい。

 否定する。否定をする。

 

 

 気がつけば、日が昇っていた。丸一日考えたところで答えなど見つかる訳がなかった。

 未だに何が正しくて、何が間違っているかなどわからない。嘘である、とも思う。けれどそれは事実として言われている。

 起こった事。その影に隠れた物。全てが嘘であるのならば、ここまで悩まずともよかっただろう。全てが事実であるならば、ここまで悩まずともよかっただろう。

 

 

 

 引き出しの中に収めていた簡素なネックレスを手に取る。傷が大量に刻まれた石が真ん中に留められた古いネックレスを握りしめる。既に首には巻けなくなってしまったソレを手首に巻き付けて、留める。

 

 信じたい。けれど、きっとソレは俺の願いでしか無いのだろう。

 すでに事実は揃えられてしまった。だからこそ、手を打たなくてはならない。

 

 これ以上、好き勝手させない為に。

 俺が愛する者を守る為に。

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