悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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あけましておめでとうございます!(2月
今年もよろしくデス!
中弛みしてない?


33.悪役令嬢は前を向きたい!!

 他人の為に生きる。

 

 それは崇高な使命のように、そして今にして思えば前世を含めた呪いのように俺を縛っていたらしい。

 その思想を否定するつもりはない。当然、元の俺がそうであったように他人に縋らなければ生きられない存在もいる。今の俺がそうではない、と言えないのが実にこの思想の残念さを醸し出すけれど。それもまた良いのである。

 俺の人生は俺が勝手気ままに決めても何も問題ないのである。

 そう思うことが出来始めたので実に気分は晴れやか、というべきか背負っていた幾つかの重荷が取り払われた気もした。どうする事も出来ない過去を想うよりも未来を思う方が幾分も得なのである。

 それでも過去は過去だから相変わらず背中に引っ付いて離れないのだけれど。

 

 ともかくとして、俺はリゲルにフラれた事を嘆くよりも現状どうにかして自分の立ち位置を固めておかなくてはいけないのだ。

 王子に捨てられた悪役令嬢の末路など想像に難くない。醜い豚に抱かれるなど御免こうむるし、好事家達の慰み者になるのもまた遠慮したい。つまるところ、俺はゲイルディアとしての立ち位置もさる事ながら一個人としての立ち位置を確保しなくてはならないのである。

 そうしなくては俺の奴隷であるアマリナやヘリオ達は奴隷市へとご案内である。そして俺は豚の餌であるのだから俺の未来は明るくない。

 

 俺の立ち位置という物はゲイルディア公爵令嬢という肩書によって成り立っている。少し前まではコレにリゲル殿下の婚約者という肩書もあったけれど、今はない。いや、考えるべきではない事である。

 俺の経歴を並べてみても特筆する事はオークの単独討伐であるが、これは実際単独ではなかったし、そしてその報奨は陛下から別口で頂戴している。騎士号がある、と言っても恐らく売り飛ばされるであろう豚よりも地位が高くなければ利用価値が出てしまう。

 いっその事、女として終わらせてしまうのが一番手っ取り早い気がするけれど。

 

「ディーナ様?」

「なんでもないわ、アマリナ」

 

 アマリナの視線が厳しいので無理ですねぇ!

 アマリナに関しては色々と言いたい事がある。いや、うん、どこでそんな知識と技量を手に入れたのか、とか、まあ、色々聞きたい。攻めに転じる事も出来ずに受けるしかないのである。どうして……?

 いや、そんな夜の事情は今は置いておこう。女も捨てられないとなると、剣でのし上がるとかも思いつくのだけれど生憎な事に今は戦時中ではないし、この方法は時間が掛かってしまう。

 

 ともなれば、取れる手段は俺には一つしかないのである。

 

 

 俺は右瞼を上げる。

 包帯の取れた右腕を伸ばして視界の中に入れる。ズタズタに千切れ、道順すらあやふやになってしまった経路に魔力をゆっくりと通していく。袖の上からでもどの経路が潰れているのかがわかってしまう。その中で残っていた経路だけを探し、指先へと魔力を通して火を灯す。なんて事はない。いつもしている行為であった。

 けれどその本質は全く別の物へと変化した。入力式も、出力式も、状態式ですら、確りとこの瞳は捉える事が出来る。どういった文字を使用し、どういった言語が用いられているのか。今まではどうしてか動くシステムを無理矢理改変していただけである。けれどこれからは違う。システムを組む事が出来る。想像魔法に劣らない魔法式を計算だけで組み上げる事が出来る。

 実験と失敗を積み上げた研鑽の先が今となっては予測出来てしまう。それは実に甘美な現実であった。

 そんな甘美な現実を噛み締めながら、仮定を立てる。

 正しい魔法式に魔力を通せば魔法は起きる。それこそ損失無しで、誤差も無い。魔法というシステムは高利貸の如く負債者には厳しいが、規定を守っていれば何も問題はない事は身をもって知った。

 だからこそ、それは俺にとって手札となる。想像などという不確かな物ではない。計算によって求められた現実的な結果として。

 魔法は世に言う神秘などではない。理論の上に成り立つ現象である。

 

 さて、ここまでの経過を文として纏めていく。これも既出であるかもしれないが、読んだ蔵書の中にはなかったし、唯一文として提出できるであろうシャリィ先生は他の魔法使いから蛇蝎の如く嫌われている。陛下に提出していたとしてもオカシクはないが、俺の有用性の為に出来れば提出されていないことを願おう。

 実験も幾つかしなくてはいけない。けれど、出資を願うという形ではなく、俺の保身であるので条件的にはかなり緩い筈だ。出資されるならばそれに越したことはないが、望みすぎてもいい事はないだろう。

 

 両瞼を下ろして息を吐く。陛下に進言する前にお父様をどうにかしなくてはならない。あの人の企みはわからないけれど、少なくともその企みの中に俺とリゲルの関係は盛り込まれていた筈である。だから帰ってきて即座にお父様に謝罪をした訳だが。

 いっそのこと怒ってくれたならばどれほど楽だっただろうか。そうであったならば、こうして迷わずに決定出来たというのに。何にせよ結果である現実は変わっていないのだから、俺はその時点から考えなくてはいけない。やはり後ろ向きに思考を寄せてしまう頭を抱える。

 お父様と陛下に俺の有用性と利用価値を見出してもらう。最低でも俺の縁談が出てくるまでには。

 期限はどれぐらいだろうか……俺の生きてる時間との兼ね合いもあるだろうし、もしかしたら飼い殺しのパターンもあるかもしれないな。シャリィ先生は……俺の寿命の事は言ってるだろうか? あの人にとって俺は教え子だけれど出来の悪い生徒であるし、この瞳を得ているから都合のいい道具とか? 直接聞く勇気は俺にはないけれど。

 

 俺の有用性に関しては都合のいい道具であるこの瞳とそれによって得た知見だ。仮定的に定めていた魔力路はズタズタにされて今も肌の表層を彩っている。けれどそれは俺が無理矢理に定めた魔力路であった事が判明した。大きな泉から海に流す為に溝を掘っただけの路が海からの逆流によって崩壊した。……大きな泉というのは見栄だけれど。

 それが今となっては路をしっかりと把握出来るようになった。通りが非常に良い。コンクリートの溝のようにスルスルと魔力が通り抜ける。自分で意識してせき止めて無いとそのまま枯渇しそうになる程に円滑である。

 ともあれ、これだけを有用性というのならば他の人も外部魔力と接続しような!! って話にもなるのだけれど想像魔法で外部魔力に接続すれば無尽蔵に外部魔力を取り込むだろう。予め決めていた数値を取得した俺がこうなったのだから、規定も何もない想像魔法ならどうなるかなどあまり考えたくはない。

 

「ディーナ様、クラウス様がお帰りになられました」

「ありがとう。さて、ここが一歩目かしら」

 

 これを攻略しないと先の話すら無い。最悪は出奔かぁ……。それはそれでいいけれど、アマリナ達の給金を考えると収入不安があるからな……。

 

 

 

 

 

「お父様、失礼しますわ」

 

 書斎の扉を開けた先には相変わらず厳しい顔の男がいた。数日見なかっただけでは変化が見れない父は俺を一瞥してから動かしていた筆を止める。

 

「大丈夫なのか?」

「え? えぇ。まあ、はい」

 

 生返事してしまった。俺の心配をするとか本当にお父様か? 王都で何か悪い薬……いや、いい薬でも処方されたのか?

 別人の可能性は……たぶん無いな。こんな悪役顔はお爺様ぐらいだろう。だからこれはお父様なのだけれど。

 これ以上訝しげに見てると流石に変に思われるな。

 

「……あまり無茶はするなよ」

「お父様、何か悪い物でもお食べになられました?」

 

 あぁ、思いっきり顰めっ面になった。いや元々眉間には皺が刻まれてたけど。大丈夫、お父様であった。

 一言だけ謝罪の言葉を吐き出す。ここで相手を怒らせてしまうのは得策ではない。じゃあお前辺境伯の所に嫁がせるから……。とか言われたら終わりだ。

 

「これからの話をしに来ましたわ」

「……ほう」

 

 先程まで書いていた紙の束をお父様へと手渡す。内容は魔法式の論文を簡易化した物。尤もまだ実験段階でもなく、理論だけの草案であるが。

 お父様ならコレを理解できる。魔法式を理解できる、という事ではないし、実験の足掛かりに出来るという事ではない。俺がこの草案をお父様に提出する意図を理解しているだろう。

 お前の思い通りにはならないぞ。他の貴族に嫁ぐ気はないぞ。ゲイルディアの利益になるぞ。

 そういった意図を在々と込めてみたが、お父様は変わらず厳しい顔で紙束を捲り、その顔を更に皺を刻む。

 

「ダメだな」

「何故ですの!? 理論は整っていますわ! 私とシャリィ先生ならばこの理論を現実の物として――」

「許さんッ」

 

 珍しく声を荒立てたお父様に萎縮してしまう。普段は厳しい顔で表情を読み取れないというのに、今は少しだけ感情が表層に出ている。

 あぁ、これは……。

 

「……知ってますのね」

「オーべ卿に聞いた。この研究を続ければお前は死ぬのだろう。それを俺が許す訳にはいかん」

「…………」

「何を驚いた顔をしている」

「……いえ、お父様は私の心配などしていないと常々思っていましたので」

「馬鹿が。娘の心配ぐらい俺でもする」

 

 本当でござるかぁ? と茶化してしまえばお父様は本格的に怒るのでやめておこう。決して誤魔化してこの感情をバラさない為ではない。

 というか、この父はそういった感情を表に出すのが下手過ぎるのだ。不器用過ぎる、と言ってもいい。

 

「そういう事はちゃんとアレクにも言ってくださいな。そうすればアレクも今回の休暇で家に戻ってきた筈ですわ」

「……アレクは騎士団の訓練に混ざっている。お前との決闘が余程堪えたようだな」

「私は決闘などするつもりは……」

 

 無かった、とは言い切れない。原因が何であれ、アレクがアマリナを害したのだから、今の俺ならば問答無用で殺していただろう。決闘という手段など取らない。

 それはそれとして、アレクが騎士団か。目的はわからないけれど、彼の才能が磨かれる事はいいことである。もう無いと思うけれど次に決闘などすれば俺が負けるに違いない。

 そんな事を考えていればお父様から理論書とは別の紙束を渡される。読めばカチイという都市の経済状況などが事細かに書かれている。カチイって……ゲイルディア領の端っこだっけか。

 

「お前にはカチイに行ってもらう」

 

 やっぱり辺境飼い殺しルートじゃねぇか! 人生壊れるぅ……。それでもお父様の監視外にいけるという事は研究し放題なのでは? 勝ったな。風呂入ってくる。

 

「……監視もつける」

「あら、私を信用してくださらないのかしら」

「お前は自分の事を軽視しがちだ」

「そんな事ありませんわ」

「ほう?」

 

 先程渡した理論書を持ち上げられて俺はそれから目を逸した。いやだなぁ。そんな事する訳ないじゃないないですかぁ~。やだなぁ……。ほんのちょっとだけ、先っちょだけなら誤差かもしれないし……。

 ダメだ。話を逸らさなくては……。

 

「それにしてもカチイですか……」

「数年後にアレクをそこに置く予定だ」

「なるほど。それまでに立て直しておけと」

「……そういう事だ。お前を遊ばせておくほどゲイルディアに余裕はない」

 

 ん? これは何か含みがあるのか。カチイの状況を思い浮かべてもそれほど悪いとは言い難い。俺が向かった所でそれほど改善されるとは思えない。

 本当に余裕がない……とは思えない。ゲイルディアの勢力にどれほどの人材がいるかはわからないけれど、俺よりも優れた逸材はいる筈である。

 それでも俺を向かわせる理由は……。

 

「王族と離す、社交界から離す為ですの?」

「……そうだ」

 

 随分と心配されているようだ。いいや、それともゲイルディアの恥を隠す為だろうか。どちらにせよ今リゲルとは会いたくないから俺としても願ったり叶ったりである。リゲルと会えば……いや考えるのはやめよう。

 生きてはいたい。けれどそれは望みすぎという物なのかもしれない。

 自分でもどれだけ生きていられるかなどわからない。だから少しでも形を遺しておきたい。

 

「……わかりましたわ。その任、承りました」

「ああ。頼む」

「それと、王族と接するな、とは言いましたが。カチイに向かう前に一度陛下に拝謁したいですわ」

「……何を考えている」

「元々私がしていたリゲル……リゲル殿下の護衛役の引き継ぎですわ」

「……本当にそれだけだな?」

「あらいやですわ。お父様は私を信じてくれないのかしら」

「お前のその頑固な所はイザベラにそっくりだな……。わかった、表向きに陛下に会う準備はしておいてやろう」

「ありがとうございます」

 

 引き継ぎも目的ではあるけれど、一代貴族としての名分は貰っておきたい。ゲイルディアはアレクが継ぐだろうし、短いであろう余生まで迷惑を掛ける訳にもいかない。

 研究成果と暫定的な結果、あとは俺の騎士号でどうにかもぎ取れれば御の字だけれど……。

 陛下にとって俺は体の良い護衛役であったし、その護衛役の報酬も貰ってしまった。リゲルとの婚姻が解消された今俺と陛下は何の繋がりも無いし……。出来る限りはしてみよう。

 平民として、騎士として生活するのもいいけれど、男爵位ぐらい正式に持っていないとアマリナ達のお給金が……。




お疲れさまです。

Twitterで駄々を捏ねていたらお竹(@taketi)さんがイラストを描いてくださったので読者の皆にも見せるね……


【挿絵表示】


かわいいぞ……ディーナ様かわいいぞ……すきぃぃ……あぁぁぁぁあ
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