悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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お ま た せ !
猫竈やハゲやウーロにボコボコにされたので投稿します。


36.悪役令嬢は抜け出したい!!

 街に出れば見た目上はそれなりに活気がある。比べるのも烏滸がましいけれど、ゲイルディアと比べればまだまだとも思う。街道の整備は目下の課題である。

 街道の整備もそうであるけれど、特産品もなければ商人も寄り付かない。辺境まで足を運んでも利益が出る、という餌が無ければ魚も針には掛からない。

 だから決してこれは仕事をサボって街へと逃げ出した訳ではない。これだけははっきりと真実を伝えたかった。決して、決して! 逃げ出した訳ではないのである!

 実際、逃げてしまえば行政が滞るのはわかっているので今日の仕事は半分程終わらせている。あとは後々に来るであろう仕事を夜にすればいいだけだから……職場が自宅だと残業も深夜手当も無いけれど眠らなければ仕事なんて終わるから……。

 

「そこのカッコいいお兄さん! 焼き立てだよ! 一つどうだい?」

「美人にそこまで言われたら仕方ないな」

 

 快活な恰幅のいいオバ様はニッコリと営業スマイルを浮かべながら並べているパンを俺に見せてくる。どのパンも焼き立てなのか少しだけ湯気が立っていて、小麦の香りが鼻と食欲を刺激する。

 さて、お兄さんと呼ばれた俺であるけれど今の俺はディーナ・ゲイルディアとしてではなく、単なるディンとして街に繰り出している。なるべく街の人に怪しまれないように普段の俺では着れない布地の服を着用しているのだけれど、アマリナには不評である。ヘリオは知っていたので相変わらずのため息を吐いていたけれど、あの顔はアマリナと同じ事を思ったに違いない。

 部下とも言える政務官とすれ違いもしたけれど、ディーナである事はバレず、ボロを出す訳にもいかないので適当な誤魔化しもした。

 

 ディーナであればこうして買い食いもできないし、治める者として見られるので街の素というのは中々に見れない。たまに街に出る事を自分の業務へと書き込んでおこう。

 オバさんとの世間話もまた重要な事なのだ。決してサボりではない。

 

「噂で聞いたけど、領主が代わったんだって?」

「らしいね。まあアタシ達にとってはそれほど変化はないねぇ」

「ふーん。そこのパンも貰おうかな」

「まいど。……ああ、お兄さん。この辺りはスリも多いから気をつけるんだよ?」

「ありがとう。また買いにくるよ」

 

 スリねぇ……警邏でも増やすか。今より増やすとなれば給金も増える訳で、そうすると財政が圧迫されてしまう。俺が頑張って捻出した研究費が削られていく訳である。今は机上理論を纏めればいいし、研究は金食い虫だろう事も予測できているのでいくらか余裕がある時じゃないと出来ないな。

 やはり特産品が欲しい。行商人を呼び込めばそれなりに金は入るだろうけど、それも街道の整備をした方がよく、そもそも特産品が無ければ意味もない。今のままでは息をする事はできても活動する事など出来はしない。

 渋滞してくる問題をとりあえず山積みにしておきパンを頬張る。美味しい。これを特産品には出来ないだろうか。いや、無理か。

 どの道、街道整備に関してはそれなりに時間が掛かるだろうし、今すぐに着手すべき事ではないだろう。できる事は限られているのだから、一つずつ解消していくべきか。

 鉱脈を見つければ手っ取り早く稼げそうではあるが、そんな物があるのならもう少し鍛冶場が発達していてもいいだろう。生憎この街の鍛冶場は一件しかなく、そこにいるドワーフも包丁などの修繕ぐらいしかしていない。資料情報だから後で確認しなくてはいけない。あまり詳しくないけれど、度数の強いお酒を持っていけばどうにかなる気もする。ドワーフ族の事を調べてるとシャリィ先生が怒りそうだ。偏見だが。

 

「少し、よろしいですか?」

「ん? おや、これはまた美人に声を掛けられてしまった」

 

 振り向けば淡い金の髪。尖った耳の側で結われた房が揺れ、こちらを見上げる深緑の瞳。頭の中であるが、噂をすればなんとやら、というヤツであろうか……。

 ともあれ、俺がディーナである事は目の前にいるシャリィ先生にもバレていない事なのでしっかりとディンを扮しておかなくてはならない。

 

「それで、どうかされましたかな?」

「今から言いつけを守らない生徒を怒りに向かう途中なのですが、この街で一番大きな館は何処でしょう?」

 

 ビシリと表情が固まりそうであった。頑張れ俺の表情筋! 今は騙して、どうにか機嫌の取れるような言い訳を考えてから待ち構えなければいけない!

 いや、まだ俺だという事はバレてはいない。どうにか逃げ出そう。このまま逃げ出して、2日ぐらいちょっと遠乗りに出かけて逃げておこう。何、領地の事を知る為の行動であり、決してコレは逃走などではない。特産品を探しに行くだけである。

 

「さて、俺もこの街へは着いたばかりだけれど……アッチで館は見たかな」

「……結構。私の向かっていた方とは逆方向でしたか」

「どうやらそうらしいね」

 

 一度館に戻ってから、アマリナへと言伝、ヘリオに警邏指示を飛ばして、俺は逃げ出す。完璧な作戦である。

 

「それで、私を騙そうとしている理由をお聞かせ頂いても? ディーナ様」

「……さて、なんの事だか」

「結構、結構。教え子への説教を数倍に増やしておきましょう。では見知らぬお方、御機嫌よう」

「ハハハ、そんなご無体な。送りますヨ、シャリィ先生」

「……その喋り方はどうにもなりませんか」

「この格好と声でいつものように喋れというのならそうするけど?」

「……いえ、結構。その喋り方で構いません」

 

 想像したのか苦虫でも噛み潰した顔になり溜め息まで吐かれた。普段の俺の口調でこの格好ならちぐはぐ過ぎるので正しい判断だろう。俺だってディンの間にあの口調で喋りたくはない。

 これからも街には出歩くつもりなのだから、貴族の女のような言葉を喋る男という認識は持って欲しくはない。オネェキャラの方がまだ便利かもしれない。

 ともあれ、怒られる事は確定してしまったのでシャリィ先生と適当にぶらつきながら館へ帰る事にしよう。デートですよ、デート!

 

「ディーナ様――」

「今はディンと呼んでもらえるかな? シャリィ先生」

「……どちらでもいいですが、説教が増えない内に帰路に就くことをお勧めしましょう」

「あー、なるほど? 戻ろう。今すぐに、戻ろうじゃないか」

「よろしい。案内を頼みますよ、ディン」

 

 怒っていらっしゃる。俺が世界と接続した時よりも、怒っていらっしゃる……。あの時は幾らか叱るという名目もあったが今は本当に怒っている。それでも可愛いシャリィ先生がニッコリしてると可愛いな! 現実逃避しなきゃッ!

 こんな可愛いシャリィ先生が怒った所でそれほど怖くない事は確定的に明らか。負けるわけねぇよなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ディーナ様。あれほど魔法を使うな、と言明していた筈ですが?」

「さて、なんの事やら……」

「ディーナ様?」

「はい、ごめんなさい。私が悪かったです……」

 

 負けました。

 館に戻ってきてから着替えた俺は見事に敗北した。ディーナ・ゲイルディアにしてここまでの敗北は無い。リゲルとの一件? あれは記憶の彼方に飛ばしたから……。

 ウチの家系か? って思うぐらいに冷たい目をシャリィ先生がする事なんて滅多にないのだ。怖いってもんじゃない。確かにコレが通常の我がゲイルディア家はそりゃぁ怖がられるな。納得。

 

「……はぁ、自分がどのような状態か理解しているでしょう」

「体調はいい方ですわ。それに世界との接続もせずに自身の魔力を循環させているのは以前からです」

「その瞳で魔法を扱う事自体が問題です」

 

 喉に使っていた魔法が駄目だったか。いや、しかしアレが無いとディンの声は出にくいしなぁ。いや、そもそも俺という事が判明しなければよかったから男装だけでよかったのでは……? 既に遅いけれど。

 

「それに貴女はそれほど上手く魔法式を描けなかったでしょう」

「瞳である程度見えますから、少し式は弄りましたが……」

「ディーナ様、そういう所ですよ」

「魔法式の研鑽の為ですわ。まあそれなりに生きられるでしょう」

「……それでは私が困るのです」

 

 ん? なんでだ? 利益的には魔法式の解読が進んでいる方がシャリィ先生的にはいいはずだけど。ははぁーん、なるほど。俺に惚れてしまったのか! なるほどな! ようやくシャリィ先生、いいや、シャリィがデレてくれるという訳ですね!

 

「私が貴女の下におかれる予定なので、貴女には生きていてもらう方が私にとって有益です」

 

 ですよねぇ……。

 そんなデレとかそういう問題ではないですよね。知ってた。シャリィ先生だもんね……。

 

「シャリィ先生が私の管理下におかれるなんて初耳ですわね……」

「手続きが完了してないので。暫く先の話です」

「なるほど……」

「それに死ねば私に不利益が生じるとわかれば、貴女は今のように好き勝手に魔法を扱う事はしなくなるでしょう?」

「……よくおわかりですわね」

「初めての教え子の事ぐらい手に取るように」

 

 そう言われると弱い。元々の俺の性質もそうであるし、安い命に価値が付与されてしまう。

 困るわけではないけれど、気軽に命を掛けれなくなると俺の魔法式の研鑽が積めない。つまり、シャリィ先生の好感度も上がらないって訳だな! 詰みでは?

 

「……なら、私の無茶も少しぐらいは見逃してくれてもいいのでは?」

「何か?」

「なんでもありませんわ」

 

 急に怒らないでください。その顔は俺に効く。

 ニッコリ笑っている筈なんだけどなぁ。お父様より怖いってどういう事なんですかね。年の功、おっとなんでもないです。なんでもないです!

 そんな俺の脳内を読み取っていたのか更に笑みを深くしていたシャリィ先生は疲れたような表情になって溜め息を一つ吐き出して懐から何かを取り出す。

 机に置かれたソレを()()でしっかりと見る。

 

「眼鏡と眼帯? ああ、なるほどレンズとあて布に術式が刻んでありますわね。見たことのない文字列ですから効果はわかりませんけど」

「そうやって瞳をすぐに開く愚かな教え子の為に用意しました」

「怒らないでくださいまし。これはシャリィ先生の教育の賜物ですわ」

「自分の命を削るような教えはしてない筈ですが?」

「削らない方法も教わってませんわ」

 

 むしろ研究課題の事を考えれば削る方法しか教わっていない気もする。たぶん気の所為、というかシャリィ先生の期待に応える為に俺が無理をしているのだけど。

 ともあれ、術式自体は似たような物である事は()()()ので眼鏡の方を装着する。

 度は入っていないのか視界は歪んだりはしないが、元々在った違和感は消えた。

 

「この目の抑制ですわね」

「弦の先にある魔石で起動しています」

「……なるほど――」

「先に言いますが、ご自身で魔法式を編んで起動しないように」

「……わかってますわよ。そんな事しませんわ」

 

 なんで思考が読まれるんですかね?

 まあソレはソレとして。体の中に編んでいた魔法式を起動させてみても眼鏡をする前のように正確に読み解く事は出来ない。通った式自体はわかるけれど、それは既に組み込んでいるからであるのだろう。

 っと、シャリィ先生の目が鋭くなったので魔法の起動を停止させておく。ナニモシテマセンヨーとニッコリ笑えば溜め息を吐き出された。解せぬ。

 

「眼鏡も眼帯も世界との接続抑制の物です。眼帯の方が繋がりを強く遮断する物を刻んでいます」

「普段の魔法も意図しては繋いでませんわよ?」

「魔法式の確認が出来ている時点である程度は繋がっていると考えてください。人の身には危険です」

 

 つまり、眼鏡も眼帯も堰のような物か。あんまり意識してなかったけれど、緩くとも常に世界との接続をしていた訳だな。魔石を量産できるのでは……? いや、本格的にシャリィ先生が怒るし、たぶんこっそり量産してもアマリナからシャリィ先生に伝えられるだろう。敵だらけか?

 

「シャリィ先生が私の男装を見破ったのは世界と接続していたからですのね」

「は?」

「む、これでもアマリナやヘリオ以外にはバレた事がなかったんですのよ?」

「……ああ、見た目だけなら確かにわかりませんでしたね。安心してください。私以外にはわからない方法です」

「ぜひご教授願いたいものですわ。そうしたなら次はバレませんもの」

「ご安心ください、ディーナ様。たとえ貴女が異形の者になったとしても、私は貴女とわかりますよ」

 

 花が綻ぶように笑んだシャリィ先生に口を噤む。これは本当にバレるな。

 しかし、何が問題なのだ……。さっぱりわからん……。

 

 悩む俺を見ながらシャリィ先生は何かを言おうとして、何かに気付いたのか開いた口を閉じて誤魔化すように微笑みに変化させてお茶を一口飲み込んだ。




シャリィ先生が誤魔化した内容ですが、
「私が貴女の魔力をわからないとでも?」
という何年もずっと見てきた事や自分以外では見破れないというちょっとした独占欲やら何やらで。それらを意識して誤魔化してお茶を飲んでます。耳が赤いです。可愛いな?

アンケはスピカ様がダブスコだったのでその方向で話を進めます。頑張ってキャラデザ案送るからよぉ……止まるんじゃねぇぞ(更新

あ、そうだ(唐突

実はディーナ様の眼鏡差分も書いて頂いていたので、みんなにも共有して自慢しておくね……。

【挿絵表示】


感想に関しては全て目を通してますが、気が向いたりしたら返信したりしなかったりします。
許して亭許して……。
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