なんでこんなにあるんですかねぇ(白目
あ、キャラ増やします(性癖
眼鏡を着用してからというもの、体調が驚く程よくなり俺に隠されていた力が湧き出てきた。という事は一切ない。
眼鏡にはそんな効力もないし、俺に隠された力など恐らくない。あったとしても、貧弱な物かそれとも使い勝手の悪い物か。巨大な力を手に入れた所でソレを扱う人間が俺という時点で中々に使えなくなるのが問題だな。
眼鏡をしている時は問題ないけれど眼帯はヤバい。アレをしていると外部干渉するような魔法が全く起動してくれない。オークを氷結させた魔法は当たり前のように起動しないし、アレクやヘリオを押し潰した魔法も使えない。
シャリィ先生なんでこんなの持ってきたのさ……俺が魔法を使うからですね。わかる……わかりたくはなかったよ……。
両方の性能確認をする為に魔法を行使したのは内緒である。監視として呼んだアマリナにもちゃんと先生には言わないようにお願いしたので大丈夫だ。何も問題はない。魔法を行使する度にアマリナからの視線が痛くなるぐらいである。それでも可愛いので何も問題はないな!
「それで、警邏を増やした結果はどうですの?」
「以前よりもスリの被害は減りましたが、無くなってません」
「大元の原因はわからないままですもの。後手の予防でしかありませんわ」
ベガから受け取った書類を読みながら一月前に施行した警邏の強化の具合を確認する。ヘリオは部隊を指揮しているのでこうして人伝いであるけれど……。ヘリオをこき使い過ぎてるな。どこかで労っておこう。
ともあれ、後手になっているのはある意味仕方ない事である。根絶させる為には犯人を捕まえるのが手っ取り早い。スリを行う原因が自身の富を肥やす以外なら、危機感を味わいたいのか、貧困が原因か。思いつくだけでも幾つか頭に湧くけれど、後者なら街を豊かにする事によって予防はできる筈だろう。
前者二つならば、徹底して潰さなければならない。また予算が減っていく……。街道整備の為にある程度予算を割いているから出せる予算はもう無いんだけど? 無理では?
「何かいい案があるかしら?」
「現状維持が妥当でしょう。無くなってはいませんが、確実に被害は減ってきています」
「大元を捕らえる案は無いのかしら?」
「あれば言ってますよ」
「それもそうですわね。警邏を減らして市民に被害を出す訳にも……」
ん……? 市民に被害がなければいいのか。ふむ……。
「ゲイルディア殿?」
「なんでもありませんわ。今日ももう上がっていいですわ」
「ゲイルディア殿もあまり無理はなされぬように」
「無理をしたことなんて一度もありませんわ」
自身に出来る事を最大限にしているだけで、それは無理とは言わないのでセーフ。俺は無理、してない。いいね?
「おや、ディンじゃないかい。今日もお仕事から逃げ出してきたのかい?」
「これは言い草だね。まるで俺が仕事をサボったような物言いじゃないか」
「この間、アンタを探して騎士様がそこらで聞き込みをしてたよ」
ヘリオぉ! この前黙って抜け出した時かッ! アマリナに頼まれたか、いや、アイツが気付いて一人で動いたな……。眼帯をしていると影の移動も出来ないっぽいし。
でも眼帯はしておくべきだろう。眼鏡だと瞳の色が特徴的過ぎてディーナ・ゲイルディアだとバレる可能性もあるし……。すまん、ヘリオ……。許してくれ……。今日も許して……。
「当然、俺が逃げれるように言ってくれたんだろうね?」
「バカ言いなよ。あたしらが騎士様に嘘を吐ける訳がないだろう?」
「……このパンを頂くよ」
「安心しな。あたしらの口は固いよ」
逞しい事である。小麦の焼けた匂いを嗅ぎながら一口頬張る。
さて、連日街に出ているけれど今の所目立ったスリの被害は無い。報告で被害が多い区画はある程度絞っているけれど、そこでも遭わない。警邏を増やした事を切っ掛けに徐々に減って、無くなる事を祈るけれど。
自分が勝手に出来るお金からそれなりにお金を使って餌をバラ撒いているけれど、どうにも引っ掛かってくれない。無防備さらしてるから都合のいい餌っぽくは見えていると思うんだけれど。
ヘリオの聞き込みで警戒されたか……。もしくは単純に監視して隙を伺っているか……。何にしろ、そろそろ俺の財布がダイエットに成功しそうなのでさっさと釣り上げられてほしい。
パンの最後の一口を噛み締めて頭の中で残りのお小遣いを思い出す。
小さな衝撃が俺の臀部辺りに当たり、咄嗟にそちらを向けば少年がぶつかったようだ。
「おっと、すまな……」
謝罪の言葉を言い切る前に真っ赤な髪の少年は一目散駆けていく。先程まであった腰の重みが無くなっている。改めて目を少年へと向ければ小さい赤は更に小さく遠く駆けていく。良い逃げっぷりである。
ようやく釣れた事に笑みを浮かべる。どういう訳か近くに居た人から怯えたような声が聞こえる気がしたけれど、気の所為にしておこう。
足に力を入れて駆ける。片目だけで遠近感がわかりにくいけれど、丁度いい訓練にもなるだろう。
確りと握り込んだ小さな革袋の感触を確かめる。
視界に映り込んだ街は走り慣れた街であり、普段から逃げている街である。
人の目を避け薄暗い路地へと入り込み、はち切れそうな程脈打つ鼓動を少しだけ少女は抑えた。
路地端から走ってきた場所を見れば誰もこちらを向いていない。誰かが走ってくるような気配もない。いつだったかはここまで追いかけてきた商人が居たけれど、どうやらあの男はそうではなかったらしい。
少女は息を整えてからようやく強く握りしめた革袋に意識を戻す。手に掛かる重さは中々のもので、身なりのいい男から想像すればかなりの額が入っている事は予想出来た。
これだけあれば、暫くは食いつないでいけるだろう。大凡の金額を頭に浮かべた少女は辺りを警戒しながらひっそりと隠れ家とも言うべき我が家へと足を向けた。
入り組んだ路地を遠回りしながら到着したのは既に人は住んでいないであろう廃れた家である。それほど大きくもなく、隙間風が寒いのが難点であろうか。それでも少女にしてみれば雨をしのげるだけで十二分であったし、隙間風も些細な問題でしかない。
ギィ、と少女の体重で鳴く床板を踏みしめながら足取り軽く一室へと向かう。
重い扉を開けば、その部屋の住人である友人が既に顔を向けており、笑顔を浮かべていた。
「おかえりなさい、レイ」
「ただいま、フィア」
廃れた世界で唯一清潔を保っているのか白いベッドに座る白い少女。髪からは色が抜け落ち、抜け落ちた色が瞳に集まったように赤い。
白い少女であるフィアの笑顔を見て、レイはようやく帰宅出来たのだと安心出来た。小さく息を吐き出して、今日の獲物であった男を思い出す。見てくれはどこかの商人とも思う。記憶している街の人ではなかった筈だ。
自身とは違って頭の良いフィアからそうした方がよい、と言いつけられていたからスリの調子と腕は上がった。今日の獲物も容易かった、と報告も出来る。
「……そちらの方はお客さん?」
「客?」
クスクスと笑うフィアを訝しげに思いながら視線を追えば自身の後ろに繋がり、そこには隻眼で金色の髪を一括にした商人風の男が立っていた。
男はレイの視線に気付いたのか、ニッコリと悪辣な笑みを浮かべて口を開く。
「やぁ、お邪魔するよ」
「ッ――!」
「判断力はいいな。力量を計れないのは、こういう経験が不足しているのか?」
自身ではなくフィアを守る為に出した拳は容易く受け止められ、その腕を捻り上げられてレイは埃の溜まっていない床に押し倒された。
藻掻いても力で勝てる訳もない。フィアよりも悪い頭を動かして、叫ぶように口を開く。
「ボクはどうなってもいい! フィアは見逃してくれ!」
「……ふむ。君が件のフィアか?」
「こんな状態ですみません。足が不自由でして」
フィアは侵入者である男にベッドで半身を起こしたまま軽くお辞儀をしてみせる。
男はそんなフィアの言動に「ほう」と呟いて、舐めるように視線を這わせる。
そんな呟きを聞いて床に押し付けられているレイは藻掻く力を込める。肩に痛みが走るけれど、そんな事は関係ない。自分がフィアを守らないといけない。
「……さて、まずは見事なスリの腕だと言おうか。惚れ惚れするね。腕の一本斬り捨てて再犯の防止を考える程に」
掴まれている腕に僅かに力が加わったのがわかった。底冷えするような声にレイは奥歯を噛みしめる。自身の腕一本でフィアを救えるのならば、安いとも考えてしまう。
飛んでこない反論に男はただジッとレイを見下し、その視線をフィアへと向ける。
「それとも、君の心を折った方が効果的か? 例えば、目の前でフィアを殺してしまう、だとか」
「ッ! やめろ!」
「おい、動くなよ。お前は立場がわかっていないのか?」
今までまったく体重が掛かっていなかったとでも言わんばかりにレイの背中に圧が掛かる。同時に腕に込められていた力が強くなり、逆の腕で頭が押し付けられ上手く発音すらさせてもらえない。
「この少年にスリを教えたのは君か?」
「いいえ、私はただ作戦を練っただけです。スリは彼女の腕前です」
「彼女? コレは女の子だったのか」
「んぅぃんに!」
身動ぎしながら叫ぼうとするレイを抑えつけながら男は肩を竦めて、フィアは隻眼の男をジッと見つめる。
「作戦について聞いてもいいか?」
「なるべく旅人や行商を狙う事。事前に狙う人を確認する事。あとはその都度決めていました」
「君は出歩けないのだろう? どうやって事前に確認を?」
「孤児は私達だけではありませんから」
「……なるほど。事前に大凡の逃げ道も定めていたかな」
「はい。最近は兵士さんも増えたみたいですし」
「それでも逃げ切れた」
「兵士さんの行く道、時を覚えていれば問題はありませんでした」
それでも貴方には捕まったみたいです。とフィアは笑みを浮かべて男を見つめた。
男は少しだけ考えて、口を開く。
「しかし、コレよりも君は随分と余裕だな」
「だって、貴方はここに来るまでにレイを簡単に捕まえられたのにソレをしなかったでしょう?」
「首謀者を捕まえたかった、とは思わないか?」
「それなら尚の事。貴方はこの街を警護する立場の人間でしょう。レイを追い掛けてここまで来たという事も加えれば自由に決定出来る立場です」
「必死に追い掛けただけかもしれない」
「それならレイに追いつける訳がありません」
男は笑みを浮かべる。悪辣に、まるで悪魔のように口を歪める。
「いいな、君。実にいい。君の目論見通りに俺は君が欲しくなったが、どうすれば君が手に入るかな?」
「……二つほどあります」
「言ってみろ。俺に叶えられるのなら叶えてやろう」
「まずはこの辺りの孤児達は私達の収入で生きていました」
「わかった。保護するように働きかけよう」
「……二つ目はレイも一緒に貰ってください」
「犯罪者を囲い込むつもりは無いが?」
「なら私達を捕まえて腕を切るなり、処刑するなり、ご自由に」
譲歩するつもりも無いのかフィアはきっぱりと言い、ジッと隻眼の男を視界に入れる。
自分の価値は十二分に示した筈だ。この男が自分の前に立った時点で自分たちは詰んでいる。
「君が手に入るのなら安いな。よし、わかった。君を買おう」
男は暫し思考した後にそう言い切って、椅子にしていたレイを解放した。立ち上がったレイはすぐにフィアへと駆け寄って彼女を守るようにして男との間に入る。
そんなレイを見下しながら男は溜め息を吐き出した。
「フィア、逃げよう。まだ大丈夫だから」
「レイ……大丈夫よ」
「おいガキ。目の前に飼い主がいるのに大丈夫とは何だ大丈夫とは」
「イ゛ッ!」
「さっさと荷物を纏めてこい。すぐに出るぞ」
「レイ、大丈夫だから、お願いね」
頭に落とした拳骨が余程痛かったのかレイは男を睨んだがフィアの一言に渋々と部屋を出るまでに何度も視界を男とフィアの間を行き来させ、部屋の扉を出れば慌ただしく床を鳴き響かせた。
「すみません」
「いいさ。予想出来ていた。さて、賭けは君の勝ちで決まった。もう力を抜いてもいいぞ」
「……バレてましたか」
「君たちよりも長く生きているからな。それだけだよ」
自分を抱きしめるように震えを止めるフィアを見ながら男は緩やかに眼帯を外し、踵を二度程鳴らした。
両異色、先程まで見えていた左目の青とは違い、極彩色のように見る角度によって変化する不思議な瞳をフィアは見つめる。
「持ち上げるぞ」
「え、キャッ!?」
自身の瞳が見られている感覚を認めながら男はシーツでフィアを包んで横抱きにする。持ち上がる視線に戸惑いながら、男の負担にならないようにフィアは首へと腕を回して体を支えた。
「どうした、フィアッ! お前ッ!」
「うるさいぞ。レイは荷物を持ちながらあとについて来い」
持ってきていた荷物を確認した男は呆れたように溜め息を吐き出してレイへと命令を下す。
「……そのままボクが逃げたらどうするのさ」
「ほう。俺がフィアを自由にしてもいいと言うことか?」
「それは嫌だ」
「じゃあ付いてくるしかないな。まあ悪いようにはしないから安心しろ」
横抱きのままフィアを運んでいる男の後ろを心配そうに付いて回るレイ。そんなレイの表情を見てフィアは微笑みながら男へと視線を向けた。
「随分と手慣れてますね」
「これでも子供の扱いはよく知ってるんだ。君達よりも素直だったがね」
「ご結婚されていたんですか?」
そう問えば、男は苦々しい顔になり、振り払うように首を横に振ってから否定を口にした。
フィアが謝罪の言葉を述べれば、受け取るだけ受け取った男は無言になってしまう。触れてはいけない話題としてフィアは認識し、働き先に行けばレイにもよく言い聞かせておかなくてはならない、と頭の予定に組み込んでおく。
歩いていれば薄暗い路地を出て、開けた道に出る。まだそこらでは活気ある声が聴こえ、フィアにしてみれば想像上でしかなかった風景が広がっている。
その中でポツンと浮き出る馬車と頭を下げている褐色のメイド。
「お待ちしておりました」
「気付いてよかった。このまま移動するのは手間だからな」
「……それらは?」
「あとで話す。とにかく戻ろう」
馬車に乗せられたフィアに続いてレイも馬車に乗り男とメイドも乗り込んだ。男は右目を隠すように眼帯を改めて着け直し、窓の外を興味深く見ているフィアへと視線を移す。
いつかの自分もそんな反応をしていた気がする。そう思考したけれど、彼女程自分の頭の出来はよろしくない。
「さて、フィア。俺の立場を予想していたね。そろそろ答え合わせをしよう」
「……兵士さんの隊長では?」
「間違っていないが、それは正しくはない」
男は縛っていた髪を解く。広がり、波打った金髪が男の印象を変化させ、
「
女の声で発せられたその言葉にフィアもレイも驚いた顔をして、まるで悪戯が成功したようにディーナは笑みを浮かべた。隣にいるアマリナは疲れたように溜め息を吐き出した。