悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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43.悪役令嬢は思い出したい!

 エルフとの交易も決定してカチイへと戻ってきた。

 非常に疲れる問題を幾つか持ち帰ってしまったけれど、首尾は上々と言えだろう。

 持ち帰った問題に関して、考えなければならない。主に言えば二つ。一つは時間を掛けて解決させればいいが、もう一つは直近で解決させなければならない。

 

「おい! ディーナ! ここがお前の館か! ヒューマンにしては中々じゃないか!」

 

 目の前の問題児エルフ、リヨースである。

 彼女はエルフ側から表向きに出された橋役であり、杜撰には扱えない。何より人間を下に見ている節があるのであまり表に出したくはない。無茶だが。

 彼女を交渉の場に立たせるとエフィさんから言われた時の俺は実に嫌な顔をしていたらしい。後でシャリィ先生に怒られた。

 それも仕方ない事である。何が楽しくて決闘中に煽りに煽った相手の面倒を見なければいけないのか。コレガワカラナイ。

 実際の所、橋には別のエルフとシャリィ先生がやり取りするらしく、リヨース自身はその事を知らない。スケープゴートと言えば聞こえは悪いけれど、エルフ側にも知られたくない事もあるのだろう。

 どうしてリヨースが、という話でもあるのだけれど、彼女がエフィさんの逆鱗に触れたのが悪い。俺は悪くない。同じ事でブチ切れて多重に魔法を使ったのだ。

 あの決闘で俺のシャリィ先生と我がシルベスタ王国を馬鹿にしてくれたリヨースであるが、エフィさん視点で言えば愛する娘と愛する人が作った国を馬鹿にした訳である。エルフとして罰するにしても理由が理由だから罰せず、けれどもエフィさんの気がすまないという事で俺に押し付けたのだ。ニッコリしながら「嫌ですわ」と言っても「あらあらうふふ」と押し付けられた。あの巨乳強い。押し付けるなら巨乳にしてほしかったな。

 

 ともあれ、こちらの体裁とエルフ側の体裁もあるのでリヨースには俺の事をちゃんと名前で呼ぶ事を言いつけている。

 驚いた事に人間を下に見ているリヨースはその事をあっさりと受け入れてくれた。受け入れられなければさっさと返品するつもりであったけれど、俺の思惑は見事に裏切られた。

 曰く、「自分よりも強い相手」である事らしく、俺の師であるシャリィ先生も今はシャリィと呼ばれているし、その時のシャリィ先生は鳩が散弾銃でもくらった如く驚いていた。

 王命を果たした事は書状で送り、リヨースの躾をしてから出向くように時間稼ぎもしなければいけない。面倒ではあるけれど、エルフ側の事を考えればその程度の労力を惜しむ意味もない。

 頼むから陛下に対して「下等なヒューマンの上に立つ無能」などと呼ばないでほしい。そうしたら俺はこいつを殺すだろうし、地に落ちた俺の評判もクレータのように下がるに違いない。

 

「リヨース、案内はこの娘達がしますわ。わかっているとは思いますけど、暴れて調度品を壊さないように」

「お前は私の事を子供か何かだと思っているのか!?」

 

 そりゃ、そんなキラキラした目で館を見てれば子供みたいと思ってもしかたないだろ。

 初めて触れる人間の文化に好奇心しか見えていないリヨースの事はレイとフィアに任せよう。主にフィアにだけれど。

 俺の思考を読み取ったようにこちらを一瞥してから笑顔でリヨースへと向かうフィア。ホント、ゴメンな……。何か埋め合わせも考えるから……。

 リヨースも流石に子供相手なら無茶な事は言いはしないだろう。特にフィアは目に見えて弱者だからリヨースは庇護対象として見てくれる筈だ。

 

「アンタ、先生みたいに耳が長い……エルフってやつか?」

「そうだ。私は誇り高いエルフの戦士、リヨース。ヒューマンの子供よ、名を聞いてやろう」

「ボクは子供じゃない!」

「ふふん、子供は皆そう言うのだ」

 

 レイ相手は……うん、ホントに調度品とかは壊さないでね……。

 

「……ディーナ様、私も着いていきます」

「よろしくお願いしますわ、シャリィ先生」

「えぇ、えぇ。お任せください」

 

 何かを予見したのか、シャリィ先生が溜め息混じりに三人の背中を追っていく。これで安心だろう。安心していいよな……?

 俺が自ら案内すればそれで終わる話だけれど、俺もやることが山積みになっている。溜まっているであろう領地運営の書類処理、すり寄ってくるクソのような周辺貴族達への手紙の返信。エルフの交易の詳細な概算も出さなければいけないし、先に言った王命の達成報告もそうであるし、時間稼ぎの根回しもである。

 やることが多すぎない……?

 

 

 

 

 自室へと戻って旅装を脱ぎながら体を拭いていく。

 少し汗ばんで火照った体が少しだけ冷めて気持ちがいい。

 

「お嬢様、手伝います」

「あら、ありがとうアマリナ」

 

 服の準備や旅装の片付けを頼んでいたアマリナが俺から手拭いを受け取って背中を拭いてくれる。あぁ^~気持ちいいんじゃぁ^~。

 

「……ディーナ様」

「何かしら?」

「……その、大丈夫なのでしょうか?」

「リヨースの事? 心配だけれど、どうにかしなくちゃいけませんわね」

「アレはどうでもいいです」

 

 アレって……。仮にも賓客だし、エルフ側との表向きの橋だから一応大事に扱おうね……。アマリナに何かあったらまた俺はリヨースと戦う事になるだろうし、そうしたら次は負けるに違いない。

 

「ディーナ様のお体です」

「あら、治療の為だなんて言ってなかったと思うけれど」

「……シャリィ先生に、お聞きしていました」

「皆して、私を謀ったのね。酷い話ですわ」

「それはッ、ディーナ様が……」

 

 俺の背中で泣きそうな震えた声を出して肩に額を押し付けているアマリナ。俺はどれだけ信用されていないのか。いや、俺という存在に関してだけ信用されていないだけで、他の行為に関しては俺には身に余る信頼を置いてくれている。

 そのあたり、俺の反省点でもあるのだろうけど、どうにも直りそうにない。それは血脈の思考であるのか、はたまた俺の前世が原因なのか。どちらにしても反省はしなくてはいけない。直る気がしないけれど。

 

「皆、心配性ね」

「……ディーナ様が大事なのです」

「あぁ、今回でよくわかったよ。これからは無理も無茶もしない」

「……する時は言ってください」

 

 取り繕った言葉を吐き出したけれど、アマリナにはバレいたらしい。ホント、そういう部分の信用は無いな。

 肩に置かれた頭を右手で撫でれば、アマリナはその手を受け入れてもっと撫でてほしいように頭を押し付けてくる。

 

「まあもう暫くは俺の側にいてくれ」

「この命が尽きるまで。お仕えします」

「えぇ。頼りにしていますわ」

 

 本当に頼りになる。頼りになるんだけど、俺のお腹を撫でたりうなじにキスしたり、髪の匂いを嗅ぐのはやめようね。俺もこのあと仕事があるの。夜になったら一緒に寝るから我慢してね。

 

 

 

 

 

 着替えも終わり、一日の半分以上を過ごしている自分の執務室の椅子に座って、ようやく人心地がつく。

 机の上には塔のように紙が積み上がっているけれど、俺には何も見えない見たくない。

 

「どうぞ」

「ありがとう。アマリナ」

 

 置かれた紅茶を一口。たった数日であったけれど、この味が恋しくなるぐらいには長い時間だと感じてしまった。欲していた味を堪能して、一息、吐き出す。

 書類を確認すればレイがある程度処理していたのだろう事はわかるし、ウチに在籍している政務官達も頑張ってくれている。書類の山は俺の採決待ちの物と確認書類達が多い。残りは未だにすり寄ってくる貴族達の手紙だ。

 俺よりも優秀な人たちだから問答無用で判子を押すだけでもいいのだけれど、把握しておかなければいけない物もあるだろうから全てに目を通しておく必要はある。

 俺がいなかった分は特別報奨として少し出して羽を伸ばしてもらおう。

 さっきアマリナにソレを告げたら泣いて俺に縋って「捨てないで」と言われたけれど、たぶんアマリナだけだと信じたい。他の人は休暇いるよね? 領地も安定してきたから、あんまり働かせすぎも俺としては嫌なんだけど。

 

 書類を読んで、サインをしながら思考する。

 リヨースの問題は他の貴族の動きと王都の動きにもよる。こればかりはお父様にも手を借りよう。面倒な事だろうけど、ゲイルディアとして関わればお父様にも利が生まれる筈だ。

 

 リヨース以外にも問題はある。

 あのエフィさんの指輪だ。彼女曰く婚約指輪である木製の指輪。

 見覚えがあったけれど咄嗟にどこで見たのかはわからなかったから、取得に関しては時間が掛かる事も伝えている。

 尤も、そんな時間が掛かる事に関してエフィさんは少しキョトンとしてからケラケラ笑って「人の言う時間が掛かるなんてエルフにとってはすぐよぉ」とのんびりとした口調で言ってくれた。エルフの時間感覚すげぇよ……。

 

 さて、問題は俺がどのタイミングであの指輪を見たのか、だけれど。

 

 嫌な記憶を思い出しながら記憶を遡る。

 指輪なんて貴族の生活をしていると腐るほど見せられるけれど、舞踏会で自慢できるような指輪ではない。効果はともかくとして、見た目は木製の指輪でしかない。

 その効果に関しても、俺やエルフの持つ瞳がなければ見てわからないし、効力に関しても他国に出向かなければ理解できない。

 

 ……あー、あんまり思いつきたくない娘が出てきたな。

 確かに、あの指輪だったと思う。あの時にちゃんと確認できていれば確証も得れたけれど。

 しかし、おそらく国宝になっているであろう指輪をなぜ彼女が持っていたのか。仮にも初代王様の所持品であるし、刻まれている魔法もまた高位の物だ。

 アレが本当にあの指輪であるのなら、彼女がこちらの言葉を話せるのも、書けるのも理解できる。

 けれど、もしもそうであるのならば、俺はリゲルとの過去も否定しなくてはいけない。

 全ては仕組まれていて、アサヒもその一端である。と考えなくてはいけない。

 できれば考えたくはない。否定する。そうであるのならば、もっと上手く動けた筈だ。アサヒも、リゲルも。王も、誰も彼も。

 けれど、そうではなかった。

 俺は公でこっぴどくフラれたし。もしも決められていた事であるのならば、そうはならなかった筈だ。俺の婚約がイレギュラーだったか、もしくはアサヒがイレギュラーとして新しく現れたか。おそらく後者……いや、俺が否定したいだけだな。希望的観測だ。

 

 結果だけを考えるのならば、アサヒとリゲルの婚約。結婚であろう。他に要素が無いけれど。

 俺の婚約がイレギュラーである場合、あの時点から計画が進んでいた事になる。けれど、あの時点でアサヒが居たのならばベーレントはキチンと出生の登録をしているだろう。その辺り信用できる公的資料は無いけれど、隠していた子供が今更王族との婚約、などそちらの方が面倒だろうし。

 何より、彼女は黒髪だ。この世界に置いて黒髪は特別だ。王族の証でもあるし、親しい血族ぐらいしかいない。まあ黒髪が特別というのは少し古い考えでもあるし、今の商人の娘や貴族の娘達はそれほど気にしていないようだったけれど。

 

 問題になりそうな黒髪を放置、というのは考えにくい。少なくとも王族側への接点になりえる。それをしなかった、というのはあの時点でアサヒは存在しなかったのだろう。

 

 よって、アサヒは突如として現れた存在である。俺の希望的観測と状況を考えて、そう仮定する。

 だから俺がフラれたのは決定されていた事ではなく、仕組まれた事ではなく、ただ単純に……いや、そうじゃない。その理由を考えているのではなかった。

 

 

 何かしらの要因でこの世界に湧いたアサヒがどうしてあの指輪を持っていたのか。ベーレント家に関してはある程度目を通したけれど、まだ不明瞭な所があるのだろうか。

 イワル公爵の派閥でゲイルディアの所属している派閥とは敵対関係というか、ゲイルディアに対して敵対している派閥が多すぎるんだよ! お父様! よく弱小派閥なのに生き残ってますね!

 

 アサヒに関しては不明な部分が多い。彼女自身はいい子なんだけど、どうにも騙されているのかもしれない。いや、騙していたのなら、あのオークとの戦いで俺を殺していたかな。

 

 

 何にしても、王城に行きにくい俺としては動きようがないな。問題は先送りにしよう。よし!

 諦めにも似た決断をしてから紅茶を一口。新しい書類を取れば、何かがスルリと床に落ちた。

 

「…………はぁ」

 

 ソレを視界に入れて、深く溜め息を吐き出してから拾い上げる。

 王族の紋章を刻んだ蝋封を凝視して、間違いはないかを確認する。細部まで覚えているけれど、間違いない。頭痛い。立てていたリヨース関連の問題が俺の胃を刺激する。

 

 封を切り、中の紙を確認すれば俺の眉間は深いシワを作り上げた。

 

「……リゲル王子の婚約発表舞踏会、ね」

 

 ようやく、と言ってもいいほど時間は経っていた筈だった。俺としては苦すぎる思い出であるし、ハッキリと言えば行きたくない。欠席決め込んで逃げ出したい。

 けれど、それができないのが俺の立場である。騎士称号や一代貴族としての肩書があるから出席はほぼ確定。更に言えば蝋印でわざわざ王族の紋章があるから欠席とかしたら首が飛ぶかもしれない。

 紋章がなければ嫌がらせ、と断じればいいけれど、そうではない。

 

 うーん、リゲルにしても俺をアサヒに近づけたくないだろうし、嫌がらせにしては度が過ぎる。リゲルの性格的にもしないと思うし。アサヒに唆されて、というのも考えたくはない。

 

 真意はわからないけれど、行動は決められた。

 

 改めて俺は深く溜め息を吐き出して、アマリナを呼んだ。




本当はエルフを連れてくる気は無かったです。でもエッチだったので連れてきました。貧乳はえっち。

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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