悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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あけましておめでとうございます。今年もよろしく。


44.悪役令嬢は踏み出したい!!

 ハッキリと言ってしまえば億劫である。出たくないと言って許されるのならば大声で叫んだ挙げ句に送り主にビンタをかましてカチイへと帰りたい一心である。

 そんな事、許される訳もないのだけれど。

 

「お嬢様、そう溜め息を吐かれては……」

「勝手に出ていきますの。仕方ありませんわ」

 

 アマリナに入れてもらった紅茶を一口飲みながら、また吐き出しそうになった溜め息を飲み込む。

 久しく王都に来たけれど、周りのお祭り騒ぎと比例するように俺の感情は落ちている。聞かされる度に溜め息の原因が増えていきそうだ。

 

 王都にあるゲイルディア邸に連れてきたのはシャリィ先生とアマリナとヘリオ、あとはリヨース。そしてここ一年で二回目になるフィアの我儘でフィアとレイも連れてきている。

 「一度王都という物を見てみたかった」とまるで夢見る少女のように言ったフィアであったが、アレは完全に別目的に違いない。悪事を働く、とは思いたくないけれどニコニコしていた表情が怖かった。

 そんなフィアとレイはセットで動くから子守というかお目付け役にヘリオを付けておいた。頼んだ、ヘリオ。お前に掛かってるぞ。

 

「ディーナ、様……助け……」

「オーべ卿。どこに行こうというのかしら?」

「ヒッ」

 

 今扉が開いて、げっそりした顔のシャリィ先生が見えたけれど、たぶん気の所為だろう。シャリィ先生の後ろに見えたお母様も、たぶん見間違いに違いない。

 俺と一緒に舞踏会に出席するシャリィ先生であるが、俺は舞踏会があるとは言わずにシャリィ先生を連れてきた。そしてお母様に渡して、今は隣の部屋で着せ替え人形だ。

 リヨースも確かお母様に渡した筈だけれど……いや、ホントね。お母様、あのリヨースをすぐに御してるの……。何、怖い……。

 性格的に武力が上下関係に直結してるリヨースを武力も口撃もなく、ニッコリ笑うだけで御したお母様は一体何なの? 悪の女幹部かな?

 

 俺の方は慣れた色の赤のドレスであるし、今更登城してくる貴族達の視線や罵詈雑言など気にしていない。あまり豪奢すぎるドレスは主賓達が目立たなくなるから問題であるが、ゲイルディアとしての尊厳はある程度保たなくてはならない。

 主賓達よりも目立たないという目的もあるが、あの二人の婚約披露で俺がその場にいる時点で目立たないというのは無理である。渦中の存在である。弾き飛ばされたけれど。

 

 いっその事、騎士服で登城して、というのも考えたけれどアイツらの思惑的に俺はゲイルディア令嬢ディーナとして参加しなくてはいけない。招待自体は俺個人の準男爵位での招待であったけれど。思惑に乗るなら騎士服よりもこちらの方がいいだろう。そもそも俺が着飾った所で他のお嬢様方よりも劣るのだからそれほど気は使わなくてもいいのでは……?

 差を理解させる為。俺が掴めずに、アサヒが掴んだその差は埋めようがない。埋めるつもりも無い。決別として騎士服でもいいけれど、思惑に乗ればそれだけ彼らと俺の仲は貴族間で広まるし、俺が恨んでいると思った馬鹿達が釣れるかもしれない。

 

「お嬢様?」

「なんでもありませんわ」

 

 少し言い訳がましくなってしまった思考を落ち着けて紅茶を一口。

 俺に招待状を送りつけた者……おそらくリゲルだろうけど、思惑はわからない。こうして俺を招待したという事は何かはあると思う。その全てはわからないにしろ、俺が進む為には思惑に乗るしかない。もう停滞しないと決めたのだ。

 前に歩き始めると、決めたのだ。

 

 

 

 

 

 停滞しないと決めはしたけれど、王城に登城した俺を待ち受けていたのは相変わらずの陰口である。過去に受けていたお父様へのソレよりも具体的に、更には俺に聞こえるように嘲笑される。

 曰く、王子から捨てられた女。新たな婚約者を貶めた悪女。色々と言われているが謂れのない称号達を鼻で笑いとばしてやりたい。

 

 そういった嘲笑の的である俺の側には誰もいない。アマリナは侍女であるから表舞台に立たせる理由になり得ないし、リヨースとシャリィ先生はお母様側に付けている。お母様ならリヨースの制御もできるだろうし、シャリィ先生の王命達成に傷もつかないだろう。

 

「これはこれは。ゲイルディア卿、よくぞお出でになられた」

「ごきげんよう、イワル公爵。招待状を頂きましたもの。それに、殿下の婚約者も一目見ておきたいですし」

 

 遠目で俺を嘲笑してくる馬鹿達とは違い、人の良さそうな笑みを浮かべて近寄ってきたイワル公爵に礼をしてニッコリと笑みを浮かべておく。

 流石に公爵がいる前では嘲笑していたような馬鹿達は鳴りを潜める。公爵に覚えられたのならソレは彼らにとっては不利益足り得るのだろう。俺は覚えてるから覚えてろよ。お前らの交渉事を全部捻り潰してやるからな。

 

「元婚約者と言えど、やはり気になさるようで」

「あら、元婚約者だからこそ、私を逃した重大さを理解させる為に来たかもしれませんわよ」

 

 やけに棘のある言い方だな。いいや、この場では正しいか。

 ゲイルディアの娘であり、嘲笑の的である俺とは繋がりが無いと周りに示せばそれなりにやりやすくなるだろう。俺からも……ゲイルディアからも手の出しにくい公爵家のクセに俺に対する手が多いな。

 

「確かに、エルフとの親交もある貴女を手放した殿下は惜しいことをしましたな」

「……エルフとの交易は私一人のモノではありませんわ。シャリィ先生……オーべ卿あってこそのものですわ」

 

 イワル公爵の視線がリヨースに向いた。なるほど、エルフとの繋がりを求めてたのか。話しかけて来た理由がわかった。

 けれど、何か違和感がある。彼の目線がリヨースに向きはしたけれど、それに少しだけ違和感を覚えた。ハッキリとはわからない、僅かなモノ。それこそ魔力の揺らぎというべきか、この瞳になってようやく分かるほど、些細な違和感。

 眼鏡を押し上げて位置を直す。改めてイワル公爵を見ても、違和感はない。変わらず人の良さそうな笑みを浮かべている。

 気のせい、というには少し引っかかりがある。けれどその程度でしかない。

 

 笑みを浮かべながら当たり障りのない会話をした所でイワル公爵からは何も感じない。俺に腹の奥底が見えるわけでもないし、彼も見せている筈もない。

 

「おっと、そろそろ主賓が来るようですな。それではこれにて」

「御機嫌よう、イワル公」

 

 足早に、けれどもその所作は変わらず余裕を持ちながら人へと埋もれていくイワル公爵を見送りながら違和感の正体を探す。何も見つかりはしない。そもそも俺とイワル公爵には繋がりが無い。それこそ同国の貴族という繋がりだけであるし、派閥すら違う。

 けれど……。

 

「監視しますか?」

「……いえ、下手に敵対するよりも今は様子見でいいですわ」

 

 聞こえてきたアマリナの声に小さく反応すれば影が僅かに波打つ。

 というか、アマリナ? アマリナさん? リヨース達の方にいろって俺は言ったよね? なんで俺の影の中にいるの? 監視? 俺は未だに不発弾扱いなのか? ねぇ!

 影は何も応えずに、ただ静かに床の上に広がっている。

 そんな影に口を不満を顕にしていると、他の人達が騒がしくなる。

 

 大きめの扉が開かれ、出てきていたのはこの国の第二王子とその婚約者になるのであろう淡い黄色のドレスを纏った女性。俺と同い年ほどの、()よりも明るい女。

 ……どうにも未だに心に残っていた嫉妬……ではないか。不思議な感触を確かめながら小さく息を吐き出す。わかっていた事であるのに。ソレを断ち切る為の儀式なのだ。

 

 そう恨めしく二人を眺めていれば、リゲルサマと目線が合う。驚いたような表情を一瞬だけして、すぐに目を逸らされたけれど、確かに目があった。

 ……もしかして、リゲルが俺に招待状を送ったワケではないのか? 流石にアサヒにそこまでの権力はまだ無いであろうし……。

 どちらにせよ、歓迎されていない事は確定した。俺としてもさっさと出ていきたいけれど、それが許される地位になど俺はいないのだ。お互い我慢しようぜ。なるべく視界に映らないようにしてやるからさ。

 

 

 

 

「ねぇ、アマリナ。少し冷たい飲み物を持ってきて頂戴」

「……かしこまりました」

 

 熱に浮かされたような会場からバルコニーへと逃げた俺は夜風で顔を冷ます。頭は冷静であるし、何より浮かれる意味もない。会場の熱に負けた、と言い換えるほうが正しいだろうか。

 トプンと波打った影を見ながら息を吐き出し、既視感を覚える。思い出して、もう一度、ため息を吐き出す。

 あの時と一緒、というには少し俺が不格好過ぎる。そして彼はもうここには来ない。

 

「嫌になりますわね」

 

 変わらず後ろを向こうとする自分の思考に。どうしようもない事ではあるけれど、未だに足踏みをしようとする心をどうにかして動かし続ける。

 それでも、どうにも()()()()に執着があった。彼とよく喋った場所。スピカ様と喋った場所。いつもの逃げ場所。そして、自分が捨てられた場所でもある。

 重なった思い出達は否定しない。それは確かにあったことであり、自分が重ねた事でもある。だから、捨てない。抱えて持っていく。

 

「その為の儀式、というには少し辛いですわね」

「何が辛いの?」

「……あら、御機嫌よう。ベーレント様」

 

 淡い黄色のドレスを纏った愛らしい女性。同輩であり、客観的に見れば、俺から彼を奪った人間。

 アサヒ・ベーレントは左右の手に飲み物を持ち、相変わらず間の抜けたような笑みを俺に向けていた。

 

「主賓がこんなところで何をしているのかしら?」

「ディーナさんの姿が見えたから、来ちゃった」

「……相変わらず頭の中に花畑でも詰まっているのかしら?」

「むっ、酷いなぁ」

 

 来ちゃった、じゃねぇんだよ!! お前はさぁ!!

 世間的に見たらお前のせいで俺は婚約破棄されてんだよ! お前と俺が近くにいたらまーた俺への罵詈雑言が増えるんだよ! わかってんのか!? わかってねぇな!

 顔が引きつりそうになるけれど、どうにか笑みを貼り付けて対応する。

 一歩、二歩と足を動かしたアサヒは相変わらずニコニコとしているけれど、体の動きが変に思える。

 瞳で見れば、大きすぎる魔力が視認できるけれど、それも異常を知らせるように安定していない。

 

「どうぞ」

「……ええ、ありがとう」

 

 受け取った飲み物を一瞥して、アサヒを注視する。俺の視線に気付いたのは小首を傾げて不思議そうな顔をしている。

 この場では色々と面倒であるし、人の目もある。けれど、俺がアサヒを勝手に連れ出すとなるともっと面倒になるだろう。主にリゲルが。

 クルリと細長いグラスを揺らし、香りだけを楽しむ。いい酒だな、あとでアマリナに持ってきてもらおう。

 

 俺はグラスをアサヒの頭の上でひっくり返した。

 中に入っていた液体はアサヒの黒髪を濡らし、ポタリと雫がバルコニーの床に落ちた。

 アサヒは呆然と、目が震えながらこちらを見ている。

 信じられないモノを見るように、或いは悪い予感が当たったように。泣きそうな目で。

 

「ごめんなさい、手が滑ってしまいましたわ」

「な、んで……」

「乾かさないといけませんし、ドレスも濡れてしまいましたわね。着替えを手伝いますわ」

 

 アサヒの疑問に答える事もせずに、俺は淡々と口を動かしてアサヒの手を握って動く。

 きっと、誰かは見ていた筈だ。だからこそ、きっとタイムリミットは存在する。それでいい。そうでなければいけない。

 ……放置していればいいものを。と、どこかで思ってしまうけれど、それは俺の心が許せなかった。

 

 踏み出す為の一歩がやはりあの場所を踏んでしまった。

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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