その際にはTSして美少女か美男子か美女か美丈夫になりきってお願いします。
シャリィ先生との初対面から数日。彼女の事情と俺の都合でさっぱりと会うことができずに数日明けての初授業となる。
座った私と相変わらずの野暮ったいローブで体を覆った少女のようなシャリィ先生が立っている。
「さて、ディーナお嬢様。私が渡していた資料は読みましたか?」
「はい。とても有意義な時間でしたわ」
出会っていないというだけで授業そのものがなかった訳ではない。俺としては一から全部シャリィ先生に教わりたかった。全てを知った訳ではないのでまだ教わる機会はある。
初対面の日。授業に関しての打ち合わせというべきか、ゲイルディアの都合で呼び出し、彼女としても準備らしい準備をさっぱりしていなかったらしい。仕方ないね……。当然、教わる側であるが俺にも都合がある。これでも好奇心旺盛なお嬢様である。沢山の事に手を出しているし、淑女としての教育もある。
シャリィ先生としてもその空いてしまう数日を無駄にしたくなかったのか、幾つかの資料を俺に渡してくれたのである。
「結構。では魔法式に関しては理解していただけたと思います」
そう。内容は『魔法式』である。概要から、
けれどソレは俺にとってはとても素晴らしく面白い物であった。この世界の魔法に関わる事がようやくできたのである。あの装飾がありすぎる文章よりも簡素に、簡潔に、触れる事ができた。
「はい、シャリィ先生。魔法がこの世界において文字式で出来上がっている事は十二分に理解できましたわ」
この世界の魔法は文字式でできあがっている。
簡単に言えば、入力式、属性式、命令式、出力式、の四つぐらいでできあがる。これもシャリィ先生の研究の一部であるし、事細かに分類していけば命令式の中には状態や熱量などの式もあるのだろう。たぶん。実際にはわからない。
魔法式という物がシャリィ先生の研究であるけれど、その研究を『狂気の研究』と称したあの尊大なる魔法使い殿が魔法を扱えないかと言えば、そうではない。この世界の魔法の根源は魔法式である可能性が高いけれど、その魔法式は必要ではない。いいや、必要なのだけれど。
根本的に。この世界の魔法は魔力と想像力で発揮される。
魔力式を少し学んだから言える事だけれど、魔力という俺としては謎の力を用いて想像を現実に起こしている訳である。しかし、それは万能という訳ではなく、想像で何かを起こす時は明確な想像が必要で、理想だけで魔法を扱うと消費される魔力が多いらしい。
けれど、魔法式はそうではない。命令式や属性式がその想像部分に当たるからだ。
まあ、俺には魔力がさっぱりわからない故に、試す事もできずに居たわけであるけれど。
「……。そうですか。結構。実に、結構」
一拍間を置いてシャリィ先生は満足したように口元に笑みを浮かべる。もっと褒めてもいいんですよシャリィ先生。この頭を撫でてもいいんですよ。
口元を隠し、コホンと一つ咳払い。まるで少し緩んだ空気を引き締めたシャリィ先生が口を開く。
「それでは早速実践といきましょう」
「……」
んんんんんんんん?
待って、待ってください。何いってんですかね? こっちは魔力式の内容を理解していると言っても魔力の魔の字もわからないんですよ? 両方一緒なんですよ? 同じ文字なんですよ?
何? もしかして魔力って生まれ持って既にわかっているような物なの? なるほど! これが魔力ね! とか口にしたい、したかった!
やる気スイッチがONになってるシャリィ先生には悪いけれど、ここは正直に言わなくてはならない……。震えそうになる声をどうにか落ち着ける。
「その……一つ、よろしいでしょうか?」
「はい。どうしました? 何かわからない理論や言葉でもありましたか?」
「わたくしに魔力はあるのでしょうか?」
「は?」
ああ、シャリィ先生と会った日は二日だけど、こんな「マジかよコイツ」みたいな顔もできるんですね。また一つシャリィ先生の事を知ったぞ。知りたくなかったなぁ。
顔をスンッと無表情に変えて、一つ息を吐き出してからシャリィ先生は首を小さく横に振る。そこまで失望させる事なんですかね? ホント、ごめんなさい。劣等生スタートみたいで、なんかすいません。
「その……申し訳ありません」
「いえ。私が変に先走っていただけです。結構。では魔力を感じる所から始めましょう」
コホン、と一つ咳払いをしてからシャリィ先生は指を立てる。
その指の先から……いや、中空から水が発生して小さな水球が指先に浮かぶ。
「これが、魔法という物です。何かわかりますか?」
「えっと……」
「結構。では、単純にいきましょう」
水球を手を振るようにして消し去った先生は顎に手を当ててから俺へと歩み寄り、俺の前で膝を少し折り曲げて視線を合わせてくる。
「お手を」
「あ、はい」
すべすべな手だ。小さい。軽く取られた手の感触に思わず頬が緩みそうになる。やわっこい。
「それでは瞼を閉じて、私の手に集中してください」
なるほど。この感触を楽しむ為に瞼を閉じればよろしいと。なるほど。魔法とは、つまりこの柔らかさなんだな。きっと違うけど。
馬鹿な事を考えながら、瞼を閉じる。握られた手の感触が少しだけ明確にわかる。やはり、柔らかい。それに、すべすべだ。柔らかさの中に、こう……何か、こう、流れる感触が……。
流れる感触とは……? ゾワゾワと握られた手から何かが俺の方へ駆け上り、腕を伝い、思わずシャリィ先生の手を振り払ってしまった。
開いた視界ではシャリィ先生が少しだけ目を細めて俺を見つめている。
「今のは……」
「今のが魔力です。お嬢様の中にも存在する力です」
「わたくしの、中にも……」
ゾワゾワの感触がまだ残っている手を見つめながら呟く。アレが魔力。流れてきた感触。腕を伝い、たぶん胸まで辿り着いた。震える手を強く握りしめて、大きく息を吐き出す。怖がってはいけない。それは理解の外であっても、きっと理解できる物で、既に自分の中にある物なのだ。
瞼を閉じて、胸に手を置く。トクリ、と脈打つ。
深呼吸をしながら、ゾワゾワを自分の中に探す。
小さな感触に触れる錯覚があった。きっとソレは錯覚ではない。明確に、意識的に、ソレを感じる。
けれど、それは中々動かせない。硬い蛇口を捻ってる気分だ。
もう一度、息を吐く。動かせない。動かない。
馬鹿野郎! お前俺は勝つぞお前! 俺は百合ハーレムを作るんだよ! だから、こんな所で躓けるか! なるべく強い力を持って「きゃー! ディーナお姉様カッコイイ! 抱いて!」するんだよォ!
大きく、意識を持ってソレを動かしてみせる。体の中を循環させるように、蛇口を思いっきり捻り上げる。
瞬間、ゾワゾワが胸から溢れて体へと奔流を感じる。
「やっ――」
「やった! 動かせた!!」と、瞼を上げる。
舞う資料。浮くローブ。捲り上がったスカート。簡素な白いショーツ。ニーソックスとショーツとの間の肌の領域。
ガン見した。俺の記憶容量に無理やり詰め込んだ。
謎の賢者タイムが俺を襲う。流れ出していた奔流を止めて、先程保存した記憶を瞼を閉じて噛みしめる。驚いた表情も可愛いですね。シャリィ先生。げへへ。
「コホン」と咳払いが聞こえて俺は瞼を上げる。そこには乱れた淡い金髪を手櫛で整えているシャリィ先生。決してパンツを見たくて風を発生させた訳ではない。いいや、今の風は俺が発生させた訳じゃない。いやぁ、急な突風でしたね。
「結構。これで魔力はわかりましたね? ディーナ様の属性は風を基本とした物のようです。初めてにしては素晴らしい魔法でした」
俺がやりました。我ながらよくできたと思う。シャリィ先生のお墨付きだしな! 自然発生の突風? ハハハ、何を一体。ここは室内だぞ。ハハハ。
「さて、魔力がわかった所で魔法式へと移りましょう」
「はい、シャリィ先生」
「ええ、
「はい!」
よっしゃぁ!! へへへ、将来的にはシャリィ先生に認められて、一緒に研究して「どうやら私にはディーナがいなくてはいけないようです」とか言ってもらうからな! 百合々々するんだ……。
俺は、百合ハーレムを作るんだ……!!