体内に流れる魔力を把握する。一つ、一つ丁寧に。
指を前へと突き出し、炎を意識する。赤、橙、熱量。胸の中から腕へと駆け、指先へと魔力が奔る。
突き出した指先から火が灯る。精々百円ライター程度の火であるけれど、ソレで問題はない。
魔力を意識的に止めて、火を握り消す。人差し指を親指の腹に擦り当てながら。
頭の中、体の感覚で魔力が辿った後を覚える。火を扱う時。現象への干渉。魔力の変化。そのどれもが蓄積されていく。
魔力の通り道。今の魔法であるなら、魔力が溜まっている胸から、指先に掛けての道。その通り道には関がある。想像の中の魔法が正しく式へと置き換わっていく。それを意識していない時と意識した時では魔力の消費が大きく変わる。
同時にその一つが属性式なのだろう。そもそもの俺の魔力適正は風に分類されているし、その事はシャリィ先生が判断してくれた。
最初に属性式を通り、状態式を通り、出された結果に応じて魔力が消費されて出力される。各個が一つの属性だけだと思われているのは最初に属性式を通過するからだと思う。今のように火を出現させるに至って、同じ量の魔力を意識して風を出現させてみたけれど火を出す方がどういう訳か消費魔力は大きかった。
入力をする時、或いは属性式を通る時に変な処理がされているのか、それとも別の理由なのか。それはよくわからない。しかし、なんとなく理解はできた。この世界の魔法はプログラム染みている。たぶん。
シャリィ先生曰く、想像魔法の消費魔力は現象を起こす際に想像されていない現象の補填として世界側がフォローしているらしい。その為に世界側へと補填分の魔力を渡す訳である。世界通貨と言っていたのはコレに当たるのであろう。
そう考え始めると、魔法式という物は世界の言語とも言えるのかもしれない。よくわからないけど。
しかしながら、俺としては既に我慢の限界なのだ。
一年間、シャリィ先生との二人っきりの教えを受けた。
どれほど授業を受けても、どれほど頑張っても、どれほど魔法式に関しての成果をあげようと、シャリィ先生はもう手すら握ってくれないし、撫でてくれないし、脱いでもくれない。
俺は、女の子に触りたい。あわよくば、おっぱいに触りたいし、出来ることならイチャイチャしたい。
ウチのメイドはダメだ。お父様にバレてしまう。俺自身悪ふざけをするようなキャラでもない。お嬢様らしく、おっぱいを触るにはどうすればいいのだろうか。無理である。
いっその事、メイドに命令して脱いでもらうなんて事もできなくはないけれど、彼女らの雇い主は家長であるお父様になる。俺の自由にできる存在ではないし、自由にできたとしてもソレはお父様の力があってこそだ。俺の百合ハーレムではない。
結果的に導き出される答えというのは、案外単純な物になる。
俺の物であり、お父様の管理外であり、尚且俺の支配下にある存在で、できれば俺に甘ければいい。
つまり、奴隷である。
「わたくしだけでよかったのに」
「お戯れを、ディーナ様。これもクラウス様のお願いでして」
「そう。お父様も心配性ですわね」
馬車の中、俺一人という訳にもいかず、目の前には執事が座っている。名前をリヒター。お父様付きの初老を迎えて少しした執事長。
こうして気丈に振る舞ってみているが、俺としてもこの付添いは非常にありがたい事である。お父様に感謝である。リヒターを寄越してくれるとは思わなかったけれど。それほど心配なのだろう。俺とて侯爵令嬢、ある程度の分別はあるつもりだ。たぶん。
世間からすれば俺は常識知らずのお嬢様である事は間違いないし、文献やお父様の領地に関しての知識はあるけれど俺の瞳で見た訳でもない。
窓の外を見れば賑わいを見せる街がある。政策が上手くいっているのだろう。まあキレイな部分だけ見ているだけで、暗い部分がどうなっているか俺にはわからない。けれど、表に見える街民が笑って過ごしているという事はいい事なのだろう。
「いい街ね」
ふと呟いた言葉に思わず笑ってしまう。前世とも言える善良な一般市民として奴隷が売買されている街がいい街である訳がない、と感じている反面、奴隷を許容している自分が存在しているし、その奴隷を求めている自分がいる。
これが滑稽と思わずにいれるだろうか。
けれども俺は奴隷を求めるであろう。それは、俺の目的である百合ハーレムの一歩だ。だから、止まる訳もない。
「して、お嬢様はどうして奴隷を欲しているので?」
「……リヒターが質問なんて珍しいですわ」
誤魔化すように「ほっほっ」と笑ってみせたリヒターを一瞥して、言葉をまとめる。
正直に言うことなど、絶対にできない。百合ハーレム目指してますっ、なんて言った日には俺の評価がどうなるかなんてわかったもんじゃない。四歳の女の子が吐き出す言葉じゃないし、お父様に報告でもされてみろ、俺の扱いは世間知らずのお嬢様からゲイルディアの恥部へと早変わりだ。
「わたくしの世話役が欲しい、ですわね」
「おや、今の世話役が何か粗相を致しましたか」
「いいえ。彼女はよくやっていますわ。だから怒らないであげて」
脳裏に映った俺に付いているメイドであるが、本当に彼女はよく働いてくれている。出来過ぎ、と言ってもいいし、彼女であるならば、という信頼もある。
苦笑を浮かべた俺と何かを誤魔化すように笑みを浮かべるリヒター。けれど、その瞳は俺を見定めるように真っ直ぐ俺を見ている。誤魔化せそうにはない、か。かと言って、正直に話す訳にもいかない。
「では、何故?」
「あの娘はゲイルディアと契約している訳で、わたくしと契約している訳じゃないでしょう?」
「なるほど。ディーナ様はご自身が自由にできる存在がほしい訳ですな」
「ええ。だってメイドに手を出せば貴方が対処してしまうでしょう?」
この有能な執事はきっと対処するだろう。俺の世話係を男へと変更し、必要最低限でしかメイドと関与させない筈だ。それは、困る。俺は奴隷もほしいけど、メイドのお姉さん達ともイチャイチャしたい。
一瞬だけ目を見開いたリヒターであるが、すぐにその様子も見せないようにまた誤魔化すように笑っている。
たぶん、彼もお父様から俺が奴隷を求める理由を聞き出すように命令されているのであろう。
そうでなければ、あのお父様がリヒターを俺に付ける訳もない。
「お待ちしておりました! ゲイルディア様。ワタクシは奴隷商を営んでおります、ゲビスと申します。ゲイルディア様のお噂は兼兼」
「はじめまして、こちらはゲイルディア侯爵ご令嬢、ディーナ様でございます」
果たしてどんな噂だと言うのか。あまり表情に出さずに笑みを浮かべて挨拶を返す。
奴隷商と言えど非合法ではない。法律として奴隷という存在がこの世界には在るのだ。奴隷の制限年齢であったり、まあ色々と面倒であるがそれなりに利益を得る事ができるのであろう。
その証明のように俺の目の前に現れた商人はでっぷりと富を脂肪に変換したように腹に蓄え、絢爛な装飾品を身に着けている。豚に真珠、とは言わないが豚とてここまで着飾れば多少は見れるようになるのか、と変な感心をしてしまう。
ソファに腰掛けた俺はチラリと後ろに立っているリヒターを見る。既に商談として事前に言い渡しているんだよな? 信じるぞ?
「いやはや、よもや私もゲイルディア様に商品を卸す日がくるとは、なんとも光栄な事でございます」
「期待していますわ」
「おまかせください。おい」
ニタニタとした笑みを俺から放したゲビスは低い声を出して後ろにあった扉を使用人に開かせる。さて、可愛い女の子はいるかな。エルフ奴隷とか……あぁ、いや、シャリィ先生に嫌われそうだな。ケモミミとか存在するのだろうか?
と内心で楽しみにしていた俺は入ってきた存在達に思わず眉を寄せる。屈強な男達であった。腕に拘束具をつけられているが、ボロ服では隠れない肉体がしっかりとわかる。
俺はリヒターを睨む。リヒターは俺から視線を外しやがった。
「どうです! 我が商会が自信を持ってオススメする奴隷でございます」
「……ゲビス殿。コチラの注文はどうお聞きいたしましたの?」
「ッ、そ、それは、なるべく屈強で丈夫な奴隷を、と……」
なるほど。それじゃあこうなるのも仕方ないな! 確かに奴隷が欲しいとしか言ってなかったし、ドコかで注文が捻じ曲がったんだろう。労働奴隷を雇う意味は、今の所ない。
一つ息を吐き出して、俺は笑みを浮かべる。大丈夫だよー、怒ってないよー。
「どこかで注文が間違って伝えられたのでしょう。わたくしの共回りを求めていますの。できれば女性の奴隷が欲しいのですが」
「そ、そうですが……しかし、その……」
「どうか致しましたか?」
「は、ハイ。しかし……その……」
「居ますの? 居ませんの?」
「お、居りますが……まだ調教も程々でして」
なるほど。商品として売る訳にはいかない訳か。女奴隷としての調教と言えば、それは、そういう事なんだろう。げへへ。それが程々という事はつまり、処女なのかもしれない。別に処女を神聖視している訳ではないが。
「連れてきなさいな」
「し、しかし……その」
「ならわたくしが行きますわ。案内なさい」
「へ、へぇ」
立ち上がった俺を止める訳でもなく、ゲビスも同じく立ち上がり俺の前を歩く。タプタプと腹の肉が揺れている。脂肪で熱いのか、ダラダラと流れている汗が見える。ちょっとぐらい歩こうな……健康の為だぞ。
連れて行かれたのは、屋敷の地下である。
石造りで丈夫にできている通路と檻が並んでいる。奴隷の扱いとしてはコレがベターなのだろうか。
「この屋敷は過去に牢屋として扱われていたようで、ここは暴れた奴隷達を入れておく場所でして……」
「なら今から会う女の奴隷は暴れたのかしら?」
「う゛……まあ、そうですな」
うーん。凶暴性のある女性はそれほど好きではないのだけれど。しかしそんな女性も組み敷いて、屈服させるというのも実にロマンがある。くっ殺せとか言うんでしょ? 俺はよく知ってるぞ。
ゲビスが止まった先には鉄格子があり、蝋燭の光が牢の奥まで届いてないけれど暗さに慣れてきた瞳が人影を見つける。思ったよりも、小さな人影である。
ゲビスが指示してカンテラが牢の奥を照らす。そこに在ったのはボロ服で褐色の肌を隠し、膝を抱えた深い青髪の少女である。まだ少女と言っていいのかわからない、俺と似たような歳である。なるほど、ゲビスが言い淀んでいた理由がわかった。
幼女は明かりに反応したのか、俺達の方へと視線を向ける。光の灯っていない、髪色によく似た瞳だ。
「……彼女は?」
「へ、へぇ。その……この娘の親が兄と一緒に売りにきまして。私としても買取は断ったのですが……」
「ベリル人のようですな」
後ろに控えていたリヒターの言葉にゲビスが舌打ちをした。どうやら嘘らしい。冷や汗の理由も、どうやら脂肪だけではなかったようだ。
「ベリル、と言いますと数年前に戦争で負けた?」
「はい。肌の色からしてそうでしょうな。大方、攫ってきたのでしょう」
ベリル人の街からは離れておりますし、と追加するように言ったリヒターがゲビスを見下す。怖いからやめてやれ。いや、まあ、犯罪ずくめの豚だけど。
そんなゲビスを無視して、俺は鉄格子の向こうにいる少女を見る。顔の作りもそれなりに整っているし、何より褐色肌というのがいい。彼女の取得方法は違法であるかもしれないけれど、果たしてソレは重要な事なのだろうか。ゲビスにとっては重要だろうが、俺にとっては重要ではない。
「……ゲビス殿。この娘を買いますわ」
「へ?」
「どうやら
「え、ええ! それはもう! 私に一切の罪はありませんとも!」
「きっとそうでしょう。信じておりますわ。それで、この娘の兄もいるのですよね? 合わせてくださいな。ええ、貴方が罪を犯していない証拠の書類と一緒に。得意でしょう?」
どうせ何度も似たような事してるんだろ。初めてにしては秘密が厳重すぎるし。まあ、一応商売として成り立つように金銭は支払おう。これで俺のような小娘と奴隷商でそれなりに儲けてるお前は一蓮托生だぞ!
こんな豚さんと一蓮托生とかホント嫌だけど、仕方ないよね。可愛いもんね。褐色肌は重要なんだ。
ゲビスから鍵を貰って牢を開く。俺を見上げる少女に微笑む。
「今日からわたくしが貴方の主人ですわ」
この絶望に伏した少女を沢山甘やかして俺だけに優しい褐色メイドさんにするからなぁ! 俺の百合ハーレムの一員にするからな!
ベリル人に関して大雑把に
敗戦国の人で褐色肌が特徴。現在ディーナがいる国からすると「ベリル人と一緒に過ごすとか草(マイルド表現)」みたいな迫害対象でもある。
まあ奴隷でも仕方ないよね。ぐらいに思ってくだされば……。