悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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おはよう


74.悪役令嬢は罰を下したい!

「どういうことだ姉貴!」

「どうも何も、そういうことよ」

 

 カチイにある領主館。執務室に怒声が響く。

 憤慨しているアレクに対してディーナは冷淡な表情のまま返す。

 結果は覆らない。これは事実である。そう言うようにディーナはアレクと目を合わせながら答える。

 

「受け入れなさい、アレク・ゲイルディア。あの決闘は貴方の勝ちですわ」

「受け入れられるかッ! 俺はアンタに負けただろ!」

 

 先に倒れた。辿れる記憶の最後には自身の前に立っている姉の姿がある。

 届かなかった姉の姿。努力を重ね、磨き上げてもなお届かない存在。

 目が覚めて知っている天上を見つめていた時、アレクには悔しさが湧き、届かない歯がゆさが残った。

 

 けれど、どうだ。

 決闘を画策し、誘導した車椅子に乗る白髪の少女から出てきた言葉はアレクを責める言葉でも、慰める言葉でもなく、祝いの言葉である。

 おめでとう。アナタは決闘の勝者である。

 言葉は違えど内容としてはそんな言葉であった。

 そんな事実をアレクは否定する。否定してしまう。

 矜持がそれを許すはずがない。許せるわけがない。

 

「もう一度言うわ。貴方はあの決闘で私に勝利した」

「アンタは最後まで立っていたがな!」

「命のやり取りではない決闘だったわ。それに現状を比べてご覧なさい。負傷はあれど五体満足の貴方と右腕を落とされた(ワタクシ)。どちらが敗者であるかは見ればわかりますわね」

 

 ディーナが右腕をあげれば、二の腕の半ばからだらりと袖が垂れる。

 対してアレクの肉体は包帯が巻かれているだけで、失ったものはない。

 けれど、それでもである。

 

「認められるかよ」

「……はぁ」

 

 それを認めて喜べるような自惚れは姉に一度負けた時に置いてきた。

 前のようになるとは言わないが、自分が持っている矜持が折れてしまう。自分で自分が許せなくなる。

 

 わかりやすく溜め息を一つ吐き出したディーナはある程度こうなることはわかっていた。だからこそ公的な書類で決闘の結果は父にも送っていない。

 ベガにも口止めはしている。シルベスタ王には自分からの詳細は伝えるつもりではあるが、先んじて言えば齟齬が発生してしまう。

 

「わかりましたわ。貴方はあの決闘で負けた、そう言い張りますのね?」

「ああ」

「二言はありませんわね?」

「当たり前だろ。俺はアンタに負けた」

「では、私は貴方と貴方に加担した者に罰を与えなければいけませんわね」

「なんでだよ!」

「貴方が勝者であったならば、全てを私への諌言として受け入れましょう。けれど、アレクが敗者であるのなら、ディーナ・ゲイルディアへの裏切りとして処理しなくてはなりませんわ」

 

 理解できるわね? と冷たく付け加えたディーナの言葉にアレクは奥歯を噛む。

 それは貴族としての責務であり、従者達の主としての役目である。だからこそ、ディーナは自身の名前を口にした。

 公的に罰を与えなければならない。加えて言うのならば、ディーナ・ゲイルディアを裏切った場合の損失を提示しなくてはならない。

 

「アレク。貴方は自分の矜持とそれらを天秤に乗せ、矜持をとった。わかりますわね?」

 

 冷たく返してた最初とは違い、弟に言い聞かせるように柔らかい声で説いた。

 

「……わかった」

「アマリナ、加担者を全員呼びなさい。貴女も例外ではないわよ」

「……承りました」

 

 傍に控えていた褐色肌の従士にも冷たく言い放ったディーナと予期していた事態に粛々と頭を垂れたアマリナが部屋から出ていく。

 アマリナが部屋から出て数秒して、ディーナは改めて溜め息を吐き出す。

 

「矜持を捨てろ、とは言わないけれど場合を選びなさいな」

「……ああ」

「高すぎる矜持は他者を巻き込みますわ。特に貴族であるのなら、仕えている者達にも被害が出るわ。わかるわね?」

「肝に銘じておく」

 

 ならいいわ、と言葉にしてディーナは右腕を軽く持ち上げてから思い出したように左手でカップを持ち上げて口をつける。

 舌を少し湿らせて、ディーナは目の前にいる弟の姿を視つめる(見つめる)

 

「それで、体はどうかしら? なにか異常はあるかしら?」

「? 痛みはあるが、問題ねぇよ」

「それはよかった。上手くいったようでなにより」

「待て待て待て。俺に何をした?」

「なにって、貴方が思ったよりも重傷だったから、魔力を流し込んで無理矢理回復させただけですわ」

 

 私を通して外部魔力を通し肉体への効力や、とつらつらと喋る姉の発言の七割もアレクは理解できない。理解したくない。

 わかったことはこの魔法研究狂いが自分を使って実験したことだけである。

 

「せめて許可を取れよ」

「気絶していたじゃない」

「……成功前提だよな?」

「運が良ければ、貴方の体が魔力過多や外部魔力との反発で崩壊していたでしょうね。実験としての前例が作れる、という点では成功ですわね」

「……」

「冗談ですわ。回復魔法は一度体験しているの」

 

 その時は気絶していたから覚えていないけれど、とは付け加えなかった。

 成功する見込みはあったが、アレクも世界と契約される可能性もあった。その時の対処も考えていたディーナだが、記憶の隅へと追いやった。

 

 クツクツと喉で笑う優秀過ぎる姉を苦い顔をしながら睨んでしまう。

 この姉のことだから本当は成功前提で施しただろうけど、冗談とも思えない発言はやめてほしい。

 

「さて、アレク。貴方は暫く謹慎ですわ。復帰後は監視の為に私の傍に就きなさい」

「……それが罰だっていうのか?」

「言ったでしょう? 私は貴方に負けているのよ。いいえ、勝ったことになりましたわね」

「他の奴らもそうか?」

 

 その言葉にディーナは含んでいた笑いを変換して、目を伏せて吐き出す。

 アレクだからこそ、ディーナはこの判断になった。療養期間を確保して、同時に領主としての教育もできる。罰らしい罰ではないが、それこそディーナは負けている。

 負けているが、勝ってしまった。

 

「……貴方には関係のないことよ」

「あるだろ」

「ありませんわ。あれらは私の部下で、そして私を裏切った。……他所からみれば、そう見えるてしまいますもの」

「……どうにかならないのか?」

「対外的にはどうにもなりませんし、何よりここで罰を与えなければ……いえ、貴方が悩むことでもありませんわね」

 

 どうにもならず、罰を与える必要がある。さらに言えば自身の弟でゲイルディアの嫡子であるアレクよりも大きな罰を与える必要性もある。それは対外に向けての威圧でもあるし、何よりディーナ・ゲイルディアという存在が悪の女である象徴の為でもある。

 ディーナは何度目かになる溜め息を吐き出して、淡々とした言葉をアレクへと放る。

 

「貴方は部屋に戻りなさい」

「どうなるかぐらい見届けさせろ」

「アレク・ゲイルディア。貴方にはその義理も権利もありませんわ。黙って部屋で謹慎していなさい。それが迷うこともなく矜持を選択した貴方への罰でもありますわ」

 

 

 


 

 どうにも認めなさそうなアレクを無理矢理に言い聞かせて部屋に戻したのはいおい。

 当然、アイツにも聞く権利ぐらいあるし、矜持を選択したアイツにどのような罰が自分より下に、協力者や部下達に与えられるかを見せつけてもよかった。

 その場合は目に見えてキツイ罰を与える必要もあるので、俺が非常に困るのだけれど。

 

 だから、アレクは帰した。部屋で暫く療養してもらう。

 

 

 何より、今の俺が正しい判断ができるとは思えない。

 クッソ頭痛ッてェ……。右腕自体は痛くないけど、絶対発熱してる。

 魔力循環させて無理に体を動かして仕事をしているけれど、頭は朦朧としているし、思考は纏まらないし、アレクは勝ちを認めないし!

 なんで勝ちを認めないかなぁ?! 予想してたことだけどさぁ!!

 

 机に突っ伏して寝たい。指先の感覚が少し分厚く感じる。

 神様は人間をお創りになる際にバグを大量に放り込んだに違いない。残念な事に薬の乗算バグは修正済みであるけれど。

 

 罰はどうすべきか。

 アレクとの決闘前までは悪役令嬢の裏切り者がどうなるかを思考しなければいけなかった。殺しはしないが表に出れない状態に()()()である。とも思っていた。

 けれど、残念なことに俺は悪役令嬢にもなれなかったし、何より決闘に負けた。いいや、勝ったことになったんだった。

 勝ってしまったからこそ、罰を与える必要性が出てくるわけで、貴族の立場とか責務とかディーナ・ゲイルディアとかいう名の都合でもある。

 もういっそのこと俺も暫く療養してお茶を濁して妥協してテキトーに終わらせないか?

 公的に許されるならそうしたい……。陛下にテキトーに「許しちゃいました☆ テヘペロ!」でよくないか? よくないか……。

 

 

 頭を抱えようと答えは出ない。答えを出す必要性はあるというのに、出ない。

 

 扉がノックされて返事をすれば、車椅子に載る白髪の少女。褐色肌の女従士、淡い金髪のハーフエルフが部屋に入ってくる。

 

「……なぜシャリィ先生も?」

「おや、私も加担していた側ですよ」

「……」

 

 頭痛が痛い。きっと切断された右腕が原因に違いない。

 フィアはわかる。アマリナも、わかる。なんでシャリィ先生まで加担してんだよ。俺対策を明確化するなら必要な要素だけどさぁ。

 シャリィ先生ならもっと上手くケアできた要素ではあるだろ。

 ……そういう意味も含めて加担したのか。裏切った、というかはここでディーナ・ゲイルディアは止めるべきであると判断したかな。

 

「まあ、いいですわ。呼んだ理由はお判りですわね?」

「はい」

「アレクが負けを認めましたわ。非常に残念なことですけれど」

 

 ホント、認めなければ俺も面倒なことを考えなくてよかったのに。

 罰を与えられるフィアもアマリナも覚悟できてるだろうけど、罰を与える側の俺の準備がまったくできていない。

 それでもこの問題を先送りにする意味はない。俺のワガママで先送りにして妥協してテキトーに終わらせた方が余計な問題を生むだろう。

 最悪はディーナ・ゲイルディアというカードの意味が無くなる。それは困る。

 

「シャリィ・オーべ。貴女に出している研究費の削減。及び、これから国に提出する魔法式の論文でオーベ卿の名前は記しません。よろしいですわね?」

「……ええ、ええ。受け入れましょう」

 

 ……引っ掛かる言い方だなぁ。

 シャリィ先生と俺が共同で魔法式とかいう現代魔法に喧嘩を売ってる術式研究をしていることは魔法使いの間では衆知であるし、魔法使い側や国から見てもシャリィ先生の名を挙げないことは罰と思われるだろう。

 

「アマリナ。貴女には少し私の研究……いいえ、実験ですわね。人体実験の試験体になってもらいますわ。そこに報酬も給与も発生させません」

 

 アマリナは相変わらずな無表情で頭を下げてくれる。

 内心は安心してるな。アマリナにとって最大の罰は「奴隷からの解放」だろうし、俺が

手放さないという担保は必要だろう。

 ……俺の驕りでもあるけれど、そういう風に育てたのは俺だ。

 何より、今回の一件はディーナ・ゲイルディアにとっては障害であり、邪魔な要素ではあったけれど、俺からすれば喜ぶべき事象でもあった。

 だからこそ、報奨を与えるべきだとも考えているし、故に罰を与えなければならない。

 

「さて……フィア」

「はい」

「貴女は今回の首謀者であり、協力者であり、最も大きな罰を与えなければなりませんわ

「存じております」

「アマリナへの実験進捗にもよるけれど、三日後の夜に私の寝室に来なさい」

 

 アマリナへの実験とは言うけれど、俺の体調問題もある。それはそれとしてアマリナへの処置はするのだけれど。

 時間稼ぎの意味合いの方が強い。

 

「部屋に、ですか」

「ええ。貴女にはそこで死んでもらいますわ」

「……」

「これは冗談ではありませんわ、フィア。貴女に与える罰ですわ。

 

 その名を捨てなさい。フィアという人間の過去も未来も全て捨て、(ワタクシ)だけに仕えなさい」

 

 

 

 

 

 

 なんとか罰を言い渡して二人を退出させることができた。

 頭が痛い。

 なんか仕事が増えてるぅ! おかしいな……。

 フィアに関してはこうするしかない。

 それだけ重いことをしている。減給だけで済ますこともできない。

 公的に抹消した方が早いが、フィアを手放すのは俺の損失でしかない。

 面倒だなぁ。いっそ国を潰した方が早くない? リゲルも内乱起こして貴族一掃しようぜ。そうなったら俺はリゲルの敵になっちゃうんだけど。

 

「それで、シャリィ先生にも退室するように言った筈ですが?」

「ええ、ええ。そうですね」

「……何か?」

「いえいえ。体調はどうですか?」

「……はぁ、最悪ですわね。朦朧としてますし、頭も痛いですし、何よりこんな思考状態で貴女達の罰を考えなくてはならなくて。もう、最悪ですわ」

 

 嫌味の一つぐらい出る。

 先生も意地が悪い。アマリナだって俺の体調に気付いてたのに退室した筈だし。

 もう仕事も放りだして寝たい。寝たいけれど、事務仕事程度なら問題無く処理できてるので、とりあえずは処理しないといけない。

 そんな俺を見てクスクスと笑うシャリィ先生は相変わらずの小ささで愛らしさもある。普段からそうやって笑っていればもっと受けがいいだろう。あんまり良すぎても困るが。

 

「私は上手く罰を与えられていましたか?」

「ええ。公的に見れば問題無く」

「……含みがありますわね」

「私への罰は公に立つのは貴女だけという担保でしょうに」

「……」

 

 バレテーラ。

 絶対面倒になるからなぁ。シャリィ先生は俺よりも頭がいいので、そういった政戦からは離しておきたい。まあ、俺も得意というわけではないけれど。

 他の人間から色々と言われるのは慣れているし、ディーナ・ゲイルディアという名はこういう時の為にある。

 

「それで、今回の実質的な裏切り行為の総評をお聞かせいただいても?」

「そうですわね。率直に言えば"嬉しい"ですわ」

「おや、憤りなどは無いと」

「意地悪な問いですわね」

 

 これは失礼を。と悪びれもなく付け加えたシャリィ先生。俺の所にやってきたころの処刑台に上がろうとして冗談も言えなかった先生はどこに行った! もういないぞ……。

 まあ気は楽だからいいけれど。

 憤りを感じていないか、と問われればイエスと答えるしかない。憤りはあった。ディーナ・ゲイルディアとしての意見である。

 

「今回、発端はアマリナでしょう?」

「そうらしいですね。詳しくは知りませんが」

「あのアマリナが、私に対して歯向かってきたんですわよ。主は間違えている、と自分で考えて判断し、決断し、動いたんですわ」

 

 それを喜べずして何が主か。

 俺の発言だけを信奉するのではなく、自身で思考して動いた。結果的には俺の為という成果に落ち着くが、過程が全く違う。

 

「本当なら抱きしめて頭を撫で繰り回したいのが本音ですわね」

「残念ながら。それで、アマリナにはどういった魔法式を?」

「単純なものですわね。外部魔力に接続させるわけにもいきませんし、実際に定着するかもわかりませんわ」

「……なるほど、なるほど。貴女が過去に自力でしていた魔石への行為に似た物ですね」

「今見れば、随分とお粗末な構築式ですわ。エルフが組んだ魔石と比べる事すら烏滸がましい」

 

 アマリナにとっても俺との明確な繋がりがあるほうがいいだろう。アクセサリーでは不安だろうし不満だろうから、無理矢理体に刻み付ける。普段は俺の方が襲われてるから仕返しでもある。

 

 事務仕事もある程度終わり、変に凝っている右肩を揉む。

 あんな内輪揉めで腕を失ったのは外から見れば恥であるし、勝ったのに失ったものがあるのも形が悪いな。魔法式で無理矢理動かせば義手的な何かも作れるかな。

 

「それで、フィアはどうされるので?」

「……」

「ディーナ……」

「そんな呆れた目で見ないでもいただけます? 少し考えてることもありますのよ。それを彼女が承諾するかは別として」

「……結構結構。先に言っておきますが、あまり無理はしないように」

「毎回あとになってますけれど、私は無理はしてませんわ」

「ディーナ?」

「降参ですわ」

 

 だからそのジト目をヤメテネ。

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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