あと備忘録的なキャラ紹介とかっていりますかね? キャラ紹介が苦手勢なので書き方が下手ですが、アレなら00.として貼り付けときます。
揺れる馬車に乗りながら俺は姿勢を正して窓の外に顔を向ける。どこまでも続く緑と平地。このままどこかへ行ければさぞかし俺の冒険心は満たされるであろう。
チラリ、と視線だけを正面に向ける。そこには厳しい顔の、こいつ絶対国家転覆的な悪巧みしてるだろという顔の男がいる。俺の父である。実際怖い。
改めて外を見れば仰々しくも俺達を――正確には父を守る為に着いてきているお抱えの騎士達が馬に乗っている。
珍しく父であるクラウス・ゲイルディアと一緒に馬車に乗っているのには理由がある。俺としてはそんな理由など無視して館に置いてきたアマリナとイチャイチャしたい。ようやく乏しかった感情が僅かながらに表情に出てきたというのに。
それもこれも理由が全て悪いのである。
事の発端は俺が五歳になってしまったからだ。ガッデム。逃げれない発端だ。しかしながら理由に至るまでには暫しの時間が必要だった。それは間違いないだろう。
何も知らなかった俺は悠々とヘリオとアマリナを世話役へと、そして俺の百合ハーレムの為に色々と仕込もうと画策していたのである。早々に世話役にしようとしたらリヒターから「まだ早い」と断られたのは記憶に新しい。
当然、魔法の勉強もしていた。魔法式を繰り返し確認して、何がどうなっているかの解析など気の遠くなるような作業をしていた。辛い……シャリィ先生も中々褒めてくれないが、時折発見があって確認してみれば微笑んでくれるようにはなった。可愛い。百合ハーレムの日も近いな。
そんな気の遠くなるような魔法の勉強から逃げるように剣術に手を出したり馬術に手を出したり、全ては未来の俺の騎士であるヘリオの為でもあるのだけれど。半分以上は俺の好奇心である。
剣も魔法も使えるディーナお姉さまカッコイイ! 素敵! 抱いて! である。間違いない。
俺の百合ハーレムまでの地ならしをしていて数日。五歳になってから一月程。珍しく我が父からのお呼び出しである。果たしてその事をメイドから言われた俺の心境は語るに容易い。頭の中に自身のしでかした悪行が羅列され、そのどれがこの魔王に知れたのか、内心で冷や汗をダラダラと流していたのである。
流石に五年も見れば慣れる、と思うかも知れないが怖いものは怖いのだ。
「お前が許嫁に決まった。近日中に会いに行くぞ」
この瞬間俺は察したね。所詮俺も貴族の女である、と。その血の運命からは逃れられぬと。うっせー馬鹿野郎俺は勝つぞお前! 百合ハーレムが欲しいんだよォ!
そんな啖呵をお父様にできる訳もなく、俺は恭しく頭を下げたのである。ついでに誰かを聞いた俺は悪くないだろう。
「わたくしを娶る方はどなたでして?」
「第二王子であるリゲル様だ」
第二王子。その単語が俺の頭へと直撃した。
王子である。王子様。王位継承者である。当然、第二と着くからには上に兄や姉はいることであろう。それは置いておくとして。
百合ハーレムという野望を抱いていても、俺は貴族の令嬢である。そしてある程度の価値観を所持し、それなりの知性をもっている。中年もいいところであるが。
そんな俺であるから、このお父様がさぞかし苦労と根回しと言葉にできないような悪事を働いてその権利を奪ったことは想像に難くない。悪事の部分は偏見だけど。
だからこそ、俺がここで断る事は容易い。断れるかどうかを考えれば無理なのだけれど。
貴族だからこそわかる。その名誉と途方もない権力。王族に名を連ねる事の重大さ。そして逃げる事のできない事態である、と。
何が悪かった、とかそういう問題ではない。空から降る雨のように、逃げる事ができない事象であった。それだけだ。税率が変わったとかそういうレベルだ。
結局、観念して俺はこの馬車へと乗っていて。目の前には相変わらず顰めっ面がデフォルトのお父様が乗っている訳である。
辛い。会話らしい会話もないのもそうであるが、見れば見るほど悪役なんだよな。
侯爵という立場だけでは飽き足らず、ソレ以上を望んでいるのか。俺には見えない野望を抱いているのか……。それも偏見だ。
俺自身もわかっているのだ。クラウス・ゲイルディアという人物がいい意味で顔だけである事を。その顔つきと飛び交う噂話がものの見事にお父様を脚色している訳であるが。
尤も、俺個人で調べただけなのでソレが正しいかどうかはわからない。人物鑑定眼など俺には無いのだ。養うにしても、俺の善人判定がガバガバだからたぶん無理だ。
だから、実際にお父様が悪人かそれとも善人なのかは本当にわからない。家族の知らない所で何かをしでかしているかもしれない。
お母様はお母様で普段はのほほんと紅茶を飲みながら庭を見つめたり、弟であるアレクの面倒を見たりしている。俺の事は放置されているような気がしないでもないけれど、お母様を百合ハーレムに入れる程腐っちゃいない。いや確かにあの氷の美女と言っても過言ではないお母様からゴニョゴニョ。
そんな身内目ではのほほんお母様であるが幾つかのフィルターを通されたのか、はたまたお母様自身が何かをしたのかわからないけれど、社交界を裏で牛耳っているとか色々噂が飛び交っているようだ。シャリィ先生が言ってた。お陰でシャリィ先生はお母様が苦手なようだ。舞踏会とか、そういった物に引っ張り出そうとされるらしい。
そんな両親であるから、余計にわからない。何が真実で、何が嘘なのか……。そして俺は無事に百合ハーレムを築くことができるのか……。王子様が実は男装をした女子である事を願うばかりである。
王都に到着してから翌日。
これでも貴族令嬢としての心構えやら振る舞いをしこたま叩き込まれた俺であるが、中々に緊張している。それもこれもお父様が俺には何の通告もなく王様への謁見をさせているからである。クソ親父と心の中で呼んでやろう。
ファッキンヴィランの案内で玉座のある所に連れてこられた時はお上りさん気分だった娘に一目玉座を見せる為だと思った。いつかあの椅子に俺が座るのだ、みたいに笑うお父様であったが、たぶんそんな事は一切考えておらず精々俺を見て笑っていた程度なのだろう。そういう所だぞ。
やたらとキョロキョロしていた俺であるし、周りに控えていた騎士達も俺の様子を見てなんかほんわかしていた筈だ。空気が弛緩していた、そんな事がわかるぐらいに王様が入って来た瞬間に空気が引き締まったのである。
黒かったであろう髪は白髪が入り乱れ、どこか親しみ深い顔つき。綺羅びやかで重そうな服を着こなした男。その男が玉座へと腰掛けた。
気付けばお父様は膝を突いているし、慌てながらも俺も膝を突いて頭を垂れる。目の前にいるお父様へ内心毒を吐き出しながら。せめて先に言っておいてほしかった。
「頭を上げろ」
スッと頭を上げたお父様に倣って、少しだけ頭を上げる。上目で王様とお父様を確認しながら話の行く末を見守る。
「よく来たな、ゲイルディア。待っていたぞ」
「申し訳ありません。少し手間取りまして」
一体何をですかね? ここまで来る道程には何も無かったですよね?
お父様の言葉を聞いてニヤリと笑う王様であるが、その笑みに悪い印象は無い。ウチの家系と大違いだな!
というか、開始早々だけれど早く終わってくれ。すでにお腹が痛いんだ。校長先生の明日にも使えないありがたい話だってもうちょっと耐えれるこの俺が一瞬で無理になるんだ。帰りたい。帰らせて。アマリナとイチャイチャしたい。
「それで、その子がお前の娘か」
「ハッ、ディーナと申します」
「確か、リゲルと同じ歳だったな。お前がよく娘自慢をしてくるから覚えてしまった」
「……お戯れを」
クツクツ笑う王様に対してお父様は苦虫を噛み締めたように渋い顔をしている。耳が少し赤いから恥ずかしいのだろうか。それにしても俺の自慢とか、何を自慢することがあるんですか。顔か? 顔だな。顔に決まっている。
「さて、ディーナ・ゲイルディア。初めての王都であったな、何か思う事はあったか?」
「はじめまして、シリウス王。素敵な街並みでしたわ。ただ、一つだけ気になった事が――」
「よい。許す。申してみよ」
「それでは……お父様がわたくしのどこを自慢していたのかを。普段のお父様は褒めてくれませんもの」
「クックク、アハハハハッハ、そうかそうか。普段のクラウスは褒めてくれないか、ククク」
ざまぁ。思いっきり俺を睨んでくるファッキンヴィランであるが顔が赤いから何も怖くはない。赤鬼だってもっと迫力があるぞ。
俺の一言に大笑いしている王様であるが隣に控えていた老人に睨まれて咳をして誤魔化している。宰相さんかな? いや、深く考えた所で答えは出てこないだろうからやめよう。
「悪いな、ディーナ嬢。王としては答えてやりたいが、同じ父として応えてやれん」
「いえ、お父様が自慢している、という事が知れて満足ですわ」
ニッコリと笑って頭を下げる。俺の溜飲も下がるってものである。
クツクツと笑っている王様と後ろ目で俺を睨みつけるお父様。残念ながら恥ずかしがってるのがわかるから怖くもない。へっへっへっ。
「ディーナ嬢、その調子でリゲルとも仲良くしてやってくれ」
「承りましたわ。シリウス様」
「誰か、リゲルの所へ案内してやってくれ」
あぁ、やっと終わったぁ! ひやぁ、手が汗でビショビショなんですけどー。あ、メイドさんに着いていけばいいの? 行きます行きます。
部屋を出る前に振り返って一つ頭を下げてから改めてメイドさんへ着いていく。緊張した。あー、よかったぁ。何事も無くてよかったよかった。
後は適度にリゲル様と仲良くして、程々の仲を維持しつつ百合ハーレムの為に色々根回しするだけだな。リゲル様が実は男装王子なんて事はないんですかね? 無い? 無いよな。あってほしい。
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「クラウスが推す理由がよくわかった」
「ありがとうございます」
クラウス・ゲイルディアは溜め息を吐き出して水を飲むシリウス王を見ながら頭を軽く下げる。先程まで居た玉座の間とは別のシリウス王が内密に話を進める為に準備された執務室であるが、クラウス自身は慣れているのかそれほど緊張もなく椅子に座っている。
「厄介事があれば渦中にいるお前が珍しく自ら娘を推してきたから何事だと思ったが」
「アレは天才です」
「ああ。紛れもなく、天才だろう。あの年齢にして礼儀作法を完璧に身に着け、更には俺を前にしてジョークまで飛ばす胆力など普通はない」
「あれには私も肝を冷やしました」
「お前が褒めていた事は事実だがな」
やはり何がおかしいのかクツクツと笑うシリウス王。そのシリウス王に対して無礼にならない程度に持ち前の仏頂面のクラウス。
「試しに呼んでみたが。アレは欲しい」
「その為に連れてきました。少なくとも、ディーナは連れてこられた意味を理解しているでしょう」
「五歳だぞ? 王家の為に嫁げと言われた訳じゃあるまい……言ったのか?」
「まさか。私とてアレの親です」
けれど、ディーナはクラウスの問いに対して少しの間を開けてから了承の意を唱えた。それは王子に憧れる少女として、まるで綺羅びやかな未来を見据えた表情などではない。自身の全てを捨てるような覚悟をした顔であった。百合ハーレムを諦めた事など二人が知るわけもない。
「リゲルの奴が気に入らなければ、どうにか臣下として囲っておきたいな」
「……あまりオススメしませんが」
「ほう? あの悪名高きゲイルディア卿も娘を盗られるのは嫌か」
「いえ、アレはゲイルディアの血を強く受け継いでおりますので……」
「ああ、わかった。もういい、言うな。お前が忠臣である事は俺が保証する。安心しろ」
何かを察したのかシリウス王は眉間を抑えて深い溜め息を吐き出す。厄介事の渦中に常に存在しているクラウス・ゲイルディアであるが、その実、何も知らぬまま渦中へと叩き込まれている事の方が多い事をシリウス王は理解していた。尤も、渦中にいるからこそ出来る事も多く、クラウス自身も性質とも呼べる境遇を利用できているからこそ現在の立場にあるのだが。
クラウス・ゲイルディアはわかっていた。他愛のないこの密談もまた自身の悪名と悪行へと変化して語られるであろう事を。
そしてソレらを勘違いした馬鹿が甘い蜜を啜ろうと自身に近寄ってくる事を。そしてソレらを排すれば自身にまた悪名がへばりつく事を。
クラウス・ゲイルディアはこの国の忠臣である。