悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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80.悪役令嬢は酔いたい!

 祝! 論文提出完了! 

 くぅ〜! 疲れました!! これにて論文提出完了です! 

 三ヶ月も論文と仕事と引き継ぎで忙殺されていたのだからその解放感もひとしおである。

 

 論文と言っても魔法式の報告書になるし、何より新しい術式報告だからこそわかりやすい説明ばかりだけれど。

 魔法式という技法も分かりやすく魔術として便宜上呼ぶことにした。魔法式で提出してもよかったが、現存してる魔法でないことは傍から見てわかりやすい方がいい。

 

 これから考えられることは現存する魔法使い達からの糾弾ではあるけれど、別に今すぐ全部魔術になります、という訳ではない。諸君らの地位と権威は保たれるので安心してよね! でどうにかなってほしいな……。

 俺自身がそれらをどうこうできる地位まで上れもしないだろうし。陛下が魔術を重く見るなら必然と地位は貰えるだろうけど。

 魔術は始まったばかりどころか、まだ始まってもいない術式であるから、学校とか、魔術を学べる場所が必要になる。一般的に魔術が普及するのはいつのことやら。

 

 とにかく。

 

「酒が美味い!」

「久しぶりに見たと思ったら相変わらず飲むねぇ」

「酒は命の水だからね。酒精を与えてくれた神には感謝しなくては」

 

 カチイにある酒場で街人が飲むような安めのエールを飲みながら店主に応える。久しく男装をして飲みに来たのだから許してほしい。

 俺がディーナのまま来たらこんな飲み方も食べ方もできないんだからな! 貴族淑女なんだぞ! 悪役令嬢だけどな! 

()()で木製の容器を持ち上げて酒を飲む。実に充実した時間である。

 

 この二ヶ月間で完成したリヨースの義手は非常に良い出来である。これで試作品というのだから驚きである。

 腕としての体裁は保てているし、机上論も正しいことが導けた。

 魔力の通りも良ければ木製の義手自体に刻まれた魔力線も素晴らしい。戦闘用の魔術を仕込んでいないだけで、動かす事は十全にできるし、俺の腕でしていた事はだいたいできる。もっと言えば俺の腕よりも魔力の通りはいい。とことん魔法という分野に対しての適性が無い体であった。

 つまるところ、こうして術式を仕込むことによって人体以外を経由して魔法の発動が可能なのだ。魔力と術式さえあれば自身の魔力に影響されずに魔法が顕現するのだ。理論通りではあるけれど、机上論が確かに正しいことが導けたことは嬉しい。

 酒も進んで仕方がない。

 

 こうしてディンとして久しく酒場で飲んだくれているのは自由に安酒を煽りたかっただけではない。理由の大半はそうであることは否定しないけれど。

 市場調査は商人組合を作るにあたって、貴族として助力するためには必要なことなのだ。決して飲酒だけが理由ではないのである! 

 

「酒が美味い!」

 

 喉を通り抜けるシュワシュワに感謝しかない。商人達がゲイルディアへの貢物として届けてくれるお高めの葡萄酒もいいけれど、これはこれで俺の心を癒してくれる。

 何より、館で俺と一緒に飲む人なんてアマリナだけであるし、気付いたらベッドの上にいるのだ。なんで? 

 過去にヘリオを誘ったらすっごい渋い顔されたし。なんでだよこっちは主だぞ。命令に従えよ。

 

 ともあれシュワシュワが美味しい。現代のシュワシュワよりも弱いけれど、それでもこの味わいはこれだけなのだ。

 そんなシュワシュワを飲みながら街の人の様子を観察している。貴族としての俺に働きが正しいように笑顔は増えたな。実にいい傾向だけれど、カチイだけが栄えても意味はない。意義はあるけれど、手の届く範囲は栄えてほしいのも本音である。

 アレクや他貴族からは「何を企んでる……?」などと言われるだろうが。それはそれ。

 

 商人組合ができれば経済的にも発展しやすくなるだろう。

 アレクには言わなかったけれど、俺が得るのは情報だけではない。金はそれほど必要としていないけれど、それでも必要分はある。

 融資をして終わりではなく、しっかりと利息は取るし、今も幾人かの商人に対して行っている事でもある。お陰でこうして村への支援とかができているわけだ。

 

 働かずに飲む酒は美味いか? 

 美味しいに決まってるよなぁ! 

 この塩みの強い鶏肉っぽいものも美味しいよなぁ! 貴族らしい行儀のいい食い方なんて今の俺には関係ないぜ! ひゅわー! 

 

「隣いいか?」

「ん? ゲホッ、ゲホッ」

「大丈夫か?」

「ああ、問題ないさ。二つの意味で」

 

 アレク、テメェ! なんでこんな貴族が来ないような酒場にいるんだよ! 

 お前さぁ! お酒噴いちゃっただろ! 勿体ない! ちゃんと仕事終わらせてから来てるんだろうな!? 

 まあ貴族っぽいお堅い恰好で来てないことは褒めてやろう! でも剣ぐらいは置いてこような! 

 ……いや、色々考えれば剣も持ってなければ、従者も連れずにここにいる俺の方がおかしいのか? おかしいわ。俺が従者なら怒ってる。まあバレやしないけどな! アッハッハッハッ! 

 アマリナには先に伝えてるし、シャリィ先生はそもそもこういう場に来ないし、クロジンデも同じく来ない。シエナは仕事をしている時間である。一番来そうなヘリオはこの時間警邏である。完璧だぁ……。

 

「……なんだい、ジロジロ見て」

「いや、美味そうだな」

「美味しいよ。特に酒は絶品だね」

「ディンはいつも酒ばかりじゃないかい」

「ハッハッハッ、耳が痛い」

 

 亭主の小言から逃げるように追加でお酒を頼んでおこう。

 料理もいくらか頼んでいるけれど、主は酒である。酒場に酒を飲みに来ていて何が悪い。いや、料理も美味しいんだけど、あまり胃は大きい方ではない。こんな所で女になった弊害をあまり感じたくはなかったな……。

 

 酒はすぐ出されたので、グビリと一口。そんな俺を見続けるアレク。

 

「何かな?」

「……すまん。こういう所に来たのは初めてでな」

「酒場に来るのが初めて? つまり、君は今までの人生の七割を損していた事になるのか」

「そこまで言うか?」

「おめでとう。二日酔いになれば十割を損できることになる」

 

 ケラケラ笑いながら言えば眉間に皺を寄せやがった。こいつぅ、お姉ちゃんの言う事は聞いておいた方がいいぞ。今は姉の姿でもないけど。

 そんなアレクの元にも木製の容器に入れられたエールを少し見て、おっかなびっくりに口に運ぶ。ゴクリと喉を鳴らしてから、一つ頷く。

 

「なるほど、美味いな」

「だろう。そしてこの塩味のきいた肉を食べるんだ」

 

 なんと素晴らしいことか。頭も口も幸せなのだ。この世で酒を作った存在に感謝しかない。二日酔いになったら恨み言も言ってやろう。

 肉を口に入れた俺に倣うように、アレクも小さく切った肉を口に運ぶ。お上品なことだ。貴族としての教育の賜物だろう。けれど、ここではあまりよろしくは無い。

 

「どうだい、美味しいだろう?」

「ああ」

「どうしてディンが誇らしげなんだい」

「そりゃぁ俺が勧めたものだからね。勿論、亭主の腕がいいのはわかっているさ」

 

 調子がいいねぇ、とどこか嬉しそうに追加の料理を運んでくれた亭主に笑い、新しくきた料理に舌鼓を打つ。なんと美味しいことか。香辛料の交易はもっと増やしてもいいかもな。

 そんな俺が気になるのか、やはりアレクからの視線が感じる。

 

「なんだい、君は君で頼みたまえよ」

「そんな物欲しそうに見ていたか?」

「ああ、貴族らしくない物欲しそうな目でね」

「……」

 

 俺の一言で警戒度を上げてきた。もう手が剣をすぐに握れるようにしている。偉い、と言いたいが悪手でもある。

 こんな所で殺傷事件なんて起こしてみて、ディーナ・ゲイルディアの耳に触れてみろ。お前、怒られるだけで済んだらいいな。そのディーナ・ゲイルディアが殺傷事件の被害者になるから耳にすら入らないんだけどな! 

 

「おっと、警戒しないでもいい。俺は無害だよ」

「……なぜ知っている?」

「そうだね。要素は幾らかあるけれど。食べ方や、立ち振る舞い。あとは剣の柄とか」

「……そんな事でわかるのか?」

「わからないよ。でも、君は自分で自分が貴族だと今言ったじゃないか」

 

 ケラケラと要素だけ言ってみればアレクは納得するしかない。俺がディーナ・ゲイルディア本人なんてわかるわけないよなぁ! 俺はその要素全てを隠蔽した挙句に声まで魔術で変えてるからなぁ! 

 

「はぁ。で、俺が貴族だとして、何を求める?」

「別に……ああ、一ついいかい?」

「なんだ」

「同じ酒をもう一杯頼みたいね」

 

 飲み干したエールの容器をアレクに見せびらかせる。色々と考えるような複雑な顔をして、アレクは今一度、亭主へと注文をした。

 

「まあ、あれだね。油断しすぎでもあるけれど、市井の調査なら部下にでもさせればいいだろうに」

「俺の目で見たくなった」

「それは素晴らしいね。貴族らしくない、と言ってもいい」

「……お前は貴族が嫌いなのか?」

「それなりに、大嫌いだね」

「なんでだ?」

「民のことを考えていないから、というのが俺の意見だよ」

 

 ここの領主は違うようだけれど。と周りを見ながら呟く。

 領主は俺自身であるけれど、俺自身も周辺貴族はそれほど良く思っていない。まあ周辺貴族もディーナ・ゲイルディアを良くは思っていないだろうけど。

 カチイはこれでもマシになった方だ。少し前まではレイやフィアのような子供もいた。今は教会に入れて教育支援をしているし、街に生きる人の要望はディンで聞いている。通せる要望と通せない要望はあるけれど、色街を一角に作るのには大いに賛成したものである。

 

 どうにも難しい顔をしているアレクの顔を見ながら飲む酒は美味しく感じる。

 悩め悩め。その悩みに答えなど無い。正解であっても、その正解がずっと正解であるとも限らない。

 

「……民のことを考えればいい貴族か?」

「そうとは言わないよ。民だけの事を考えるのは貴族としてはよくないね」

「なら正解はなんだ?」

「それを考えるのは君たちの義務だろう?」

 

 民だけの利益を求め続ければ市民からの支持は得られるが、それだけでしかない。貴族としての振る舞いではないだろう。商人の事を考えるだけでも同じことである。

 過激なことを言えば、市民を害することで国が豊かになれば市民を害せばいい。市民を害して国が豊かになる道理はわからんが。

 結果として国の発展に繋がることをすればいい。それは正解で在り続けるが、他貴族が邪魔をしてくるだろうし、面倒事は増える。何なら国側からも言われる可能性もある。国の発展を考えれば何をしてもいいというわけではない。

 めんどくせぇな……。

 

「……例えば、アンタが」

「ディンだよ、よろしく」

「アレクだ。で、ディンが貴族だったとして、まず何から手をつければいい?」

「俺が貴族に? それは嬉しいね。女の子をまずは囲い込むね」

「ふざけてるのか?」

「ああ。酒飲みの戯言だよ」

 

 今もそれなりに囲い込んでいることは黙っておこう。手を出せるならスピカ様も囲い込みたい。ずっと撫でたい。それは許されない行為であるが。

 さて、こうして悩んでいる弟に手を差し伸べてあげるのも先達であり、姉である俺の使命である。それこそ後進を育てるのは貴族として以前の義務でもある。

 

「冗談はさておき。俺ならまずは雇用から手をつけるね」

「雇用? 何か問題でもあるのか?」

「今ここを治めているディーナ・ゲイルディアに仕えている給仕は知っているかい?」

「……ああ」

「かわいいよな」

「亭主、水を頼む」

「俺にはもう一杯追加しておくれ」

 

 もう酔ったのかい? と煽ってみせれば水から酒へと変更した。『にらみつける』は俺には効かないぞ! 同じ血族だからな! 防御力も減らないぞ! 

 出されたお酒を一口飲んでから言葉を続ける。

 

「ゲイルディアの給仕以外もそうだが、今の貴族に仕えている者はだいたいが下級貴族の子であることが多いね」

「それが普通だろう」

「ああ、貴族の社会ではね。それこそ、手をつけれるじゃないか」

「民から募れって言うのか?」

「君はディーナ・ゲイルディアの何を見てきたんだい?」

「……」

 

 俺が手の届く範囲で過ごしてきたコイツは知っている筈なのだ。

 警邏隊に募っているのは下級貴族の息子達も何人かいるが、そのほとんどは元荒くれ者であるし、街の男衆でもある。というか、そうでもしないと手が足りなかったというのが実情でもある。

 大きく物事を動かす時には相応の人手が必要なのだ。

 

「そうすれば民が富むのか?」

「否定しておこう。今の警邏隊に所属している者は相応の危険を冒しているからこそだけれど、富んではいない」

「なら意味がないだろ」

「今は、と言っただろう。彼女のしている事を言葉にすれば、実力主義での雇用だね。つまり、どのような生まれであろうとディーナ・ゲイルディアという貴族の前では些事に等しい。生まれよりも実力で測っているのだから」

「けれど——」

「けれど、しかしだよ。実力さえあれば、民は貴族に仕えられる存在になる。民であるのにも関わらず貴族となるかもしれない。夢物語だけれどね」

「なれるわけが無いだろ」

「そうかな? 貴族という仕組みは思ったよりも脆弱だよ。それこそディーナ・ゲイルディアの動きはその仕組みを壊そうとしている風にも見えるね」

 

 壊れないように調整はしているが、数百年も今の貴族という仕組みは保てないだろう。俺が動かなくても誰かがするだろうし、商人組合が力を持てば持つほど貴族など必要なくなる。

 俺は封建社会の革命児だった……? 

 革命なんてする気はない。死ぬつもりだったら王族は保ったまま貴族なんて壊れればいいとか思っていただろうけど、今は生きていくつもりなのだから。

 

「まあすぐに縁故での採用を廃止して、実力での採用をすれば下級貴族から反発をもらうだろうし、貴族社会から孤立して、王族からも目をつけられるだろうね。そうなれば晴れて君も脱貴族だ。おめでとう。歓迎するよ」

「……反発をもらうなら、徐々に縁故採用ではなく、実力採用をしていけばいいのか?」

「冗談にも付き合わなくなって、君は面白くないね」

「質問に答えろ」

「おお、怖い怖い。そうだね。そういう面ではディーナ・ゲイルディアは上手くしているんじゃないかい? 個人的にはもっといい方法があるとも思っているけれど」

「例えば?」

「さて、お酒が足りないね」

「亭主、もう二杯頼む」

 

 コイツ……金持ってるなぁ。普段から遊びにいかないから溜め込んでるんだぞ! ちゃんと使えよ。色街まであるんだぞ! 

 出てきた酒を飲みながらジロリと見られる。なんだよ。答えなんて出ないぞ。

 

「で、もっといい方法は?」

「俺は酒が足りないって言っただけだけど?」

「コイツ……」

「勝手に騙されたのは君じゃないか、アレク」

「……いや、あね……ディーナ・ゲイルディアが正しいのは理解した」

「それでも貴族から見れば正しくはないね。あまり周りの目は気にしてないようで、他貴族から見れば孤立しそうではある。王族との関係も俺からはわからないしね」

「さっきから王族を気にしてるようだが?」

「当たり前だろう。どれほど優れた人間であろうと、今の社会でシルベスタ王に批難されれば最悪処刑にもなるだろうね」

「……優れた人間なら確保すべきじゃないのか?」

「君は王が禁止と言ったものを、使えるからと言って利用するのかい?」

「……ディーナ・ゲイルディアはしそうだな」

 

 しねぇよ。お前の中でのディーナ像がどうなってるかよくわかったよ。この野郎。

 確かに、陛下に直接「私が管理するのでくださる?」とか必要ならするけど、俺だってそんな危ない橋を渡りたくはない。諸葛先生や司馬先生がほどの逸材なら即決でするだろうけど、俺にそんな審美眼などない。

 ……なら、諸葛先生程じゃなくてもしそうでは……? 

 

「実際問題として、ディーナ・ゲイルディアの行う実力主義での雇用が正しく回るのは数年ぽっちでは足りない長期的な計画と言ってもいい」

「そうなのか?」

「市井に優れた人間がいる可能性よりも教育を施す方が有意義だからね。それが育つまでは正しくも回らんよ」

 

 だからこそ俺は教会に少なくない寄付をしているし、子供が相応に育つまでは時間が必要だ。尤も、それでいきなり重要な役職につければ面倒であるから考えどころである。

 商人組合が発足すればその辺の都合もつくだろうし。商人や職人の弟子という形で貴族に左右されない教育機関も作れる。

 

「……なるほど」

「というわけで今すぐにどうこうすることは出来ない、が正しい答えでもあるね。ご期待に添える答えかな?」

「ああ。ディンは今何をしているんだ?」

「見てわかるだろう? 気ままにフラフラとして酒を飲んでは笑っているんだよ」

 

 ディンとしては本当にそう。不透明な背景であるが、そこまで詰めた設定など必要ないし、必要なら嘘で塗り固めなければならない。

 気ままな自由民である。そんな人間がどうして生きているかも分からないが、勝手に想像してくれるだろう。

 

「何やってんすか……」

「やあヘリオ。君も息抜きかい?」

「勝手にどこか行った主を探しに来てんすよ」

「……姉貴がどこか行ったのか?」

「……あー、いや、まあそれは解決したんでいいです」

「なんだい煮え切らないね」

 

 ケラケラと笑いながらヘリオに応対する。果たして俺を探しに来たのか、それともアレクを探しに来たのかはわからない。

 俺を探しに来たとしても、アレクや他の民がいる所でヘリオは俺がディーナであることを口にしない。そういう所は俺に従順であるが、どうやら酒の席には同席するようだ。

 なら俺が館で誘う時も同席しろよ。同席しても俺はこうして酒を飲みに行くけどな! 

 

「で、何を喋ってたんすか?」

「別に他愛もない話さ。酒の肴だからね」

「ヘリオ。ディンを俺の部下に誘おうと思う」

「……は?」

「ブハッ。それはいい考えですねぇ!」

 

 ヘリオてめぇ! 俺が困る姿を想像して吹き出したがったな! 

 あとアレク! もっとディンとかいう人間の背景を確認しろ! お姉ちゃん怒るぞ! 

 

「それはなんとも突拍子もないことだね」

「ヘリオが危険視してないのなら、優秀な人間は引き入れるべき。とお前自身が言っただろう」

「言った。確かに優秀な人間は雇うべきと言ったが、ある程度の信頼値を考えたまえよ」

「ヘリオと知り合いなら、姉貴がある程度調べてるだろ」

「お嬢がそんな過保護とは思いませんけどねぇ」

「待て待て。ヘリオの来歴を考えれば、君の姉はディーナ・ゲイルディアなのかい?」

「ああ。アレク・ゲイルディアだ。改めてよろしく頼む」

「実に頭が痛くなるね」

 

 お酒のせいで頭が痛い。そういう事にしたい。

 俺がアレクの部下になるというのは物理的にも、俺の立場的にも不可能だ。

 ヘリオはこの状況を楽しんでいるようだし、どうにか逃げる手段を考えなくてはならない。

 

「答えを先に言おう。君の部下にはならない」

「理由を聞こう」

「俺は貴族というものを毛嫌いしているからね。こうして酒の席で対等に接するならいいけれど。特にディーナ・ゲイルディアという女は大嫌いだね」

「でもお前の思想は姉貴に似てると思うが?」

 

 同一人物だからなぁ! 

 似てるとかいう次元の問題ではない。一緒なのだ。

 

「……まあ、わかった」

「そうかい。わかってくれたか」

「俺がゲイルディア領主になってから改めてお前を誘おうと思う」

「何もわかってないじゃないか!」

「アッハッハッ! ディンが困る姿は珍しいですねぇ。亭主、もう一杯もらえるか?」

 

 ヘリオぉ!! お前の主が困ってるんだから助けろよ! 

 いや、主だからと今助けられても弁明には困るんだけどさ。

 ゲイルディア領主になる、というのはしっかりと目指してくれているようなので安心したけれど、別方面で安心できなくなるのやめろ? 

 

「ヘリオもどうだ?」

「何回も断ってますが、俺はお嬢に忠誠を誓ってるんで」

「そうか」

「その諦めのよさを俺の方にも少しは向けてくれないかい?」

「ディンは何のしがらみも無いだろう」

「わからないよ。俺が実は王族かもしれない」

「王族がこんな——あー、共も連れずに街には降りんだろう」

「俺の口から言わせれば、アレク様も同じですよ」

 

 本当な! もっと自分の身を考えてほしい。と頷いて同意しているとヘリオから視線を向けられる。なんだよ。俺はちゃんと変装までしてるから……。

 それとアレク、何回かヘリオを誘ってるのか。やめろよ。あげないぞ。アマリナもヘリオも俺の従者である。

 

「という事で俺は君の部下にはなれない」

「今は、な」

「……何が君をそこまで動かしている? 少なくとも貴族社会としては危険思想であることは自覚しているし、ヘリオからの信頼を聞いたからか?」

「いや、さっきまで話していた内容を聞いて、俺が判断したからだが? ヘリオが来なくともこの誘いはしていた」

「それは是非ゲイルディアから怒られるべき内容だね。ヘリオはキチンと彼の愚行を彼女に報告すべきだ」

「俺から見ても、ディンは優秀ですからねぇ」

「君らの目は硝子玉か?」

 

 優秀なわけないだろ。俺よりもっと優秀なヤツぐらいいるだろ。

 形勢が不利すぎる……。おかしいな。自分の従者と弟になんでここまで追い詰められているんだ? 追い詰められるなら女の子からの方がいいんだが。

 こういう時、どう行動すべきかは決まっている。そしてそれが正解に近い答えであるのも知っている。

 俺は空になった容器を机に置いてから、自分が飲み食いした分よりも少し多めの貨幣を亭主にわかるように置いた。

 

「では、俺はここで帰るよ」

「逃げましたねぇ」

「俺はいつでも待ってるぞ」

「誘いには乗らんさ」

 

 ヘリオ、お前ホント許さんからな! 今度一緒に飲む場を作って困らせてやる……! 

 

 




ヘリオがディーナの誘いを断って一緒にお酒を飲まないのは、お察しください。酒に弱いわけじゃないです。

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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