悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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81.悪役令嬢は毒吐きたい!

「これがディーナ嬢の理論か」

「はい。既存の魔法を理論化し、さらに飛躍させたものです。尤も、専門的な話はゲイルディア殿ご本人から聞くべきかと」

 

 白髪を首元で切り揃えた女にも見間違えてしまいそうな優男は手渡した資料を読むシルベスタ王に対して淡々と事実だけを述べる。

 その様子にシルベスタ王は慣れているのか、優男──ベガをちらりとも見ずに手渡された別の資料を手に取り深く溜め息を吐き出した。

 

「問題はこっちか」

「商人組合、並びに職人組合の草案ですね」

「嫌になるほど利益的で、不安要素とそれに勝る利点を提示しているが……」

「そのまま通せば貴族達が黙ってはいないでしょう」

「だろうな。だが、有益すぎる」

 

 ベガによって渡されたディーナの草案。商人・職人組合による貿易税などの利益。現在の貴族社会の問題性。商人組合ができた場合の損益と利益。

 そのまま捨ておく事は簡単であるが、捨てるには惜しすぎる案。そしてディーナの性格を考えれば王に許可を貰わずとも、実利で黙らせる為に既に動いているだろう。

 

「アイツは貴族を殺す気か?」

「少なくとも、自身を含めた貴族に対していい感情は持っていないでしょう」

「お前が見てきたディーナ嬢はそうか」

「はい。むしろ強行していないあたり、彼女の優しさでしょうね」

「俺の胃を少しは労わってほしいものだ」

 

 世間で言われているディーナの噂を鵜呑みにするのならば、商人組合の発足は貴族という立場を壊そうとする悪人とも映るが、シルベスタ王から見れば単純に国益を求めた結果だろうという事は理解している。

 あの女が自身の評価を気にするような人間であるなら、もっと殊勝に動いていただろうし、少しは可愛げのある女であったことだろう。

 ディーナが自身の犠牲など度外視して動く事は知っている。今までそうであったのだから、突然変化するようなことは無いだろう。当然、今までの動きが全てこの帰結を求めた演技であったのならば、その限りではないが。

 加えて言えば、シルベスタ王からすれば、もっと容易く動けたはずであるのにそうでは無かった。とも言える。ディーナならば、というある種の信頼でもあるが。

 

「どちらも詳しくはディーナ嬢本人から聞くしかないか」

「そうした方がいいかと」

「で、お前はどうする? 前向きに考えてはくれたか?」

「前向きも何も。それが義務であるならば」

「……そうか」

 

 やはり淡々と応えたベガにシルベスタ王は少しばかり目を伏せる。自身の命令ではあるが、少しは変化すると思いディーナの元へと送ったが手応えは無い。

 そうしてしまったのは自身であるが、そうなったのはベガ本人でもある。

 

「わかった。ディーナ嬢からは外れ、暫くは自由に動け」

「……必要ありませんが?」

「俺はそう思わん」

「……命令であれば」

「そう。命令だ。下がってもいいぞ」

 

 一礼をしてから執務室から出ていったベガを見送り、シルベスタ王は深く、深く溜め息を吐き出した。

 

 

 


 

「それで、お前は貴族を殺す気か?」

「まさか」

 

 予想していた通り、陛下の執務室に呼ばれた俺に投げかけられた問いに対して答える。

 そんなまさか。直接的には貴族を潰そうなんて思ってもいない。貴族という仕組みは邪魔に思うが、俺自身もそれを用いる貴族である。

 

「ただ組合を作った結果として滅びるような貴族をどうして私がわざわざ手を下す必要がありますの?」

「それを殺すというのがわからんお前ではないだろう、ディーナ嬢」

「あら。崖から転げ落ちる者を助けなかっただけで突き落としたことになると?」

 

 笑みながら誤魔化す。まあ陛下は気付いてるし、別に誤魔化す必要はないのだけれど、それでも言質として目的を言う必要はない。

 

「……ディーナ嬢、今すぐにこの政策を推し進めることはできない」

「そうでしょう。まだ予想利益しか出てませんし、実利が出るまで陛下が動けないのは道理でしょう」

「……ならば俺に進言するまでもないだろう」

「実利が出てから陛下に伝えても良かったですが、その場合、他の貴族たちが動いてから陛下が知ることになり、陛下が後手に回りますわよ」

 

 実利が出てからでは陛下の動きが必然的に遅れてしまうから、筋を通す為にもこうして伝えたのだ。ベガに任せたのは確実に伝わることを見越してだし、変な妨害が入らないことは以前の薬瓶で知っている。

 陛下直属の監視をこうして使うのは気後れするが、使えるものは使うべきである。

 

「少しは俺の胃を労わることをしないのか?」

「その時はまたエルフの薬を届けさせましょう」

「ああ、そうだな。お前はそういう女だったな」

 

 溜め息を吐き出されたけれど、今更の話である。

 こうしてこの話をしている時点で陛下は商人・職人組合のことをある程度重く見てくれている。

 

「これの展望を、お前の口から聴いておこう」

「既に書いてある通りですが、組合を作ることで交易を今よりも円滑にして、貴族が関与しない部分で経済を回しますわ。同時に現在貴族や有力商人しかいない学校という教育機関に似たものを組合下部に組織し、民へ教育を施します。王族にとっての利点は交易税などでの利益。現在いる領地を持つ貴族が受け入れるのなら倉庫や支部の配置による税を組合側が納めるという利点を作ります。これは将来的な話でもありますが、現在の貴族制度と同じで不正が横行しない為に監査機関の設立も必要ですわね」

「民に教育をしても無意味、だと貴族共は思うだろうな」

「表面としては商人や職人見習いのための教育ですが、教育を施せば国家としての発展に寄与できますわ」

「教育を施せば、か。その者達が従順でい続けるか?」

「むしろ従順であり続けるのなら同等の能力が必要になりますわ。無知では恐怖に駆られて無謀な反乱を起こし続けますし、抑え続けるよりも教育を施す方が労力も不利益である反乱も起こりにくいでしょう」

「知識をつければ、反貴族や反王族の思想を持つ者も出てくるだろう」

「否定はしませんわ。人の思想まで管理しようなんて傲慢なことは考えていませんわ。ですが、行動に監査はかけられます」

 

 出来るのなら、現在の貴族たちの幾人かを教育する側として雇いたい、というのが本音であるがそれもまだ未来の話だ。

 教える商人用の識字や数学、あとは法律と政治の基礎などの実務的な部分だ。それ以外を教えるとなれば相応の教師役が必要だろうし、現状は無理だ。

 

 組合の設立は俺個人で動かせる範囲である。他の貴族たちを巻き込んだ方が得ではあるが、ゲイルディアという姓のお陰で怪しまれ過ぎる。お父様(悪人面)さぁ……。

 怪しまれない範囲で動くにしても、実利が出てから動く方が動かしやすいし、実利が出る前からこちらにアクションをしてくる貴族を引き入れた方が俺としても組合としても動きやすい。

 

「将来的な話だと言った監査機関はどうするつもりだ?」

「現状、組合自体が未だに組織されていない状態ですので。実利が出て、ある程度安定したら組織する予定です。組合が王権と対立しないよう、陛下の管理下である方がいいですわね」

「俺の管理下で調整する、か。俺の息が掛かった貴族を採用するぞ」

「当然ですわ。だからこそ、腐敗や不正に対する監査機関は必要不可欠です。監査役には貴族だけでなく、商人や職人、時には市民の代表を加えるべきとも思いますわ」

「市民代表、か」

「その頃にはある程度の教育も施している予定ですわ」

「……教育は不可欠でもある証明か」

 

 無知であれば、自身の感情に任せて意見される。知識と知恵があれば、建設的な意見も出るだろう。貴族と市民や職人、商人と軋轢を生むかもしれないが、不正と腐敗が横行するよりもいいだろう。

 

「貴族どもは組合発足に反発するだろうな」

「貴族たちにとっては支配外の経済圏でしょうし、権力が削がれるとも思うでしょう。だからこそ組合の取引も貴族領の税制に従いますわ。取引量が増え、貴族の徴税額も増えるでしょう」

「貴族どもがそれで満足するか? 税収が増えるとはいえ、商人が利益を得ることを嫌うだろう」

「短期的には気に入らないでしょう。けれど、貴族の力は金と兵ですもの。長期的に見れば新たな収入源を確保することは彼らにとっても都合がいいですわ」

「長期的に見れば、か。そう見た時は組合を庇護下にしようと動くだろうな」

「そうですわね。貴族の管理下であり、庇護下であれば得と組合が思えれば貴族への献金なども増えますわ」

「……不正腐敗を嫌うような言い方をしていた癖に、()を目の前にそういう事を言うか」

「清廉潔白なのは見え方だけでいいですわ」

「ゲイルディアであるお前がか?」

「それはお父様やお母様に仰ってください」

 

 俺はそんな悪さをしてない。確かに貴族間での噂で悪女だの魔女だのと言われているけれど。俺は一切悪くない! リゲルの策略によって陥れられたのだ! 別にいいけどさ! 

 聖女でも相手にしているつもりか? 

 

「本当にそれでうまくいくか?」

「適応できる者は生き残りますわ」

 

 封建制度は結果として崩れるが、現状が貨幣経済が発展しようとしている状態だから自然と衰退するだろう。

 貨幣が浸透すれば、商人が力をつける。教育が広まれば、身分制に疑問が生じる。

 俺がしていることは後押しであるけれど、いつか滅びる制度である。

 

「わかった。そのまま進めろ。ただし、非公的に逐一報告は寄越せ。俺が関与していると他の貴族に悟られるな」

「ええ、むしろ公的に関与されると面倒ですわ。組合はあくまで商人主体の組織。陛下の後ろ盾が見えれば警戒する者も出るでしょうし」

「貴族どもは疑うものだからな。お前が勝手に動いていると思わせておけ」

 

 その為に魔術理論と一緒に組合草案を陛下に届けたのだ。貴族たちに組合を睨まれていらない妨害をされる方が俺としても面倒である。

 

「報告はベガに持たせれば?」

「いや、ベガはお前の監視役から外す」

「まぁ。それはまた急な話ですわね」

「監視とはいえ、ある程度の自由も必要だからな」

 

 なら報告の件は少し考えないとな。

 それにしても俺の監視役からベガを外すのか。使える人間だから囲っておきたかったな……。残念である。

 

「それにもうお前の監視は必要ないだろう」

「あら。既に別の監視役がいるからでしょう?」

「さて、どうだろうな」

 

 笑いながら誤魔化された。

 暗殺者であるクロジンデを監視役にしているのはほぼ確定しているけれど、陛下としてもそれを認めないだろう。

 俺が軟禁されてる時に契約を結んだかな。それ以外に接点無いだろうし。

 クロジンデには釘を刺してるし、下手に動くこともないだろう。伝達係としては優秀すぎるし、妥当だ。

 

「それで魔術理論に関してだが」

「何から話しましょう!」

「……目を輝かせるな。そういう所はオーベ卿に似たな」

 

 シャリィ先生に似ただなんて、そんな嬉しい事を言ってくれるなんて! 

 陛下、どうしてげんなりして溜め息を吐いてるんです? 

 

「専門的な部分は俺にはわからん」

「以前も話ましたが、現在の魔法をより効率的に、学べば誰しもが使えるようにしていますわ」

「その右腕も魔術の成果か」

「ええ。これは義手ですが、道具として魔術を刻めば、相応の魔術を扱うこともできるでしょう」

 

 手袋を外して木製である右手を露わにする。

 杖や本に刻めば、わざわざ肉体に刻む必要もないし、義手や義足で用いる為にわざわざ四肢を切断する必要もない。

 将来的な話で言えば、兵役で四肢を失っても、義手や義足を用いれば不足を補うこともできるだろう。

 

「今の魔法を力として権威を保持している貴族は否定的だろうな」

「権威を守っているお歴々を排しようとは思ってませんわ。ただ新しい魔法の仕組みができるだけです」

「そう思わんのはわかるだろう」

「魔術を学べる場所を限定すれば、陛下としても管理できるでしょう」

「俺を盾にして納得させようとするな」

 

 実際に魔法で権威を固持してる貴族たちの公的な理論は「学べば誰しもが扱えることの危惧」である。

 魔法が想像によるものだから、こちらの方が管理しやすいのは事実である。その理論は正面で否定できる。けれど権威は守りたい、という感情があるので否定的だろうなぁ。

 

「お歴々の権威を揺るがすような事にはなりませんわ。さっさと辞退していただきたいのは本意ですが」

「俺が魔術(コレ)を重く見ていることは事実だが、あまり好戦的には動くなよ」

「お歴々次第ですわ」

 

 ニッコリと笑ってみせれば陛下が思いっきり眉を顰めた。

 俺自身、それほど好戦的に動こうとは思ってない。シャリィ先生を否定的に糾弾していたから徹底的に追い詰めてやろう、とか思ってもない。

 

「どちらにせよ、後ろ盾は必要だろう」

「そうですわね。……まさか陛下が?」

「阿呆。俺が直接後ろ盾になれば不都合なのはお前だろう」

 

 それはそう。

 魔術理論での後ろ盾ではあるけれど、陛下自身が後ろ盾になるとそっちも警戒されすぎる。

 魔術理論や組合に対して好意的な有力貴族か……誰だろ。お父様とか出てきても「お前後ろ盾にしては悪人顔じゃん。陛下より警戒されるじゃん」とか言っちゃうぞ? 

 

「入ってこい」

 

 執務室の扉を開けたのは俺よりも年若い少女である。

 黒い髪に愛らしい顔を可愛らしく笑顔に染めて()()らしく綺麗な礼をする。

 

「お久しぶりです、お義姉様!」

「……スピカ様が後ろ盾に?」

「はい。お義姉様のお力添えになればと」

 

 ……個人の感情としてあまり好ましくない。

 スピカ様のような可愛い女の子を政治の場に? ドロドロの政治問題に片足突っ込ませる? 嫌すぎるんだが……。

 特にコレに関しては陛下の命令だろうし。スピカ様の自由を縛りたくもない。

 俺の感情としての否定でしかない。義務に縛られることを強要はしたくない。

 

「……陛下、後ろ盾の件はお受けできませんわ」

「ほう?」

「私では力不足でしょうか?」

「そうではありませんわ。決して。魔術理論での後ろ盾ですが、私と関わるということは組合にもスピカ様が関わっているように見えるでしょう」

「王族の庇護下にあると見られるのが気にいらんか?」

「ええ。組合の独立性が保たれませんし、何より他の貴族たちからの見え方も悪くなりますわ」

 

 公的な問題点である。組合が王族の庇護下である、と見られれば他の貴族達から王族がよく見られない。それをわからない陛下ではないだろう。

 けれど、それを押し退けても組合に王族を関わらせたい? なら、陛下自身ですればいい。スピカ様を王族の意思で巻き込むのなら、こんな後ろ盾なんて必要ない。

 

「……お義姉様、それだけではありませんよね?」

「……私がスピカ様の自由を、義務や役割で縛りたくはありませんの」

 

 これは本音である。

 スピカ様は確かに賢い女の子だけれど、こんなドロドロした政戦には巻き込みたいくない。絶対嫌だ。特に陛下の命令ならなおさらである。

 

「しかしディーナ嬢。これはスピカ自身が選択したことだぞ」

 

 この野郎……! 陛下自身がそういう選択をさせるようにしたんだろうが! 

 スピカ様の方を確かめるように見れば、やはり笑顔である。

 

「はい。お義姉様の未来を近くで見たいのはいけないことですか?」

「いえ、そんな事はありませんが……」

「それに、スピカが関わるのはあくまで魔術理論の後ろ盾としてだけだ。組合の運営には手出しさせん」

「他の貴族にそれが通用しますの?」

 

 これは実務の問題ではなく見え方の問題である。

 あまり王族が関わっていると貴族たちは警戒するし、組合に対して圧をかけていくだろう。それに王族への見え方も悪い。

 

「もし、お義姉様が不安であるなら、組合の設立時に、他の有力貴族や商人の協力を得るのはどうでしょう?」

「……そう、ですわね。それなら、王族の庇護という印象は薄まりますわね」

 

 それなら確かに王族の直轄には見えずらい。素晴らしい意見である。それがスピカ様から出てきたという点以外は! 

 

「まだ納得しないか」

「納得していないのは私の感情の部分ですわ。理論として非常に有益であることは理解してます」

「そんな……後ろ盾になればお義姉様と沢山お茶会できると思っただけですのに」

「そういうことだ。俺の推挙ではなく、スピカ本人の希望だぞ」

「……わかりましたわ。後ろ盾の件、()()、お受けいたします」

 

 クソが……! この狸王が! 

 これ以上否定したらスピカ様からの俺の心象が悪くなるのも利用しやがって! 

 内心で笑ってるのわかってるんだからな! 

 

 溜め息をわかるように吐き出してから、話は終わったので執務室から出ようとする。

 アマリナに癒してもらわなくては……心が……うぅ……。

 

「ディーナ嬢」

「何か? これ以上、陛下と話すことはありませんが?」

「そうトゲトゲするな。お前は何を目指している?」

 

 俺が目指していること? 

 まあ陛下視点だと新しい経済圏の権力者にも見えるのか……。別にそれでもいいけれど、それは俺の本意ではない。

 

「……そうですわね。私と私を慕ってくれている者たちが少しだけ仕事に追われるけれど、穏やかな生活ですわ」

「お前がか?」

「あら、意外でしょうか?」

「自分のしている事に自覚はあるか? 俺の胃を少しは気遣えよ」

「エルフの薬を届けるように致しましょう」

 

 ニッコリと悪役らしい笑みを浮かべて執務室を出よう。

 閉じられる扉の隙間から陛下の溜め息が聞こえた気がした。いい気味である。

 

 


 

「これが、お義姉様から?」

「ああ」

 

 ディーナ・ゲイルディアが登城するよりも以前。王の執務室で書類を捲りながら眉を寄せるスピカ。

 ベガによって届けられた書類は新規となる魔術理論と商人・職人組合の草案。魔法の専門的な部分はスピカ自身にもわからないが、組合の草案は別である。

 貴族に関与されない新しい経済圏。生み出される利益。ディーナ自身が出している案だというのに、問題点とその解決案までしっかりと書かれている。嫌になるほど有益である。

 

「……私の側近、制御下におくよりも、お義姉様の思惑に乗る方が得策ですね」

「俺もそう思う」

「お義姉様もそこまで頑張らなくとも、私が引き込みましたのに」

「お前のそういう部分をディーナ嬢は見てないからな」

「あら。お父様以外の前ではキチンと愛らしいお姫様でいますよ」

 

 誰に似たのか。と少しだけ想像して、シルベスタ王はすぐさまその思考をやめた。なぜかはわからないが、背筋に冷たいものが走った。

 自分の震えを誤魔化したシルベスタ王を見ず、スピカは魔術理論の書類を手に取り、少しだけ思考する。

 将来的にディーナ・ゲイルディアの影響力が大きくなることがわかっている。だからこそ、今からでも接点は多い方がいい。

 王としては動くことができない。それは他の貴族たちからの反発を受けない為であるし、下手に動けば組合という利益を貴族が食い潰すだろう。

 

「私を呼んだのは……後ろ盾ですね。お引き受け致します」

「そうか」

 

 王族としての理性的な部分がディーナ・ゲイルディアという人物を自身の制御下に置くことを拒む。ディーナという人物は自分の手に余る。けれど、欲しい。

 本当は自分の管理下にいれて、誰からも手が出せないようにして、自分だけが独占し続けたい。けれど、スピカ自身がそれを否定する。単なる欲求だけでディーナを抑えれば、王族として不利益となってしまう。

 

「名目としては魔術理論での後ろ盾ではあるが。スピカ、お前が後ろ盾に立つことで、貴族どもがどう見るかはわかるな?」

「組合が王族の庇護下にあると思われるでしょう。お義姉様は嫌がりそうですが」

「だからこそ、奴自身に貴族どもの協力を取り付けさせる。後ろ盾である王族のお前の影響を薄める為にな」

「周りからは王女の世話係とも思わせた方が良さそうですね。頻繁にお茶会を開いてお義姉様を呼びつけましょう」

「……お前の欲求も入ってないか?」

「気のせいです」

「お、おお、そうか……」

 

 笑みを向けられたシルベスタ王は娘の言葉を鵜呑みにした。

 こういう場では兄よりも理知的な娘が、自分の欲求になんて従う筈がない。シルベスタ王は無理矢理自分を納得させることにした。決して負けたわけではない。

 

「それで、もしお義姉様が私の後ろ盾を受け入れなかったら?」

「ディーナ嬢もこれが有益であるのは理解しているだろう」

「……それでも受け入れられない理由があれば、お義姉様は抵抗しそうですが」

「……まあ拒むのなら、ディーナ嬢が拒めないようにしてやるさ」

「お父様には期待しておきます」

「お前の欲求の為か?」

「何のことかわかりません」

 

 シルベスタ王は無理矢理自分を納得させることにした。

 決して、決して。何かに負けたわけではない。

 

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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