悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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84.悪役令嬢は交渉したい!

 オットー・メルツにとってシルベスタ王は苦手な人間である。

 物を語る時は数字を出しもせず、理性的ではあるが、理論的ではない。さらに言えば無意味な言い回しをして楽しむのも理解に苦しむ。

 そんな彼だからこそ玉座に座っている事も理解している。

 そんな彼が自分を財務監として任じたのは実務経歴と家名が故である。そうオットー・メルツは思っていた。その実、就任時に「お前のような堅物で面白くもない奴を傍に上に置く方が俺としても信頼できるからな」などと言われたのでオットーは眉間に深く皺を刻み、その皺は今はもう取れなくなった。

 

 ある種の悩みの種でありながら、最も信用ならない、信頼すべき王。その王に個人として呼び出され、深い溜め息を吐き出しながら向かったオットーは珍しく眉間に皺を寄せ疲れているシルベスタ王を見た。

 

「よく来た。まあ座れ」

「ご用件を先に」

「もっと、こう、あるだろ。普通は」

「この堅物を財務監に就けたのは陛下ですが?」

「こいつ……まあいい。これに目を通せ」

 

 紐で巻かれた紙束を杜撰に投げ寄越したシルベスタ王から自分の手の内に収まった紙束へと視線を落として、紐を解き、捲る。

 ”組合”と称された組織。その役割。想定される問題点。それを補って余りある利益。教育機関。将来的な組織図。

 オットーは目を細める。市場など見向きもしなかった。する必要さえなかった。商人たちへの税率は見ても、その中身がどう流れているかなど意識する必要など無かった。放っておけば回るものに手を出すことなど無意味だと思っていた。

 秩序と統制。この組合という”仕組み”が正しく運用されるのならば、それらが市場に布かれ、市場は発展するだろう。

 

「どう思う?」

「……実に面白い理想ではありますね」

「お前にそういう世辞は似合わん。素直に言え」

「理想とするには現実的ですが、現実であるなら理想的です」

「だが、お前はこれが上手くいくと思ったな?」

「否定はしません」

 

 市場とは課税対象であり、商人もまた勝手に湧く者であった。その印象を覆すのがこの”組合”である。

 完璧な統制が取れるのならば、国庫は潤うだろう。

 オットー自身、こうして草案を見れば実行できる。だが、それは実行できるだけである。

 これを思いつくなどよほどの狂人か、常識というものを理解していないか。オットーはそのどちらでも無い。

 

「これは陛下が?」

「俺が思いついていたなら、お前の眉間の皺は幾分か薄かったろうな」

「ご理解いただけているようで」

「こいつ……」

「して、どなたが?」

「ディーナ・ゲイルディア準男爵だ」

「……確か、リゲル殿下の元婚約者ですね」

「ああ。面白い女だぞ」

「陛下、色事は結構ですが、元とは言えご子息の元婚約者はいかがと思います」

「違うわ!」

 

 唾を飛ばしながら否定するシルベスタ王は堅物であるオットーの冗談とも本音とも取れる言葉に頭痛を覚えた。けれど、本題はそんな物ではない。

 オットーは改めて草案捲り、内容を頭で纏めていく。

 

「自分であるなら問題なく運用できると思ったな?」

「……はい。私ならば問題なく実行できるでしょう」

「他の貴族どもが妨害しなければな」

「国家主導にすればよろしい」

「こんな物を国家主導にしてみろ。我先にと馬鹿どもが利権を貪り、市場も制度も崩壊するぞ」

「そうでしょうな」

「こいつ……」

 

 オットーよりも深く眉間に皺を寄せたシルベスタ王は深く溜め息を吐き出してオットーを睨め付ける。

 この堅物は軽口は理解しない癖に、こうして自分を試す節がある。そういう意味でもオットーを財務監として就けたのだが。

 

「近日中にお前の元にディーナ嬢は来るだろう。与するかはお前の判断に任せる」

「……」

「そう眉間を寄せるな。また深くなるぞ」

 

 ケラケラとオットーへの仕返しをした王は笑い、オットーは余計に皺を深くした。

 

 

 

 ディーナ・ゲイルディアという名をオットー・メルツは知っていた。

 それこそ、ディーナ・ゲイルディアという存在に会ったことはないが、噂は堅物で社交界の花達からも毛嫌いされるような自分でも聞いた事はある。

 リゲル殿下の元婚約者。

 あのゲイルディア伯爵の娘。

 王城での軟禁。嫌疑はあったが証拠不十分で裁かれてもいない。

 そして数日前に魔術という論文を提出し、魔法議会にて承認されている。

 事実だけならばこの程度の情報である。

 噂話を含めれば、と考えたところでオットーは片眉を吊り上げて深く溜息を吐き出した。

 ゲイルディア家の噂話など知れている。少ないという意味ではなく、どのような噂であるかだ。

 

 悪名高きゲイルディア家。その娘であるディーナ・ゲイルディアが出した”組合”という組織草案。

 真意は不明である。草案から見て取れるのは国家や商人、そして市場を利用する民にとっては有益である。それは真意では無いだろう。

 あのゲイルディアである。

 何かしらの目的が存在する。

 それこそ”組合”という組織が多大なる利益を生み出す機構だとすれば、統括するディーナ・ゲイルディアにもその利益が入り込むだろう。

 

 おそらく本当の目的は組合の私物化。

 国益の為と謳いながらも、自身の利益を求めている。貴族らしい考えである。

 奇抜な発想でありながら、貴族としての枠内である。オットーはそう仮定した。

 そう仮定しなければディーナ・ゲイルディアという人間がどのように考えているかなど理解が出来なかった。

 罰されない悪であるディーナ・ゲイルディアという印象からの推察としては的を得ている。けれど、仮定である。確定ではない。

 シルベスタ王自身もディーナ・ゲイルディアという存在を測りかねているのだろう。故に、与するかはオットー自身に委ねた。

 試金石とされたのはディーナであるか、それとも自身であるか。

 

 

「御機嫌よう。お忙しい中、時間を取っていただき感謝致します。メルツ卿。財務を統括する卿の噂は予々(かねがね)お伺いしております」

 

 真紅のドレスを纏い、金色の髪を揺らしながら恭しく頭を下げた令嬢──ディーナ・ゲイルディアの言葉にオットー・メルツは眉間の皺を深くした。

 

「世辞は不要です。ご要件を」

「……話が早くてこちらも助かります。組合という組織を創設致しますので、王都で売りに出されている館の購入権をいただきたく参上致しました」

 

 オットーの一言に僅かに驚いて見せたディーナは表面上だけの笑みを消して、オットーへと書類を渡した。

 組合という組織に関しての草案であるが、オットー自身が見たものとは幾分か違う。より精査された物であり、そして教育部分は無い。

 市場と商人、そして職人を統制する組織。その構想である事には違いがない。

 パラパラと改めて読んでも歪みらしい歪みは存在しない。綺麗な組織図である。

 何もない状態からコレを思いつく異端者でありながら、才女とも呼べる女。

 ゲイルディアという家名でさえなければオットーは手放しで喜んだだろう。いいや、眉間に皺は寄っているが。

 ゲイルディアであることで余計に深くなった皺を認識しながらオットーは口を開く。

 

「なぜ王都に?」

「箔ですわね。国からの承認がない組織ではありますので、商人達も不審がることでしょう。その為の一歩ですわ」

「随分と飾らないお言葉ですな」

「飾り立てて卿の不信を買う方が不利益ですわ」

 

 オットーの眉間の皺は深くなる。

 一つだけ大きく溜め息を吐き出し、頭の中で利益と危険性を天秤にかける。

 貴族らしく飾った言葉を並べるのならば、とも思ったがオットーの一言でそれすら止めた女。貴族らしからぬ女である。

 数字と生きていた自分と同様に理知的な女だと判断できる。存外、他の貴族の子女たちと言葉を交わすよりも有意義であるかもしれない。

 

 けれど、この女はゲイルディアである。

 

「それに存じているとは思いますが、組合は国益の為になりますわ」

「国の為と? なかなか面白い冗談を仰る。私物化する為と正直に申された方が納得できますな」

「……なるほど。ではお互いの為に正直になりましょう」

 

 ──組合に一枚噛め。私物化のあかつきには卿にも利益が舞い込む。

 ディーナ・ゲイルディアが次に口にする言葉はそうであるとオットーは予想した。

 組合という組織が生み出す利益を考えれば、噛んだ方が良い。何よりこの理知的な悪の女は自身がどのように見られているかも理解しているだろう。

 そしてオットー・メルツという人間がどのように評価され、どのような人間かも加味しているはずだ。

 そうオットーは推察していた。

 

「現在の貴族中心の体制が終わりに向かっていますわ」

 

 オットーの眉間の皺がさらに深くなる。

 何を言っている? 

 現体制が終わるなどと、世迷い事である。ありえない。

 この組合という組織を提案している女が理知的だと思ったが、単なる夢想家である証明ではないか。

 

「現体制が崩れるなどと、まるで革命家のようなことを口にする」

「私が革命家であったのなら、卿と向かい合う時は処刑台となりますわ」

「過激なことを言う」

「不幸なことに、処刑台に登ることも、上げることも私は望んでないからこそ、今ここにいるのですわ」

 

 夢想家でありながら革命家ではない。

 けれど現体制は崩れるとディーナ・ゲイルディアは口にする。

 

「貨幣が行き渡り、民が蓄えを持ち始めた今、経済の主軸は土地から金銭へと移り変わり始めていますわ。その金銭は、やがて影響力を持ち始めるでしょう」

「ならば、貴族はそれをも税として組み込み、管理すればよろしい。土地と同じように」

「短期的には可能でしょう。ただし、過度な課税は反発を招きますわ。卿ならご理解しているとお思いますが」

 

 当然、理解している。

 オットーは財務監として幾つもの貴族を見てきた。そして滅びた貴族も。

 予想できてしまう。想定できてしまう。想像できてしまう。

 

「資金繰りが破綻寸前の家門が、それを示していますわ。彼らは税を維持するために借財を重ね、民からの搾取を強め、結果として民は逃げ、土地は痩せ、金も尽きましたわ」

 

 この女の言葉一つ一つが現実味を帯び、オットーの予想が明確に輪郭を形成していく。

 土地という支配の物理的な限界。貴族を支えていた物が容易く崩れていく。

 防ぐ手段は無い。既に金銭は動き、そして悲惨にもこの女の言葉通りとなるだろう。

 

「いずれ、貨幣の流れが貴族の手を離れ、より自由な市場へと繋がれば……現体制、貴族など容易く崩れ落ちますわ」

 

 頭が痛くなる。

 ディーナ・ゲイルディアは夢想など語っておらず、理論を重ね、事実を語っているだけであることをオットーは理解した。

 理解してしまった。貴族にとって最悪な未来を。

 全ての貴族が上手く動けば、とも考えるが不可能である。そうであるのならば、潰える家門など無かった。

 

 眉間に刻まれた皺越しに、頭痛を指の腹で撫でる。

 堪らなく、最悪であった。

 

「……その為の組合、というわけですか」

「ええ。流動し始めた今だからこそ、秩序と制度で制御すべきですもの」

「しかし、私物化の反論ではありますまい」

「ええ。だからこそ、その危惧を拭うために、オットー・メルツ子爵殿。貴方とこうして向き合っているのです」

「……貴女の申し出を断ることも可能ですが?」

「勿論。それでも私は小さな芽を育てますわ。やがて国を揺らす根となるでしょう」

「却下しても、いずれは成ると。傲慢なお考えだ」

「私が夢を語らない証明は先程した筈ですわ。そして、大樹となった時にはメルツ卿の手も果実に届かない」

 

 詰んでいた事をオットーは理解した。

 この悪の女はただ単純に筋を通すためにここにいる。

 館の購入権など体のいい理由でしかない。箔というのも事実であろうが、断られた所でディーナ・ゲイルディアは止まらない。

 逃すには大きすぎる利益。逃れられない体制の崩壊。

 オットーは深く息を吐き出して、思考を纏めあげる。

 

「館の件は考慮致しましょう。ただし、幾つか条件が」

「組合を国家主導とするのならばお断り致しますわ」

「財務監としてではなく、私から金銭を融資を受けること。利息は標準としましょう」

「……」

「次に、私が信頼する商人を一人紹介しましょう。その者を組合に入れること」

「……少しでも組合を目と手が届く範囲に置きたい、と?」

「今この芽に関わることで、成木に恩を売っているだけです」

「……断る理由もありませんわね。謹んでお受けいたしますわ」

 

 拭いきれない私物化という懸念は僅かであるが手を打てた。

 けれど、これすらもこの女の思惑の内であるかもしれない。

 悪の女という評価は間違いなどではない。

 同時に陛下の言う「面白い女」というのも間違いではないだろう。

 あの陛下がそう評したのだから、自分の眉間の皺は深くなり、溜め息が増えるのは道理であった。

 

 

 


 

 メルツ卿お抱えの商人と融資なんて驚きである。

 おそらく有力商人の紹介だろうし、上手く使わせてもらおう。

 融資の件もありがたい。初動にはそうしても金が掛かるし、他の貴族に恩を買われるのも避けたかった。陛下は巻き込めと言っていたけれど、あまり貴族を関わらせすぎるのもよろしくない。

 仕組みを作って運用するのは俺だけど、腐敗の温床になるのは目に見えているし。

 

 紹介される有力商人も監視の意味合いが強いだろうけど、仕組みでしかない俺の監視をした所で意味は無いんだよなぁ……。

 私物化とか考えてなかったし。

 確かに他の貴族から見て、ゲイルディアである俺の評判を考えれば妥当な答えとも言える。

 だいたいお父様が悪いよ。もしくはお母様か。どちらにせよ悪巧みしている風に見られるのは慣れている。

 その答えがわかっていたのなら、「私物化するから一枚噛みませんか?」って言ってもよかったけど、利害一致での協力は利害が一致しなくなった瞬間に爆発するし、組合の将来を考えれば好ましくない。

 

 何にしてもラッキーである。

 メルツ卿も魔法議会のクソ共と比べて話のわかる人間だったし、実に有意義だった。

 

「あら、今日はご機嫌ね」

「そうとも。こうして君と酒を交わす事ができるのだから幸せでいっぱいさ」

「私もたまたま来たのに?」

「偶然だね。俺も今来た所さ。店主、おかわりをもらえるかい?」

 

 二杯目を飲み終わって三杯目を注文しながら、エルタを隣へと促す。

 苦笑して隣へと座ったエルタもエールを頼み、口元に笑みを浮かべながら目を合わせてくる。

 

「それで、ご機嫌の理由を聞いても?」

「話のわかる貴族と出会ってね。頭の固い貴族だらけかと思っていたけれど、そうでは無かった事に喜びも感じるさ」

「……複数の貴族と会話ができる立場にいるのね、貴方」

「おっと。商談かもしれないよ」

「どうだか」

 

 運ばれてきたエールをにこやかに受け取ったエルタは俺を探るような事を口にしているけれど、正体を明かそうとは思っていないだろう。

 やっぱりどうにか組合に引き入れられないかな。王都にいる有力商人に組合の為に声掛けに行ったけど、どの商人の娘にもエルタは存在しなかった。

 じゃあ、ここにいる”有力商人の娘”は何なのか。そんな事はどうでもよかったりする。

 俺も彼女の正体を明かせとは言わない。探るからこそ面白いし、探り当てればこうした彼女との会話は終わりになるだろう。

 俺はディンではあるが、同時にディーナ・ゲイルディアである。彼女の正体を知り、組合へと引き入れれば、彼女と対面するのはディンではなく、ディーナ・ゲイルディアなのだ。

 

 だからこそ、こうした探りだけの言葉遊びをしている。

 きっと、お互いに。

 

「頭の固い貴族、というべきか。貴族の連中は”筋道が通っている話”を警戒しすぎだね。利得があるかで判断してくれれば手っ取り早いのに」

「……筋が通っているからこそ恐ろしい事もあるもの。正論は、時に人を殺すわ」

「耳が痛い話だね。まさか、俺を殺す気か?」

「さぁ、どうかしら」

「では、殺される前に飲んでおこう。俺の命はこの酒よりも安いからね」

 

 正論が人を殺すことなど、良く知っている。

 正論という盾を牙とし、人を害することなど身をもって知っている。

 どれほどの理屈と理論と論理を尽くしても、人は容易く壊れる。

 知っているからこそ、理義を守るのだけれど。

 

 思考を流すために酒を呷れば、隣にいるエルタがこちらをじっと見ている。

 

「この髪の手入れの仕方を知りたいのか?」

「まさか、本当に殺したのかしら?」

「まさか。俺の返り討ちさ」

 

 思わず笑ってしまう。

 古い記憶であるというのに、鮮明な事実。既に終わっている事である。

 今となってはいい経験とも言えるし、言えるようになった。言葉に出す必要性は感じないけれど。

 

「正論は鋭いさ。刺されれば血が出るし、心臓を貫けば、そりゃぁ死ぬさ。だが、妥協はどうだ?」

「妥協も、時に人を殺すわ。ゆっくりと、誰にも気付かれずに」

「正論が刃なら、妥協は毒か。急か、遅いかの違いでしかないね」

「では、ディンはどちらを選ぶの? 毒か、刃か」

「選ばずに済むならそれが一番いいさ」

「それでも毒も刃も、どちらも振るう覚悟は必要よ。特に国のためならば」

 

 それはそうである。

 覚悟は必要であるし、国の為にどちらも振るう時はあるだろう。

 それでも選ばないという選択が最良である場合の方が多いのが、人間という生物の面倒な所でもある。

 

「一介の商人の娘が国のためとは大きく出たね」

「……夢や理想を語るのは悪いことではないでしょう?」

「ご尤もだ。力のない俺たちでは国のために理想を吐くしかできない」

「次は私を正論で殺す気かしら?」

「まさか! 気の合う相手を殺す気なんてないさ。そんな君に一つ助言をしよう。国のためにね」

「何かしら?」

「酒をもう一杯頼むのさ」

「……ええ、付き合ってあげるわ」

 

 ぐいっと飲み干して追加のエールを二つ頼む。

 一つは自分のためであるし、もう一つは気の合う相手のためである。

 エルタが飲み干したのを見ながら、ニヤリと笑ってしまう。

 

「それで、この一杯がどうして国のために?」

「おっと正論はよしたまえよ。その手は正論の剣を握るには華奢すぎる」

「試してみる?」

「まあ落ち着いてくれ。酒もきた。握るのは剣ではなくそっちにしてくれ」

 

 ジョッキの把手を握り、軽く持ち上げる。

 睨まれているけれど、正論で殺されるなどもう勘弁してほしい。

 溜め息が一つ聞こえて、エルタもジョッキを手に取る。

 

「まあいいわ。それで、まだ質問には答えてもらってないけれど?」

「ふむ……この一杯、市民が払える程度の額だが、その売れ行きは多い。この酒場が栄えれば、商人の取引も増えるだろう」

「この一杯程度で変化するものではないでしょ」

「おっとバレてしまった。けれど、この一杯で変化するものもある」

「例えば?」

「会計が増えてしまうのさ!」

「聞いた私が馬鹿だったかしら」

「酒精を飲むのだから馬鹿の方が楽ではあるよ」

 

 呆れているエルタを横目に酒を飲む。美味しい。

 高い酒はそれはそれで美味しいけれど、こうして他者と飲み交わす酒は安くとも美味しく感じる。

 会計の数字は増えていくけれど。

 

「……あなた、よく喋るのね」

「寡黙でいられるほど達観はしていないからね」

「達観、ね。私も、そうなれたなら少しは楽だったかしら」

「……達観を望む人間ほど、真面目で優秀で、不器用とも思うよ。そして達観した人間なんてただ選択を放棄した木偶と変わらんよ」

 

 そうならないように人は選択をするのだから。

 

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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