悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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生存報告と匿名外します。目的は達成いたしました(意味深)


08.悪役令嬢は婚約したい!

 メイドさんの後ろを着いていくという事に対して俺が思うことがあるとするのならば、イイお尻だなぁ、という事ぐらいである。擦れる布音と歩く度に動く臀部。骨格の都合上仕方なく、そう仕方なくである。

 女性らしい体つきも大変よろしい。お尻を揉みたい。いいや、いけないこれは邪念である。アマリナにもちゃんとご飯を食べさせないといけないな。ヘリオの奴にも栄養は必要だろう。

 はてさて、ミニスカメイドなんて物は存在せずに俺の視点上古風と思える一般的なメイドさんの後ろを歩きながら会話も無く、ただただ思慮の中へと没入できる。何よりメイドさんという物は大変よい。特に王城仕えというのが実にいい。

 そんなメイドさんのお尻を見学しながらリゲル王子の事を考える。第二王子、つまり王位継承権二位の息子である。現在の王族に関しては調べる時間もなかったから上にいるであろう第一王子様が何歳であるかもわからず、リゲル王子の下に妹か弟がいるかもわからない。

 王女が王子になる理由が必要ならどんな理由があるだろうか。第一王子が病弱で、娘として産まれたリゲル王女が王の都合で王子になった、とか。単なる男装趣味とか。偽る理由が必要なのか。

 沢山の理由が思いつくが、事実は不明のままだ。

 何にしても、俺が嫁ぐ相手であり、俺の婿になる相手だ。好きになる必要はないが、好かれる必要はあるだろう。手土産の一つや二つ持ってくるべきだったか。いいや、相手は子供だぞ。

 

「――ゲイルディア様? 到着致しましたわ」

「っと、申し訳ありませんわ。お城の風景に見惚れていましたわ」

 

 危ない。思考に埋没するのは一人の時だけにしよう。アマリナやヘリオの時もそうだったけど、どうにも変な癖がついてるみたいだ。シャリィ先生も目撃してるか? いや、注意してこないし多分大丈夫な筈だ。あの人も勝手に思考飛ばしてこっちの話聞いてない事あるし、お互い様だろうけど。

 さて、出会うのは王子様であるし身嗜みを軽く整えておかなくてはならない。自分の感覚上では整っていると思っていても、という事はざらにあるのだ。服装に変な折り目はついてないか。髪型は大丈夫か。ちゃんと笑えるだろうか。俺は知っているんだ。第一印象がどれだけ重要なのかを。

 やめてメイドさん! そんな生暖かい目で見ないで! 恥ずかしいから見ないで!

 コホン、とわざとらしく咳き込めばメイドさんがすぐに顔を背けて扉に向いた。それはそれでなんか複雑なんだよなぁ。

 メイドさんがノックをすれば扉の向こうから声が聞こえた。幼さを感じさせる声。実際幼いのだろうけど。

 

 あー変な緊張してきた。緩く瞼を閉じて、深呼吸を一つ。

 扉の開く音と一緒に瞼を上げる。開いていく扉の先、窓から差し込む光の中。窓際に佇む調度品のようなメイドさん。そのメイドさん達の視線の先。黒髪を短く切り整えられた存在。

 開いた扉か、ノックに反応していたのかその存在は俺の方を向いている。どこか懐かしさを思い出させるような、けれど違和感のある顔立ち。着せられているであろう少し豪奢な服も着こなしている。

 目を奪われた。というのは本心である。頭の中にあったおべんちゃらも無くなった。きっと将来この存在は美形になるに違いないと先ほど見た直系であろう王様を思い出して感じる。

 そして同時に、ワンチャン、あるんじゃないか? と脳に過ぎる。あまりにもこの王子様が可愛らし過ぎるので、きっと、もしかしたら、あるのかも知れない。

 だから俺は一歩前に出て、スカートの端をつまみ上げて頭を下げる。

 

「はじめまして、リゲル様。ワタクシの名はディーナ。ディーナ・ゲイルディアですわ」

 

 下げた頭を上げてニッコリと微笑む。微笑んでる。頑張れ俺の表情筋。なんかウチのメイドさんに引かれてるから鏡の前で何回か笑顔の練習をしただろう! 今こそ練習の成果を見せる時だぞ!

 バクバクと心臓が響く。ああ、その声を聞かせてほしい。信じてるぞ。俺にワンチャンあるって信じてるぞ!

 

「はじめまして、でぃーな……嬢。ぼくは、しるべすた王国のだいにおうじである、リゲルで……だ」

 

 その言葉に俺は思わず唖然とした。

 ガッデム!! 神は死んだ!! 幼い少女の声ではない!! クソったれ! もう何度目かになる神様の裏切りだ! 礼拝の時は覚えてろよ!

 いいや、そうじゃない。それは確かに少年の声であった。それはいい。確かに辛いけれど、まあいいだろう。女の子がよかったけれど現実なんてそんな物だ。諦める。

 その辿々しさや、言えた事での安堵した顔、メイドさん達のほっこりしたような表情。確かに俺もほっこりした。よくできましたって撫でてあげたい。可愛い。いいや絆されるな俺。

 確か、同い年である。間違いなく。その事を自分と対比すれば自分の異常性に気づく。自宅では自分勝手に色々とできていたが、確かにマズイ。落ち着け。表情を崩すな。

 しかし今更幼児化した所で取り返しはつかない。ならば進むだけである。俺は天才令嬢になるからな。

 お父様もお母様もメイドも何も言ってくれなかったから、俺がワールド・スタンダードだと思ってた。今の所見逃してくれているだけで、このまま何も考えずに育っていればマズかったかもしれない。悪魔憑きからの勘当ルートなど百合ハーレムの障害にしかならない。

 ありがとうリゲル様! 助かったぞ! さっすが婚約者! 相手の悪い部分をフォローするのが上手い!

 

「でぃーなは、ぼくのともだちになって、くれるの?」

「――……ええ。リゲル様。ワタクシとお友達になりましょう」

「やった!」

 

 両手を上げて喜ぶリゲル様。可愛い。なんだこの愛らしい存在は。こんなに可愛い存在が女の子な訳ないだろ。

 喜んでいるリゲル様を見ながら静かに息を吐き出す。トモダチ、である。婚約者とは随分関係性の違う間柄になってしまったけれど、五歳に理解しろというのも問題であろう。その辺り、我が王様はしっかりと事を運んだのだろう。お父様も見習って、どうぞ。

 そう考えると、お父様は俺の事を許容しているのだろう。親の視点で俺がどう写っているかなどわからないけれど。よもや「嫁げ」と言って「OK」と返ってくるなんて思わなかっただろう。いや、あのヴィラン顔は思ってるかもしれない。

 ともかくとして、俺のやるべき事はこの王子様と仲良くなる事なんだろう。別に嫌ってくれてもいいのだけれど、可愛い存在に嫌いなんて言われると落ち込むので頑張らないと……。

 

 

 

 

 

 

 子供の体力を嘗めていた。まあ走る走る。動く動く。アレクは大人しい方だったんだな、としみじみと感じてしまう。

 どちらかと言えばインドア派の俺であるが、ヘリオの為に剣術指南を受けているのが功を奏したのか、体力的には問題ない。けれどもまあ、走った。疲れた。

 庭園を走り回ったリゲル様はその体力を使い切ったのか、電池が切れたように眠った。信用が勝ち取れたのか俺の手をしっかりと握ったまま眠っている。メイドさん達からの生暖かい視線を受けたけれど気にしない。俺は幼女、俺は幼女。

 彼のベッドルームに入る、なんて十数年後にしたら襲われるような事であっても今の俺達からしてみれば単なるお昼寝の時間である。俺は眠くもないのだけれど。

 ベッドで眠っているリゲル様の隣でベッドに座りながらリゲル様に手を握られている俺。お姉さんしている感じがするけれど、同い年である。

 

 黒い事を言うなら、今の内に俺の意見無しでは動けないように洗脳教育すれば将来的に俺がこの国を操り、可愛い女の子をリゲル様に嫁がせるという名目で俺の百合ハーレムの増築ができるだろう。

 しかし、まあ、それは無い。俺は俺の力で百合ハーレムを築きたいし、それにより不幸になる存在が現れるのは本意ではない。何より国の運営なんて興味の欠片もない。

 お父様には申し訳ないけれど、玉座は諦めてもらおう。うん。やめとけって。悪役なのは顔だけでいいし、玉座奪った所ですぐに第一王子様とかがやってきて討伐されるのが見える見える。

 

「ん~、……」

 

 ため息を吐き出せば眠っているリゲル様がむにゃむにゃと口を動かしてまた夢の世界へと旅立った。艷やかな黒髪を撫でれば口元が緩んで擽ったそうにする。

 はぁー……可愛い。俺の婚約者可愛すぎない? これで育ったらイケメンだろ?

 百合ハーレムを作る俺であるけれど、その接点としてリゲル様との繋がりはあったほうがいいだろう。間違いないね。決してイケメンにやられた訳じゃない。これだけは真実を伝えたかった。

 

 しかし、暇である。眠くもないし。魔法式を展開して失敗すれば隣にいるリゲル様に被害を与えるかもしれない。そんな事をしてみろ。俺の首はアッサリ飛ぶ。間違いないね。

 さて、どうしたものか、と考えていれば扉が開いた。メイドさんが俺のフォローをしに来たかなぁとか考えたけれど顔を覗かせたのは黒い髪。ぎゅっと抱きしめている本が実に印象的であるけれど、そんな事よりなんて愛らしい子なんだ!! まじかよ! お姫様じゃん! 婚約者になろう!

 大きな瞳でこちらを見てくる黒髪の少女。見える服装や控えているメイドさん、髪の色から察すれば彼女は王族なのだろう。お姫様である。正真正銘。間違いない。リゲルに手を握られてなかったらスグに行って撫で回していただろう。だからリゲル、この手を離せ! 俺は! あの子を撫でるんだ!!

 

「はじめまして、ワタクシはディーナ。貴女のお名前は?」

 

 緩む顔を無理やり隠して、なるべく穏やかな声色を使って問いかける。扉の向こうに引っ込んだ。かわいいー。リゲルのせいで追いかけられない。クソかな?

 天使はすぐにまた顔を覗かせてきて、俺をじぃっと見つめてくる。なるほど、神様、これは俺に与えられた試練なのですね……感謝します神様。ありがとう。次の礼拝の時は期待していてくれ。

 

 意識を集中させる。普段使っている右手はリゲルに握られているから左手を前に出す。魔法式を構築。入力式、属性式。命令式。攻撃性などない、薄皮の空気を維持させたふわふわと浮く空気の塊。わかりやすいように空気中に漂う水蒸気を集めて雲を生成させる。出力。

 手のひらの上に出来上がった拳大の雲。出来たという安堵と気持ちのいい疲労が俺の体を通る。もう少し改変できるだろうが、今はこれで十分だ。

 ふわふわと浮いた雲の塊をフーと扉の方へと飛ばす。ふわふわと頼りなく浮かんでいる雲の塊であるがその実表面は空気の膜で覆っているからちょっとやそっとじゃ崩れない。

 ぽよん、と床を跳ねた雲が幼女の前にきて、幼女の目が輝く。今にも本を投げ捨てそうだけれど、それはいけない。本は文化の塊である。まあ魔法使い様の本達は尊厳の塊であったけれど。

 空間を意識しながら小さな気流を発現させて雲塊をこちらに寄せて、天井へと浮かして弾けさせる。空気中で凍ったのか、キラキラと名残を遺して消えていく雲塊。すまない……お前は幼女の気を引くためだけの魔法だ……。いつか昇華させてやるからな。

 

 さて、と幼女ちゃんの方を向けば相変わらずキラキラとした瞳で俺の方を向いている。ドヤァ。凄いだろ? 俺の百合ハーレムに入ろう! な!

 おいでおいで、と手招きすればテトテトとこちらに寄ってくる幼女ちゃん。可愛い。後ろに控えていたメイドさんが顔をこっそりと覗かせてきたので大丈夫ですよー、と笑ってみる。危害は加えないぞー。

 

「はじめまして、ワタクシはディーナ。貴女のお名前は?」

「……スピカ」

「はじめまして、スピカ」

 

 姫も何もつけないのはそっちのほうが仲良くなれる気がしたからだ。リゲル? ああ、うん。まあ気にするなよ兄弟。俺だって仲良くはしたいさ。たぶんね。

 

「それで、どうしてここに来たの?」

「あのね、わたしね、おにいさまにね、ごほんを読んでほしくてきたの」

「そっかー」

 

 可愛いなぁ。そのお兄様は遊び疲れて爆睡中なんだけどね。ゴメンね。

 ぎゅーってしたい気持ちを押さえつけながら、スピカちゃんに提案してみる。

 

「ではワタクシが読んであげましょう」

「……ほんと?」

「ええ。本当ですわ。さあ、こっちにおいでまし」

 

 俺の隣においでぇ……へへへ。もっと近くにおいでぇ……。おい、リゲルちょっと詰めろよ。

 自分の場所を少し移動させてスピカちゃんをベッドに座らせる。はァー……ちょこんって座ってて可愛い。お人形さんかなぁ。天使だな。歪みねぇな。

 渡された本は俺も読んだ事のある物語だ。どこからともなく現れた異国の勇者が魔王を倒すまでの話。そしてお姫様と結婚する話である。シルベスタ王国の出来上がり方でもある。

 リゲルもこのまま可愛いまま育ってほしいけれど、たぶん無理なんだろうなぁ……。ツラ……ご本読んでアゲヨ……。

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