悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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89.悪役令嬢は説きたい!

 王城を歩く俺に対しての陰口は減った。

 減っただけでまだ言われることはある。それを気にはしないけれど減った事は実に喜ばしいことだ。

 代わりに貴族らしく挨拶をすれば怯えられたり、組合に関してや、贈呈品のあれそれを聞かれるようになったが。

 俺は商人にはなれないし、なる気もない。そういうのは組合所属の商人に伝えてねッ! を丁寧に伝えるのだけれど。

 公平である、という組合の理念を提唱した手前、変に肩入れもできない。する気も無いけれど。

 贔屓するなら贔屓するだけの利益がでなくてはならない。それも俺や商人個人ではなくて組合として。

 それに関しては、陛下であれ、貴族であれ、庶民であれ公平であり続けなければならない。

 国の命令があれば流石に考えなければならないが……財務監であるメルツ卿や陛下が組合に手を出すとは考えにくいし、相応の税は支払っている。

 

 商人的には俺が国家とズブズブの関係である事は知り得ないし、知らなくともいい情報でもある。聞かれれば答えるが全てを答える必要もない。

 そもそも国家の為に組合を作ったわけではないし、俺が作らなくとも誰かが作ったであろう物だ。

 

「ごきげんよう、スピカ様」

「お久しぶりです! お義姉様!」

 

 笑顔が眩しい! かわいい! 

 でも内面はちゃんと王女としての立場を理解して立ち回っているスピカ様である。

 今日王城に召されたのはスピカ様からのお茶会の誘いである。断れる立場であっても来るに決まってるよなぁ! 

 

 淑女らしくカーテシで礼をしようとすれば抱きつかれる。身長はまだ俺のほうが高いが、昔よりも成長したことが実感できる。身長の話だ。

 周りからも見られているが、スピカ様との関係性は公けのものなので問題はない。つまりたくさん愛でることができるのである。

 

 左手で軽く頭を撫でて離れれば、スピカ様は俺の左隣にきて一緒に歩いてくれる。

 気配りもできていい娘だ。

 

「それで、ただのお茶会ではありませんのよね?」

 

 賢いスピカ様が俺とお茶する為だけに呼んだとは考えづらい。そうであったなら嬉しいけれど、それは俺の願望であってスピカ様の気持ちでもない。

 俺の問いに対してスピカ様は少しだけ申し訳なさそうな顔をする。

 

「本当はそうしたかったんです。お義姉様とご一緒できるのなんて少ないもの」

「呼んでいただければいかなる時でも来ますわ」

「……お義姉様は私の性格をよく理解されているようで」

 

 ぷくぅと頬を膨らませて愛らしくしてみせるスピカ様に微笑みを向ける。

 スピカ様の本来の性格上、組合や魔術関係で忙しくしている俺を呼ぶことは少ないだろう。それこそ必要な事でなければ呼ばない。

 賢すぎる、と言ってもいい。色々なことを考慮してしまう。

 拗ねている愛らしく賢い妹分の頬を左手の指で押せばこれまた可愛らしく笑ってくれる。

 

「組合の報告書も魔術研究の論文も提出していますが……何かご不明な点でも?」

「どちらも問題ありませんでした。少しでも間違っていれば呼び出せたのに」

「では、どうして?」

「……本当に、本当に、とても、凄く、気が進まなかったのですが、頼まれたので」

 

 頼まれた? 誰にだ? 

 スピカ様がこんなに毛嫌いしていて、一王女に頼み事ができる相手……陛下か? 

 いや、陛下なら直接俺を呼び出すだろうし。バレずに呼ぶならクロジンデに伝えるだろう。

 少しだけ考えて、思い当たる人物が出てこず、諦める。

 まあすぐに解ることである。

 

 スピカ様に連れられて、庭園に出る。

 開けた視界と整えられた草木。咲き誇る花たちに庭師たちの努力と才能を感じる。

 開けている場所だから、聞き耳を立てている人間も確認できるし、部屋で密談しているより怪しさもない。

 

 ガゼボの下には黒髪が二人。

 二人とも見知った顔ではある。懸念は払拭されたので、スピカ様の頭を左手で撫でる。

 スピカ様が心配するような問題ではないし、俺に申し訳なさそうにする必要性もなかった。

 

 黒髪の片方が俺に気付いたようで立ち上がる。

 悠々と座られても扱いに困るが、そうして申し訳なさそうな顔をされるのも俺としては困る。

 スピカ様と歩きながらガゼボに近付き、俺は手を伸ばす。

 

「この馬鹿娘」

「いひゃい、いひゃいよ、でぃーあさん」

 

 両頬をつねり、伸ばす。思ったよりも伸びるものだ。

 スピカ様に頼み事をしたのはアサヒであった。アサヒも立場的には俺を呼びつけても問題ないが、周りのことを考えてスピカ様に頼んだのだろう。そうであってほしい。

 一通りつねってから、アサヒの隣で座っているよく知る顔に礼をする。

 

「これはリゲル殿下。ご機嫌麗しゅう」

「……誰も見てはいない。以前のままでいい」

「嫌ですわ」

 

 これは俺がリゲルに筋を通させる為でもあるし、ケジメでもある。

 むぅ、と口をへの字に曲げたリゲルに苦笑して、スピカ様の椅子を引いて座らせてから俺も席につく。

 

「この場に呼ばれた理由は察せれますが、一応何故かお伺いしてもよろしくて?」

「私がディーナさんに謝りたくて、スピカちゃんに頼んだの」

「なるほど。それで、スピカ様もリゲル殿下もアサヒが何をしたかはご存知で?」

「噂程度だが」

「私も同じです」

 

 なるほど。馬鹿娘の発言内容までは知らないと考える方がいいかな。

 噂でも王族にギリギリ連なりそうな人間の悪い発言は言わないだろうし。むしろ、俺がエレーナ様のお茶会で政治的な発言をした方が噂されているだろう。

 

「先に言いますが、アサヒの謝罪はいらないわ。受け取らない、ではなくて必要がありませんので」

「でも、私のせいでディーナさんは悪く言われてるのに」

「悪く言われるのには慣れてますし、至極どうでもいい話でもありますわね。そうね。頬をつねった事で満足したと思いなさい」

 

 実際、アサヒの謝罪は必要ない。

 あの場で咎められるべきは俺だったし、放置するという選択をしなかったのは俺である。

 それはそれとして、馬鹿娘ではあったが。

 

「アサヒ。あのお茶会での発言が問題であったのは理解しているかしら?」

「……政治の話になっちゃったから?」

「それは私が政治として取り扱ったからよ。本題は貴女という立場の人間が奴隷を一人の人間として扱い、国家として奴隷解放をするような発言をしたことですわ」

 

 大きな問題である。ただ根本的な問題としてアサヒの認知不足な面が多い。

 純粋であることは大いに構わない。無知であっても教えればいいが、自分の立ち位置の認知はしてほしい。

 頭を抱えるスピカ様と眉尻を下げて申し訳なさそうにこちらを見るリゲル。

 

「さっきも申し上げましたが、謝罪や感謝は不必要ですわ」

「む……しかしだな」

「リゲル殿下。起こった事であり、未然に防げた。あの時はそれでいいですわ。アサヒの頬をつねった事で私の気も済みました」

「むぅ……」

 

 むぅ、じゃない。

 やめろ。お前とスピカ様のそういう顔には弱いんだから。

 甘い香りのする、紅茶を一口飲んで唇を湿らせる。

 

「さて、アサヒの立ち位置の話をしましょう。私から見れば馬鹿娘ですし、アサヒ自身で見た時も普通の少女とでも思っているのでしょう。リゲル殿下の婚約者である、という自覚はあるでしょうけど」

「う、うん。何か違うの?」

「合ってますわ。ただ、リゲル殿下の婚約者、つまり貴女は次期王妃ですし、国家側の人間であることは意識していないでしょう」

「……はい」

「別に叱ってる訳じゃありませんわ。貴女自身がどうであれ、そう見られているというのは理解なさい」

 

 しょんぼりしてるアサヒに溜め息を吐きながら説いていく。

 他者にどう見られているか。少なからず人は意識するものであるが、アサヒの意識が足りなかった。

 転移してきた少女であり、責務を押し付けるのも気が引けるが、そういう立場となってしまったのだ。

 

「国家側の人間が奴隷解放を宣言すればどうなるか。今の奴隷事業は破綻しますし、奴隷という労働力を失う。それだけならまだいいですわ。最悪は貴族による国家への反乱ですわね」

「貴族がか?」

「ええ。奴隷解放宣言をしてすぐに、ではないでしょうけど。国家に対する不信は残るでしょうし、失った信頼を積み上げるのは時間が掛かりますわ」

 

 リゲルの問いに答えながら最悪を想定していく。

 尤も、反乱まで行き着くまでに排除すれば問題は消えるが、国家としての信頼は地を這うだろう。

 今の陛下は暴君ではないし、反乱自体は下火程度で終わるだろう。

 リゲルが王となってから、アサヒが奴隷解放を唱えれば……あまり考えたくはない。

 起こってもない事なので、俺の杞憂が大半だが。起こりうる可能性として捨てきれない予想でもある。

 

「と、見え方と建前の話は理解しましたわね?」

「う、うん……えっと」

「ではアサヒ自身の認知の歪みを修正……というよりは、他の誰もが当然として処理してしまっていた内容ですわね」

 

 謝罪を言われそうな気がしたのでさくっと話題を進める。

 本当に謝罪は求めてない。別に公的なお茶会でも無いし、俺として困ることはないが。覚え続けてもらわないと困る。

 

「リゲル殿下。スピカ様。奴隷とは人でありますか?」

「……哲学か?」

「いえ、地位……扱いとしての話ですわ」

「……人ではないな」

「私も同じ意見です」

 

 少しだけ意地が悪い質問をする。

 リゲルとスピカ様の答えはアサヒにとっては無情な答えである。

 そもそもの根本として、アサヒはこの認識がない。

 貴族として育ったアレクも無かった事だ。俺も公的にはアマリナやヘリオを物として扱ってもいる。

 

「そんなのおかしいよ!」

「ではアサヒの認識を聞きましょう」

「もちろん、私たちと同じ人間だよ」

 

 感情的に否定を吐き出したアサヒに同じ質問を投げれば当然という風な答えが返ってくる。

 アサヒの意見もまた正しい。

 正しいけれど、間違ってもいる。

 

「リゲル殿下。人とは?」

「……我が国民だな」

「奴隷は国民ではないと?」

「ああ」

 

 どうにも眉間にシワを寄せている辺り、一応思うことはありそうである。

 問い詰める意味はないし、個人の思想にとやかく言うつもりはない。

 今の問題はリゲルとスピカ様の答えを聞いて俯いているアサヒである。

 

「さて、アサヒ。これが貴族の基準ですわ。リゲル殿下もスピカ様も王族なので、ズレもあるでしょうけれど、おおよその基準ですわ」

 

 これは覆しようがない事実である。アサヒにとっては受け入れがたい事実だろうけど。

 紅茶を飲みながら暗い顔をするアサヒを見つめる。

 この事実を覆すためには根本を解決しなければならず、根本を解決したところで上手くいくとも言い難い。

 

「ディーナの答えはなんなんだ?」

「……公的な答えなら奴隷は物ですわね」

「この場で答えるなら?」

「民という階級すらない人間、ですわね。奴隷であっても、貴族であっても、王族であっても人は人でしかありませんわ」

 

 所詮はそうでしかない。

 一貴族の、それも準男爵である俺の発言であるし、この場は公け(おおやけ)なお茶会でもない。

 公的なお茶会なら俺はスピカ様に頭を下げて帰らされるだろう。

 

「アサヒの認識として、ズレがあるのは理解できたわね?」

「……私が、間違ってたの?」

「答えは否ですわ。ただ、あのお茶会で言うべきではなかっただけですわね」

 

 紅茶を一口飲み、答える。

 間違ってはいない。

 それこそ、現代……アサヒの感性としては奴隷制度なんて差別の象徴だろうし、奴隷を解放したいという気持ちになるのも解らないでもない。

 ただ発言の場と時期が悪すぎた。

 

「あのお茶会で奴隷解放を目指してる、などと言えばお茶会が破綻しますし、主催であるエレーナ様の顔に泥を塗る言動ですわね」

「エレーナさまには、ちゃんと謝ります……」

「ええ。誠意をもって謝罪すれば問題ないと思いますわ」

 

 エレーナ様的にも王家と橋渡しできる手札は多く欲しいだろうから、邪険に扱われることはないだろう。

 お母様からの話とあのお茶会を見た限り、エレーナ様自身も自分の派閥はあるが政治的なバランス感覚は長けている。上手くアサヒを使ってくれればアサヒにとってもいい結果になるだろう。

 少しだけアサヒとエレーナ様とのやり取りを想定して、心配事が出来た。

 

「一応、言っておくけれど、何度か手紙のやり取りをして様子を見なさい。いきなり出向いて謝罪をしてもエレーナ様の迷惑ですわよ」

「……ディーナさんは私の頭の中が見えてるの?」

「見えてたら未然に防げてたわよ、馬鹿娘」

 

 もう一回つねるぞ。

 貴族の常識は覚えて欲しい。教育係は……まあ妃教育で手一杯か。貴族の政治は教えてるだろうけど、この純真馬鹿娘は先に行動しそうだ。

 

 純真なのはいいが、今回の一件は危なかった。

 ある程度は防ぐけれど、少なからずアサヒを敵視する人間も出てくるだろうし、リゲルにすり寄る貴族も増えるだろう。

 安心すべきところはリゲルがアサヒにちゃんと惹かれている点だな。俺がアサヒの立場であの発言してたら断頭台の錆びになっていただろう。

 

 紅茶を一口飲んで、思慮の中にいたスピカ様が恐る恐るという風に口を開く。

 

「お義姉様は……奴隷解放に賛成なのですか?」

「そうなの?」

「今のままでは反対ですわね。アサヒにはお茶会の時に言いましたが、奴隷を解放したところで彼らを雇える場所がありませんわ。生活基盤がない所に放り出された奴隷は野盗にでもなるでしょうし」

「……ああ。そういう事ですか」

 

 納得したように頷いて、微笑むスピカ様。

 スピカ様はとても賢いなぁ。

 今の俺の回答だけで答えを導きだした。頭を撫でてあげよう。

 可憐に笑う才女の髪を楽しみながら、頭を混乱させているアサヒとリゲルに視線を向ける。

 

「俺にはよくわからんのだが」

「当然でしょう。陛下にも言っておりませんし」

「親父にもか……」

「えっと、つまり、生活基盤さえあれば奴隷解放ができるってこと?」

「単純化すれば、ですけれど。他にも問題点は幾つもありますわ」

 

 それこそアサヒは知っている筈の知識だ。

 身近ではないだろうが、知識として知っているだろう。

 

「でもディーナさんはお茶会の時に『国がするなんて言うなー』って言ってたよね?」

「ええ。国家の資産がどれほどの物か皆目検討もつきませんけど……実際のところはどうですの?」

「……答えられるわけないだろう」

「試しただけですわ」

 

 これで答えてたらメルツ卿も交えて説教である。

 公的であれ、私的であれ、答えるべきものではない。

 国家の透明性など、求められてもいないだろうし。求めるような人間は貴族であるし、王や国家に探りをいれる怖いもの知らずの貴族はいない。

 

「国家ができるできないはさておき。あの場で国がすると貴女が言いそうと思ったから咎めただけですわ」

「やっぱり頭の中が見られてる……」

「あの場で国がする、と発言するのは正規手順を踏み倒した宣言になってしまいますわ。本当に驚いたのだからやめてくださる?」

「その節は、はい……以後気をつけます」

 

 本当に気を付けてほしい。

 色々すっ飛ばした奴隷解放宣言になるし、準備もなにも出来てないまま奴隷たちも放り出されてしまう。

 

「国家は貴族たちの反発もあるからできない。貴族側としても奴隷解放なんてしたくはない。だから今すぐに奴隷制度を崩すことは不可能ですわ」

「そうだよね……反対だよね」

「何を言ってますの。奴隷解放については賛成ですわよ」

「……えぇ、っと? 無理って話だったよね?」

「ええ。今すぐには貴族がいるから無理ですわね」

「……ディーナ、貴族を全員屈服させるとは言わないよな?」

「リゲル殿下は私がそれをするとお思いで?」

 

 否定が飛んでこない代わりに、リゲルは気まずそうに目を逸らして紅茶へと口をつけた。こいつ……。

 

「お義姉様はそんな野蛮なことはしません!」

「スピカ様……!」

「ただ相手に交渉する術を持たせないまま、自分の有利な方へ持ち込むんです」

「スピカ様?」

「冗談ですよ、お義姉様」

 

 えへへ、と笑うスピカ様。かわいいのでいいか……。

 実際、それが出来るならしただろう。手っ取り早いし、何より面倒が少ない。覚悟は必要だろうが、必要なだけである。

 

「話を戻しますけれど、私は奴隷解放には賛成ですわ」

「でも無理なんだよね?」

「今すぐは。さっきも言ったけれど生活基盤……働き口がない。給金が貰えないから食べ物も買えない。あとは元は奴隷という認識もあるから難しいですわね」

「どうすればいいんだろ?」

 

 答えは幾つもある。他者ではなく自分が動ける範囲で考えているだろう。

 ニヤニヤとアサヒを観察していると、眉間にシワを寄せているリゲルが俺を見ている。

 

「ディーナ、その為の商人組合か?」

「目的の一つではありますわ」

「……他の貴族が黙ってないぞ」

「ただ労働力として奴隷を雇い入れた、そういう形に見えれば貴族に咎められる筋合いはありませんわね」

「……しかしだな」

「お兄様。お義姉様は止まりませんよ」

 

 スピカ様は俺を暴れ馬かなにかだと思っておられる? 

 本気で止められたら止まるよ、たぶん。

 殺されれば止まるので安心である。

 

「止まる止まらないはいいとして、アサヒは理解できてるかしら?」

「すごい、ふんわりと」

「商人組合……まあ商人を纏めて市場を精査して安定を目指す組織ですわね」

「ふんふん」

「商人、職人への仕事の斡旋もしていますわ」

「なるほど……? あ、わかった。働き口が出来たんだ」

「まだ無理ですけれど、数年以内には着手したいわね」

 

 焦るような内容ではない。

 どうせ数十年以上も掛かる内容である。数十年経っても問題になっているかもしれない。

 その頃には市場は掌握しているだろうし、文句を言ってくるような貴族もいなくなるだろう。

 

「ディーナさんも奴隷を解放したいんだ」

「生憎、貴女のような慈悲や人道的なものはありませんわ」

「じゃあなんで?」

「奴隷制度は短期的に見れば利益的ですけれど、長期的に見れば損失の方が大きいからよ」

 

 理論として言うなら結局のところこれである。

 貴族も市民も、奴隷全てにも言えることだが不満が蓄積すれば爆発する。

 奴隷は立場的に不満が溜まりやすいし、貴族はそれを些細なことだと判断してしまう。

 まだ起こっていないだけで、反旗を翻されたら人的被害も多くなる。奴隷も、兵も死ぬ。国も疲弊してしまう。

 俺の行き過ぎた杞憂ならいいが、防げる物を放置する意味もない。保険は多い方がいいだろう。

 

「商人組合には他の意図もあるのか?」

「……さぁ、どうかしら?」

 

 リゲルへの答えは隠しておこう。

 貴族制度を崩すとか、経済成長とか。知られても問題はないけど、教えなくてもいい内容でもある。

 詰められれば答える気ではある。立場的にもリゲルの方が上だし。

 はぐらかした俺に「そうか」と一言だけ言って、リゲルは問い詰めもしない。

 

「あら、詰めてこないのね」

「ディーナとの約束は覚えているからな」

「それはなにより」

 

 少しだけ嬉しくなって微笑む。

 約束は守る。反故にする気もない。

 リゲルがリゲルである為に、俺はリゲルを裏切らない。ディーナ・ゲイルディアはリゲル・シルベスタ殿下の臣下であり続ける。

 

「ともあれ。奴隷解放については賛成だけれど時期尚早が私の意見ですわ」

「そっか……。? でもディーナさんもアマリナさんとかを、えっと、雇ってるよね?」

「ええ。それが?」

「矛盾してない?」

「清廉潔白な聖者に見えるかしら?」

「まったく」

「それはそれで失礼よ」

 

 世辞も覚えてほしい。まあ肯定されても驚いてしまうが。

 アマリナやヘリオを奴隷階級から解放してもいい。解放してもいいが、しない。実に矛盾しているのは自分でも理解している。

 独占欲でもあるのだろう。

 奴隷から脱しても俺の所に居てくれるのも理解している。

 

 けれど、それでも。

 

「二人には悪いけれど、ずっと私の所有物でいてもらいますわ」

 

 手放してもいい。そちらの方が人道的で矛盾もない。

 理屈として、個人の感情として、アマリナもヘリオも俺に着いてきてくれる。理解している。

 別の繋がりがあっても、今持つ繋がりを捨ててしまう事など。

 どうしようもなく、俺には耐えられない。

 これを独占欲と言うのならば正しくもある。

 ただ、これが欲求であるのかは定かではない。

 

「……ディーナさんは二人の事も好きなんだね」

「自分の所有物に愛着を持つのは普通でしょう」

「ふふ、そうかもね」

「私も! お義姉様をお慕いしていますよ!」

「とても嬉しいですわ、スピカ様」

 

 なにかを納得したようにしたり顔のアサヒと唐突な社交辞令を言ってくれたスピカ様に微笑む。

 リゲルへと顔を向けて微笑んだまま口を開く。

 

「リゲル殿下、なにか?」

「言ってないだろう。なにも」

「ええ。そうですわね」

 

 一応ね。一応。

 まあ俺なんて吹っ切れてるだろうし、忠臣として見てくれているならいい。

 そうであり続ける限り、俺はそうあり続けられる。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()も同然なのだから。

 

 

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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