悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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97.褐色少女は誓いたい。

 意識が持ち上がる。

 普段の埃と土の匂いではなく、花の香りが鼻腔を擽り、ベリル人の少女は瞼を緩やかに上げた。

 視界には肌触りのいい布地。溢れる花の香りが頭を混乱させる。

 

「起きましたわね」

 

 耳を冷たく打った声の方へと少女は視線を向ける。

 赤の豪奢な衣服を纏い、金色の髪を流した女。冷徹な表情と冷ややかな視線が自身へと向けられている。

 一瞬だけ、夢だと信じていた事柄が頭に過ぎる。

 自身の育ての親。あらゆる事を教えてくれた恩人。自身が最も信頼していた男。

 その頸が落ちる瞬間が、脳裏に鮮明に過ぎる。

 

「──っ! 殺すっ!」

 

 ふかふかで足場の悪い寝台の上でありながら、少女は足を踏ん張り、金色と赤の悪──ディーナ・ゲイルディアへ手を伸ばす。

 踏み出した一歩。もう一歩と踏み込む瞬間に喉へと衝撃が走り、視界が回り、ディーナが消え、背中が硬い床に叩きつけられる。

 肺の中から空気が押し出される。絞められた喉ではもう一度吸うことすら出来ない。

 影を纏った腕が少女の首を掴み、深い青の髪が少女の視界に揺れる。感情など無い、冷酷な視線が少女を見下す。

 

「アマリナ、離してあげなさい」

「……はい」

「ゲホッ……ゲホッ、──っ」

 

 主の命令に僅かな不満を漏らしながらアマリナは少女の喉元から手を離す。

 握られていた気道が解放されたことで何度か咳き込んで、少女は大きく呼吸をしながらディーナとベリル人である給仕へと視線を強くする。

 

「それで、止められたから終わりかしら?」

 

 赤の衣服を揺らし、ディーナは少女を試すように声をかける。

 ヒラリと揺れた中身の無い右袖。左手は今にも動き出そうとしている給仕を静止させるように向けられている。

 

「殺してやる……っ!」

「言葉ではなんとでも。ほら、アマリナ手は出させませんわ。殺してごらんなさい」

 

 挑発のように発せられた言葉に、少女は拳を握り込んでディーナへと挑む。

 拳を止める手はもう無い。背中の痛みも食いしばればいい。踏み込んだ一歩は止められる事はない。

 

 けれど、しかし。

 伸びた腕はディーナの左手によって軽々と払われ、顔を鷲掴みにされ、少女は足が払われたように体勢を崩して放り投げられる。

 ふかふかな寝台へと投げられた少女はすぐに体勢を立て直して、ディーナを睨む。

 

「もう一度」

 

 一つ、ディーナが吐き出した言葉で少女は今一度踏み込む。

 より鋭く。

 より強く。

 より感情を込めて。

 

 けれど、ディーナへと拳が届くことはない。

 左手だけで、育ててくれた男を殺した魔法すら使わず、容易く自分が放り投げられている。

 何度も。何度も。

 ふかふかの寝台へと七度目の着地をさせられた少女は息を切らしながら、ディーナへと強い視線を向ける。

 

「……わかったかしら? 今の貴女では私すら殺せない」

「っ! うるさいっ! それでも、私は!」

「ええ、そう。貴女は私を殺したい。それを否定はしないわ」

 

 小さく息を吐き出してディーナは変わらず冷淡な表情を少女へと向けている。

 怒りを顕にする少女を説く事もしない。

 無駄な事をするなとも言わない。

 

「鍛えなさい。私を殺せるほどに。そのための環境は与えるわ」

「……は?」

 

 少女は唖然とする。

 意味がわからなかった。理解などできない。何を考えているかなど知りたくもない。

 

「──なんでだっ!?」

「何故? ……そうね。その方が私にとって都合がいいからですわ」

「私はお前を殺すぞ」

「ええ。言った通りに、私は隠れませんし逃げもしませんわ。抵抗はするけれど」

 

 今の少女ではディーナへと届きすらしない。

 傍にいるアマリナやもう一人の従者を出し抜く事もできない。

 

「代わりに貴女には仕事と立場を与えるわ」

「……」

「私の奴隷……と言っても立場だけですわね。決められた鍛錬はしてもらいますし、仕事をしてもらう」

 

 結局は奴隷である。

 この女は、貴族であった。

 約束など守る気などない。

 けれど、殺す事もできない。

 

「仕事、と言ってもベリル人達との橋渡し……定期的な聞き取りですわね。組合で雇い入れはするけれど、不満をなるべく解消する為ですわ」

「……なんだよ、それ」

「貴女が私を殺す為に鍛える。その場所と環境を得る為の対価ですわ」

 

 まるで当然のように金色と赤の悪は言葉を並べる。

 殺す為に鍛える。そのための環境は用意される。

 他ならぬ恨むべき相手に。

 奴隷として、与えられる。

 

「逃げ出しても構いませんわ」

「……っ」

 

 思考を読んだようにディーナは少女へと鋭く言葉を吐き出した。

 少女の求めていた自由はディーナに担保出来るようなものではない。用意すら出来ない。

 それはベリル人自らが勝ち取らなくてはならない事柄であることをディーナは理解している。

 

「ただし、その時は組合を守るために、私はベリル人を切り捨てざるを得ませんわね」

「そんなの、脅しじゃないか!」

「相応の覚悟をしろ、と言っているのよ」

 

 容易くディーナは予想出来る未来を口にする。

 その時、自分がどうするかも。

 脅しである事をディーナは否定しない。

 選択として選ぶことはできる。全てを捨てるのならば、捨てるだけの覚悟は必要である。

 

「奴隷も嫌だ。脅しも、人質も嫌だ。全て貴女の感情通りになるのなら、きっと彼も生きていたでしょう」

「……っ、お前が、殺したんだろ!」

「ええそうよ。そして貴女は弱いから、また選ぶこともできないでいる」

 

 ヴィクラムを殺した事をディーナは否定などしない。

 仕方なかった事だと、言い訳もしない。

 ヴィクラムを殺した事に良し悪しなど無い。殺したという事実だけしかディーナにはない。

 

「弱者は選べない。だから強くなれ、と言っているのですわ」

「……」

「私を殺したい。ええ、理解しましょう。ただ貴女程度に殺されてあげられる程、私は弱くありませんわ」

 

 身に染みて理解させられた。

 自分では、ディーナ・ゲイルディアを殺すことはできない。

 強くなれば。

 この金色と赤の悪を殺せるほど、強くなれば。

 けれど、逃げれば他の仲間は殺されるだろう。ヴィクラムのように。

 

「さぁ、貴女はどうしたいのかしら?」

 

 少女に選択肢など無い。

 選ぶ事は容易い。けれど、少女には選べない。

 金色と赤の悪は冷淡な表情をして、深い青の瞳が少女をずっと見ている。

 何を考えているかなどわからない。

 どうして自分を鍛えようとしているかも。

 どうして自分へと命令しないのかも。

 

 けれど、たった一つだけ、少女の中で確固たる物がある。

 殺意。憎悪。ふつふつと身を焼き殺さんばかりの感情の波。これだけは確かであった。

 

「……わかっ、た……奴隷で、いい」

「違いますわ。貴女が選ぶのよ」

 

 少女の頭に、選択をした彼の顔が浮かぶ。

 頸を落とされた瞬間も、その時の表情も、鮮明に。

 自然と握り込んだ拳。歯の奥が軋む程に力が入る。

 ギロリと睨もうが、ディーナ・ゲイルディアの表情すら動かす事が出来ない。

 

「……お前の……奴隷になる」

「ええ。正式な書面は後日交わしましょう。今は身綺麗にして、休んでおきなさい」

 

 少女の言葉にもディーナは淡々と事務的に言葉を繋げる。

 小さく息を吐き出してから、ディーナは改めて口を開く。

 

「先に言うのだけれど、暴れでもしてアマリナ以外の給仕に迷惑を掛ければ──」

「……わかってる」

「ならいいですわ。貴女が義理を通すのなら、私は裏切りはしませんわ」

「……」

 

 ディーナの言葉全てを信じた訳ではない。

 いつか裏切られると少女は思っている。

 けれど、少女にはそれ以外の選択肢を選ぶこともできない。

 

 自分の無力感。

 弱者故の選択の無さ。

 少女は部屋から出ていくディーナの背中を見るだけしか出来なかった。

 

 

 

 

「俺は納得してませんよ」

 

 部屋から出たディーナの前には腕を組んでディーナの決定に不満そうにしているヘリオが待っていた。

 少女への説明よりも前に、ある程度の予想と決定をアマリナとヘリオにはしていたディーナであるが、珍しく真っ直ぐに不満を表されている事に少しだけ驚きを見せていた。

 

「あの娘を鍛えるのがそれほど嫌かしら?」

「そこじゃありません、お嬢」

「……ふむ。ベリル人だから?」

「違います」

 

 ディーナの命令には従う。

 あの少女を鍛える事への不満が無いと言えば嘘になるが、ヘリオにとってそこはどうでもいい。

 ベリル人である、という理由も違う。そんな事はどうでもいい。

 

「俺はお嬢が殺されようとしている事に不満なんです」

「ああ、なるほど?」

「……わかってねぇな」

「いえ、わかってはいますわ」

 

 ディーナと長い付き合いであるヘリオとアマリナはこの主がどのように考えているかをよくわかっている。

 

「私が死んでも貴方達の保証はしますわ」

「そこじゃねぇんですけど?」

「……むぅ」

「むぅ、じゃありません」

 

 そこではない。

 ヘリオも、アマリナも。ディーナが死んだ後の事など考えてはいない。ディーナが死ぬ時、それは自分たちも死んでいる筈なのだから。

 自分の命をディーナは軽んじている。

 軽んじている、というのにも語弊はある。死にたがり、という訳でもない。

 

「俺らはお嬢に死んでほしくねぇんですよ」

「生きる努力はそれなりにしているつもりですわ」

 

 それなり、では困る。

 つもり、でも困る。

 しっかりと。確実に。生きていてほしい。

 それが出来ない主ではない事はヘリオもアマリナもわかっている。

 

「組合が正しく運用される保証があるまでは死にませんわ」

「……そうじゃねぇんですけどねぇ」

「それに、あの娘には目標が必要よ」

 

 口を開けば他者である。

 組合であれ、あの小娘であれ、誰かであれ。それはディーナではない。

 ディーナ自身は生きる目的には足り得ない。

 

「それがお嬢の命なのは納得しませんけどねぇ」

「あら、大丈夫よ」

 

 ヘリオは眉を寄せて、予想している言葉を待つ。

 諦めにも似た、溜め息が喉元に留まる。

 けれど、その言葉はディーナの口からは出ない。

 

「だって、ヘリオも、アマリナも、私を護ってくれるでしょう?」

 

 ヘリオも、アマリナも思わず目を瞬かせ、息を飲み込んだ。

 ふわりと優しく微笑んで放たれたディーナの言葉。

 それが事実であると疑わないように。

 それが当然であると信じ切るように。

 

 僅かに、少しだけ。

 ディーナすらも気付いていないほど些細に。

 けれど、ヘリオとアマリナにしてみれば確かな変化がディーナに起こっている。

 いつものようにはぐらかしたつもりの物言い。けれど、その言葉に滲んだ信頼だけは、紛れもない本物だった。

 その言葉に、ヘリオは何かを返そうとして、やめた。

 

「……どうして男ってやつは馬鹿なんですかねぇ」

「? ヘリオを愚かに育てた覚えはありませんわ」

「……はぁ、そうですね」

 

 自分の感情とこの主の鈍感さに、ヘリオは諦めに近い溜め息を、もう一度吐き出した。

 

 


 

 

 

 グォル・イシュナーは慌ただしい組合の様子を見ながら、自身の思案へ相槌を打つ。

 忙しないのは普段の様相であるが、ここまで慌ただしく動いている様子は初めてであった。

 

 理由は幾つか考えられたし、その全てが組合長であるディーナ・ゲイルディア準男爵が起因する事もグォルは理解していた。

 何者かに攫われたディーナがベリル人達を連れて戻ってきた。右腕を失って。

 耳に入った情報の整合性を取りながら、グォルは組合長室へと向かう。

 果たしてどこまでが自分の予想通りであるか。

 そして、ディーナという女が何をしようとしているかを思考し、選別する。

 

 組合長室から出てきた事務方が抱えた資料の多さを横目に、開かれ続けている扉を叩く。

 

「頼んでおいた資料なら机に置いておいてくださる?」

 

 部屋の中にいる赤の衣服を着た金色の髪の女貴族はグォルにも目を向けずに資料へと視線を落としていた。

 珍しい、とグォルは思う。短い付き合いではあるが、ディーナという人間がこれほどに来客を確認しないのは初めてである。

 

「……ふむ。怪我をされてなお精が出ますな。ディーナ殿」

「義手……仮初の腕を失ったに過ぎませんわ。イシュナー殿」

 

 チラリとグォルを確認しただけで、ディーナは僅かに苛立ちと焦りを滲ませながら、資料へと視線を落とす。

 中身のない右袖が、ディーナが資料を捲る度に揺れる。グォルからすれば慮る事実ではあるが、ディーナ自身はそれを軽く扱っている様子でもあった。

 

「それで、要件は何かしら? 世辞や探り合いは嫌いよ」

 

 淡々と、素早く会話を終わらせたいのか、ディーナはグォルに視線すら向けずに資料を捲る。

 グォルの視界に入った資料の内容は組合の帳簿などではなく、奴隷商の帳簿である。他にも幾つか、組合とは関係のない帳簿や資料たち。

 それらを彼女がどうやって手に入れたか、それは評議員として言及すべき事柄ではあるが、グォルにしてみれば些事であった。

 

「では、本題に。随分と思い切った手段をとりましたな。ゲイルディア殿」

「……耳聡いわね」

「商人たるもの、耳だけは良くしておかねば商売になりませんので」

 

 ディーナの資料を捲る手が止まり、グォルへと深い青の瞳が眼鏡越しに向けられる。

 焦りと苛立ちは潜め、溜め息が一つ吐き出される。

 

「まだ公的に発表もしていませんわ」

「ええ。しかしながら、ゲイルディア殿は彼らを組合へと加えるでしょうな」

「……悪手である事は承知よ」

 

 悪手である。

 それはディーナ自身も理解している上での選択でしかない。

 頭を抱えながら、ディーナはもう一度溜め息を吐き出した。

 

「労働力が欲しかったのは事実ですし、彼らを優遇するつもりはありませんわ」

「ええ。事実でしょう。そして彼らを優遇しないというのも」

「……何が言いたいのかしら?」

「我々や彼らからすれば、優遇はしていませんな」

「……外から見れば、組合に入るだけで優遇、と? そこまでの力を組合は持ってませんわ」

「今は、に過ぎませんな。耳聡い商人は既に組合に加わりましたが、目敏い商人達もそろそろ気付くでしょう」

 

 顎の下へと左手を添えて思慮へと入ったディーナはすぐにより大きな溜め息を吐き出して、眉を寄せる。

 組合の外から見たベリル人達は優遇されているように見えるだろう。何の苦労もなく、ただ慈悲によって与えられた立場に見えてしまう。

 グォル自身、彼らが何を支払ったかはわからない。少なからず、冷酷とも言えるディーナ・ゲイルディアが単なる慈悲でベリル人達を救ったなどとは思えない。

 

「……ただ、こうするべきだった。彼らを放り出すのも私にとっては悪手ですわ」

「ゲイルディア殿の善手の為に、組合に不利益を出すと?」

「どちらも悪手でしたわ。比較して、選択した。それだけよ」

「ふむ」

 

 善手などではない。そんな事はディーナ自身が最も自覚している。

 ただ、その選択のままでは多かれ少なかれ組合へと不利益を齎すだろう。

 厳しくも若すぎる組合長へと、グォルは一つ提案を口にする。

 

「他の国民も雇い入れるべきですな。ベリル人よりも少し多く」

「……それで納得するかしら?」

「少なからず待遇の差は外からでも見えるようになるでしょう」

 

 奴隷であるベリル人。新たに雇った国民。

 単なる労働力と従業員。外からでも比較しやすく、納得しやすい。

 

 なるほど、と呟きながら思慮する若き組合長を見ながらグォルは目を細める。

 これは対外的な措置でもあり、組合内部にディーナの息が掛かった存在を過半数以上にしない為の対策でもある。

 グォルから見て、ディーナがそのような意図が無いことは明白であるが、結果としてそうなった場合に困るのはディーナ自身である。

 彼女は組合長、評議長という立場をいつでも降ろせるように評議員や組合員と憲章として銘文している。しかし、ディーナの息が掛かった存在が過半数以上いれば、結果として反故となる。

 ベルデン・ドレトス辺りは突くだろう。

 

「……そうね。考えておくわ」

 

 少しの思慮の末、短く吐かれた言葉。

 考える、とは言っているが既に実行を決めた声色であった。

 グォルは満足げに口元を緩めて、評議員としての苦言ではなく、世間話としての声色でディーナへと言葉を向ける。

 

「それで、ディーナ殿は彼らはどう扱うので?」

「考えているのは、腕の立つ者たちは販路の護衛として。手先が器用な者たちは職人の工房へ下働きとして。読み書きはそれほど期待はしていないけれど……事務方の雑用程度なら出来るでしょう」

「……ふむ、なるほど」

「何にしても、差別意識の少ないところへ配置させるわ」

 

 采配としては問題ない。

 やや贔屓的にも見えるが、外からはわからない事だろう。

 グォルは静かに語るディーナの瞳を見ながら、彼女の目論見を見出す。

 それは貴族にとって不利益になる。それこそ、立場が危ぶまれる目的に行き着く。

 けれど、その程度でしかない。今更である。

 この女貴族にはそう言った常識や貴族としてまともな考えなど無い。この組合を発足させたのが何よりの証左でもある。

 

「では、メース殿の所に? 彼女も元奴隷です」

「元奴隷だからこそ外すべきですわね。奴隷という限界を知ってしまっている。相応に扱ってしまいますわ」

「……ふむ。厳しさが悪いとは限りませんが」

「ええ。だからこそ最初は外すべきよ」

 

 ディーナもカリダ・メースがベリル人達を悪辣に扱うとは考えてはいないだろう。

 ただ、彼女は奴隷としての限界を知っている。経験している。彼女自身の物差しを持っている。

 グォルは少しだけ思慮し、ディーナの目論見をより正しく理解していく。

 

「なるほど。コチラでも幾つか工房を見繕っておきましょう」

「ええ。カレント殿やフォージ殿、グリュン殿にも通達をしておくわ。ベルデン殿とメース殿にも通達自体はするけれど……二人とも極端過ぎるわね」

「商人とはそういう生き物ではありますな」

「貴族よりはマシね」

 

 グォルは曖昧に笑ってディーナの冗談を躱す。

 この組合長は貴族でありながら、貴族を揶揄する冗談を口にし、コチラを試してくる。

 互いに冗談であることを認識してはいるが、笑いでもすれば問題にもなり得るだろう。

 

「イシュナー殿、これは個人的な質問なのだけれど」

「お答えできることなら」

「容疑者は分かるけれど、物的証拠が無い場合、貴方ならどうする?」

 

 グォルは眉を寄せる。

 この貴族の言っていることに理解が及ばない。何を迷っているかを理解しようがない。

 

「貴族の政治はわかりませんが、ディーナ殿はその容疑者が確実に罪を犯していると?」

「状況証拠だけは十全に」

「……これは一商人の戯言ですが」

「ええ、構わないわ」

「そもそも物的証拠など無くとも、罪に問われてディーナ殿は軟禁されたのでは?」

「……」

 

 ディーナの表情が固まる。

 組合を作る前、商人にも噂になるほどディーナの悪評は聞き及んでいる。

 過程はともあれ、結果は既知である。

 そんな状況証拠だけで罪に問われて軟禁されていた張本人は表情を固めていた。

 

「な、なるほど。そういえばそうでしたわね」

 

 頭を抱えたディーナ・ゲイルディアは溜め息を一つだけ吐き出して、笑う。

 噂通りの悪人のように口元を歪め、評判に違わぬ表情を浮かべる。

 誰かの運命が自分の言葉によって決まったのだろう。

 

「ありがとう、イシュナー殿。参考になりましたわ」

 

 グォル・イシュナーはこの底冷えするような笑みを向けられる相手へ心底同情した。

 ただ、同情するだけで手助けなどは一切しない。

 商人であるグォルにとって、不利益になる行為など罪にも等しいのだから。

 自身の言葉が原因だとも思わない。

 ディーナ・ゲイルディアは紆余曲折あろうと、辿り着いていただろう。

 

 グォルは笑みによって感情を隠して、その笑みが自分へと向いていないことに安堵しながら組合長へと頭を下げた。

 

 

次挿絵のキャラは誰がいい?

  • リヨース
  • 騎士ディーナ様
  • シャリィ先生
  • エフィさん
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