SPACEでライブできるようになったら、また声をかけに来るらしい。連絡先を教えてないし、二十騎といえど俺の家を知っているわけではない。だからまたバイト先に来るのだろう。正直バイト先に来られたくはないが、連絡先を教える気にもなれないからそこは大目に見ることにした。鰐部来た時に俺が心底嫌そうにしたし、休憩から戻った時も機嫌が悪かったから幸いからかわれることもない。
SPACE……、俺が勝手に足を踏み入れていい場所ではないし、
「萩近くん! 大量弁当入るよ!」
「ダルいっすね。形が崩れても文句は受け付けませんよ」
「初めから諦めてなければ見逃すよ!」
「よしきた!」
一個目は真面目にやろう。スピード勝負みたいな仕事なんだから二個目からは形が崩れても仕方ない。ここに来る奴らは『早くて当り前』って考えが念頭にあるからな。ご期待に応えて早くやってやるから文句は言うなよってスタンスでいいんだよ。
ついでに俺は接客で他の人ほど笑顔を振りまくことはない。雇用契約書に『笑顔で接客』なんて書かれてなかったからな。つまり笑顔ですることは仕事の範疇ではない。
日本だから笑顔が当り前なんて言う奴もいるだろう。俺からすれば頭がおかしいとしか思えない。仕事内容に無い仕事をなぜしなければならないのか。極端に言うと損してるんだよ。必要以上の仕事なんて自分を苦しめるだけだ。社員に文句を言われようと契約書に書いてないと言うからな。てかこの前言ったし。
「先輩遅いっすよ!」
「なんで萩近はそこまで形崩さずにそのペースで作れんだよ!」
「慣れですよ慣れ! 形が崩れるなんて気にしないってスタンスでやればこうなりますって!」
「なんで後輩に教えられてんの俺!?」
この先輩は俺が独り暮らししていることを知る数少ない人間だ。たまに先輩の家に呼ばれてご飯を貰うこともある。その時の彼女自慢がウザったいことを除けばいい人だ。憐れんでくることもなければ同情もしない。何も言わずに気まぐれで遊びや食事に呼ばれるだけだ。遊びの時も絶対平日中だし、息抜き程度にゲーセンやカラオケに連行されるだけ。こっちが本気で嫌になるようなことはせずに、程よい距離感で接してくれる。
(首を突っ込まないくせに『何かあったら相談に来いよ』なんて言ってくるからなぁ。さすがイケメン。そりゃあ彼女できるわ)
ファストフード店の特性上大量弁当なんて珍しいことじゃない。もちろんそんなの入っても嬉しいことでもないんだがな。しかし慣れとは恐ろしいもので、初めは脳がフリーズしていたのに、今ではメンバー同士でふざけながらこなせてしまう。そのふざけ方も酷いったらありゃしない。社員がいたら全員説教をくらうようなものだ。
流れ作業でバウンズに具材を乗せていって、包装したら持ち帰り用の袋に入れる。それがマニュアルだ。ふざける場合、ハンバーグの部分をフリスビーよろしく投げて、それをバウンズで挟んでキャッチ。野菜やケチャップなどを無視して順番を変えるのだ。その後に無視したものを挟んで袋で包装。完成すれば砲丸投げの投げ方で次の奴に渡す。それをキャッチしてもらって持ち帰り用の袋に入れてもらう。たいていこのふざけ方になり、そしてほとんどの場合酷い崩れ方をしている。
マシなふざけ方の場合はポテト食べながらとか、販売用のジュースを飲みながらとかだ。ストローを5本ぐらい繋げて遠距離で飲むこともある。中の様子を覗き込んでくるチビッ子には大好評だが、あの子達は真似出来ない。なぜならストローを一本しか渡さないからだ。他の国がどうかは知らないが、マレーシアなら客が好きなだけストローを取れるらしい。そして壁の絵では10本ほど繋げてるものが描かれているとか。
「つっかれた〜! 萩近ーラーメン食いに行こうぜ!」
「金をケチるから無理です」
「ちぇー。じゃあうちに食いに来いよ。妹がまた呼んでくれって言うし、親父とお袋も歓迎してるしよ」
「それ妹さんがからかいたいだけでしょ。あの子絶妙に距離感を保つからやりにくいんですよね」
「ははは! 誰に似たんだろうな〜!」
「距離感を掴む上手さはあなたにそっくりですよ」
その日は結局ご馳走になった。そしたら家の前まで車で送られることもセットになるのだが、そこは気にしてない。この家族はみんな必要以上に首を突っ込むことがないからだ。だからついつい気を許してしまう。
そうやってなんだかんだで周りに助けてもらいながら過ごすこと2週間。……あれ、10日だっけ。まぁ細かいことはいいか。6月にもなれば期末テストへと意識を向け始める時期だろう。勉強できない奴にとっては地獄だが、この学校はとにかく勉強というものを馬鹿にしてる。各教科対策プリントを配られて、それを丸暗記すれば100点取れるのだから。こんなものはテスト勉強とは言えない。
(それでも点を取るには最良であることに変わりないから活用するんだけどな)
「おっす萩近ー! 今日も機嫌悪そうな顔してんな」
「くたばれ」
「会話って知ってるか?」
「今なんの時間か知ってるか?」
「数学の小テストだけど? それがどうした? それと全然わかんないから解答見させて」
「よくも堂々とできるもんだな〜。先生感心するわー」
「正々堂々と! をモットーにしてますからね!」
俺の前の席に座っているバカは、スポーツ推薦でこの学校に入ってきた奴だ。校長がテニス好きらしく、テニス部はスポーツ推薦枠を設けているらしい。教頭がバスケ好きだからバスケ部もスポーツ推薦があって、校長の息子がサッカー好きだから来年からサッカー部もスポーツ推薦を始めるらしい。
とにかく、目の前のコイツは所謂テニスバカで、テニス以外のことはさっぱりだ。30点さえ超えれば追試を逃れられるのに、中間テストでは全教科の3分の1が追試となっていた。理由は対策プリントを無くしたからだそうだ。そして開き直ってテニスしてたらしい。救いようがないし、救う気にもならない。
「よく言った! 放課後この小テストの追試だ!」
「そんな馬鹿な!」
『馬鹿はお前だ』っておそらくクラス全員が思っただろうな。小テストの最中だから誰もツッコまなかったが。
放課後となり、掃除を終わらせてすぐに教室を出る。今日はバイトを入れてなくて、家でのんびりと過ごすと決めている。たまには息抜きしないと体が持たないからな。コンビニでお菓子でも買って帰ろうかと思ったが、どうやら久しぶりに俺の予定は崩れるらしい。
「若! やっと見つけれた!」
「誰が若だ。それと学校に来るなって言っただろ。用件があるなら移動しながらな」
「す、すみません。でもあまり悠長にできない用件かと思いまして」
堅物教師に見つかると面倒だから、足早に学校から離れながら話を聞く。なんか穏やかじゃないことを言ってる気がするが、足を止めることも速度を緩めることもせずに耳を傾ける。はっきり言って俺の人間関係はとてつもなく狭いものだ。意図的にそうしているのだが、こいつや先輩みたいに勝手に絡んでくる奴はどうしようもない。その場合はそれなりにつるむ気にはなる……こともある。
「前に若に絡んでた奴がいたじゃないですか」
「誰のことだよ」
「えっと……ウッスィー?」
「悪いが俺は外国人と絡んだことはないぞ」
「いえ日本人です。あの、髪が濃い青だか黒だか分かりにくい女子ですよ」
「あれはもう黒でいいだろ。それと誰のことかは分かったが、あいつがどうした」
「ガラの悪いチンピラ共に絡まれてまして」
やっぱそういう話になるのか。そしてそれが俺にどう関係してくるっていうんだ。俺が牛込のことを鬱陶しく思って繋がりを切りたがっていたことをこいつも知ってるはずだ。……いや、それならこの話を持ってきたってことは、俺に関係する事態になってるってことか。
「手短に全部話せ」
「黒髪美少女強制連行。聞こえてきた会話によると若を誘い出すための餌」
「チッ、面倒だな。そいつらの特徴は? それでどこに行ったか割り出す」
牛込が勝手に一人で絡まれてるだけならどうでもよかった。それならこいつもわざわざ学校にまで来て俺に話を持ってこなかっただろう。だが今起きてることはそれとは違う。
そいつらの目的は俺で、そのために牛込が巻き込まれたってだけだ。こんなクソみたいな話はねぇわ。最高に機嫌が悪くなりながら、鞄を預けて駆ける。頭の悪い奴らには痛い目に合ってもらわないといけないからな。
残念な話だが、俺はチンピラだのヤンキーだのに目をつけられている。中学時代の話で、受験あたりからそれも無くなり始めてたんだが、ネチッコイ奴は諦めてなかったようだ。俺だけを捕まえりゃいいものの、どうして人質なんてものを考えるのか。しかもチョイスが酷いな。
──
「この子の携帯で呼び出そうと思ってたのに、まさか着拒してるとはな〜。おかげで作戦が序盤でパーになりかけたぜ? 来てくれたおかげで助かったが」
「作戦なんてもんは最低でもセカンドプランは用意するもんだ。それすらできてない時点で底が知れてるぞ」
「ククッ、ご高説どうも。次に活かすとするが、お前には次なんてないぜ?」
相手の人数分は四人。リーダー格と牛込を捉えてる奴が後方にいて、その斜め前に二人。囲ってリンチにでもしたいんだろうな。作戦がバレバレだってぇの。それと人質を取ってる気でいるから随分と余裕そうだな。付け入る隙がありすぎて困る。とりあえず牛込と喋ってやるか。
「何面倒なことしてくれてんだよ。男には気をつけろって言っただろ」
「警戒はしたんだよ? でも力で勝てないもん。どうしようもないじゃん。それと着拒解除して」
「……わりと余裕そうだな」
「え? だって助けてくれるんでしょ?」
「ヒロイン願望強すぎだな。なんで俺が助けなきゃいけないんだよ。怪我しても巻き込まれた自分を恨めよ」
「……ぇ」
「ちょいちょいちょいちょい萩近くん!? この子がどうなってもいいの!?」
「好きにしろよ。むしろそうしてくれたほうが俺としてはありがたい。絡まれるのが面倒なんだよ」
「えぇー……」
「あいつ屑だな」
「漢じゃねぇな」
「ここは逆上するとこだろ」
なんでこいつら全員めでたい頭してんだよ。漫画の読みすぎだろ。まず俺の性格がそういう作品の主人公と一致しねぇだろ。むしろ逆だわ。
だがまぁこいつらを叩きのめすことは決定事項だ。ストレス発散に付き合ってもらうとしよう。……それに、俺が好きにしろって言った瞬間牛込を見る目が変わった。単細胞共め。あのクソ野郎と思考が一緒ってだけで俺の琴線に触れてんだよ。
「それじゃあまぁ、お楽しみは萩近をノシた後ってことで、……そうだ萩近。大金くれたら見逃してやるぜ?」
「あ? 俺は貧乏人だぞ」
「ウソつけ。知ったぜ? お前の親父はどこぞの社長だってな。息子のお前も他のやつより金があるのは明白。なんなら口座番号とかでもいいじぅぇ!?」
「……悪いが俺はあいつを親父とは思ってねぇんだわ」
「あ、兄貴! ぁっ!ゲホッ、ゴホッ……がっ!」
「余所見するとは余裕だな?」
全員が牛込に視線を向けた時から近づいておいた。リーダー格の奴が目線を戻すタイミングに合わせて走り出して全力で殴り飛ばす。勢い良く振り抜けたからか、リーダー格はよくぶっ飛んでくれた。それで俺じゃなくて、リーダー格に目を向けた奴の喉にアッパーを入れる。呼吸が一時的にできなくなったのか、蹲って咽ているところを蹴る。もちろん顔面をフルスイング。
起き上がって殴りかかってくるリーダー格を背負い投げ。さすがにガン無視しすぎようで、横から頭に両手での拳骨を落とされる。
「ナメ過ぎだぞ萩近ぁ!」
「人数で勝手いい気になってんじゃねぇよ木偶の坊」
上から叩きつけられたから当然俺の姿勢は低くなる。それで馬鹿はイキったようだが、隙だらけだ。勢い良く上体を起こしながら溝内に拳を叩き込む。喧嘩のやり方はよく知ってる。パンチだって正しい打ち方を身につけた。つまり、素人相手に叩き込めば一発で倒せる。ダメージが後から来るし残るからな。
背負い投げされた時に肺から空気が出たんだろうな。今起き上がろうとしてるリーダー格を踏みつけ、ポケットにしまっておいたボールペンを目に突きつける。これはリーダー格を牽制するためだけじゃない。今牛込にナイフを突きつけた男を牽制するためでもある。
「動くなって言って俺をボコりたかったんだろうが、行動が遅かったな」
「あ、兄貴を解放しろ! さもなくばこの女を切るぞ!」
「やりたきゃやれよ。言ったろ? 俺はそいつがどうなろうとどうでもいいって。そいつがそこにいたらお前を殴りにくい。解放しろ。さもないとこの男は片目生活になるぞ?」
「お、お前にそんな覚悟が「がぁぁぁ!」兄貴!」
「今のは警告だ。肩に刺してやったが、次は目だ。お前の行動で兄貴の目が無くなるぞ? いいのか?」
「……か、解放したぞ。頼むから兄貴も解放してくれ!」
なんて美しい絆なんだろうなぁ。まぁ牛込を解放しなかったところで俺にデメリットなぞないわけだが。ここはそいつの行動を賞賛して解放してやろう。
リーダー格から退いてやると、そいつらは気絶してる仲間を連れて路地裏のさらに入り組んだところへと逃げていった。これで俺ももう絡まれることはないだろ。久しぶりに暴れられたし、おかげでストレスも発散できた。もう少し殴り合えたら最高なのだが、あのモヒカン共が大人しくなったせいでやり甲斐がある相手がいないな。
「……いつまでそこでへたり込んでる気だ。置いてくぞ」
「怖かったもん」
「まぁ牛込にしたら無縁の世界だからな。これでよく分かったろ? 俺と関わってもロクな目に合わないって」
「やだ」
「なにが」
「君とは友達になるって決めたから!」
地面にへたり込んでるくせに、いっちょ前に言い切るなぁ。今の今までナイフ突きつけられてたのに、だいぶ肝が座ってるらしい。俺を真っ直ぐ見てくる目に迷いがなくて、腹立つくらいに光があった。とにかくずっとここにいても仕方ないわけで、俺は帰ろうと思うのだがなかなか牛込が立ち上がらない。
「腰が抜けちゃった……」
「……今カッコよく言い切ったのになぁ」
「うぅー、そこは言わないでよ」
「はぁ、ほらよ」
「え?」
「背負ってやるよ。俺のせいで巻き込んだことに変わりはないからな。家まで送ってやる」
「……やっぱり君は優しいね」
「やめた。一人で勝手に帰れ」
「嘘ウソ! ごめんってば! 置いて行かないで!」
(足を掴むな歩きづらい)
足を掴まれたと思ったら、すぐに抱え込むように足に抱きついてきた。実は歩けるんじゃないかって思ったが、今回のことを悪く思ってるのも事実だ。牛込を背負ってちゃんとマンションの前まで送ってやった。
「ライブのこと、七菜から聞いた?」
「……まぁな。二十騎からも言われたが、そもそもライブできるのか?」
「そこは大丈夫。オーディション受かったから」
「まじか……。……まぁオーナーが認めたわけだし、今回の詫びも兼ねて見に行ってやるよ」
「ほんと!? よーし! 今度こそ絶対楽しんでもらうからね!」
「ならそれで失敗したら、今度こそ俺と関わるのは止めろ。メンバーも使うな」
「いいよ。自信あるもん。その代わり楽しんでくれたら友達になってね。そして私達の活動のサポートしてね」
「……二つ目が面倒だが、まぁそれぐらいが対価になるか。いいぜ。捻くれてる俺を認めさせられたらな」
「やってみせるよ。勝つのは私達だから」
人質って相手に効果的じゃないと成り立ちませんよね〜。ちなみに一定時間が経つごとに人質を殺すってよくあるじゃないですか。あれって最後の一人まで殺させたらその後遠慮なく制圧できますよね。非人道的ですけど。ゲームでやるならそうします。
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