同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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12話

「……わかった。あのクソッタレがそう言ってんならそれでいいさ。縁を切る機会だし。……別にあんたは関係ないだろ。それよりアレは? それならよかった。それだけで十分だ。ありがとう。なんかあったらまた連絡してくれ。それじゃあ」

 

 

 電話を切った萩近くんは、しばらく空を眺めてからライブハウスから離れ始めた。電話のために外に出たのかなって思ったけど、どうやらあのメッセージだけで十分だろうって判断してたみたいだね。私は急いで彼を追いかけた。

 

 

「萩近くん待ってよ」

 

「牛込か。とりあえず手を離せ。逃げないから」

 

「あ、うん」

 

「それでなんか用なのか?」

 

 

 予想外にも彼は平然としていた。『仕送り』という言葉が出てたということは独り暮らし。前に助けてもらった時に親御さんとうまくいってないことは察せたけど、まさか仕送りが止められるほどだとは思ってなかった。とりあえず萩近くんを今帰らせちゃいけないって思って止めたんだけど、頭が混乱しちゃってて何を話せばいいのか分らない。

 

 

「ったく。話すこと纏まってないのに話しかけるなよ」

 

「ご、ごめん」

 

「……さっきの電話聞こえてたのか?」

 

「……うん」

 

「そうか。……牛込は馬鹿じゃないからある程度推測できてるだろうけど、たぶんそれで合ってる」

 

「なんで……!」

 

 

 分からなかった。萩近くんは根が優しい人だから、無闇矢鱈に仲が悪くなるようなことはしないはず。きっと原因があってうまくいってないだけのはず。そんな萩近くんがなんでこんな仕打ちを受けないといけないのか分からなかった。

 なによりも、彼が動じてない(・・・・・)ことが分からなかった。

 

 

「なんで平気なの……?」

 

「繋がりが断てて嬉しいからだよ。それに、これで動きやすくなった。あぁ金のことなら心配するな。前からやってることがあってそっちの収入を生活費に回せばいいだけだからな。……貯金を貯めにくくなったことは残念だが、社会人になりゃ何とか「分からないよ!」……なにがだよ」

 

「分からないよ……。なんで君は平然とできるの? 独りぼっちになっちゃったんだよ?」

 

「それこそ今さら(・・・)なんだよ」

 

「ぇ?」

 

「……人の家庭事情にこれ以上首を突っ込むな。この話は終わりだ」

 

 

 萩近くんは話を切っていなくなっちゃった。私は今度は追いかけることができなくて、しばらく動けないでいた。彼が歩いていった方向をずっと見てたんだけど、ひなに手を引かれてライブハウスの中へと戻された。まず私はまだ着替えてなかったしね。

 ロッカールームに戻って着替えを済ませると、みんなにさっきまでのことを聞かれた。どこまで話していいのかわからないし、私の最初の目的だったライブの感想を聞くってことも達成できなかったからね。どうしたらいいか悩んでると、オーナーに早くロッカールームから出るように言われた。ロッカールームを出て受け付けの近くにある席に座ってると、部屋の戸締まりをしてきたオーナーに声をかけられた。

 

 

「あんたはどこまであいつのことを知ってるんだい?」

 

「えっと……全然知らないです。さっきも首を突っ込むなって怒られちゃって」

 

「まぁそうだろうね。……本人が話さないのならアタシも勝手に話せないけど、そっちの子は多少は知ってるんだったね」

 

「え? ……ぁ、ひな」

 

「あはは〜。小学校が一緒だっただけなんだけどね〜。私が知ってることも少ないけど、それでもいいなら話そうか?」

 

「お願い」

 

「はいはーい。ゆりちゃんは萩ぽんのこと好きだね〜」

 

「そんなんじゃないから!」

 

 

 真面目な話をするはずなのに、ひなのせいで調子を崩される。オーナーもある程度補足してくれるみたいで、近くにある椅子に座った。どこから話そうかって悩んでるひなの表情は、どうしても半分ふざけてるように見えた。でもこれはひななりの気遣い……だったらいいなぁ。

 

 

「本当に知ってることは全然ないんだけど、萩ぽんには妹がいたのと、母子家庭で育ってたってことかな。たしか中学1年生の途中でお母さんが亡くなっちゃったんだって」

 

「そん……なの……」

 

「あの子の家の事情は特殊もいいとこさ。父親が生きていることは確かだけど、アタシでも顔と名前は知らないね。妹の方は母親が亡くなってすぐに行方不明になった」

 

「行方不明!? それは何かの事件に巻き込まれたということですか?」

 

「あの頃ってそんな話あったっけ?」

 

「行方不明ということになったんだよ(・・・・・・・・・・・・)。実際には父親の方に連れて行かれたのさ。歌の才能があったから特訓させて芸能界に入れるつもりなんだろうね」

 

 

 訳が分からなかった。そもそも父親はなんで一緒に住んでなかったのか。なぜ妹さんの方だけ連れ去ったのか。萩近くんのことを教わっているのに分からないことが増えていく。

 

 

「……話せるのはこのあたりが限度かね。いや、少し話し過ぎたか。とにかくこの事は他言無用にするように。それとあいつ本人にも気づかれないようにしなよ。本気で行方を眩ませたら探し出せないからね」

 

「……はい。教えていただいてありがとうございます」

 

「ふん。礼はいらないよ。ライブの失態もあるんだから」

 

「うっ、それは本当にごめんなさい」

 

「あれで舐めたライブをされたら出禁にするところだったが、玲音のやつが楽しめていたことに免じて許すよ」

 

 

 萩近くんからメッセージが届いてたってことは、彼が私たちのライブに満足してくれたってこと。オーナーからもこう言ってもらえると、それをより実感できた。話は終わりってことでオーナーが立ち上がって、私たちも荷物を持って店の外に出る。この後は打ち上げの予定で萩近くんも誘いたかったけど、今日は無理だよね。お店に移動しようとしたところで私だけオーナーに呼ばれた。

 

 

「なんでしょうか」

 

「あんたはあの子のことをどう思ってるんだい?」

 

「へ!? いや、えっと……友達……です。正確にはこれからって感じですけど、……萩近くんとは仲良くなりたいです。今回の勝負に勝ったので、萩近くんが私たちのサポートをしてくれることになりましたし」

 

「あの子が、ね。……これからあんたらはここでライブをしていくだろうし、その時にアタシもあいつに声をかけたりはするけど、……あの子のことを頼むよ」

 

「え」

 

「このままいけば間違いなく心が死ぬ。ただでさえ3年前の時点で追い込まれてるんだ。これ以上孤独にさせちゃいけない。だから一緒に行動するようになる牛込たちが支えてやりな。あの捻くれ者の友達になるのなら、重たいことだけどそうしないと友達になれないだろうからね」

 

「……はい! 任せてください!」

 

 

 オーナーからすれば萩近くんは孫みたいな存在らしい。オーナーが萩近くんのお母さんと仲が良かったんだとか。萩坂くんのお母さんのことはオーナーも教えてくれなかったけど、これは萩近くんから聞くことができればいいかな。オーナーにお礼を言ってからみんなと合流して打ち上げに行った。私たちのバンドはまだまだこれからだし、萩近くんとの事もこれから。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 牛込たちのライブは予想以上によかった。ライブ前にあんな状態に陥っていたとは思えないほど堂々としていた。おそらく牛込一人ではあそこまでのライブを音も歌も響かせられなかっただろう。バンドだからこそ、あのメンバーだからこそできたライブだ。結成から日が浅いはずのバンドだが、そんなことを感じさせないものだった。

 

 

楽しそうにしてたな

 

 

 全員が笑顔だった。緊張もあったはずだ。恐れもあったはずだ。しかし四人全員が笑顔でライブをしていた。その中でも、バンドの中心としてギターボーカルを努めた牛込。あいつがあの演奏に込めたものはさすがの俺にも伝わってきた。冷めきっている俺に正面から向き合う、その想いを込めて俺に向けて歌っていたが分かった。

 

 

「ほんっとに物好きなやつだよ、お前は」

 

 

 それでもその物好きな牛込に心を動かされたのも事実だ。冷めきっている俺にさえ届かせたあの熱意。それを受けてしまった以上あの勝負は俺の敗北ということだ。着拒を解除し、あいつらのサポーターとしてこれから関わっていくのだろう。まぁ仕送りが途絶えたからそこまで時間を割けないだろうがな。

 

 

『これからよろしくね! これから一緒なんだし、君は独りじゃないから!』

 

 

 今牛込から送られてきたメッセージ。一見俺を気遣ったメッセージだと受け取れるのだが、その裏に隠されてることが分かる。まさかあの婆さんが全部を話すとは思えないが、老婆心でも働いたのか、はたまた二十騎が知ってることを語ったのか。ともかく俺の家庭事情を軽く知ったということだろう。

 事前に釘を差してはいる。だから下手に家の話をしてくることはない。余計に気を使うなんてこともしないだろう。ベースを弾いていた鵜沢や少し話した程度の鰐部のことはよく分からないが、その二人も会話ベタというわけでもないはずだ。二十騎もなんだかんだで細かいところまで見ており、気を使うこともできる。だからこれ以上家のことを突っ込まれるなんて面倒なことにはならないはずだ。牛込のお望み通り"友達"として過ごせばいいのだろう。本当にそうなれるかは別としてな。

 

 

『余計なお世話だ。俺なんかを気にかける暇があるなら練習に励め』

 

 

 自分でも捻くれている返事だと思う。しかしこれでいい。これから関わっていくことになるとはいえ、距離を縮めたいわけじゃないのだから。そう思って携帯から目を離そうとしたらすぐに牛込から返信が来た。女子はわりとこういうの早いよな。……人によるか。

 

 

『この捻くれ者! でもよかった。君がいつも通りで』

 

『誰目線で言ってんだよ。俺がショックでへこたれるなんてことはない。強いて言うならお前にメッセージを返す今の方が辛いぞ』

 

『友達目線ですー! それとそんなこと言うならこれから君の学校の前で待ち伏せするからね!』

 

『マジでそれは面倒だからやめろ。来て襲われようと今度は助けないからな』

 

 

 学習することもあれば、これみたいに全く学習していないこともある。いっそ本当に一度襲われないと自覚できないんだろうか。それなら呼んで放置してやってもいいか。そんなことを考えていると、他のメンバーからもメッセージが来た。基本的に『よろしく』やら『登録しといて』やらそんなことが送られてきている。二十騎のやつだけ『ゆりちゃんが酷い目にあったら萩ぽんのせいにするから』という恐ろしいことを送ってきていた。冤罪も甚だしいぞ。

 とりあえず短い返事をそれぞれに送りながら、ふとあることに気づいた。

 

 

──これからこうやってやりとりする羽目になるのか、と

 

 

 面倒事が増え、それに付き合っていかないといけないことに思わずため息が漏れた。

 

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