6月も終わり、日に日に気温が上昇し始めている7月。期末テストも近づいてきてるわけだが、そんなものを気にすることなくバイトに明け暮れている。仕送りが止められた以上、可能な限り働いて少しでも金を稼ぐ必要があるからな。学費は問題ない。特待生は免除されるから。
そんな俺だが、バイトとは別の理由で
「はぁぁ〜〜」
「……若大丈夫っすか?」
「タバコがほしい」
「駄目っすよ!?」
「どうしたよ萩近。まるで嫌な奴に追いかけ回されて疲れ果てたようなため息ついて」
「どんなため息だ」
「合ってんだけどな」
「合ってるんすか!?」
「うん。……牛込がウザい」
そう、牛込だ。あの日以降毎日連絡が来るんだよ。毎朝毎晩、おはようからおやすみまで連絡が来る。鬱陶しく思って返さなかったら電話がかかってくるし、電話を放置したら出るまでずっと電話がかかってくる。
酷かったのは昼休みに電話がかかってきたことだな。電話に出たら他の男子が盗み聞きしてて、牛込の声を聞いた瞬間敵意を剥き出しにしてきた。牛込からの苦言を聞きながら嫉妬した馬鹿たちとの
放課後に遊んでやるという約束をして、電話を切ってから追いかけてる奴らを返り討ち。教師がキレたが、事情を話せば俺は説教だけで済んだ。
そんなことがあったから、学校にいる時に電話をしないということを確約させたが、代わりに夜に電話するということを取り付けられた。で、案の定その電話が長いのだ。寝る時間を変えたくなくてそれを伝えたんだが、電話の時間を確保したいらしく家に帰ったら連絡するように言われた。
心底面倒なのだが、これを無視するとさらに面倒なことをカマしてくるから大人しく従ってる。だがな、エスカレートしてきてるから、そろそろ本気で止める必要があるんだよ。
「……タバコはどこだ」
「駄目ですってば!!」
「せめて成人するまで耐えろ」
「馬鹿野郎! 成人しても体に悪いから駄目だろ! 若の体をなんだと思ってる!」
「いやそこは自己責任だろ……。ってかまじでなんでお前そこまで心酔してんだよ」
実はこの二人とも俺の一つ上なんだよな。バイトもほぼ同時に始めたらしくて、それなりにつるむらしい。片やヤンキーなんだけど、世の中不思議だよな。
バイトを上がって三人で食べに行こうか、なんて話をしながら着替えを済ませる。社員や深夜に働く人に挨拶をして裏口から出ようとしたところで扉を閉めた。……いや、閉まってないな。ギリギリ閉まってない。反対側から必死に止めてるようだ。
「なんで閉めるの!?」
「なんではこっちのセリフだわ! 何しに来やがった!」
「君に会いに来たの! というか扉閉めようとしないでよ! 出てきてよ!」
「いろいろと嫌だわ! 彼女みたいな行動取るな! そして帰れ!」
「まぁまぁ痴話喧嘩はそのへんで。出ないと帰れねぇし、萩近が諦めろよ」
「……チッ!」
俺一人ならともかく、他に二人帰るのだから俺が諦めるしかないな。何かと良くしてくれてる二人に迷惑をかけるのは、俺も望むところではないし。
いやいや扉を開けると、その向こうには頬を膨らませてる牛込が立っていた。一般的に牛込レベルの女子がそういう仕草をすると可愛らしいのだが、
「……で、何のようだ」
「あ、あれ? もしかしなくても怒ってる?」
「まぁな。バイト先にまで来やがって」
「ごめん……」
「わ、若……さすがに……」
「……二人は帰ってて。今日は食べに行けなくなった」
「しゃーね。今週末はラーメン行こうな」
「はい」
俺が本気で怒ってることを察した牛込は、視線を落としていた。二人と今週末ラーメンを食べに行くことを約束して見送る。見えなくなるまでそっちを見といて、鞄からある物を取り出しながら牛込に声をかける。
自分でも予想外な程低い声が出て、牛込は体をビクッと震わせて恐る恐るといった調子で視線を上げた。俺はそれに合わせて鞄から取り出した物を投げつける。
「わぷっ」
「それで汗拭いとけ」
「え……」
「どんだけ待ったのかは知らないが、そのままだと体を冷やすだろ。そのタオルは使ってないやつだから、その点は気にするな」
「あ、ありがとう」
牛込が渡したタオルで汗を拭き始め、俺はそれが視界に入らないように背を向ける。今日はバイトがあるということを伝えてあるはずなのに、いったいどれだけ待ってたんだろうか。今日は夜になっても蒸し暑いというのに。
「もう大丈夫。これ洗って返すね」
「んなもん気にしなくていいんだが、……言っても無駄か」
「もちろん」
「返すのはいつでもいい。……で、結局何しに来たんだよ」
「だから会いに来たんだよ?」
「しばき倒すぞ。本当のことを言え」
「……えっとー、半分は本当なんだよ? もう半分は……相談というか……」
「歯切れ悪いな。帰るぞ」
「ダメダメ! あのね、勉強を教えてほしいなって……」
「は?」
こいつマジで頭おかしいだろ。そもそも俺の学校は普通科じゃない。勉強の内容は全くと言っていいほど違う。もちろん普通科の科目も軽くは触れるが、それでも深くはやらない。本当に浅い内容しかやらない。
だから牛込たちの学校でやってる内容を俺が教えられるわけがないのだ。それに牛込って勉強できないわけじゃないだろ。中間テストでも平均点以上の点数は取ったって聞いたし。何よりもメンバーで勉強会でもすればいいじゃないか。
「俺が教えられるわけないだろ」
「嘘だよね」
「なにが」
「だって模試で全国30位以内に入ったって言ってたじゃん。自主的に普通科のも勉強してるってことでしょ?」
「……まぁそうだが、牛込って勉強できないわけじゃないだろ? それにバンドメンバーで勉強会でも開けばいいじゃないか」
「……まず七菜は一人の方が勉強できるって。ひなはあれで頭いいから勉強の必要ないって言うし、リィはみんながいないならやんないって。今回の内容はちょっと付いていけてないのが多くて……」
「仲がいいのか悪いのか……。俺がそれに付き合うメリットは? 時期は被ってるんだ。明らかに俺の勉強時間が減るだろ」
ぶっちゃけ教えることはできる。その自信はある。だがそうすると俺が勉強できなくなる。ギブアンドテイクが成り立っていないんだ。交渉するならこれは成り立たせてほしいものだが、はたして牛込は俺に何を提示してくるのやら。
「……わかんない」
「ならこの話は無かったことに。もしくは俺がお前たちのサポーターを辞めるかだな」
「それは絶対駄目! ……あ、ご飯作るってのは?」
「はあ? お前どこで勉強しようと思ってんだよ」
「萩坂くんの家……うそうそ! 帰ろうとしないで! 図書館で勉強しよ! それで私がお弁当作るから!」
「お前それで俺を釣れるとでも?」
「やっぱり駄目……だよね……。ごめんね」
目に見えて落ち込みやがって。だからやりにくいってんだよ。……ぶっちゃけ俺はそこまでテスト勉強に時間を割かない。だって対策プリント丸暗記すればいいから。なら何を対価として貰うか。あ、そういや連絡の頻度減らしてほしいんだったわ。対価はそれにさせるか。
「牛込。勉強見てやるよ」
「ぇ……いいの?」
「対価は弁当と連絡を取る頻度を減らすこと。それでいいなら勉強見てやる」
「……わかった。お願いね」
「待ち合わせとかはまた今度決めるか。今日は遅くなったし、マンションの前まで送ってやる」
「いつもそれじゃ悪いよ。たまには逆でも……」
「だから牛込の家のほうが先に着くんだっての」
「あぅ。……あ、せめて晩御飯は」
「自炊するからいい。ほら帰るぞ」
牛込が持ってきた話が終わったから、俺は会話を強制的に終わらせて足を家へと向ける。牛込が急いで追いかけてきて隣に並ぶ。ここ最近直接会うことは無かったのだが、こうやって二人並ぶことが当然のようになっている。回数も少ないのになんでだろうな。
牛込が最近のバンドのことや学校での出来事を話してきて、俺がそれを適当に聞き流す。軽く流すとすぐに気づかれて文句を言われるのだが、どうでもいい話を真剣に聞く奴のほうが少ないと思うんだよな。
なんで俺がこんな面倒な羽目に合うんだろうかと思っていると、ようやく牛込が住むマンションに着いた。明日勉強会のことを決めることにし、そこで牛込と別れる。
と言っても俺の家もすぐそこなんだけどな。今日は早めに寝れるなんて思ってたんだが、さっきまで一緒にいたというのに牛込から連絡が来た。これは頻度を減らすってこと理解してないな。回数を決めるしかないか。
〜〜〜〜〜
萩近くんとの勉強会当日。私は前に言われたことを思い出して、軽くメイクをしてから家を出た。図書館に入ってすぐの広場で待ち合わせをしていて、今回も萩近くんの方が後だね。なんで図書館の中で待ち合わせなのかって言うと、気温が高いから。快適なとこでの待ち合わせの方がいいよね。
5分ほど待ったら萩近くんも図書館に着いて、合流したところで早速移動する。基本的に静かにしないといけないんだけど、喋っても問題ない部屋があってそこで勉強会をする。私達の他にもそうしてる人がいるけど、みんな真剣に勉強のことしか話さないからお互い集中できる空間になってる。
「何を教えればいい?」
「今日は数学と古典をお願い」
「りょーかい。……今日は? まさか今日以外でも面倒見ると思ってる?」
「え、教えてくれないの? あと私はそんな一気に覚えられないよ?」
「……チッ。わかったよ。予定が合わせられる時は見てやる。それ以外は自力でなんとかしやがれ」
「ありがとう」
萩近くんの教え方はすごいわかりやすかった。教えてもらって解いてみると、なんでこんなのができなかったんだろうって思っちゃうぐらいわかりやすい。数学だと萩近くんが問題まで作ってくれて、解説までしてくれた。学校の先生とかなれそうだよね。……性格さえどうにかすれば。
「一区切りってとこだな。昼にするか」
「ふぅ。疲れたよ〜」
「ま、こんなだけやってりゃテストも大丈夫だろ」
「えへへ、そうだったらいいなぁ。あ、ちゃんとお弁当を持ってきたから一緒に食べよ」
「サンキュ」
朝頑張って作ったお弁当を萩近くんに渡す。お母さんに誰のを作ってるのかを聞かれて、正直に萩近くんのって伝えたら複雑な顔をされた。あれ以降会ってないから、私がどれだけ言っても萩近くんの悪印象は払拭されてない。
できれば萩近くんと両親にもう一度会って話をしてほしいんだけど、なかなか実現しなさそう。
「なに辛気臭い顔してんだよ。弁当作んの失敗したのか?」
「ううん。そんなことないよ。わりとうまくできたって思ってるもん」
「へぇー。ま、たしかに美味いしな」
「ほんと!? よかった〜。お弁当を作るの初めてだったから不安だったんだけど」
「初めてなのか。それでこれって凄いな。牛込はいい嫁になるな」
「よ、嫁って……! もぅ、からかわないでよ!」
「本音だけどな」
「ふぇ!?」
お、お嫁さんなんてまだ早いよ……。……って、なんでその気になっちゃってんだろ。そもそも相手が萩近くんとかごめんだし。でも萩近くんってこういうことは嘘つかないし、本当に褒めてくれてるんだよね。照れくさいけど嬉しいかな。
お弁当は思ってたより好評で、萩近くんはすぐに食べ終わった。もしかして量が少なかったかもしれない。この年頃の男の子っていっぱい食べるって言うし。
でも萩近くんは満足したって言ってくれた。その後も勉強して、夕方までには解散。萩近くんは夕方からバイトに行くみたいだから。
テストの結果は中間テストの時よりもよかった。またテストが近づいたらお願いしようかな。
ちなみに、連絡頻度を減らすってことを忘れてたら萩近くんに怒られました。
次はいつ更新できるか分かりません。
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