同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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15話

 

 牛込が声をかけた少年こと雄弥は、人気急上昇中のバンドAugenblickのメンバーでベース担当だ。牛込は知らなかったらしいが、俺はクラスの女子たちが話題にしてるのを小耳に挟んでいたから知っていた。だから面白い状態で見つけれたなって思った。

 公園にいたあの様子が間違いなくアイツの素だ。相手の事どころか感情も理解できず、表情なんて無い。それが雄弥という人間で、バンドとして活動してる時のは作られている状態だろう。……たしか『湊雄弥』として出てたはずだが、名乗る時に『湊』を言わなかった。その辺は何かしら事情があるんだろう。首を突っ込むわけにもいかないから放置するわけだが。

 

 それで結局アイツが何してたかって言うと、作詞に悩んでたらしい。なんでも自分で自分の歌を作ることになったようなんだが、本人には全くそのやり方が分からないのだとか。

 それを聞いた牛込が、浅い知識ながらもレクチャーを始めた。俺も数少ない知識を総動員して牛込の説明を補足した。それでも歌詞を書けるようになるわけじゃない。だから牛込は時間を作っては協力していたし、俺もそれに付き合わされる羽目になった。

 

 珍しい……というか他にいないタイプの人間だからか、牛込一人じゃ荷が重かったらしい。俺は通訳じゃないんだがな。まぁ、俗に天才と呼ばれる部類に入る雄弥だ。取っ掛かりさえ掴んでしまえばそこからは早かった。すぐに歌詞を完成させていた。

 

 

 

 プロレベルの奴に教えるなんていう不思議な体験があったが、それ以外はバイト三昧だ。基本的に朝から晩まで。極力家に居ないようにすれば水道代やらガス代やらも少なくなるからな。

 バイトが無いときは町の図書館に行って涼みながら夏休みの課題を片付ける。問題が簡単すぎるからほとんどノンストップで手を動かしていた。そのおかげでバイトに打ち込めるわけなんだがな。

 

 そうやって代わり映えのしない日々を送っていたのだが、残念なことに今日からの二日間はバイトも勉強もない。ある意味バイト自体はあるか。まぁ何が言いたいのかというと、グリグリに予定を合わせている二日間なのだ。合宿兼海での遊びらしい。

 合宿には反対したのだが、鰐部の知り合いの別荘を借りるらしく、宿代はかからない。食材も用意してくれるらしく、自炊してしまえば食費も抑えられる。そして鵜沢の知り合いが海の家の店長で、俺はそこでバイトしていいのだとか。1日5時間という限定付きだが、働かせてもらえるならありがたい。

 

 

(そんなことを思ってたが……)

 

「萩近くんどうかしたの?」

 

「帰りたい」

 

「駄目だからね?」

 

「わーってるよ」

 

 

 費用を最小限に抑えられるどころか稼がせてくれる。そんな常套句で失念していたが、別荘に全員で宿泊だ。何が嬉しくてタイプじゃない女四人と一つ屋根の下で過ごさなければならないのか。

 別荘持ちということはもちろん金持ちなわけで、部屋の数もそれなりにあるだろう。なんせ合宿を兼ねてるのだから、楽器を弾ける空間があるんだ。たとえその分部屋の数が少なくなっているとしても、男女を分けるぐらいの余裕はあるはずだ。

 

 

──だが問題はそこじゃない

 

 

「なぁにー萩ぽん? ひなちゃんが魅力的ってー?」

 

「後で投げ捨てるぞ。デベ子を」

 

「とばっちり!?」

 

「合宿はともかくとして、まさか飛行機とはな(・・・・・・)

 

「場所が丹後なのだし、こっちの方が割り引いてもらえたのよ。あまり大きい声では言えないけど、学割だけじゃなくて特別割引までしてもらえたのだから」

 

「……まぁ感謝はしてるよ」

 

 

 そう。鰐部の知り合いが貸してくれた別荘がまさかの京都。その人があの弦巻家に劣らない大富豪でこの飛行機代も割り引いてくれた。学割も効いてまさかの半額以下。樋口一葉さんを一人旅立たせてお釣りが来るという謎。金持ちが怖く思えたな。

 本当は全部費用を持とうとしたらしいのだが、鰐部がそこだけは譲らなくて多少は払うことにしたのだとか。最初は半分の予定だったらしいが、いざ請求がくればさらに少ない金額だったとか。さすが大人。手段が巧妙だ。

 

 

「あ、萩近くん富士山見えるよ! ほら!」

 

「見りゃわかるからくっつくな(こっち来るな)。それと騒ぐな」

 

「富士山おっきぃね〜」

 

「聞いてねぇし……」

 

「ゆりちゃんは萩ぽんのこと大好きだよねぇ〜」

 

「え? なんで?」

 

「だってそんなに密着してるんだもん」

 

「これは鰐ちゃんもフォローできないんじゃない?」

 

 

 横一列が3人、4人、3人となってる飛行機で、俺は一番右の窓側に座っていた。左横が牛込で、その横が鰐部。通路を挟んで二十騎、その横が鵜沢だ。

 そんな席順で、俺は肘をつきながら窓の外を眺めていた。それにも拘わらず牛込は富士山見たさに窓に近づいた。そうなれば当然体が当たる。そんなイジれる状況をあの二人が見逃すわけもなく、すぐさま指摘し始めた。

 この状態は鰐部も庇うことはできず、周りに迷惑がかからない限り静観を決め込むようだ。ため息をついて視線を逸らしたからな。

 

 

「わ、私別に萩近くんのこと好きじゃないから」

 

「ほんとにー?」

 

「お姉さんたちが納得できる理由を言ってごら〜ん?」

 

「同い年じゃん。……理由も何も好きじゃないのは好きじゃないの!」

 

「じゃあなんでゆりは今も萩近にくっついてんの?」

 

「これは動かぬ証拠じゃないか〜?」

 

「ふぇ!?」

 

 

 なんでこいつ気づいてなかったんだよ。普通分かるだろ。……あー、馬鹿だからか。

 鵜沢に指摘された途端、俺を突き飛ばすように離れた牛込は、何か言い返そうとしていたが結局言葉が見つからなかったのか、鰐部を盾にして顔を隠した。そんな反応するからあいつらが止めないのだといい加減気づけばいいんだがな。

 

 空港に着いたらまさかの送迎リムジン。これは誰も予想してなかったのだが、時間を無駄に消費しても仕方ない。お礼を言って真っ先に車の中に入ると、後から四人も入ってきた。……ところで、ナチュラルに毎回牛込が横に来るのだが、これも無くせばからかいが無くな……るわけでもないか。それはそれで何か言いそうだな。俺は無視するから何でもいいけど。

 

 

「皆様、ご到着致しました。こちらが皆様にご宿泊していただく宿となります」

 

「……これが別荘」

 

「小さかったでしょうか?」

 

「いやいや逆ですから! 予想以上に大きかったので驚いたんです!」

 

「これより大きいのもあるらしいんだけどね……」

 

「「「え!?」」」

 

 

 これだから金持ちは……。まぁ、この大きさなら不便なこともないだろう。2階建てでテラスがあるんだからな。横から温泉もあるって聞こえたが、これマジで別荘なのか。旅館にでもしてしまえ。

 設備のことを教えてもらい、気になったことも聞き終わったら執事の人は帰っていった。明日の飛行機に間に合うようにまた来てくれるらしい。いたりつくせりとはこのことか。

 

 

「寝室も問題なさそうね」

 

「せっかくだから一緒の部屋で寝ない?」

 

「それはいいけど、私たちじゃベッドは動かせないわ。せいぜい二人ずつね」

 

「部屋割りは寝る時に決めよ。今はそれよりも海だよ!」

 

「さぁ行くよリィちゃん!」

 

「おうさ!」

 

「二人とも早すぎない!? ……行っちゃった」

 

「服の下に既に着てたのね。合宿ってことを忘れてなかったらいいのだけど」

 

 

 ツッコむとこはそこだけか。俺はボールやボートをいったいいつ膨らませたのかが気になったんだけどな。あれは普通時間かかるだろ。ここに来るまでは鞄に締まってたはずだし。それとこの場に男がいたのに、水着を着てるからって躊躇いなく服を脱いだことも驚きだわ。それとせめて服は片付けて行け。

 俺たちも着替えを済ませ、二人の後を追いかける。と言っても俺は海に入るのが目的ではないし、鰐部と牛込も海の家の店長に一言言ってから遊びに行くらしい。お前らは保護者か何かか。

 

 

「お、来たな! さっきリィから話は聞いた。さっそく働いてけ!」

 

「……リィって意外と面倒見いいよね」

 

「忘れがちだけどね」

 

 

 日に焼けた肌をしている店長は、ノリが軽く気前が良さそうだった。鵜沢とどういう知り合いなのかは簡単なことで、鵜沢の父親と同じ大学のサークルにいたらしい。それで今になっても付き合いがあって、それで鵜沢のも知り合ったということだ。

 

 

「話が通ってるならそうさせてもらいます。じゃ、お前らは好きに遊んでこい」

 

「うん。頑張ってね。後でお客さんとしてここに来るから」

 

「いいからさっさと行け。それとナンパは躱しとけよ。下手に喋らず一言で断って離れりゃなんとかなる。ならなかったら周りに助けてもらえ」

 

「ありがと♪ 行ってきます!」

 

「なんだかんだでゆりの心配するのね」

 

「面倒事に巻き込まれたくないだけだ。余計なこと言ってるとシメるぞ」

 

「ふふっ、それじゃあまた後で」

 

 

 鰐部って案外ああいう事言ってくるよな。基本的にストッパーなんだが、止める相手がいなくなるとな。軽く一言だけだが。

 二人がいなくなったところで、仕事の内容を教えてもらう。わりとすぐに記憶できる方だから、忙しくなる前にそれなりに動けるようになった。それでも客の数が数だからしんどかったんだけどな。

 

 

「お疲れさん玲音」

 

「お疲れ様です。海の家ってこんなに忙しいんですね」

 

「だいたいこんなもんだな。今日は人数がギリギリだったが、明日は増える。ま、ちったぁ楽になるだろ」

 

「だといいですけどね」

 

「それよか飯食えや。好きなだけ食っていいぞ!」

 

「ありがとうございます」

 

 

 食材を借りて食べたい分だけを作る。大量に食べてもいいんだが、晩飯をあまり食べられなくなるのも嫌だしな。腹八分目がちょうどいいだろう。

 食べ終わって食器を片付けたら今日は上がりだ。給料は明日の分と合わせて貰うことになってる。店の飲み物をもらってもよかったんだが、今飲みたい炭酸飲料が売り切れてるから自動販売機で買うことにした。

 

──それで面倒事に巻き込まれたわけだが

 

 

「──だからぁ、今から一緒に遊ぼうって〜」

 

「あの、ですから友達と来てるのでいいですって」

 

「それなら友達も一緒にさ〜」

 

 

 ナンパだナンパ。海とナンパはセットなのかは知らないが、飲み物を求める俺に対して自販機の前でナンパとはな。今だと遠回しに嫌がらせさせられてるとしか思えないな。それにその相手が相手なんだよな。一気に機嫌が悪くなったぞ。

 飲み物を買いたいが、買うためにはナンパしてる馬鹿どもを追い払わないといけない。鬱陶しくて腹立たしいが、初めは穏便にしてやろう。その後は向こうの出方次第だ。そんなわけで俺はナンパされてる奴の後ろから声をかけつつ肩に手を回すことにした。

 

 

「何してんだゆり(・・)合わせろ

 

「わっ、ビックリした〜。あ、合わせるって……

 

「あん? 誰だテメェは」

 

「それはこっちの台詞だ。俺の女(・・・)に何しようとしてる?」

 

れ、レオくん(・ ・・・・)……」

 

 

 牛込の肩に回していた手に力を入れて体を引き寄せる。牛込が頬を赤くして黙り込んだが、むしろこの状況だと好都合だ。ナンパしてた馬鹿どもが悪態つきながらどこぞへと消えて行ったからな。

 もっと突っ掛かってくれたら久々に喧嘩できたんだが、そこまでにはならなかったな。もっと非道だったら楽しかったんだが、それは高望みってやつか。

 

 

「あいつらどっか行ったぞ。……おい牛込」

 

「ほぇっ!? あ、うん……ありがと……」

 

「言ったのにナンパされやがって。……他の三人は?」

 

「みんなはあっちにいるよ。ジャンケンに負けた私がジュースを買いに来たらナンパされちゃって」

 

「あーね。じゃあ買うもん買ったら向こう行くぞ」

 

「うん」

 

 

 他の三人と合流してからは、昼寝してた。この後練習があるってことを本人たちが忘れてそうだが、そこは本人たちが決めればいいこと。やらないならやらないで飯を作る時間を早めたらいい。海から上がったら真っ先に体を洗うだろうしな。その間に作ればいいだろう。

 

 そうして別荘に戻ったらやはり女性陣は体を洗うために風呂へと向かっていった。一足先に戻ってお湯は貯めといてやったから、すぐに温泉を楽しめるだろう。俺は予定通り飯を作るとしよう。安定のカレーだ。やりやすい。

 

 

「萩ぽん誘惑に負けて覗いたら駄目だよ〜?」

 

「やるかアホ。魅力的だと思ったことないからな?」

 

「えー? じゃあまずはゆりちゃんの裸見てみるー?」

 

「じゃあって何!? そんなの嫌だからね!!」

 

「あ、逃げた」

 

「そりゃあ逃げるでしょ……。馬鹿なことしてないで私たちも行きましょ」

 

 

 鰐部が牛込の後を追いかけ、鵜沢に引きずられるように二十騎も風呂場に行く。俺はいつも飯を食ってから風呂に入るからな。この役回りはちょうどいい。俺は食べる量が多いが、あいつらはそうもいかないだろう。作る量には気をつけないとな。用意してもらったものを無駄にするのはよくない。

 てっきり長風呂するかと思ったが、四人はすぐに上がってきた。晩飯を食べて食休みすれば練習するらしい。その後にもう一度入り直すのだとか。練習を忘れてなかったことに感心しかけたが、鵜沢と二十騎が忘れてたあたりそうもいかないな。

 

 サポーターって言っても、俺にできることはほとんどない。せいぜい演奏を聞いて感想を言うぐらいだ。機材の準備とか片付けぐらいは手伝うし、作詞作曲も少し囓ってる程度だから似たようなもんだな。

 明日は朝から演奏して、昼前から海で遊び、風呂を済ませて掃除と片付けをしたら帰るらしい。鰐部らしい予定の組み立てだな。明日の予定を聞いた俺は、風呂を済ませた後、部屋に向かわず飲み物を片手にテラスに出ていた。一人くつろいでいると隣に腰掛けてきた奴がいた。

 

 わざわざ肩が触れ合う程距離を詰めなくてもいいと思うのだが、風で靡く髪を片手で抑えながら微笑んできたのはやはり牛込だった。鰐部と鵜沢だったらある程度距離を取って座るし、二十騎なら不意打ちがてら飛びついてくるからな。

 

 

「女子トークはしてこなくていいのか?」

 

「それはもういっぱいしたからね。まだまだ話せるけど、ちょっと風に当たりたかったし」

 

「あっそ」

 

「うん。……気持ちいい風だよね。波音も聞こえるし」

 

「それもあるが、上見たほうがさらに楽しめるぞ」

 

「上? ぁ……、きれい……」

 

「町明かりがないからよく星が見える」

 

 

 俺の言葉に相槌を打った牛込は、空を眺めながら星座の名前を連ねていく。学校で習うような有名な星座だけじゃない。図鑑に記されてるのを覚えているのだろうな。俺が知らない星座もあげていく。それで得意げな顔をするあたり子供だって思うんだがな。

 

 

「あのね。風に当たりたかったってのもあるんだけど、もう一個理由があるんだ」

 

「……なんか話か?」

 

「えへへ、外れだよ。話ではあるけど、改めてお礼を言いたかったから」

 

「お礼? あー、ナンパの件か。あれは飲み物買うのに邪魔だったから。場所が違ってたら放置してたわ」

 

「あ、あはは。でも助けてくれたのは事実だし──ありがとう」

 

 

 礼なんかいらないんだけどな。本当にたまたまなわけだし。本人がそうしたいならそれでいいけどさ。

 礼を言ったら満足したのか、牛込は部屋へと戻るらしい。立ち上がってこっちを見下ろしてくる牛込は、この状況のせいなのかいつもより女性らしく見える。

 

 

「あの時にね。君が……その……お、俺の女……って言ったじゃん? 手っ取り早いからってのは分かるけど……、その……ドキってしちゃったんだ。……おやすみ!」

 

「脳検査してこい……って聞こえてないか」

 

 

 まったく、らしくないことはするもんじゃないな。

 




 本編は8月!
 リアルのクリスマスに合わせたい!
 間に合えー!

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
  • グリグリ全員との絡み
  • 陽だまりをくれる人とのリンク回
  • 結婚式
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