同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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16話

 

 合宿二日目の朝。今日は朝ご飯を食べたらさっそく練習の日なんだけど、昨日は萩近くんにご飯作ってもらったから、今日は私たちで作ろうってことになってる。このことは萩近くんにも伝えてるからかな、まだ部屋で寝てるみたい。

 休める時に休んでほしいから朝ご飯ができるまで待とうってなってたんだけど、そろそろ出来上がるから呼びに行かないといけない。私が呼びに行こうとしたんだけど、エプロンを外そうとした手をリィに掴まれた。

 

 

「どうしたの?」

 

「アタシが起こして来ようかなって。いっつもゆりに萩近のこと任せてるからこれくらいはね」

 

「別に気にしてないんだけど……、リィがそう言うなら。……あ、変なことしちゃ駄目だよ?」

 

「大丈夫大丈夫。ゆりを差し置いて寝取ったりしないから〜!」

 

「ねとっ!? そ、そういうことじゃないし! それに私そういう目で見てるわけじゃないもん!」

 

「ゆりちゃんゆりちゃん! そういう目ってどういう目なの?」

 

「はいはいその辺にしなさい。リィも早く起こしてきて」

 

 

 またイジられそうになったとこで七菜が止めに入ってくれた。七菜が止めに入るとリィもひなも大人しくなるんだよね。それで結局リィが起こしに行って、私たちで食器の準備も済ませることになった。リィが何もしなかったらいいんだけど、ひなじゃないんだし大丈夫だよね。 

 

 

 

 しばらくしたらリィと一緒に萩近くんがリビングに来た。萩近くんの様子を見る限り普通に起こされたみたいだね。リィが何もしなくてよかったよ。そうやって安堵してたらリィにブーイングされちゃったけど、これは普段の行いがそうさせてると思うんだよね。

 四人で用意したのは軽い軽食。お昼を海の家で食べることを考えたら、緑黄色野菜を今多めに食べたほうがいいだろうってことで、テーブルの真ん中に大皿を置いて野菜が盛られてる。私たちが作った朝ご飯は萩坂くんにも好評で一安心できた。

 

 今日の練習は個々人のスキルアップを目的にした練習が中心だった。みんな自分で課題が分かってるから、うまい人の動画を見たりひたすら弾いたりと自分のやり方で取り組んでた。私もギターの練習をするんだけど、萩坂くんもギターの経験者だから意見を聞きながら練習することにした。

 

 

「経験者つってもほとんど素人も同然だぞ?」

 

「それでも全くの素人じゃないでしょ? 一緒に考えてくれるだけでいいから」

 

「……役に立つなんて思うなよ」

 

「あはは、ありがとう」

 

 

 そんなことを言ってたけど、萩近くんは私とは考え方が違うから凄い助かったんだよね。私が見落とすことを指摘してくれるから。反対に萩近くんが分からないことは私が分かった。そうやって二人で練習してると時間が来て、最後に曲を通して練習は終わりってことになった。

 練習が終わったら楽器や機材を片付けて部屋の掃除をする。機材は用意してもらったものだから、言われた場所に固めといて楽器だけ持ち帰る。それも終わったら今日も海で遊ぶ。萩近くんは今日もバイトだね。一緒に遊べたらいいんだけど本人はその気がないし、そもそも異性がばっかりな状態じゃ遊びにくいのもあるのかな。

 

 海で遊ぶ前に五人で海の家に寄ったんだけど、昨日と違って海の家の従業員の数が多かった。人が増えるとは聞いてたけど、三人増えるって増えるって増え過ぎじゃないかな。

 

 

「お、来たか玲音!」

 

「来ましたけど……、人数だいぶ多いですね」

 

「まぁなー! そんなわけで玲音は今日休み! 有給ってことにするから遊んでこい!」

 

「え、いやでも……」

 

「人の好意は受け取れっての! それに、わざわざここまで来たんだ。海を満喫してこい」

 

「……わかりました。ありがとうございます」

 

 

 さすがに店長さんに言われたら萩近くんも折れたみたい。そうは言っても彼は元から海に入る気はなかったみたいだから、一旦別荘に戻って着替えてくるらしい。

 

 

「……で、牛込は一人で何してんの?」

 

「取り残されました」

 

「何言ってんの?」

 

   

 彼を待ってる間に日焼け止めを塗ろうってことになったんだけど、見事に嵌められたんだよね。私が最後に背中に塗ってもらうことになったんだけど、その時になってみんな海に行っちゃった。追いかけたかったけど、なかなか捕まえられないだろうし、その間に日焼けしちゃいそうだから諦めた。

 事情を知った彼が、もの凄い馬鹿にした顔で肩に手を置いてきた。私をからかってのことなのは分かって、軽く肩を押す。もっと怒ってもいいんだけど、今の私はそういうことができない。だって日焼け止めを背中に塗ってもらうとしたら、この場にいる彼にしか頼めないのだから。

 

 

「さてと、適当にぶらついてくるか」

 

「ま、待ってよ!」

 

「あ? なんで?」

 

「分かってて言ってるでしょ……」

 

「分からんなぁ」

 

「絶対嘘だよぉ……。……あのね……その……日焼け止め塗ってほしいなぁって……」

 

「やだ」

 

「断らないでよ! 恥ずかしい思いして言ったのに!」

 

 

 絶対に私のことからかってるよ。ニヤついてるもん。彼ならそれすら抑えられるはずなのに、わざわざあからさまにしてるってことは、そういうことだよね。でも、ここで彼までいなくなったら私は遊べない。遊んでもいいけどそうしたら背中の方だけ日焼けっていうシュールなことになっちゃう。

 そんなことは絶対に嫌で、何がなんでも羞恥に耐えて彼に日焼け止めを塗ってもらわないといけない。だから私は彼の腕にしがみついて必死に食い止めた。そうしたら彼も諦めてくれた。

 

 

「さっさと終わらすぞ。脱げ」

 

「言い方がやらしいよ!」

 

「日焼け止めってそうやって塗るもんじゃなかったっけ? 違うなら水着の部分だけ避けるけど、どうするんだ?」

 

「……うぅ……」

 

「…………なんか俺が変態みたいな状況になったな」

 

「自業自得だからね! 恥ずかしいのはこっちなんだから!」

 

 

 うつ伏せに寝転がって上の水着の紐を解く。うつ伏せだから隠せてるけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。異性にこんな状態を見られてるせいもあって、顔が熱くなる。分かりきってることで、真っ赤になってるんだろうね。

 彼は日焼け止めを塗り始める前に声をかけてくれたんだけど、恥ずかしすぎてなんて返事したかは覚えてない。変な返事はしてないはず。

 

 

「ひゃっ!」

 

「なんでそんな声上げんだよ。どういうもんか分かってるだろ」

 

「わかっ……てる、けど……! あっ、……人にやられると……んっ……なんか違くて……!」

 

「まじで声抑えてくんね? 俺が通報されかねないわ。それに他の三人は声抑えられてたんじゃないのか? 妹にやった時もお前みたいな反応しなかったんだが」

 

「そう……だけど……っ! んあっ! ……なんでか……声が……出ちゃうんだ……もんっ!」

 

「せめて手とかで口塞げ」

 

「う、んっ。……んんっ、んんー!」

 

 

 なんか口を抑えてたら余計に変な感じになっちゃったんだけど。背中とか腰、肩とかまでやってもらっちゃって、彼の手がダイレクトに肌に当たるからかな。なんかむず痒い感じもしちゃう。なんか背中がゾクゾクってなって、呼吸が乱れちゃう。これ続けられたら、なんか大変なことになりそう……。

 

 

「よし終わり」

 

「ふぇ……? もう……おわひ……?」

 

「不満か? なんならやらしくやってやるが?」

 

「う……うぅん。……らいりょうふ」

 

「駄目だなこりゃ」

 

 

 息が乱れてうまく力が入らなくて、私の代わりに彼が水着の紐を締めてくれた。私の体を起こしてもらったんだけど、全然自分で起きてられなくて彼にもたれかかっちゃった。この状態ってほんと周りの人に勘違いされそうだよね。

 

──顔を赤くして呼吸が乱れてる女子が男子にもたれかかる

 

 うん。彼の危惧どおり通報されてもおかしくないや。彼ならこういう状況すらうまいこと躱しそうだけどね。

 

 

「少しはマシになったか?」

 

「うん……。でも……もうちょっと待って」

 

「世話の焼ける奴。……お前敏感すぎなんだよ」

 

「そう言われても、どうしようもないじゃん。……りみとかお母さんに塗ってもらう時はこんなことにならなかったんだけどね」

 

「男なら駄目なのか?」

 

「それか君だから(・・・・)かな。……ぅぅ」

 

「自滅すんのかよ」

 

 

 ふと思ったことをそのまま口にしただけなのに、後からすっごい恥ずかしくなった。彼にもたれてかかってる状態だから、彼が私の顔を見ることはない。それが唯一の救いかな。

 救いではあるんだけど、この状態は状態で彼から追撃されることに繋がっちゃった。顔が見えないことを理由にからかいたがる彼は、体を少し動かして後ろから私の体を包み込むように抱きしめてきた。それだけで終わらなくて、耳に口を近づけて名前を囁かれた。たったそれだけなのにまた力が抜けちゃった。

 

 

「ほんと耳弱いなぁ。ここまで弱いとなると致命傷だぞ?」

 

「きみのしぇい」

 

「なんでだよ……。ま、ふざけるのもこれくらいにしてそろそろ行くか」

 

「う……ん……。……立たせて?」

 

「……仕方ないか」

 

 

 彼に立たせてもらって、手を引かれて歩く。彼の追撃のせいで回復しかけてた私はまた駄目になっちゃったから、彼の腕にしがみつくようにしないとうまく歩けなかった。これだとまるでカップルみたいで、そう見られるのは嫌だった。でも彼が平然とするから、そっちのほうが不満だった。

 だったんだけど……、ふと思い出したように彼に水着を着てる私を褒められた。

 

──ズルいよ。本当に……。だってそう言われたら不満がなくなっちゃうじゃん。

 

 これすら彼の計算だったのか、それともただの思いつきだったのか分からない。でも、たとえ計算だったとしても彼と一緒に選んだ水着を着て、それを褒められたのは嬉しかった。

 

 みんなと合流したらいろんなことして遊んだ。スイカ割りをしたし、海上バレー的なこともした。海に潜ったりしたし、貝殻探しなんてこともした。

 楽しい時間はすぐに過ぎ去るもので、休憩しようって休んで時計を見たらもう戻らないといけない時間だった。萩近くんの好意に甘えて先に戻らせてもらって体を洗い流す。萩近くんは給料を貰うことも兼ねて片付けをしてくれた。テキパキし過ぎだよね。独り暮らしで鍛えられたのかな。

 

 飛行機に乗っていざ帰るってなった時にひなが突然騒ぎ始めた。その理由がなんともひならしくて、『花火するの忘れてた!』だった。だから地元に戻ったら花火をすることになった。萩近くんも流れに合わせてくれたしね。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 家に帰ってから、今朝萩近と話したことを思い返した。昨日の夜の女子トークとも合わせると、なんとも不思議な話なんだよね。

 

 

『だから、萩近くんのことはそういうふうに見てないってば。友達だってば』

 

 

 それがゆりちゃんの本心だってことは、七菜もひなも分かった。

 

 そして萩近は──

 

 

『あいつを彼女になんてしたくねぇよ。友達とすら思ってないんだしな』

 

 

 これが二人の本心。ゆりちゃんが面白い反応してくれるからネタはやめないけど、思ってた以上に二人の関係はドライなんだね。

 

 

「簡単に壊れそうだよねぇ〜。もしそうなったらゆりちゃん大丈夫かな……」




 夏休み編終わりだー!
 間に合えクリスマスー!

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
  • グリグリ全員との絡み
  • 陽だまりをくれる人とのリンク回
  • 結婚式
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