同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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17話

 

 夏休みが終わり、ダルい始業式を行ってからはまた退屈な学校生活が始まった。始業式のダルい点を上げるとすれば、表彰の時間が長いのと校長の話が長いのが上げられる。

 夏休みの間は部活の大会が多いようで、うちの学校はわりと強豪として知られる部活が多い。その中でも飛び抜けているのが男子ソフトボールテニス部だ。全国の常連校だからな。

 

 たいていいくつかの部活が呼ばれて壇上で順に受け取るのだが、男テニだけは違う。あいつらは一つの部だけで壇上を埋め尽くす。その中でもさらに飛び抜けてる奴は、一人で複数回表彰状やメダルを受け取るし、トロフィーまで貰う奴もいる。それ自体は素直に賞賛するが、読み上げるだけでいいだろうって思う。そいつらは大会時に一度受け取ってるのだから。

 それで校長の話だが、話が長いという点は他の高校でも十分ありえることだろう。だが、原稿を読み終わったら身内話を始めるのは、ここの校長ぐらいじゃないだろうか。しかも話がループするし。さっさと引退しやがれ。

 

 

 そんな始業式が終わって次の日からは課題テスト。夏休みの課題がテスト範囲となってるものだ。これはほぼ成績に反映されないから覚えてくる奴は少ない。成績への影響が少ないなんて教師が生徒に教えるなよな。そりゃあ誰も勉強しようなんて思わないわ。

 そんなテストも終われば後は退屈な授業の繰り返し。10月後半にある体育祭ぐらいしか目立った行事もないしな。ここの体育祭って数年に一回救急車が来るらしいから、あまり乗り気じゃないんだがな。

 

 

「ぶっ潰すぞお前らァァ!!」

『『ったりめぇだぁぁぁ!!』』

 

 

 馬鹿どもがこうやってヒートアップするんだよ。学年対抗らしいんだがな、親の仇でも取るのかってぐらいやる気(殺る気)が漲ってんだよ。騎馬戦が種目から消えたのも必ず怪我人が出るからなんだとか。

 そんなわけだから無論のこと棒倒しなんて種目もない。棒引きならあるし、綱引きもあるんだが、男子には物足りないんだよな。文句を言っても種目が増えないからその二つが一番殺伐とするんだが。

 

 棒引きの場合だと、まずフライングが当たり前。先制で棒を取れそうになかったら棒を掴まずに走り続け、棒を挟んで反対側にいる敵にドロップキック。最低限の時間で棒を確保することが必須条件という頭の悪い戦いだ。最後の方になれば少ない本数に大勢群がることになるのだが、棒に関わってなくて群がってる奴らは、よく見るとただ乱闘してるだけだ。それで人数を減らして引っ張ってる人もノックアウトしようという魂胆。無論棒引きには出場しなかったがな。

 

 一番酷いのが棒引きなのだが、綱引きがその次に酷い。フライングは当然のことながら行われる。勝敗が決したら場所を交代するが、すれ違うメンチを切ることも当たり前。もはや社交辞令として行ってるとも言える。掛け声も「オーエス」じゃなくて「殺す」って直球だしな。

 

 

「おらお前らも続けよー。 点差ねぇし」

 

「おういぇ!」

 

 

 運動が苦手な人も当然いる。そんな人たちのために用意されてる種目もあり、今から行われるラケットリレーがそうだ。三人一組のチーム戦で、テニスのラケットの上にサッカーボールサイズのゴムボールを乗せ、決められたコースを走って次の人に渡す。それだけの分かりやすい競技だ。そして地味に配点が高い。

 運動できない人たちも熱に当てられてるのか、普段見せないテンションになっている。これは運動神経がいいやつが出ず、基本的に泥試合となるらしいが、俺達の学年はそうならなかった。出たメンバーが中学時代にもこれと似た競技をやってきたらしい。要はプロフェッショナルだ。結果はもちろんのことながら圧勝。

 

 

「丸。あのカーブのときにラケットの角度をあと7度上げて、体を3度曲げておけばもっと早く帰ってこれたぞ」

 

「さすがですな。来年に向けて調整しておきましょう」

 

「お前らナチュラルにキモいな」

 

 

 リレーはもちろんあるのだが、ここの学校はグラウンドがクソだし、指定されてる靴も最悪だ。本気で走ってカーブを素早く抜けようと思ったら一時スケートしないといけない。そうしないと確実にコケるからだ。

 滑るポイントが決まってたら全員対策できるのだが、人によって靴が滑るタイミングが違う。つまり不意打ちで滑ることになり、勝つためにはそれに反応してコケずにスケートする必要がある。体幹を鍛えてる奴が有利な勝負だ。

 

 

「で、萩近はダントツで帰ってきたと」

 

「油よりは滑らないだろ」

 

「……お前のバイトってそんな床なのか?」

 

「いや喧嘩ばっかしてた中学時代の話」

 

「どんな喧嘩だよ!?」

 

 

 発火させられた時はさすがに死ぬかと思った。まぁそんな話はどうでもよくて、こかしあいをする女子の恐ろしいリレーがやっと終わったんだが、後はオールスター戦。学年でトップテンの足の速さのメンバーがリレーするやつだ。それに教師陣が2チーム参加して、計5チームで戦う。まぁ教師陣の1チームはシニア教師と保護者代表が頑張って走るっていう微笑ましいチームなんだけどな。

 このオールスター戦の酷い話は、ハンデをつけられた教師チームに生徒が負けるってことなんだよな。陸上部の顧問が最初のランナーで、15mのハンデがその人につけられる。リレーという短距離走で15mは大きい。大きいのだが、その顧問は半周で全員を抜かし、残りの半周で差をつける怪物だ。教師してないで陸上選手として世界大会狙ってこいってレベルだな。

 

──結果はもちろん教師陣の圧勝。生徒チームでさえ周回遅れとか酷い話だ

 

 

 

 体育祭の結果は僅差で二年の勝利。俺達一年は2位に終わったわけだが、二年が勝つのも毎年のことらしい。三年は大半が引退してるから運動能力が落ちる。一年は二年ほどまだ鍛えられてない。そのことが如実に現れただけだ。

 体育祭が終わり、運動部が後片付けをする。帰宅部は準備も片付けも一切しなくていいから楽だ。シャワーを浴びたらバイトに行こうと思っていたのだが、牛込と鰐部の二人に止められて断念。やることもなく、家でのんびりと過ごして早めに寝ようと思ったのだが、帰り道の途中にある公園を横切った時に声をかけられると同時に肩を叩かれた。

 

 

「やけにテンション高いな、牛込」

 

「えへへ、君を待ってたからね〜」

 

「話があるなら携帯にかけてくりゃいいだろ」

 

「君が出てくれないんだもん」

 

「は? ……あー、教師に見つからないようにするために電源切ってんだったな」

 

 

 携帯の持ち込みを一応禁止されてるからな。見られないようにしとけば回収されないし、荷物検査なんてクソみたいなこともないしな。今回の牛込みたいに不意打ちで電話がかかってくることを警戒して電源を切ったんだが、戻すのを忘れてたな。電源を入れて通知を確認しても牛込からの着信ぐらいだな。

 

 

「で、話ってなんだよ」

 

「次のライブが決まったから、君にも来てもらおうって思って」

 

「……行かないといけないのか?」

 

「来てくれてもいいじゃん。サポーターなんだし」

 

「仮って言えるレベルだけどな」

 

「来てくれた時は凄い助かってるよ」

 

 

 何もしてない気がするんだけどな。合宿の時にやってたことと何ら変わらない。できることをしてるだけだ。それで助かってるなんて、俺は到底思えないんだがな。牛込は本気で言ってそうだからそのことは黙っておくけど。

 ライブね。俺が行ったあの最初のライブ以降も何度かしてるらしいんだが、なんで今さらになって誘ってきてるんだろうな。それにバイトのシフトは決まってるから日程次第ってことを理解してるはずだし。

 

 

「ライブの日程は再来週の金曜日だよ。夕方からだし来れるかなって。たしか金曜日はいつもバイト入れてなかったよね?」

 

「空いてるが……俺のシフトまで覚えるなよ」

 

「……ごめん。でも君をあまり困らせたくなくて、できるだけ把握してたら無理にお願いすることもないかなって……」

 

「……はぁ」

 

 

 急にしおらしくなりやがって、調子が狂うったらありゃしない。俺の機嫌が悪くなったとでも思ったのか、牛込は目を伏せた。勘違いされても面倒だから、目を伏せてる牛込の頭を撫でてライブに行くことを伝える。

 目を丸くして驚いた牛込だったが、すぐに嬉しそうにはにかんだ。こいつはこうやって能天気そうにしてる方がらしいんだよな。

 

 

「変に気を回してくるな。そっちのほうが面倒だわ」

 

「……でも、いつも迷惑そうにしてるし……」

 

「まぁな。そこは否定しない。けどな、お前に気を回されてしおらしくされる方が調子狂うんだよ」

 

「……我儘」

 

「そうだな」 

 

「自分勝手」

 

「俺だからな…………っていきなりなんだよ」

 

 

 文句を連ねてた牛込が急に抱きついてきた。こういうことはするなって前に教えた気がするんだがな。両肩に手を置いて引き離そうとするも、牛込は回してきた手に力を込めて抵抗してくる。何がしたいのかさっぱり分からないから肩から手を離して、今度は両頬を挟んで目を合わさせる。

 

 

「こういうのはやめろって言っただろ。自滅するなら尚更だ」

 

「い、いいじゃん。君が自分勝手にするなら、私も自分勝手にするってだけだよ」

 

「何張り合ってんだよ……」

 

「張り合ってないもん。……これからもいっぱい誘うからね」

 

「好きにしろ。行くかは俺が決める」

 

「うん!」

 

 

 ようやく離れた牛込に軽くデコピンして止めていた足を動かす。帰り道が一緒だから、自然と牛込が住むマンションの前まで一緒になる。体育祭の話を聞かれたから話してやったが、話を盛るなって言われた。事実なんだがな、牛込には理解できない世界らしい。

 

 

 

 ライブ会場は安定のSPACE。数カ月ぶりに会ったオーナーに生存報告をして、最近の生活のことを話す。大家がいい人で家賃を下げてくれたからなんとか生きてられている状況だ。バーガー店のバイトとは別にやってることもある程度収入があることだしな。

 

 オーナーが認めたバンドだけがライブをできる。それがSPACEの在り方だ。だから中途半端なライブをするバンドなんて存在しない。それはGlitter*Greenも同じこと。着実にステップアップしてるだけあって、さらにレベルの高いライブをできるようになっていた。

 ライブを見に来いとは言われたが、それ以外は特に言われていない。ライブが終わったら颯爽と帰って飯を食べる。どうせライブがどうだったかを電話で聞かれるだろうと思っていた。

 

 その予想は半分当たって半分外れた。

 

 電話をかけてきたのが牛込じゃなくて鰐部だった。

 

 珍しいと思ったが、どうやら真面目な話らしい。軽く聞いてみると流石に驚く内容だった。

 

 

──牛込が演奏できなくなったらしい

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