今年もよろしくお願いします。
クリスマスイヴから一週間経つと大晦日だ。この日までに大掃除を終わらせてる人が大半だろう。俺の家は必要最低限のものしかないから大掃除が楽だった。
アパートに元から付いてる台所や風呂場。ここに住むと決まった時に婆ちゃんが送ってくれた小さな洗濯機。炊飯器や調理器具一式。それ以外だとちゃぶ台と座布団。布団。本がだいたい50冊入る程度の本棚と服を入れる箪笥、アイロン、ぐらいか。
テレビはないしゲーム機とかも一切ない。本棚に漫画やラノベも一切ない。質素すぎるだろうが、別に誰も入れる気がないから問題ない。
そんなわけで気兼ねなくバイトをしている。大晦日なんかにバーガー屋に来る物好きはいたりするが、それでも暇な方だろう。近くに神社がないから正月も特別忙しくなるわけでもないだろう。
そんなわけで気楽にバイトをしているのだが、どうしてこいつは俺が接客する時にピンポイントに来るのだろうか。
「帰れ」
「来たばっかですー。普通に注文もするしね」
「珍しいな」
「さも私が冷やかしだけする迷惑なお客さんみたいに言うのやめてくれない? それで今日の年越しはどうするの?」
「どうもこうも寝るに決まってるだろ。明日もシフト入れてるし」
牛込が指差す料理を打ち込んで合計金を出す。その間に会話を続けていたわけだが、正直に予定を言っただけなのに牛込が不満な顔をする。混んでいるわけではないが、他にも客がいるわけだし早く料金を払ってほしい。
「つまんない」
「知らんがな。お前はどうせ家族で過ごすだろ? どのみち関係ない話だ」
「今日のバイトが終わったら君もうちに来ること! いいね!」
「嫌だ。明日は朝からだから寝たい」
「年越ししたらすぐに寝ていいから。それとお参りは明後日行こうね」
「勝手に決めるな」
どれだけ牛込が押してこようが俺にも予定はある。最近は余裕があったから時間を割いてやっていただけで、今回はそうじゃない。もう予定が詰まっているんだ。睡眠時間を削りたくないし、頼みを聞いてやる義理もない。
それに明後日にお参りに行くって言ってるが、俺は別に明後日が暇だなんて言ってないんだよな。思い込みはやめていただきたい。
「明後日は休みだって聞いたよ?」
「……誰に?」
「あの面白い先輩」
「ほぅ?」
「……何をする気なのかは知らないけど、荒事はやめてよ? それと明後日はお参りだから。ドタキャンしないでね」
「あ、フリか」
「フリじゃない!」
出来上がった料理をトレーに乗せる。牛込が注文した品が揃ったのを確認して支払いを促す。話が終わったわけではないがタイムリミットだ。他にも客がいることは牛込も分かっているから大人しく支払い席に歩いていった。
「さて、どういうことか教えてくれませんかねぇ? 先輩よぉ」
「怖い怖い!! それとお前接客投げ出すなよ!」
「たしか上がる時間が一緒でしたよね。後でたっぷりと聞き出しますよ」
「やだ! 僕は悪くないもん!」
「え、キモ」
「素で言うなや!」
思わず本音が飛び出してしまったが、今のは先輩が悪い。ガラにもないことを突然言い出したからな。それに他のみんなもドン引きしてたから、今のをキモいと思ったのは俺だけではないということだ。
高校生は22時までに店を出ないといけない。それでうちの店は高校生を15分前には全員上げるようにしてる。それから帰って家に着くのがだいたい22時過ぎ。シャワーを浴びたら洗濯をする。洗濯物を干したらあとは寝るだけなのだが、諦めの悪いことで電話がかかってくる。
『もう帰ってる時間だよね?』
「そうだな。今洗濯機が止まるの待ってる」
『じゃあ洗濯物を干したらこっちに来れるんだ?』
「いやだから行かないって」
『来てよ!』
だからなんで俺がそこに行かないといけないのか。訳がわからない。そもそも誰が好んで家族団らんとしている年越しにお邪魔しに行くんだ。独り暮らししてる奴のところに友達が集まるとかならまだわかる。
だが牛込の家には家族全員が揃っている。親族でも何でもない俺がそこに混ざっていいわけがない。どうしてそれが分からないって言うんだ。
「行かないって言ってるだろ。いい加減分かれ」
『やだよ。君が来てくれるまでマンションの前で待つよ?』
「好きにしろ。そんなことされても俺は行かないからな。明日に備えて寝る」
電話を切って数分したら洗濯機が止まり、中から取り出して洗濯物を干す。それを終わらせて飲み物を飲んだら布団を敷いて横になる。有名な神社があるわけじゃないから地元以外の人が来ることはないし、正月にハンバーガーを食べる人も少ないらしい。だから、少なくともうちの店は忙しくなることはないんだとか。
それならそれでどう時間を潰すかが問題になってくるが、メンバー的に暇になることはないだろう。よく喋る人が入ってるし、みんなそれなりに仲が良いからな。
「……せめてあの子は一人じゃなかったらいいんだが」
気になるのは妹の存在だ。あの人懐っこい妹が今どう過ごしてるか気になる。クソ野郎と同棲してるわけじゃないってのは聞いてるから、俺みたいに一人なのかあるいは誰かの家に転がり込んで年越しをしてるかだな。
まだ中学生だから学校には行ってるらしいし、それなら友達も作れてるはずだ。牛込みたいに誘ってくる奴も一人ぐらいはいるだろう。
そこまで考えたところで引っかかった。
──果たして牛込は本当に外で待っているのだろうか
考え事をすると中々寝付けないのが俺の性分だ。そしてこういう時の時間経過は早く感じるもので、電話を切ってから既に1時間以上経っている。
「さすがにここまで経ってたらあの馬鹿でも諦めるだろ」
そう思って目を閉じたが、
「……チッ。あーメンドクセ」
ズボンだけ履き換えて上着を着て外に出る。どうせすぐ隣だ。いないことを確認して引き返すだけなのだ。それを済ませたら寝れるだろう。
アパートを出て歩いて10秒。確認するだけでいいし、いないわけなんだからチラッと目を向けて引き返す。
そのはずだった。
マンションの入り口は2段登るのだが、そこに腰掛けている女子がいた。厚着というほど着込んでるわけじゃない。寒そうに身を丸くしてるのも無理からぬことだ。寒いと頬が赤くなるが、もはやその段階すら通り越して顔色が悪く見える。俺は着ていた上着を脱ぎながら走って近づき
「この馬鹿が! せめて厚着ぐらいしやがれ!」
「……あ、……きて、くれた……」
「俺が来なかったらどうする気だったんだ! 冗談抜きで死ぬぞ!」
「君なら……きてくれるかなって……。ほら、こうして……きてくれたし」
「このっ……! とりあえずさっさと家に帰れ! 年初めを風邪で過ごしたくなかったらな!」
「やだ……きみが、きてくれないと……いや」
「まだそんなことを……。……わーったよ行ってやるよ! それでいいだろ!」
「えへへ……、ありがとう」
上着を着させてすぐに牛込を担ぎ上げる。いつもなら文句を言ってくるがそんな気力は今ないらしい。そこまで自分を追い込むなって話だが、俺の責任でもある。
鍵を借りてマンションの中に入り、エレベーターを待つのももどかしく階段を一気に駆け上がる。玄関を荒々しく開け、牛込の靴を脱がせて自分の靴も脱ぐ。そうしていると牛込の妹のりみが廊下に出てきた。
「え? 萩近さん? ってえぇ!? お姉ちゃんお姫様だっこされてる!?」
「そんなの今はどうでもいい! 風呂は沸いてんのか!?」
「え? お風呂ですか? 沸いてますけど……ってお姉ちゃんどうしたの!?」
「ならよかった。風呂場はどこだ?」
「こ、こっちです!」
りみに案内されて脱衣所へと牛込を運ぶ。これだけ騒いでると両親も当然気づき、二人も駆け込んでくる。すぐに状況を把握した母親がすぐさま父親を追い出し、俺も外に出される。これから風呂に入れさせるんだから当然だな。
俺はリビングに案内され、席に座るように促された。何があったのかを話す義務もあるし、ちゃんと謝罪しよう。また俺のせいなんだから。
「ごめんなさい」
「何があったかを聞いていいかい? たぶんゆりが無茶なことをしてたのだと予想しているのだけど」
「俺が独り暮らししてることを気にかけてるらしくて、一緒に年越しをしようと誘われてたんです。明日も朝からバイトがあるからって断ってたんですけど、諦めなかったみたいで、俺が来るまでマンションの前で待つって言い出したんですよ。俺は来る気が無かったので無視してて、まさかまだ待ってるなんてことはないだろうって思いながら確認しにきてみたら……」
「ゆりがずっと待っていて、体をあそこまで冷やしてしまった……と」
「はい。俺のせいです。ごめんなさい」
「いや、さすがにこれはゆりの方に非があるよ。……後で母さんにも話してからゆりに説教だな」
話を聞いても苦笑してそう言うあたり、信じてくれてるのだろう。こんな状況になって嘘をつくわけもないが、素直にそう信じてくれたのも先週和解できたからか。その点は牛込の功績だな。
すぐに体を温まらせるようにさせたが、それでも風邪を引くだろうな。年明け早々風邪になるのは幸先が悪い。俺がそれについてとやかく言う資格はないわけだが。
親父さんとテレビを見ながら今年を振り返るというなんとも不思議なことをしていると、ドアが開けられて三人が出てきた。本当に温まったか疑いたいが、母親が許しているということはそういうことなのだろう。
「お父さん、萩近くん、迷惑かけてごめんなさい」
「……俺はそれに対して何も言えない立場だからな」
「ゆり、自分の我儘で周りを巻き込むんじゃない。プラスになるならまだ許されるが、今回みたいなことは何も良いことを生み出さないんだ。わかるな?」
「うん……」
「わかるならそれでいい。彼にも迷惑をかけすぎないように」
「はい……」
そうとう反省してるようだな。おそらくは母親にも説教されてるからだろう。入ってきた時からしょぼくれてたし。
りみの方はそんな姉を心配そうに見ていた。落ち込んでいることよりも、風邪の心配のほうが大きいんだろうけどな。そんな姉想いのりみは、台所に行って温かい飲み物を作って渡していた。本当に仲がいいよな。
ソファに腰掛けている俺の隣に来た牛込は、りみから受け取ったコップをテーブルに置いて座り、もう一度謝ってきた。今までの不満はあるにはあるが、それはもう両親が代弁してるから特に言うこともない。だから言葉の代わりに乱雑に髪を撫でてやった。
「その調子じゃ明日は風邪だな」
「自業自得だよね」
「そうだな。……あ、そうだ」
「どうしたの?」
「明けましておめでとう」
「え? あ、ほんとだ。……ふふっ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」
「やだ」
「もう!」
恒例と言ってもいいやり取りをして、同時に笑い出す。俺と牛込はこういうしょうもないやり取りをする方が合ってるんだよ。
──今年も
あ、そうだ。今のうちに用事済ましとくか。
〜〜〜〜〜
私はみんなの予想通り風邪を引いたみたい。ベッドで目が覚めたら頭が痛かったし、ボーッとしちゃってたから。幸いなことに喉の方は大丈夫で、咳もそこまでひどくない。
「おはよ〜」
「もう昼前だけどな。それと服をはだけさせたまま出てくるな」
ちょっと体がダルいけど、飲み物が欲しいし、何か食べないといけない。だからリビングに行って挨拶したんだけど、どうやらもう昼前みたい。結構眠ってたんだね。萩近くんに指摘されたから服を直して…………え、待って。
「え……なん、なっ……なんで萩近くんがいるの!?」
「反応遅いな。それだけ声出せてたら座る元気もあるか。待ってろ飯を用意してやる」
「ありがとう。……って! だからなんで家にいるの!?」
「そりゃ泊まってけって言われたからだけど?」
「そうだけどそうじゃなくて! バイトは!? げほっ、げほっ」
「そんな声出すからだ」
誰のせいでこうなってるのかって言いたかったけど、テーブルに私のご飯を置いた彼が背中を擦ってくれたから何も言えなくなった。こういうところは本当にズルいところだよね。いきなり優しくなるんだもん。
私が落ち着くと彼も背中を擦るのをやめて、ご飯を目の前に移動させてくれた。病人食の定番のお粥。すぐに出てきたのは、お母さんが下準備を全部してたからみたい。そのお母さんだけじゃなくてお父さんとりみも家にいないけど。
「三人は朝から出て行ったぞ。親戚で集まるらしいな? お前は風邪だから置いてかれたってわけだ」
「君が看病してくれるからみんな家を出れた、の間違いでしょ?」
「……どうだかな」
「ふふっ、ありがとう。それでバイトはどうしたの?」
「休みになった。元々人数が多かったし、暇な日だからすぐに許可をもらえたぞ」
「そっか……。ごめんね、私のせいで」
「もういいから。食べ終わったなら薬も飲めよ」
「うん」
食器の片付けもやってくれて、私はその間にお薬を飲む。体がダルいから背もたれにもたれかかって体を休めてると、彼に持ち上げられた。木の椅子よりソファの方が体が休まるからって。ベッドじゃないのは食後だからだね。
初めはソファにもたれかかってたけど、彼をすぐ横に呼んでからは彼にもたれかかった。ソファよりも温かさがある彼の方が落ち着いていられるから。
「……今日は優しいんだね」
「責任を感じてるからな。そうじゃなかったらこんなことしねぇよ」
「ほんとかな?」
「……疑うのは好きにしたらいい」
「あはは、じゃあそうさせてもらうね」
彼の肩を枕に、腕を抱き枕代わりにしてリラックスする。点けられてるテレビは有名な神社に参拝してる人の多さを報じてる。違うチャンネルなら餅撒きとか駅伝とか、バラエティとかあるんだろうね。
今はどれかを見たいって気分でもないし、彼も暇つぶしのためにつけてるだけみたいだから、チャンネルは変わらない。でも、こうやって参拝してるのを見ると私も初詣に行きたいって思うようになってきた。日本人の血ってやつかな。
「ねぇ……」
「駄目だ」
「むっ。まだなにも言ってないよ」
「初詣に行きたいんだろ? 風邪を治してからにしろ。お前の両親にも外出させないように言われてるしな」
「うぅー」
私がこう思うのはみんなに読まれてた。心配されてるってことも分かるし、もう迷惑かけてるからこれ以上我儘を言えない。大人しく風邪を治すしかないね。
諦めて彼に寄りかかってると、だんだんうとうとしてきた。それを見た彼が私をベッドまで連れて行こうとしたんだけど、ここで一緒にいたいから毛布を取ってきてもらうことにした。
「ベッドの方が寝やすいだろうに」
「二段ベッドで私のは上だからね。それにこっちなら君も近くにいてくれるから」
「何もしてやる気はないけどな」
「分かってる。側にいてくれるだけでいいから」
「そうかよ」
ソファのクッションを枕代わりにして寝転がる。そうしたら彼が毛布をかけてくれた。向かいのソファに座ろうとした彼を呼び止めてすぐ側にいてもらう。大きくて少しゴツゴツしてる彼の手を握って胸の上に置く。
何か言われるかなって思ったけど、彼は何も言わなかった。それどころか私を寝かしつけるためにそっと頭を撫でてくれる。それが心地良くて自然と瞼が閉じる。
「上手なんだね」
「自分でわかるわけないだろ」
「それもそっか。でも、私は上手だと思うよ」
「あっそ」
「うん」
もっと何か話してたかもしれないし、会話はこれだけで終わったかもしれない。どちらにしても私はこの後睡魔に負けたから、記憶がここまでしかない。寝てる間もどこか安心できたのは、彼の手を握ってたからなのかな。
次に目が覚めたのは4時過ぎだった。寝る前と何も変わらず、彼はずっと私の手を握ってくれていた。聞いたらずっとこうしていてくれたらしい。本当に萩近くんなのか疑ったらデコピンされた。
「体温測れ」
「うん」
渡された体温計で今の体温を測る。少し時間がかかるんだけど、その間に彼が飲み物を用意してくれる。体温計が鳴って、見てみると37.1℃。だいぶ熱がひいてくれてる。体もだいぶ楽になってるしね。
「これなら今からでも初詣行けるよね」
「何言ってんだ。今から気温が下がるから駄目に決まってるだろ」
「ケチ」
「ケチで結構。風邪をぶり返すなんて馬鹿なことをさせる気はないんでな」
「……優しいね。心配してくれてるんだ?」
彼はこういうことを言われることを嫌がる。自分を過小評価するし、大切にしてくれない。自己評価を事実より下げて自分をろくでなしって評価する。
私はそうは思わないからこうやって何回でも同じことを言う。ちょっとだけ彼をからかいたいって気持ちもあるけどね。不機嫌そうになるくせに雰囲気が少しだけ柔らかくなるんだもん。
「あぁ。牛込の体調が心配だ。だから我儘を言わないでくれ」
「ふぇ!? な……な……」
「正直に言ったらこれか……」
まさか彼からこんなストレートに言われるなんて思ってなかった。熱がひいていったはずの体がまた熱くなっていく。私が彼に背を向けて毛布を被ると、彼は電話するためにリビングから出ていった。彼の方から電話する相手が誰か分からないけど、たぶんバイト関係だよね。
毛布から顔を出して窓の外に目を向けると、綺麗な夕焼けが見えた。赤いような朱色のような、夕焼け色の空。それを見て思い出すのは、彼に見させてもらったあの紅葉。夕焼けと相まってさらに映えたあの景色。
──あの時のことは鮮明に覚えてる。彼との距離が縮まった日でもあるから。
「また行きたいな〜」
「どこに?」
「ひゃぁ!? 耳元で声出さないでよ!」
「隙だらけだっから」
「自分の家だもん!」
バクバクと煩い心臓の音。早くなる呼吸のリズム。若干滲んでる視界。
急に耳元で声を出されただけでこうなるのは私が弱いからなのか、それとも彼だからなのか。真っ当に考えたら驚かされたからなんだけどね。
そんな私の反応をひとしきり楽しんだ彼は、自分のスマホの画面を私に見せてきた。そこに映し出されてるのは、お母さんとのやり取り。いったいいつ交換したんだろうね。それはこの後聞くとして、文字を追っていくと思ってもいなかったことが書かれてた。
──寄り道せずにすぐに帰ってくるなら初詣に行ってもいい
文面はもっと丁寧なやり取りだけど、要はこういう内容だった。目を丸くして彼の顔を見ると、彼は静かに頷いた。本当に行っていいってことで、彼はさっき許可を取るために離席したんだね。
「ありがとう!」
「着替えてこい。ちゃんと暖かい服装にしろよ」
「うん!」
昨日用意していた晴れ着に着替える。晴れ着用の防寒具もちゃんとつけて準備完了。……ってなればよかったんだけど、帯を綺麗に結べなかった。帯の結び方は知ってる。でも慣れてないから上手くはできない。
そのことも予想したのか、ドア越しに声をかけられて結局彼に帯を結んでもらうことになった。なんでできるのか不思議だったけど、それよりも晴れ着が崩れないようにすることに意識を割いてたから結局聞かなかった。
外に出たらやっぱり寒かった。特に手が寒かった。手袋をしてないからね。だから彼にお願いして手を握ってもらった。男の子らしい手。でもたしかに温かくて、寒さなんて気にならなくなった。手を繋いでない反対の手も寒さが気にならなくなったのは本当に不思議。
「初詣なんていつぶりだろうな」
「え?」
「……なんでもない」
「そう? ……君って素直じゃないよね」
「今さらだな」
素直じゃないことはもう十分わかってる。凄い捻くれ者だもん。私が言いたいのはそういうことじゃない。彼が優しさを出す時がいつものと少し違うってこと。うまく言えないけど、感覚的に違う。
私が伝えたいことが伝わってないから、彼は呆れ顔になってる。そういうことじゃないって言ったら今度は怪訝そうな顔になる。このまま黙っててもいいんだけど、今は話したい気分。
「わざわざ聞いてくれたじゃん」
「……そんなことか」
「うん。そんなこと。優しいのにその優しさを全然表に出そうとしない。……素直じゃないし、不器用だよね」
「言ってろ」
こういうとことかもそう。褒めても全然素直に受け入れてくれない。でも、こっちの気持ちが届いてないわけじゃない。それが分かるから彼が突き放すように言っても笑っていられる。
それが気に食わなかったんだろうね。手を離して先に行こうと急に歩くペースを上げた。彼がそうするのは予想できてたから手を握る力を強めて、腕に抱きついた。こうすれば彼は諦めるから。
今回は私の勝ちだね。彼が諦めて歩くペースを元に戻してくれる。そしたら私も腕に抱きつくのはやめて、手を繋ぐだけにする。そうして歩いてたら近所の神社に着いて、時間も夕方になってるから参拝者が少ない。本殿の前まで行って、お賽銭をしたら手を合わせる。
「何をお願いしたの?」
「言うと思うか?」
「言わないね。なら私も教えない」
「興味ないな」
「えー。まぁいいけど、おみくじ引こうよ」
彼の手を引いておみくじを引きに行く。おみくじの結果は私が中吉で、彼が末吉。末吉って順番が分からない微妙なやつだよね。神社によって変わるのはややこしい。統一してくれてもいいと思う。
そんな話をしながら家に帰っていって、お父さんたちが帰ってきたら入れ替わるように彼がいなくなった。昨日の夜からだから、だいぶ長い時間一緒だったんだね。そのほとんどは寝てたけど。
……あれ、私の寝顔ってもしかしなくても見られたよね。
そのことに気づいたら連鎖したのか、晴れ着を着た時に褒められたことも思い出しちゃった。彼って本当に私をどんどん振り回すよね。
でも、彼がぼそっと今年も面白い年になればいいって呟いてたのは聞き逃さなかった。それってつまり、今年も一緒にいてくれるってことだよね。
──みんなともっと仲良くなれますように
そう願った私の思いとも重なってるところがあるよね。
付き合えや!!
ふぅ、失礼しました。あまりにもこの二人の距離感が謎なもので。
いつもならこの長さを2話に分けるんですけどね。話数のキリがいいし次からは2年生にしたいなって思って1話に纏めました。
もし作者が書く気が出た場合
-
海外編(単発デート)
-
グリグリ全員との絡み
-
陽だまりをくれる人とのリンク回
-
結婚式