学年が上がるということは後輩ができるということ。ガルパ2年生組が1年生です。
1話
高校生活2年目の春。去年は入学式があったから春休みが短め(に感じた)。今年は始業式から学校が始まるから、まだ少し余裕がある。
アパートの敷地内にある1本の桜の木を部屋から眺める。たった1本でも桜の木であれば花見をしている気分になれるから不思議だ。これも日本人の特徴なのだろうか。そんなことを思いながらコップに入っているジュースを飲む。
花見と酒はセットに思えるが、高校生だから酒は飲めない。少し花見感が減るし、先日の強風のせいで桜の花びらが地面に広がっているのも少し残念だ。毎年のことのように思えるが、ゆっくりと散る桜を見てみたいとついつい願ってしまう。
「ダウトー!」
「なんでわかんだよ!」
「俺の第六感は常人を超えたのさ!」
「なっ、なにー!」
家に押しかけてきて騒ぎ立てる
この二人と一緒に夕方からバイトに向かうのだが、できれば会うのは夕方がよかった。今はもう午後なのだが、昼前からこの二人は来ている。そしてずっとこのテンションだ。こっちの体力が持たない。それに、この二人の妹達も今日入学式のはずだ。見に行かなくてよかったのだろうか。
「俺は妹に来るなって言われたっす」
「俺は起きたら家に誰もいなかったなー。てか今日が入学式ってことも忘れてた」
「どっちもどっちだなー」
行こうとするも妹に拒まれた兄とそもそも入学式の日を忘れていた兄。理由は違えど入学式に行っていないことに変わりはない。さすがに高校生ともなれば親はともかく、きょうだいに来てほしいと思う子の方が少ないのかもしれない。俺ならば必ず行ったが、連絡が取られないのだからどうしょうもない。
「それでー? ゆりちゃん達はどうしたんだよ。一緒にいなくてよかったのか?」
「なんで俺がアイツラと一緒にいないといけないんすか」
「ここ数ヶ月の間わりと一緒にいることが増えてたからさ―」
「増えてましたけどね。……牛込は部活の勧誘のために学校。鰐部も生徒会に入ってるから学校。鵜沢は用事があって、二十騎は何を考えているかわからない」
「あーね」
「ご苦労様です!」
「いや意味わからん」
いったい何を思って家に来たのか分からない二人だが、聞いても特に理由がないことは経験で分かってる。先輩は追加の飲み物を人の家の冷蔵庫から勝手に取り出して、まるで自分が家主かのように飲み物を順に注いでいく。
家主は俺なのだが、飲み物を買ってきたのは先輩だ。俺が知らない間に冷蔵庫に入れていたのはいただけないが、漁られてるわけでもないから何も言わない。
テレビもなければゲームもない。ここに遊びに来るなら何かしら用意してこないといけない。それを知っている先輩は、来るときに必ずいくつか遊び道具を持ってくる。
先程までやっていたトランプを片付け、代わりに取り出したのはジェンガだった。しかもお題付き。
「盛り上がること間違いなし!」
「女子もいればなおさらな!」
「そういやあんたら二人が女子といるとこ見たことないな」
「「爆ぜろリア充!!」」
「彼女はいないんですけどー」
あまり騒ぎすぎると大家に怒られるので、騒ぐのも程々にしてジェンガを始める。ジェンガってちょっとしたパーティー用の遊びだった気がするんだがな。
負けたら罰ゲームとして性癖を言うっていう碌でもない展開になった。こういうのはたいてい言い出した人が負けるし、今回も例に漏れず言い出した張本人である先輩が負けた。
この人は脚フェチなんだとさ。とてつもなくどうでもいい情報だったわ。しかも語り始めたからどっちが罰ゲーム受けてるのか分からなくなるし。いい加減鬱陶しくなったから殴ってみたら大人しくなってくれたけども。
バイトの時間が迫ってくると三人で家を出て、バイト先であるバーガー屋へと向かう。途中で牛込とスレ違い、その時に今日の部活勧誘の成果を話し出そうとしていたが、時間がないと言って速攻であしらった。滅茶苦茶不満そうにしてたからバイトが終わる時間に合わせて出るまで電話をかけてくるだろうな。俺じゃなくて家族に話して満足しろよ。
「女心のわからん奴め」
「アレはそういうのじゃないでしょ」
「……そうだけどなぁ」
牛込も俺もそういう気がない。それは一年を通して知人全員が理解したことだ。誂われることもなくなり、無駄に労力を割く必要もなくなった。男女間での友情。それを最高点にまで高めた関係。今ではそんな風に言われている。
年上二人が先に中に入り、俺が最後に着替えて中に入る。先に入った二人のどっちかがタイムカードを押してくれる。それがいつものパターンだ。今日もそうなるはずだった。
──コンコン
従業員の出入り口であるドアがノックされるまでそう思っていた。
このパターンがどういうことかは知っている。一つ目は中から鍵を閉めているせいで従業員が入れないパターン。二つ目はバイトの応募をして面接に来たパターンだ。採用された人がオリエンテーションに来る時もそうだが、これは二つ目に含めるとしよう。
そして今回のは後者だ。ドアの鍵が開いているのにノックをしてきたし、自分からドアを開けていないことがその理由としてあげられる。そんなことを考えながら、待たせるわけにもいかないと思って中に入るように促す。それと同時に社員に電話だ。面接をするというのに社員がいなくては話にならない。
「し、失礼しまーす」
「そこの椅子に座っといて。今社員に電話してるから。あー、あと言われているであろう必要書類も出しといちゃって」
「あ、はい」
どこかまだ初々しさが残る女の子。おそらくは今年入学したばっかりの1年生だろう。入学式の後にどこか家族と出かけていたのか、格好は制服のままだった。高校生の身分であればそれが正装ともなるし、そこを考えてのチョイスなのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えていると、社員に電話が繋がった。面接の子が来ていることを伝えると面白いぐらい慌てていたから、これは完全に忘れていたんだろうな。シフト上では今日が休みになっているし、気が抜けていたようだ。
『私の家からだと遠いっていうのは知ってるよね?』
「1時間はかかるんでしたっけ」
『そうなの。それで……その子を待たせるわけにもいかないし……
──萩近くんが面接してくれる?』
「…………は?」
『手当は付けるから! それに面接用のマニュアルもファイルに纏められてるから!』
マニュアルがあるのならできなくもないが、そういう問題ではないだろう。バイトの人間が面接の担当をするとはどういうことか。このことが広まれば会社全体の評判に支障が出かねない。出たところで潰れるような会社でもないのだが、それでも問題は問題だ。
「あのー」
「どした?」
「もしかして私……日にち間違えてましたか?」
「そんなことはないぞ。社員が間違えてるだけだから」
「あの……でしたら日を改めた方がいいです……よね?」
『萩近くん。その子めっちゃ良い子やん! 嫁に欲しいわー!』
「あんたよく今の状況でふざけられるな……。手当は今日の給料の5倍な」
『それはちょいキツ──』
こうやって気を回せる子に無駄足を踏ませるわけにはいかない。時期的に考えてバイトの面接は間違いなく初めてなわけで、堂々としようとしているが、緊張していることは容易く見て取れる。声も震えていたしな。
社員との通話を切ってその子をもう一度椅子に座らせる。それに向き合うように俺も座り、社員が言っていたマニュアルを確認する。俺も受ける側の経験はあるから、だいたいの流れはすぐに飲み込めた。ぶっちゃけ受け取った印象を後で伝えるだけで終わる。なんせ人手不足なのだから。
「日にちを間違えてると思わせて悪かったな」
「い、いえ。私、よくおっちょこちょいって言われるので、また間違えたのかなって……」
「おっちょこちょいなのはさっき躓いてコケてたから分かる」
「み、見てたんですか!?」
「あれだけ音してたらなぁ。まぁ他の奴は見てないしいいんじゃね? ピンク色を」
「そうですけど……え? ピンク色?」
「今日の下着の色。どうやったらスカートが捲れるぐらいコケられるのか聞いてみたいもんだね」
「はぅっ!!」
初心な子のようで、下着の色のことを言われただけで顔を真っ赤にしてそれを両手で覆った。もしかしなくても今の俺の発言はセクハラに当たるのだろうが、告発されなければ大丈夫だろう。
パステルピンクの髪の印象を打ち消すほどに顔を赤くしているようだが、戻ってもらわないと面接ができない。しかし原因は俺にあるわけで、今は下手に話しかけないほうがお互いのためだろうな。
「うぅ……。お嫁にいけないです……」
「おっちょこちょいの子は貰われないだろうから安心しろ」
「酷くないですか!? わ、私だって結婚に憧れるんですよ!」
「憧れるだけか?」
「え?」
「憧れるだけでいいのか? それを掴みとる努力はしないのか?」
「それは……あの……」
「……悪い、今は関係ない話だったな。さて、面接をするか。バイトなのに面接の担当をさせられることになった萩近玲音だ。よろしく」
「ぁ、……丸山彩です。本日はよろしくお願いします!」
話の展開が急過ぎる。よく牛込に言われることなのだが、今回はそれが功を奏した。バイトの面接が主目的である丸山が話についてきたのだから。まだ若干頬が染まっているが、初めてのバイトの面接が始まるとあって丸山は頭を切り替えることができたらしい。
「んじゃオーソドックスな質問から。……問題、丸山彩がこのバイトを選んだのは学校から近いから!」
「え、えぇ!? なんでクイズ形式なんですか!?」
「ノリが悪いな。落とすぞ」
「ふぇぇ!? そ、そんなぁ……」
「え、泣くの?」
この子涙脆過ぎだろ。いやいや、今そんなことツッコんでる場合じゃない。面接をふざけて相手を、しかも年下の子を泣かせたなんて笑い話にもならない。慌てて謝罪しながらできるだけ頭を優しく撫で、必死に慰める。可愛い子の味方をするあの社員に知られたら何をされるかわかったもんじゃない。
「ごめんな。真面目にやると堅苦しいかと思ったんだが、普段のノリでやるのは失敗だった」
「わ、私……落とされない、ですかぁ?」
「今のとこは。いやだって最終判断は俺じゃねぇし」
「うぅー」
「涙脆いなぁ。ほらハンカチで拭けよ」
「……ありがとうございます」
男子ならたいてい手で拭うが、女子ってハンカチやらティッシュやらで涙を拭くよな。メイクが崩れないようにするためなんだろうか。さして興味もないが、チャラ男の妹に聞けば細かく答えてくれるだろう。仮にも芸能界に入ってる子だし。
なんとか涙を止めてくれた丸山からハンカチを回収し、今度は無茶振りをせずに質問していった。内容自体派マニュアル通りにしたが、聞き方はフランクな姿勢で行った。俺が堅いのはそんな好きじゃないからな。そうやって面接をしていると、丸山の緊張も取れたようで自然に笑みが溢れるようになっていた。感情表現が豊かな子らしい。
「──ふふっ、萩近さんって面白い人ですね!」
「はははっ、そりゃどうも。丸山は本番に弱いよな!」
「はうっ! や、やっぱりそうですよね……。強くならないといけないのに」
「いけない……ね。やりたいことあるんだ?」
「あ、はい! ……私アイドルに憧れてて、今は研修生で2年目なんですけどいつかみんなを励ませるアイドルになりたいって思ってます!」
「へぇー。いいんじゃね? 気が向いたら応援するわー」
「一言余計です!」
この子初対面なのにわりとハッキリ言ってくるよなー。だからどうってわけでもないし、むしろ好印象なわけだけど。それに、目標を持ってそれを追いかけている奴に悪い奴はいない。純粋な目をしているこの子ならなおさらだ。俺からしたら眩しすぎるぐらいに目を輝かせている。
現実を知らないからそういう目をしていられるのだろうが、現実を知っても変わらないでいられるなら間違いなく人気が出る。ドジっ子で本番に弱くても挫けずに前を見据えて全力で取り組む。そんなアイドルが生まれるかもしれない。そんな日が来るのかわからないし、調子に乗りそうなタイプだから何も言ってあげないけどな。
「そういやシフトは……、学校の予定と研修生としての予定次第ってことでいいんだよな?」
「はい……。そんなにいっぱい入られるわけじゃないんですけど……」
「ま、そうなるな。よし、採用で」
「えぇ!? 勝手に決められないんじゃ……!」
「いつだって人手不足だからな。それに、丸山の笑顔は可愛いから接客で役に立つし、馬鹿共もやる気出す。メリットしかない」
「か、かわ……!!」
「萩近てめぇ! ゆりちゃんがいながら彩ちゃんまで狙いやがって!!」
「狙ってねぇわ! 採用するように社員を説得してやっから先輩は仕事戻れや!」
いきなりドアが開いたと思ったら大声でアホなこと叫ぶなよな。丸山がビックリして涙目になってるし、これ絶対に悪印象抱いただろ。余計なことするからそんなことなるのに。それとあんた彼女がいるのにそんなこと言うなんてな。会ったらチクッとこ。
そんなこんなで本来のやり方からかけ離れた面接が終わった。暇な時間に面接が終わったことが良かったのか悪かったのか、帰っていく丸山を見て馬鹿共のテンションが跳ね上がっていた。そこにおばちゃんズが混ざってるからここも末期だよな。
店の外まで丸山を送り、一応フォローは入れておいた。あの子がいたら絶対バイトが面白くなるからな。
ちなみに、履歴書の写真をメールで社員に送ってみたら速攻で「採用」の2文字だけ返ってきて、その3秒後に電話がかかってきた。内容は『私を呼んどいてよ!』『到着するまで話し繋げといてよ!』だった。ほんとバカしかいねぇ。
「なんてことがあった」
『あはは! 君のとこ面白いよねー』
「……まぁな」
『それでー? その子はそんなに可愛かったんだ?』
「ま、可愛い部類だな。話してて面白かったし」
『……ふーん。……そうなんだ』
「……機嫌悪くなってね?」
『なってません! いいんじゃない別に? 私よりその子の方がタイプってだけでしょ?』
「彼女面するな。それにだな。俺は別に
『なっ!? そっ……ぁ……そ、そういうのってホントズルいと思うよ!』
「意味がわからん」
バイトから上がって店を出たら牛込から電話がかかってきた。タイミングが良すぎるが、1年もやってれば慣れるらしい。それよりも歌とギターを鍛えろって話なのだが、それを言ったら怒られた。理不尽だよな。
話は予想通り今日の部活勧誘の話で、何人入りそうなのか、有力候補がいたとかそんな話だった。それが終わったら俺の話を聞きたいとか言ってきて、それで今日の面接の話をしていたというわけだ。それも家に近づいたら終わるようにしてる。寄り道もしないから牛込も時間を見て判断してくれる。
通話を切って自分の部屋へと入ろうとして気づいた。
──玄関が開けられていることに
鍵はたしかに閉めて出た。それなら考えられるのは空き巣だが、盗まれて困るようなものは家に何もない。荒らされてるかもしれないが、物も少ないからすぐに片付けられるだろう。
そう思って家の中に入った。
「あら玲音くんおかえりなさい」
「……は?」
そこには祖母がいた。牛込と一緒に泊まりに行った旅館の女将をしている祖母ではない。仕送りを途絶えさせた野郎の母親の方だ。
「ところで今日はどこまでお出かけ?」
そして、この祖母は脳に障害があるらしい。
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