同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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 そういえば言うのを忘れていた気がするので今になって言いますね。この作品の世界は、拙作こと「陽だまりをくれる人」と同じ世界です。知らなくても楽しんでいただけると思いますが、一応宣伝しときました。


2話

 

 脳に障害がある祖母がどうやってこの家にたどり着いたのか。特定の人物にヘイトが高い俺の頭では、そいつの差し金ということしか考えられない。そもそもこの祖母は施設に入っていたはずだ。施設の人もまた、外に出すことを許可したということか。真っ当に考えれば何かしらの力を働かせたか、金で黙らせたかだろう。

 

 

「ご飯は?」

 

「食ってきた。風呂入って寝るよ」

 

「なんで食べてきたの!」

 

「は?」

 

「用意した意味がないじゃろ!」

 

 

 知ったことではないが、用意してくれたのは善意であることに変わりない。どこかに置いてあるのだろうと思って探してみたが、どこにも晩飯は無かった。台所を覗いてみてもそこには何もなかった。どうやら祖母は自分がご飯を作っていると思い込んでいたらしい。これで怒られるのは理不尽だが、まともに相手できない状態である人物に何を言い返すというのか。

 

 

「バイトで汗かいてるから先に風呂行ってくる」

 

「勝手にせい!」

 

 

 だから晩飯の話を有耶無耶にするために俺は風呂に入ることにした。祖母のアレは波があるらしくて、今みたいに不安定になる時とそうでない時がある。今は不安定な状態で、俺が帰ってくる前はそうではなかったらしい。だってお湯が溜まっているのだから。

 こういうのがなければ愚痴の一つも出るというもの。しかしこうやって準備してくれているという事実があると言葉を飲み込んでしまう。出処を失った言葉の代わりに口から出たのはため息。自分の内に仕舞われたのが不満。ため息をつくと幸せが逃げると言うが、幸せじゃないからため息が出るんじゃないだろうか。

 

 

「こんなの考えても仕方ない……か」

 

 

 面白くないことを考えても仕方がない。あいにくと明るい話も持ち合わせてはいないが、つまらない現実であっても予定を立てること自体は好きだ。繰り返す日常にもちょっとした変化を加えよう。それが無ければ思考が止まりそうだ。

 学校で面白いことなんて特にない。そもそも行事が少ないからな。着実に迫ってきているのは検定で、その前に学園祭があるぐらいか。検定は受かる自信がある。去年やっていた内容のほうが難しいからな。学園祭はクラスで何かしらの出し物をやるらしいが、女子たちが主導権を握った時点で興味がない。あいつらは自分たちの思い描いた現実以外認めようとしないからな。他を人形程度に思っていそうだ。

 

 

「……学校のこともあんま考えてもしゃーないなこりゃ」

 

 

 じゃあバイトか。今の俺の生活は、〈家〉〈学校〉〈バイト〉で構成されていると言っていい。グリグリと接する時間は元より少ない。少ない分予定を合わせたときに毎度濃い内容が待っている。しかし検定が近づいてきていることと、中間テストも待っていることもあって、最近は顔を合わせることがほとんどない。せいぜいバイト先に来た時だろうな。

 それでそのバイトなわけだが、丸山が入ったらまた面白いことになりそうだなってぐらいか。メンバー同士の仲の良さは、周辺の店舗で1位だと言われているし、社員との関係も良好だ。忙しくても気を張らなくていいのはありがたい。気が休まる場所だと言える。

 

 

「そろそろ出るか」

 

 

 考え事をすると時間が結構経ってしまうものだ。のぼせてしまってもいい事はないから、湯船から出ることにする。体を拭いて寝間着になり、布団を敷いて寝るだけ──なのだが

 

 

「わぅ!」

 

「……なにしてんの」

 

 

 筋力まで低下してしまっているのか、祖母は自分の体でさえ満足に動かせないらしい。今もバランスを崩してコケている。絶対そうなるってわけじゃなさそうだが、正直言ってどちらも変わらない。気を使わないといけないなんてやっていられない。

 

 なぜ家の中で気を抜いてはいけないというのか

 

 

「……そっちの布団で寝て。俺はこっちで寝るから」

 

 

 冷たく当たっていることは自覚してる。だが変える気はない。まともに会話する気もない。八つ当たりだということも分かっている。それでもあの男(・・・)の産みの親だという事実が余計なフィルターをかける。原因を目の前にいる祖母に押し付けてしまう。

 子は親の影響を受けても親の望み通りに育つわけではないのに。今のあの男を作り出したのはあの男自身だ。俺が責め立てる相手は祖母じゃない。それも理解している。だから込み上げて来る不満をため息に変えて、呼びかける声もシャットアウトする。

 

 寝ればこの気持ちもリセットできるだろうから。

 

 

 

 

 家なのに気が休まらない生活が始まってどれぐらい時間が経ったかは忘れた。繰り返すだけの日常だから日数の経過もさして気にならない。変わったことも特になかったからな。今日までは。

 

 

「ふぇぇ〜。ここどこ〜?」

 

 

 たしか去年の春も迷子になってる奴に会ったな。牛込のことだけど。まさか今年も迷子になってる奴と遭遇するのか。これは来年もそうなるということなのか。嬉しくないな。

 今回遭遇した迷子は、水色の髪をした小動物系少女。驚くべきは迷子になっていることを自覚しているだろうに足を止めないこと。道がわからないのに場所を確認せず歩き続けるとは。だから迷子になるということを理解するべきだろう。いや、そうならないから迷子なのか。

 

 

「なにしてんの?」

 

「ふぇ? あの、えと……」

 

「迷子なのは見てわかった。どこに行く予定?」

 

「こ、ここ……です」

 

「……案内する。こっちも予定あるからすぐ向かうぞ」

 

 

 迷子の少女──松原花音の目的地を把握した俺は、時間に余裕があるわけでもないためすぐに足を動かした。状況についていけなかったのか、少し遅れてから松原も俺を追いかけて隣に並んだ。幸いと言うべきか、目的地はそんなに遠いわけじゃない。むしろ近い。5分もかからない。だから軽い自己紹介をお互いにしたところで目的地に着いた。

 

 

「着いたぞ」

 

「わぁー。ありがとうございます! 今度またお礼を──」

 

「そんなのいらん」

 

「あ、萩近さんも行くところがあるんでしたね。すみません」

 

「気にするな。着いたから(・・・・・)

 

「へ?」

 

 

 前に会った丸山と似た純粋さだな。面白いぐらい期待通りのリアクションを取ってくれる。俺がどこに向かうかを話していなかったのかは、こういうふうにしたら面白いかなと思ったから。

 

 

「ここ、俺のバイト先だから」

 

「えぇ!?」

 

「面接かなんかだろ? 案内する」

 

 

 目を丸くして驚く松原の手を引いて店の中に入る。さっさと中に入らないと俺が遅刻しかねないからな。それと、ここに来るまでの短い間で分かった。こいつは油断したらいなくなるレベルの厄介な迷子だと。じゃないと、あの場所から5分もかからない距離を10分もかけて来ない。だから松原がいなくならないように手を取って中に入るのだ。

 その様子を見たメンバー達から揶揄いどころか怒号が飛んできたが無視。そんなことをするから、女子たちから怖がられることに気づいてほしいものだ。その辺を学習しないというか、自分を曲げないことはこの一年で分かってるから口には出さないけども。半分ネタであれをやってるわけだし。

 

 さっきので怖がってしまった松原に一応フォローを入れて、事務所のドアを開ける。たしか今日は丸山も同じ時間から出勤のはずだから、先に中にいるだろう。俺は今日時間ギリギリに着いたし。

 

 

「みんなのアイドル丸山彩でーす!」

 

「……」

 

「……」

 

「間違えました」

 

 

──バタン

 

 

 おかしいな。俺はバイト先のハンバーガー屋に来ているはずなんだがな。さっき見えたのはなんだ。ピンク頭の少女が謎のポーズと共にウィンクをしていたぞ。もしかして俺は幻覚に囚われているのか。

 後ろを振り返ってまず見えるのは、後ろにいる松原。その後ろにはよく見る光景こと店内。たしかにここは俺のバイト先のはずだ。ではさっきのはなんだったんだろうか。それと松原は今のを見たのだろうか。

 

 

「松原」

 

「は、はい」

 

「今の見た?」

 

「今の……ですか?」

 

「あー、わかんないならいいや。緊張してるのは見りゃわかるが、少しは落ち着け。変な奴は多いが素行が悪い奴はいないし」

 

「はい……」

 

 

 こう言われたからってすぐにリラックスできるわけでもないか。一応俺とこうして会話しているが、それでも緊張してるわけだし。それはひとまず置いておくとして、緊張のおかげもあるのかさっきのは見ていないと。じゃあ被害者は俺だけか。

 

 

「閉めないでくださいよ! 私の方が恥ずかしいじゃないですか!」

 

「どっちにしろ恥ずかしいのは丸山だろ。そして居たたまれない気持ちになるこっちの気にもなれ」

 

「うっ!」

 

 

 分かりやすく胸を抑える丸山を事務所の奥へと追いやり、俺と松原も事務所の中に入る。丸山の時のように松原を椅子に座らせ、俺は制服に着替えて丸山と共に出勤……のはずだけども。

 

 

「あ、あの萩近先輩。社員さんからの伝言を頼まれてまして……」

 

「来ないとか言うならしばくぞ」

 

「私に言われても! ……うぅ」

 

「あの人正気の沙汰とは思えんな。今日は休みじゃないだろうに」

 

 

 丸山が言いにくそうにしただけで内容を理解し、とりあえず制服に着替える。聞けば丸山の出勤は今日が初めてらしい。オリエンテーションは済ませてあるらしいが、初日なら誰かしら担当して見ておく必要がある。

 出勤時間を合わせたということはその役目が俺になるってことだったんだろうが、それは松原の面接を社員がすることで成り立つはずだ。せめて大学生組にやらせろよ。女子の先輩も今日入ってたはずだっていうのに。

 予定通り俺が丸山を見守る役割を担うか、それともそれを誰かに任せて面接をするか。普通に考えりゃ前者だよな。

 

 

「青葉ーー!!」

 

「一年ぶりに名前呼ばれたかと思ったらまさかの呼び捨て!?」

 

「なんで呼んだらすぐに出てくるんすか……。まぁいいや。丸山を見守る役か面接役、どっちがいいですか?」

 

「なんて2択何だ! 彩ちゃんのほうで」

 

「いきなり下の名前で呼ぶなんて下心丸出しじゃないですか。彼女に言いつけますよ」

 

「マジで殺されるからやめて!! 下心もないから! 打ち解けやすい雰囲気を出せたらなってだけだから!」

 

 

 弁明する先輩を事務所から追い出し、子犬のように困った顔をする丸山を笑顔で押し出す。もちろんそうした方が丸山の反応が面白いからだ。それに、ここのメンバー達は無駄に観察力が高い。どこまでが許されるのか、その線引きを早い段階からできる人たちだ。丸山も早ければ2時間程度で打ち解けるだろう。

 

 

「成り行きで分かったと思うが、俺が面接相手になったから」

 

「みたいですね。よ、よろしくお願いします!」

 

「そんな肩に力入れなくていいから。はい、リラックスリラックス」

 

「そ、そう言われましても……」

 

 

 松原と向かい合うように座り、姿勢を少しだけ崩す。こうした方が松原も肩の力が抜けると思っての行動だ。残念ながら狙い通りにはならなかったけどな。

 でも考えたら当然か。15歳で初めてのアルバイトの面接に来ているんだ。緊張するなと言う方が無理な話。だが俺は固い雰囲気でやりたいわけじゃない。面接の前に共通の話題(・・・・・)でも入れるとしよう。

 

 

「松原って疾斗(・・)の知り合いだろ? 秋宮疾斗」

 

「ふぇ!? 疾斗くんを知ってるんですか!?」

 

「中学生の時に知り合ってな。幼馴染がよく迷子になるって聞いてたし、一回だけ写真も見たから分かった」

 

「うぅ……そんなの知らなくていいです……」

 

「今日目の当たりにしたしな」

 

「あぅ」

 

 

 掴みは上々ってところか。共通の話題って便利だな。それとも名前一つで人の緊張を無くした疾斗が異常だと言うべきか。なんでもいいけどな。あいつとは今以上に荒れてる時期に何回か乱闘した仲ってだけだし。今じゃ気楽に話せる数少ない人間だな。

 

 松原の緊張も無くなったところで面接を始め。前回と同様に聞いた内容と印象を社員に伝える。結果に至るまで丸山と同じパターンだったのは、呆れを通りして感嘆したよ。わかりやすいというか、単純というか。

 面接が終われば松原は帰るわけなのだが、果たしてちゃんと帰られるのだろうか。そんな心配は当然のことながらする。1分なくとも迷子になる少女なのだから。そんなわけで保険として疾斗に連絡だけ入れておいた。あいつの超人ぷりならどうとでもするだろう。

 

 

「丸山、調子はどうだ?」

 

「あ、萩近先輩! 聞いてください! レジ打ちできたんですよ!」

 

「普通だろ」

 

「えぇー! 私頑張ってやっとできるようになったのに……」

 

「あーもー分かった分かった。その調子で頑張ってくれ」

 

「はい!」

 

 

 分かりやすく落ち込む丸山の頭を撫でて雑に褒める。褒めるというほどのことでもないか。それでも丸山は上機嫌になったのだから結果オーライというやつだな。メンバー達からの視線が痛いが。落ち込ませても睨まれて、機嫌を直しても睨まれるってどういうことだよ。それと丸山。お前は単純すぎだ。ほんとに子犬だな。

 

 

「うぇぇーん。萩近先輩ー、株券ってどうやってやるんですか……」

 

 

 そして感情の落差も激しい。ついさっきまで満面の笑みだったのに今じゃ半泣きて。そりゃいきなり株券なんて渡されても対処できないだろうけども。それといちいち俺のとこに来るな。今日俺は丸山の教育を担当していないんだからな。

 

 忙しくもないのに丸山に振り回されたせいか。いつもより疲労感がある。それでも楽しかったと思えたから、どこか気持ちは楽なんだけどな。

 

 

「丸山は家どっち側だ? 同じなら送って帰るが」

 

「え、そんなのいいですよ! 私家こっち側ですし!」

 

「反対か。じゃあな」

 

「軽すぎますよー!」

 

「どうしろと……」

 

「……楽しそーだねー? 萩近くん?」

 

「……なにしてんだお前」

 

 

 バイトが終わり、丸山と一緒に裏口から出る。時間も遅いから方向が同じなら送ってやるとこなんだけど、逆ならそんな気にもならない。ぜひとも気をつけて帰ってくれたまえ。

 先輩がそっち側だから先輩が送っていくだろうし。その気が満々なのか、無駄に良い笑顔でサムズアップしてるぐらいだからな。

 そんなわけでこの場で解散しようと思ったんだが、まさかの牛込が登場だ。食べに来るならともかく、そうじゃないなら来るなと言ってあるんだけどな。どういうつもりなんだか。

 

 

「えっとー、この方は?」

 

「牛込ゆりちゃん。学校は違うけど玲音と同い年の子だよ〜。玲音のやつが軽口叩くようになったのはゆりちゃんと、バンドメンバーの子たちのおかげかな」

 

「え? え?」

 

「丸山が知る必要もない話だ。先輩も余計なこと言わないでください」

 

「おっとこりゃあ悪かった。それじゃあ彩ちゃん。俺達は退散しようか」  

 

「あ、はい。お疲れ様でした」

 

 

 丸山たちと別れ、俺も帰路につく。歩き始めた俺の隣にすぐに牛込も並ぶ。こうして共に歩くのはいつぶりだろうか。新年に入ってからわりと会うこともなかったから、だいぶ久々な気がする。

 そしてしばらく会わない間に牛込にも変化……いや成長があったらしい。雰囲気が変わっている。去年あったときよりも大人に近づいたってとこか。落ち着きがあると言う方が適してるかもな。

 

 

「それで? 何を怒ってるのか知らないが、何しに来たんだよ」

 

「会いに来た、じゃあだめなの?」

 

「牛込はそういうキャラじゃないだろ。何かあったのか?」

 

「あ、あははー。えっとね、クラスの子に合コンに誘われたんだ。数合わせでいいからって」

 

「好きにしたらいいだろ」

 

「……そうだけどさ。でも……うぅん。いいや。そうだよね。私たちはそういう仲(・・・・・)じゃないもんね」

 

「あぁ」

 

 

 チラッと見た牛込の顔は、寂しそうな笑みだった。なぜそんな笑い方をするっていうんだ。自分で言っただろ。俺と牛込はそういう仲じゃない。そして俺もまたそれを望んでいない。だからそういう相談もいちいち俺にしてくるな。俺に全て任せようとするな。

 

 

萩近くんも来てくれたらいいんだけどね

 

「なんか言ったか?」

 

「ううん。なんでもないよ。……少しでも会って話せてよかった。またね!」

 

「あぁ。余裕ができたら予定を合わせるよ」

 

「うん!」

 

 

 たったこれだけの時間でも、俺としても心地がよかった。癒やされるというほどではないが、心が和らいだ。久々すぎて新鮮に思えたからだろうか。牛込は未だに気づいてないが、お互いの家は近い。少しだけ会って話して1日を終えてもいいのかもしれない。

 

 

「なんで帰ってきた! 出ていけ!」

 

 

 ……あぁ、そうだった。俺の一日の始まりと終わりはコレ(・・)なんだった。

 

 

 

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
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