高校の盛り上がらない学園祭があった。盛り上がらないのは主に俺みたいな人間だな。テンション高い奴らを見ると逆に冷めるようなタイプ。そういう奴は総じて出店の手伝いもやらない。欠席すると無駄な反省文があるから
だから学校に行くだけ行って休憩室で時間を潰す。やる気がある奴らは勝手に盛り上がってるからこれで問題ない。最近気が休まる時が少ないからここいらで休ませてもらおう。休憩室は人がいなくて心が落ち着く。
「──そんなわけで電話をかけてくるな」
『いいじゃん別に。話し相手になるよ?』
たまには昼寝をするのもいいかもしれない。そんなふうに思って机を並べてその上で寝ようとしたところで牛込から電話がかかってきた。今日は土曜日で、花咲川は普通に休みだ。だからこうして電話をかけてきたのだろう。俺が乗り気じゃないとわかってて。当たっているから文句も出にくい。
ちなみに俺達の高校は5月の初旬、ゴールデンウィークの前に学園祭がある。花咲川も1学期にあるはずだが、たしかもう少し後だった。
「話し相手になってほしいだけだろ。その役目は俺である必要がないだろ」
『君が忙しそうにしてるから会わないようにしてるわけだし、たまになら電話させてよ』
「だから付き合ってない奴とこういうやり取りしたくねぇんだよ。いい加減分かれ」
『はーい……。じゃあ電話も控えるようにするから、今は話しよ?』
こいつ駆け引きも上手くなってきたな。めんどうな事を先に言って、断られたらマシなことを条件に出す。相手が「それぐらいなら」と思い込む話術だ。
そんな勉強なんてしてないだろうから、自分で無意識のうちに身につけたことなんだろう。こういうのは何度もやると効果が薄れるから、無意識だとわりと有効だったりする。意識してやるなら頻度を考えないといけないからな。
「はぁ。話すことは決めてるのか?」
『あ、話してくれるんだ』
「今後控えてくれるならな」
『えへへ、ありがとう。話はこの前言ったことについてなんだけど』
「この前? ……あー、合コンか」
『うん。それが今日の夕方からあるんだけど、どうしたらいいのかなって。行くには行くんだけど。数合わせだし』
なんだ。結局本当に合コンに行くのか。友達に数合わせとして頼まれたから、ね。他の三人も誘われててもおかしくない気がするが、あいつらは即答で断るか。
二十騎だけはそもそも声をかけられてない可能性もあるしな。あいつルックスはともかく言動が理解し難いから。イメージと共にムードを壊しそうだ。壊すというかあいつの世界に引きずり込みそうだ。合コンが崩壊しかねない。
「数合わせ、ね」
『ん? どうしたの?』
「数合わせだろうと参加は参加だ。その誘った友達はともかく、参加する男達の方はそうは知らないだろ? お前も対象になるぞ」
『え……あーそっか。たしかにそうだね。どうしよ……』
「知るか。言い寄られても牛込にとって無理なら断ればいいし。そうじゃないなら好きにしろよ。俺がどうこう言う問題じゃない」
『……うん。他に何か気をつけてた方がいいことってある?』
「……なんで声の雰囲気変わるんだよ。お前の問題だろ」そう言いたいところだが、そこはツッコまないでおこう。話が長くなりそうだ。
というか、俺に合コンのことを聞かれてもな。行ったことない人間だぞ。クラスの奴からたまに聞かされる内容と偏見を使ってしか話せない。
友達に聞けよって話なのだが、牛込を誘った友達もまた合コンが初めてなんだとか。なんでそれで呼びかけてるんだ。男の方と一人繋がりがある可能性もあるか。まぁいいや。
並べていた仮設ベットもどきこと机の集まりの上に靴を脱いで腰掛ける。電話が終わったら速攻で寝たいからな。他に人が来ないからやりたい放題だし、来たら来たで真似させりゃいい。
「俺も合コンは未経験だが……、とりあえずすっぴんで行くなよ」
『それはもちろん。去年君に言われてから結構気をつけてるんだよ?』
「知ってる。二人でいる時はわりとメイクしてるもんな」
『う、うん。気づいてたんだね』
「そりゃあな。たどたどしいメイクだったが、数こなせばやっぱ上手くできるようになるもんだな。綺麗になってたぞ」
『なっ!? ぁ……や……ぇ……あ、りがとう』
「俺はすっぴんの方が好きだけど」
『あぅ……』
素直に言ってやっただけでこの狼狽か。俺みたいな奴相手に言われてこれだと合コンの時ヤバそうだな。他のメンツがどうかは知らないが一人ぐらいは牛込に言い寄るだろう。それが純粋な想いからなら頑張れって話だ。
だがあのクソッタレみたいな理由なら許容できない。そのへんのことも言っとくべきか。
「俺相手でそれだと合コンの時
『これはたぶん君だからだもん……。ってお持ち帰りって?』
「言葉の通り……とも言えないか。ともかく、合コンが終わった後にそいつの家かラブホあたりに連れてかれるぞって話」
『ラブ!? そ、それって……つまり……』
「まぁ
これに関してはその男の人間性というか、思考によるだろうな。速攻で狙うサルなのか。それとも計算高くやるのか。それとも純粋な好意か。
どうせなら三つ目であってほしいね。そうなれば俺がこうして牛込の相手をする時間が減るし、もしかしたら無くなるかもしれないのだから。自由時間が増えるのは嬉しい話だ。
『私はどうしたらいい?』
「それは自分で決めろ。俺の判断なんて気にするな。お前が良いって思う人がいなければ誰とも連絡先の交換とかしなければいいんだから。ただ──」
『ただ?』
「耳には気をつけろよ。粘着質な奴は言い寄ってくるだろうし、お前は弱すぎるんだから」
『あ、あははー。うん、気をつけるね。ありがとう心配してくれて』
「心配はしてない」
『ふふっ、素直じゃないね。それじゃあまたね。どうだったかは連絡するから』
俺が反論する暇もなく通話を切られる。随分と対応の仕方が上手くなったものだ。いじり甲斐が無くなった気もするが、今は長電話する気もなかったから丁度よかったな。
そこまで把握しての対応だとしたら些か面白くない。理解されることは良いことだと大衆は思うだろう。線引きを間違えず、踏み込んでほしくない所に踏み込んでこない。やってほしいことだけをやってくれる。不満を抱かずに済む。あぁ、本当に……
──反吐が出る
だが、俺は理解されたいとは思わない。自分を本当に自分で理解できているか分からないというのに、なぜ他者が理解できるというのか。『自分』を決めつけていいのは『自分』だ。なぜなら──
"これは自分の人生なのだから"
「『自分の人生は他者に影響されたとしても、決められてはいけないってこと』……か。今思えば母さんってわりと哲学的だったな。それなりに生きてから分かってくるよ」
無知な子どもに教える考え方でもなかったと思うが、こうなってくると母さんは自分の死を予見でもしてたんじゃないかと思えてくる。そんなはずないのに。占いを見て楽しんでも信じない人だったのに。
今度の休みには墓参りに行こう。そう決めて俺は遅れた予定を遂行した。なんてことはない。ただの睡眠だ。
「ふぁ〜〜ぁ。眠いな」
「働き過ぎだからだと思いますよ?」
「働きたいから働いてんだよ。丸山はさっさと仕事を覚えろ」
「うぅっ、ちょっとずつ覚えてますよ。ね? 花音ちゃん……あれ?」
「はぁ。どうやったら店の中で迷子になるんだ」
入って何週間か経ったが、まだまだ新人の丸山とその少し後に入ってきた松原。どちらも高校1年生だ。そして容姿が優れている。うちのメンバー達が二人を見る度にテンションを上げるのはもはや定番ネタだ。
そしてそれにより松原には引かれてるところまでがセットな。丸山はアイドルを目指しているからわりと喜んでる。これに慣れられて変に自信を持たれたら困るんだけどな。
夢を追いかけるなら温い環境に慣れるべきじゃない。それは時折俺から釘を差しとけばいいか。それより今は松原を探さねば。
「レジ担当しててなんでいなくなるんだか」
「若ー。松原ちゃんバックヤードにいましたよー」
「なんでそこにいるんだよ!?」
「ふぇぇ〜。す、すみませ〜ん」
レジから結構離れてるバックヤードにどうやったら迷い込むのやら。何やらレジ打ちしていて、客がいなくなってから疑問に思ったことを大学生の先輩に聞きに行こうとしたら迷子になったとか。
あの人は今日一番大変な役回りしてるから、一箇所に留まって仕事してるわけじゃないしな。分からないことをちゃんと聞こうとしたわけだし、怒るようなことじゃないな。
「分からなかったことは解決したのか?」
「は、はい! メモもしました!」
「ならいいや。毎回迷子になられたら困るけど、仕事を覚えるの自体はいい事だからな」
「はい。頑張ります!」
「萩近先輩が優しい……」
「丸山は後でしばく」
「えぇ!?」
余計なことを言わなければなにもしないんだけどな。丸山は無自覚に言ってくるんだよ。松原に泣きついて慰めてもらってる丸山を尻目に軽めの罰を考える。せいぜいちょっとしたイタズラ程度にしてやらないとな。あの子すぐに泣くし。丸山愛好者の馬鹿たちが騒ぐし。というか今でも煩い。
この後松原がまた迷子になるということもなく、例に漏れず丸山がトチったぐらいで特に問題はなかった。松原と丸山を更衣室に向かわせ、二人が着替えてる間に俺も素早く着替えを済ませる。同じようにチャラ男も着替えを済ませてるけどな。早着替えが板についてきた。変なスキルだが。
「そういえば若。最近牛込ちゃん来ないですね。他の子はたまに食べに来ますけど」
「そうだな。どっちでもいいけど」
「牛込さんって前に萩近先輩を待ってた人ですか?」
丸山め、めんどくさいタイミングで出てきたな。髪の色と同じように脳内ピンクな思考をしてそうだし。松原も興味があるのか視線をチラチラとこちらに向けてくる。
男女で仲がよかったら全部そっちに話を持っていこうとするのは、女子の嫌なところだよな。男だとからかい程度に終わるのに。それも鬱陶しいけども。これは事実だけ話してすぐに終わらせるのが吉だな。
「そうだな。Glitter*Greenってバンドを組んでる。メンバー全員花咲川だからお前らの先輩だぞ」
「そうなんですか!? 今度学校で見かけたら話してみようかなー」
「ご自由に」
「むむっ。なんか余裕そう。お付き合いされてるんですか?」
「しばくぞ」
「ひぃぃ! ごめんなさい! 違うんですね!」
予想通りのことを言ってきやがって。先に言って封じておくべきだったな。どうも思考が鈍っている気がする。
で、俺が丸山に優しいアイアンクローをしている間にあいつは松原と二人で何話してるんだろうな。話してる内容自体は面白くなさそうなんだが、チャラ男の反応は面白いな。顔色が悪くなってやがる。
「──へ、へー。花咲川に元子役の子がいて、松原ちゃんと友達になったんだー。凄いね」
「そんなことないですよ。千聖ちゃんは優しいですし、気が合うんです!」
「それはよかったねー」
「はい! 白鷺先輩もそういうお友達いますか? ……ってあれ? 白鷺?」
あ、松原の奴気づきやがった。チャラ男であるあいつは天才子役と言われた白鷺千聖の兄だからなー。妹の活躍を喜んでいるし、なんだかんだで気にかけてるらしいが、親からは冷遇されてるらしい。
活躍する娘の方が大切なんだとか。親の風上にも置けないな。まぁ本人なりに解決してることらしいから首を突っ込まないけどな。向こうの話もキリがいいし、丸山を解放して帰るとしよう。
「話を戻すと、若が牛込ちゃんと付き合ってないのは不思議なんだよ。眺めてたらただのカップルァ!?」
「何度言わせるんだ。お互いにタイプじゃなくてその気じゃねんだよ。殴るぞ」
「もう手が出てます……」
「萩近くん。すぐにそうするのは良くないと思うよ」
「お前には関係ないだろ。……あー、なるほどなー。合コンの結果
てっきり電話かメッセージかで合コンの顛末を聞くことになると思っていたが、直接来るとはな。この状況には他の三人はビックリしてるな。俺もある意味驚いてはいる。
「仮って話にしたけど、
そう言ってはにかむ牛込。その手に持つスマホに映し出される男。どうやらこいつが牛込を落としたらしい。こういう奴がタイプということらしい。
なるほどな。
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