学園祭を丸山……じゃなかった。彩といろいろ回ってみたが、彩が行きたいところはまだあるらしい。体育館でライブがあるからそれに行きたいんだとか。誰がやるのかは予測できたが一応聞いてみた。そしてそれは当たっていた。
Glitter*Green。つまりは牛込たちのライブだ。結成以降学校を中心に知名度が上がっているらしく、今日のライブでは観客が多いことが予測されている。すし詰め状態だったらキツイが、どれだけ人が来るのやら。俺としては今回だけは人が多く来てほしい。バレずに終われそうだから。
「結構多いですねー。まだ20分はあるのに」
「さながら学園アイドルだな。もう少し増えてくれたら好都合だな」
「? 誰か探してるんですか?」
「いや……体育館広いなって」
「へ? 玲音さんの所は狭いんですか?」
「ここよりは少しな」
狭い、と言っても狭過ぎるわけでもない。バスケのオールコートが一面分って程度だ。バレーなら一応二面使える。ここはバスケの試合を二試合同時にできるぐらいか。
なんて言って誤魔化しているが、探している人がいないわけじゃない。人もまだ増えそうだから、彩と逸れないようにもう一度手を繋ぐ。今度は過剰に反応はしなかった。どこか嬉しそうにはしていたけどな。
体育館には椅子が並べられていて、先着順で前から詰めるように座らされるが、俺としては前すぎず、後ろ過ぎない真ん中あたりの少し横ぐらいがいい。そんなわけで座りに行くタイミングを見計らっていると、一人の男がこっちに近づいてきた。
「ごめん。ちょっといいかな」
「俺は係員じゃないからな。係員ならあっち」
「あーいや。君に用があるんだよ」
「は?」
何やら気に食わないことを言ってきたな、この見た目優男。……あー、どこかで見たことあると思ったら、こいつか。あの馬鹿がひょこひょこ釣られた。なるほどね。いい趣味してるじゃないか。
俺の雰囲気が変わったことに気づいた彩が、心配そうに視線を送ってくる。余計な心配だと意味を込めて髪を少し乱雑に撫でる。髪が乱れたことに怒るくせに、少し笑顔なところが不思議だ。実はMなんじゃないだろうか。
そんなことを心配してしまったが、彩といる時にこいつと話すのは良くない気がする。だから彩に一言断って一旦距離を開ける。話し声が届かない程度に、されども見失わない程度の距離。
「まずお前誰よ」
「あはは、そうだね。自己紹介しないといけないね。俺の名前は
「そこは知ってる。で、まぁ一応俺も自己紹介すればいいのか。萩近玲音だ」
「ゆりからよく聞いてるよ。よろしくね萩近くん」
「俺は逆に全く聞いてないなら。あとよろしくしたくねぇよ」
「はは! 聞いてたとおり捻くれてるね!」
差し出された手を俺が握り返さないと分かったようで、神木は軽快に笑い流した。なかなか爽やかというか、誠実というか。俺とは違う部類だな。それにしても牛込のやつ、いったい何を話してるんだか。それに彼氏といる時に他の男の話するってどういう神経してるんだよ。
俺の知ったことではないからどうでもいいんだけどな。こいつらがそれで破局したら腹抱えて笑ってる気がするね。俺のせいでもないし。
「それで? なんの用なんだよ。何か話があるんじゃないのか?」
「あると言えばある。ないと言えばないね」
「は?」
「君と会って話してみたかったというのがメインの目的だからね。他にあるとすれば、ゆりがどこか上の空になってたというか、調子が悪そうだったことに心あたりあるかなって。君のほうが付き合い長いんでしょ?」
「長いっつっても一年もねぇよ。それに今日は会ってないからそんなこと言われてもさっぱりわかんねぇな」
牛込が調子悪いってどういうことなんだろうな。こいつの話を聞く限り、牛込が店番をするまでは普通だったらしい。それが終わって合流してみたら変わっていたのだとか。
それで考えられるのは、店で何かあったということなんだけどな。それも違うとなるとお手上げだね。なんとかする気もないが。やるならそれはこいつの役割だ。頑張れよ彼氏。ラブコメ展開してこいよ。
「うーん。聞いてたのと少し違うね」
「何がだ。てかあいつ何をどんだけ喋ってんだよ……」
「聞いていたのは、君はなんだかんだでどうにかしようと動くってこと。でも今回はその素振りが全く無い」
「俺の役割じゃないからな。そもそも俺は牛込たちに合わせる時間を減らしたいってズッと言ってきたんだぞ? 神木のおかげでそれが叶うんだ。俺が動く必要性はないね」
「なるほど。君は怒ってるんだね。ゆりが簡単に俺に靡いたことに。繋ぎ止められなかった自分に」
「お前頭大丈夫か?」
「いいよいいよ。そういうことにしといてあげるから」
うわ、超うざったい。こいつも人の話を聞かないタイプだ。俺と相性が悪い部類の人間だ。ぜひとも今後は一切絡みがないようにしてもらいたいね。俺のストレスがまた溜まってしまうから。
ところでこいつ、俺が話を聞く気失せたことにも気づいてくれないのな。何やらウザったいことを言っているんだけど。別にお前が牛込とどこに行って遊ぼうと知ったことじゃないんだけど。
でもまぁとりあえずは聞き流しておいてやるか。そう思っていたんだけどな。一つだけ俺の琴線に触れるものがサラッと流れたぞ。それについては黙ってらんねぇな。そう思って口を開こうとした所で、俺の携帯に着信が来た。タイミング悪いな。
俺は神木に断ってから電話に出て、しばらく会話してから神木と別れた。こいつと離れられる理由をくれてありがとう。それだけは電話の主に感謝する。待っててくれた彩に謝って、もう少しだけ待っていてもらうことになる。行く場所ができてしまったから。
〜〜〜〜〜
「ゆり大丈夫? どこか調子悪いの?」
「ううん。大丈夫だから」
「大丈夫そうに見えないけどねー。ゆりちゃんがこうなるのって大抵萩ぽんのことだけど、萩ぽん来てないはずだよね? お墓参りがあるって」
「っ!」
ひなのいう萩ぽん、つまりは萩近くんのこと。その名前が出たことで私は反応してしまった。みんなそれで気づいた。私がこうなってしまってるのは、萩近くんが原因だということを。
気づかれたくなかった。だってこれは私の問題なんだから。みんなを巻き込むようなことじゃないのだから。でも、そんな私の思いを誰も納得してくれない。メンバーの問題だからって。
「まさか萩近くんが来てるの? ゆりは彼に会ったの?」
「それは……」
「もしそれでこうなったのなら萩ぽんには何かしらの罰が必要だね〜」
「か、彼は悪くないよ! 会ったわけじゃないもん……。ただ見かけただけで、そしたらなんか胸が苦しくて」
「はぁー。とりあえず萩近呼んだから。来たら二人で好きなだけ話したらいいよ」
「リィ!? なんで勝手にそんな……!」
「だって二人ともめんどいから。何を怖がってるのか知らないけど、結局は会って話すしか解決しないからね」
リィが言ってることは間違ってない。自分たちの間で起きたことは、自分たちで解決するしかない。会って話すしかないんだ。
でも、どうしたらいいか分からない。だって怒らせたのは私なんだけど、彼が何に怒ったのかが分からない。考えたことがあってるのか、違ってたらまた怒るんじゃないか。そう思ってしまう。
そして今彼とまともに会話できるか分からない。彼が他の女の子といただけなのに。名前で呼び合ってただけなのに。それだけなのにこんなに苦しいんだから。会ったらどうかしちゃいそう。
「リィちゃん。萩近って人が来たんだけど」
「来たね。入れて入れてー! じゃあゆりちゃん、あとは頑張ってね」
萩近くんが来たことで、入れ替わるように七菜とリィとひなが出ていく。ライブが始まる前には戻ってくるだろうけどね。
「問答無用で呼び出されたんだが……」
「萩近くん……」
呼び出した張本人がいなくなったから、彼は頭を掻いて困り顔になってた。そんな顔をされても私もどうしたらいいか分からない。お互い顔を合わせられず、気まずい雰囲気が流れる。何か切り出さないといけない。でも、口開いても声が出ない。どうしたらいいか分からないよ。
「ごめんな牛込」
「え?」
この空気を壊してくれたのは萩近くんだった。謝罪から始まった。でも、なんで彼が謝る必要があるんだろう。私のせいなんだ。私が自分で勝手にややこしい事にしただけなんだ。それなのに……。
「この前いきなり怒鳴ってごめん。言い訳はしない。傷つけただろうし」
「そんな、こと……」
「それに、学祭には絶対来ないって言ったのに、こうしてノコノコと来ててごめんな。嘘ついた。来る気がなかったのは本当なんだが……」
「……あの子に誘われたんだ?」
「まぁ、な。あの子が前に話したバイト先の後輩」
そっか。あの子が。だからあんなに仲がいいんだね。お客さんとしてそこそこ行ってたから、あの店の従業員同士の仲の良さは知ってる。
こうして誘われてもおかしくない。お義母さんのお墓参りに行くって予定を無くしてまで来たのは、何か理由がありそうだけどね。そこまで聞くのは野暮だよね。
バイト先の子ならいいかなって思った。でも、中庭で仲良くしてたのを思い出したら、名前で呼び合ってるのを思い出したら思いが逆転しちゃった。胸のモヤモヤが、苦しさが広がる。
──いやだいやだいやだ!
「なんで」
「牛込?」
「なんであの子なの! なんで私は駄目なの!」
「何言って……」
彼が混乱するのもおかしくない。いきなり怒ってるんだから。なんの脈絡もなかったんだから。でも、抑えられない。止まらないよ。こんなに苦しいんだから。
口調がどんどん強くなる。目が熱くなって視界が歪む。彼の顔をまともに見ることができない。
「名前で呼び合ってた! 私には絶対ダメって言ってたのに! 一年経っても許可してくれないのに! 知り合って二ヶ月くらいの子にはOK出してるの意味分かんないよ! 私には気持ちを考えろって言うくせに! 君こそ私のこと考えてくれてないじゃん!」
「……ごめん」
「謝られたって──ぁ……」
言葉が続かなかった。彼にギュッて抱きしめられたから。彼のことを側で感じられる。この温かさも、この匂いも、この存在感も、どれも懐かしく思える。
そもそも全然こうされることがないから。紅葉を見に行ったときとか、12月のドタバタの時ぐらいかな。約半年ぶり。半年ぶりにこうされたら、言葉も出なくて、涙の意味も変わって溢れてくる。
ズルい、ズルいんだよ。いつだって。君は。
「自分のことでいっぱいいっぱいになってる事は自覚してる。それで余裕が無くなってることも、牛込にあたってることも。本当にごめんな。謝って許してもらえるなんて思ってないけどさ」
「ズルい……ズルいよ……。怒れないじゃん」
「それは知らん。……牛込は牛込のやりたいようにやればいい。俺は自分のコントロールで手一杯だから、何かしてやれるとも思えない。だから、俺のことを気にせずに自分で決めていけばいい」
「なんの、ことなの……?」
「いろいろだよ。それこそ、いろいろ。ライブは最後まで見るからさ。SPACEの時みたいに俺を魅せてくれよ」
「あ、はは……。ほんと、自分勝手なんだから」
自分勝手な人だ。いつだって念頭に自分のことを置いて考える。他人に左右されないとも言えるけど、自分勝手っていう方が彼には合ってる。
でも、これでこそ萩近くんなんだ。私が友達でいたいと思える人。彼のいたずらっ子みたいに浮かべる笑顔。その唇に私の人差し指を押し当てる。
「楽しみにしててね♪」
そう言って私も笑顔を返す。モヤモヤが全部無くなったわけじゃない。でも、私は大丈夫だ。彼が望んでる音楽をみんなと奏でられる。私がこんな行動するとは思っていなくて、目を丸くしてる彼を見ながらそう思った。
〜〜〜〜〜
「いやー凄かったね〜。あれを高校生でできるのか……。それに、調子を取り戻したみたいだけど、どうやったんだい?」
「これぐらい
「あはは、耳の痛い話だ」
「お前とこれ以上話す気もない。じゃあな」
ライブ中は離れていたのに、ライブが終わった途端絡みに来た神木と早々に別れて彩と外に出る。ライブが終わった時間だと特にやることも残っていない。ミニゲームとかならあるんだが、そういう気分でもないしな。
でも俺一人で行動してるわけじゃない。彩の希望も聞く必要がある。さっき待たせまくったわけだし。
「玲音さんって神木さんのこと嫌いなんですか?」
「別に。興味がないだけ。底も知れたしな」
「それって嫌いってことなんじゃ……」
「神木のことはいいだろ。それより、ほとんどやることない気もするが、彩はどうしたい?」
「えとー、一つだけ残ってるんですけど、それは時間が少し遅くなるんですよ」
「気にしないさ。今日一日開けてるからな。彩がそうしたいならそれをやろう」
「いいんですか! やった!」
「それで、彩のやりたいことは?」
「1時間後に始まる最後のイベント。社交ダンスです!」
わーお。この子は相変わらずとんでもないことをぶち込んでくるな。この学校女子校のはずだよな。なんでイベントに社交ダンスなんて入れてるんだよ。普通に考えたら女子同士でやるだけじゃないか。
……これって、男女でやるほうが注目浴びる気がするな。彩にそのことを伝え……駄目だこいつ。楽しみ過ぎるのか超笑顔だ。
「なるようになるだろ」
「楽しみですね!」
「そうだな」
いざ始まってみれば、なんてことはない。予想通り彩が赤面してただけだ。ダンスをどうするか一応聞いてみると、ダンスをすると言い張ったのは驚いた。そんな状態でできるのかと。
だが踊り始めると踊ることに集中できたのか、周りの目が気にならなかったらしい。よく俺の足を踏んだり、転けそうになってたりはしてたけどな。
「玲音さん。今日一日どうでした?」
「ん? ま、楽しめたよ。ありがとう彩。気遣ってくれてたんだろ?」
「あ、あはは、バレちゃってました? 最近玲音さんが休憩の時に疲れた顔をされてたので、リフレッシュしてもらえたらなって」
「まさか彩にバレるとはなー。どうせ本当は青葉先輩あたりに教えてもらったとかだろうけど?」
「さ、さぁーどうでしょう〜」
「はは! 隠すの下手すぎだぞ」
「うぅ」
典型的な隠し事をできないタイプ。きっと嘘も下手くそだろうな。でも、それでいてくれた方がいい。その方が一緒にいる時気楽にいられるから。
今日は彩を送って帰ることにした。ちょっとしたお礼代わりだな。ちゃんとしたやつは何かしら用意して、バイトの時に渡すとしよう。
人混みで逸れる心配もなくなったというのに、彩が一向に離そうとしないから繋がったままの手。女の子らしいけど、白鷺とはまた違う。もちろん牛込とも。家の前に着いたようで、彩の足が止まる。表札を見ると、たしかに丸山と書かれている。ここが彩の家なのか。
「玲音さん、その……名前呼びのこと……なんですけど」
彩なりに勇気を振り絞っているのだろう。目を合わせようとしては逸らし、言葉は僅かに震えながらもしっかりと発せられる。繋がっている手を強く握られるのも、不安があるからだろう。それも仕方ないのかもしれない。
名前呼びは
「あの……今後も続けていいですか!? 勝手なのは分かってます。言ってることがおかしいって。でも……!」
不安そうに瞳を揺らして、その瞳には涙が溜まっている。涙もろい彩らしいと言えるだろう。俺の返答がどうなるか分からない。きっと怖いだろうな。そして俺の答えは決まってる。だから俺は溢れ始めた彩の涙をそっと拭う。
「いいよ。彩がそうしたいなら。それに、彩が望むなら俺も名前で呼ぶ」
「ぁ……ありがとう……ございましゅ」
「はは、かんでやんの」
「だ、だってぇー」
涙を流す彩を慰め、そっと頭を撫でる。しばらくしたらいつもの笑顔に戻り、それを見てから俺も家に帰ることにした。牛込にああやって言われたのにな。これが知られたらまた怒られそうだ。でも仕方ない。彩なら名前呼びはいいかなって思ったのだから。
牛込の家があるマンション前まで戻ると、ちょうど牛込も帰ってきている時だった。どうやら神木のやつはいないらしい。家族で飯なんだとさ。忙しいやつ。
「それで、どうしたんだよ」
「どうって……あー、うん。付き合うことにしたよ」
「へー。おめでとさん。……あーそうだ、ライブ良かったよ。前よりも断然。声も綺麗で」
「そう? えへへ、君に褒められると嬉しいや」
「神木よりもか?」
「え?」
「……なんでもない。じゃあな」
「またね!」
あーらしくない。こんなの俺らしくない。最近俺のルーティンが崩れすぎてる。学年が変わって環境も変わるのだから、修正も必要なんだけどな。とりあえず帰ってシャワー浴びて寝るとしよう。
それで落ち着くはずだったのにな。
祖母が振り込め詐欺に引っかかりさえしなければ。しかも
──あぁ、本当にこのババァ。とっとと死ねばいいのにな。
そういえばいつの間にかお気に入りが300件突破してましたね。ありがとうございます!
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