同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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2話

 入学式が終わって2週間。なぜやるのかわからないテストを受けさせられたが、その分授業開始が遅いのはありがたかった。まだ俺は春休み気分なのだ。と言っても、今週からは授業が始まったんだけどな。今日は金曜日だからそれももう終わりなのだが。

 

 

「商業科って授業楽だよな〜」

 

「そうか?プログラミングとかわけわかんねぇじゃん」

 

「なんかパズル感覚でいけるくね?」

 

「頭大丈夫か?」

 

 

 HRも終わって、掃除当番の奴らが駄弁りながら掃除を始める。俺は当番じゃないから、荷物を纏めてさっさと教室から出て帰る。部活をするやつはするが、あいにくと俺は何か部活をしよう、という気にはならなかった。

 この学校は、大学進学する人全員に推薦状を書く。つまり全員推薦入試で大学受験ができ、書類を書く際に部活をやっていればそれを書けるから、部活を推進してくるのだ。だが、あんなものあってもなくても変わらない。空欄があるかないかなど気にするような奴は、面接の試験監督なんてしないからな。しかも俺進学希望じゃないし、そんな金ないし、奨学金(借金)も嫌だし。

 

 

「しかも学校の体裁なんてもん気にしてる教師の言うことなんて聞きたくないしな」

 

 

 うちの高校は、商業科の中で言えばトップ争いする進学率兼合格率だ。だから進学関連のを担当してる教師陣は、ウザったいぐらい進学を勧めてくる。まぁ担任はそうでもないから、気持ちが楽なんだけどな。どんな人かと言うとマザー的な人だわ。

 

 

「アニキ!お疲れ様です!」

 

「アニキじゃねぇよ。アンタの方が年上だろ。それと学校の近くに来るな」

 

「失礼しました、若」

 

「ヤクザかよ!…とりまさっさとここ離れるぞ。変に目つけられると面倒なんだよ」

 

「わかりました。これからは場所を決めておきましょう!」

 

「合流する必要ないだろ」

 

 

 入学式の時に飯を奢ってくれたチンピラは、なぜか俺を慕っている。その理由は全く分からないが、バイト先を紹介してくれたことはありがたかった。こいつらチンピラを採用した社員の頭を疑うけどな。…だってファストフード店て。

 これからそのバイトに行くし、こいつがわざわざ来たのもシフトが被ってるからなんだろうな。それでも合流して行く必要性は感じられないんだよな。なんでショック受けてる、みたいな顔してんだか。

 

 

「こう、あの…交流とか」

 

「バイト一緒だからそれでよくね?」

 

「…若がそう言うのなら」

 

「誰が若だ。てかなんでこうなってんだよ…」

 

「若は覚えてないでしょうね…」

 

「だからその呼び方やめろ」

 

「あれは昨年末のことでした」

 

「語り始めたぞこいつ」

 

 

 悪いやつじゃないから、つるむのは全然いいんだけど、こういうのはちょっと考えものだな。変に語り部を始めたバカの話をテキトウに聞き流してると、バイト先の裏口に着いた。学校からそこまで遠くないのがありがたいんだよな。家からも遠いってわけでもないし。

 学校帰りで働きだす俺と似た感じで、学校帰りに店によるやつも珍しくない。地理的に花女と羽丘の割合が多いんだけどな。そんな奴らを見かけて、ふと入学式のことを思い出した。そういえばあの時に花女のやつにあったな、程度だが。あれ以降一度も会ってないし、クラスの奴らの名前を覚えてたらそいつの名前も忘れた。顔もぼんやりとしか覚えてない。ま、忘れても問題ないだろう。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「ゆり、ちょっと寄ってかない?」

 

「いいよ。…それにしても意外かも、七が寄り道するの」

 

「そう?」

 

「うん。寄り道はしないタイプって雰囲気だから」

 

「ふふっ、案外するタイプよ?校則で禁止されてたら別だけど」

 

「なるほどね〜」

 

 

 今一緒にいるのは、鰐部七菜(わにべなな)さん。同じクラスですぐに友達になった人。出席番号順で並んでたらすっごい離れてたけど、すぐに席替えがあって、それで席が前後になって仲良くなった。

 遅刻したわけじゃないんだけど、クラス内で言えば入学式の日に私一人だけ遅く教室に入ったみたい。そのことをからかわれたけど、引っ越してきたばっかでまだここに慣れてないってことを話したらすぐに納得してくれた。それに謝罪もついてた時はビックリしたけど。

 

 

「それで、ゆりがお礼したいって人は見つかったの?」

 

「全然。本人の名前も連絡先も分かんないし、学校の名前もわからないし、どこに住んでるのかもわからないから」

 

「前途多難ね。そもそも本人が気にしてないなら、そこまで拘らなくてもいいんじゃないかしら」

 

「お世話になったからお礼をする。こういうのはきっちりしたいじゃん?七菜もそうでしょ?」

 

「…まぁそうね」

 

 

 二人でファストフード店に入る。私たちみたいに学校帰りに寄ってる人が多いけど、まだ席は余ってるみたい。買ってる間に席が埋まる、なんてこともなさそうだから、先に注文をすることにした─んだけど。

 

 

「あ、いた」

 

「…誰が?」

 

「お礼をしたい人」

 

「え!?」

 

「右のレジにいる人がそう。間違いないよ」

 

「あの人が…。なんだか意外ね。こういうとこでは働いてなさそうな雰囲気なのに」

 

「実際には良い人だからね」

 

「あっちのレジに並ぶ?」

 

「そうする」

 

 

 私がお礼をしたい人が、たまたま寄った店で働いてた。意外性しかないし、接客とかしたくなさそうな人だと思ってたんだけどなぁ。しばらく待ってたら、私たちの順番になった。彼はどんな反応するんだろう。案外彼の驚く顔とか見れるのかな。

 

 

「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」

 

「え……あ、はい店内です」

(あれ?全然動じてない…?)

 

「ご注文をお伺いします」

 

「えと、このセットを一つお願いします」

 

 

 とりあえず注文を先に済ませてから話せばいいかな。そう思って注文して、ななのも一緒に注文した。お金は後で貰えばいいしね。

 注文が終わったら「久しぶりだね」って彼に話しかけた。そしたら彼は、接客の口調を崩して、素の状態で話をしてくれた。でも、彼の反応は予想とは真反対のものだった。

 

 

「……初対面(・・・)じゃね?」

 

「……ぇ。いや、あの…2週間前に入学式の時に助けてもらったんだけど」

 

「2週間前?…俺は覚えてないから人違いだろ」

 

「そ、そんなことないよ。ずっとお礼がしたかったもん!間違えるわけないよ!」

 

「知らん。世界には似た人間が三人いるって言われてるし、俺によく似た奴がこの街にいるという偶然もあるだろ」

 

「ちょっといい?もう少し思い出す努力してくれないかしら?ゆりがここまで言い切るのだから、ゆりが正しいって可能性もあるでしょ?」

 

「あるかもしれないが仕事中だ。そして今は暇ってわけじゃない。わかったら横にズレてくれ。他の客の迷惑だ」

 

「っ!……わかった」

 

「ゆり…いいの?」

 

「うん…。迷惑かけるのはよくないから」

 

 

 私が一方的に覚えてるって、結構辛いんだね。彼が私を助けてくれたように、他の人でも助けるような人なら、私はあくまで助けたうちの一人というだけ。彼からしたら、ただそれだけの存在(・・・・・・・・・)なんだ。

 

 

「…ゆり、お礼するのやめといたら?彼は気にしないどころか覚えすらしないみたいだし」

 

「…みたいだね」

 

「さすがに…堪えてる?」

 

「うん…。私だけがこんなに気にしてたなんて、おかしな話だもん。…馬鹿みたい

 

「そんなことない。絶対に」

 

「七菜…?」

 

「ゆりの方がおかしいなんてことは、絶対にない。恩を忘れないことはいいことだもの。…こじらせなければ」

 

「あ、あはは…」

 

 

 私は…まだこじらせてないよね。たぶん。でも、これからどうしよう…。入学式のあの日からは、お礼をしようってことで頭がいっぱいだったのに。結局お礼もできてないんだけど…。

 

 

「ゆりはどうしたいの?」

 

「へ?」

 

「だって、納得いってないって顔してるわよ?」

 

「そうなの?」

 

「うん。不満そうにしてる」

 

 

 そんな顔してたんだ。全然そんなつもりなかったのに。でも、そうやって指摘されたらそうなのかなってなるし、そしたらやっぱりお礼したいってなる。

 

 

「お礼はやっぱりしたいかな」

 

「でも相手は忘れちゃってるわよ」

 

「うん。だから、思い出してもらう」

 

「どうやって?」

 

「何があったのか全部聞いてもらう。2週間前のことだし、思い出してくれるかも」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「若ー、帰りどっか行きます?」

 

「いや、自分で飯作る」

 

「作れるんですね」

 

「まぁな。簡単なやつだけだが」

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

「あん?誰だアンタ」

 

「いきなりガン飛ばすなよ」

 

「す、すみません」

 

「…わざわざこんな時間まで待ってたとはな。馬鹿だろお前」

 

 

 彼の連絡先を知らない私は、彼のバイトが終わるまで待つことにした。さすがに七菜に付き合ってもらうわけにはいかないから、七菜には先に帰ってもらった。…ちょっと強引に押し切ったけど。

 この店の裏口は分かりやすいし、高校生が働ける時間も決まってるから、ある程度予想つけて待機してた。結構待ったけど、待った甲斐もあった。ここまでしたらさすがの彼も話に付き合ってくれるみたい。

 

 

「この女と知り合いっすか?」

 

「別に。…ま、話があるのは俺のようだし、お前は先に帰れ」

 

「お供しますよ?」

 

「妹に怒られても知らんぞ」

 

「帰らせていただきます!」

 

「お疲れ」

 

「お疲れ様です!」

 

 

 …あの人の妹さんってどんな人なんだろ。妹さんに頭が上がらないみたいだし、"怒られる"ってことを怖がってる感じだったし…。でも、あのチャラチャラした人がいなくなったおかげで、一対一で話せる。

 

 

「…こんなとこで話しても仕方ないか。近くの公園とかでいいか?」

 

「うん。ありがとう」

 

「物好きだよな。知らんやつにそんなグイグイ来るなんて」

 

「だから、私は君を知ってるの!」

 

「俺が覚えてないから知り合いじゃないだろ」

 

「むぅー」

 

「そんな顔されても怖くないから」

 

 

 私と同じで、学校帰りに店に行ってたみたいだね。働く側とお客さん側っていう違いはあるけど。…どこの学校なんだろ、制服に何か書いてあったらそれをヒントにできるはずなんだけど。あ、でもブレザーだから、それで絞れるかも。…七菜に頼るしかないけど。

 公園についたら、飲み物を買ってくれてそれを持ってベンチに座った。彼は話すことがないって感じを出してて、背もたれに頭を乗せて空を見てる。私はそれをじっと見ちゃって、そのせいで完全に話しかけるタイミングを逃しちゃった。

 

 

「……なんでじっと俺見てんだよ」

 

「へっ…あ、いや。その…」

 

「見とれたか?」

 

「そんなんじゃないから!私のタイプじゃないもん!」

 

「ならよかった」

 

「え?」

 

「俺もお前はタイプじゃないから」

 

「……そんなこと言うんだ?」

 

「先に言ったのそっちだろ…」

 

「ううん、君だよ。2週間前にも言われたもん。デリカシーないんだから…」

 

「2週間前、ねー」

 

 

 彼は、街の明かりのせいでほとんど見えない星を眺めてたけど、思い出そうとしてくれてるのか目を閉じた。彼が思い出してくれるかもって、そう思って待ってても、彼は目を閉じたままだった。もう少し待ってたら、気持ちよさそうな寝息が……って、

 

 

「なんで寝てるの!?」

 

「ぐへっ!…なんで叩くんだよ牛込(・・)

 

「だって君が思い出してくれるかもって思ってたら寝始めたんだもん!……って、あれ?」

 

「………………どうかしたか?」

 

「さっき名前呼んでくれた?」

 

「………気のせいだろ」

 

「ううん!絶対呼んでくれた!」

 

「気のせいだ!」

 

「強く否定してるのが怪しい!」

 

「くっ…」

 

「覚えてるんでしょ〜?」

 

 

 私がググっと彼に詰め寄ると、彼は反対方向に顔をそらした。私が彼の顔を挟んでこっちに向けさせても、必死にそらそうとするし、目も合わせようとしない。もうこの反応が答えだよね。

 

 

「なんで忘れたってことにしてたの?」

 

「だから覚えてないんだって」

 

「頑固者」

 

「ブーメラン発言だぞ」

 

「ふふっ、やっと目を合わせてくれたね」

 

「…なんなんだよお前。俺とどうこうなりたいってわけでもないんだろ?俺もサラサラないが。とにかく、ここまで付きまとう必要ないだろ。時間の無駄だ」

 

「前にも言ったじゃんお礼させてって」

 

「前にも言ったろ?男をそう簡単に信用するなって」

 

「え…ひゃっ!?」

 

 

 私は、彼がため息をついてすぐに押し倒された。彼に詰め寄ってた分、押し倒されてもベンチに収まるし、私は両手を彼の片手で頭の上に抑え込まれた。彼のもう片方の手で、今度は私が顔を固定されて彼が顔を近づけてきた。お互いの吐息がかかるぐらい距離を詰めて…。

 彼の目は、見たことないような目をしてて、私はその目ですくんでしまって抵抗する力も出なかった。蛇に睨まれた蛙って感じで。

 

 

「男を狼だと思え。そう言ったはずだ。こんな時間に二人きりで人気のない公園に来た。こうなる可能性を考えなかったのか?」

 

「だ…だって…君はこんなこと…しないって」

 

「俺がそう断言したか?言ったとしてもそれが嘘じゃないってなんで言える?」

 

「でも……」

 

「お礼がしたいって言ってたな?だが具体的なことは言ってこなかった。なら身体で(・・・)お礼してもらうのもありだよな?」

 

「ぇ……や……そんなの…」

 

 

 彼は獰猛な目をして、舌なめずりをした。私は自分が嫌になった。なんで彼の忠告を聞かなかったんだろう。なんで彼はそんなことしないって信じきってたんだろうって。これからされることが怖くて、嫌で、でも身体は動かなくて─。

 

 

 




さっそく評価を入れてくださった方がいるようで、ありがとうございます!

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  • 海外編(単発デート)
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