同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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 最近ドタバタしてます。


13話

 

 合宿初日の夜にゆりと話して、いつなら名前で呼ぶかを伝え説得した。不満が無くなったわけでもないようだが、俺の性格をゆりはちゃんと把握してくれてる。だからその不満を飲み込んで納得してくれた。

 合宿中は名前で呼んでても彼氏に知られる心配はないと論破され、俺も不満を飲み込んで名前で呼んでたしな。

 

 合宿二日目は海じゃなくてプールで遊んでいたな。そして今年も二日目は有給休暇として処理されて俺もその遊びに加えられることになった。俺とゆりがお互いに名前呼びしてることはすぐに気づかれて、それで揶揄われるのも当然あったな。

 俺が無視してもゆりが反応するから面倒くさいことこの上なかった。ひとしきりプールで遊んだらバンドの練習をして帰宅。去年のようなトラブルも特にない合宿ですんだ。

 

 

「ヘー。じゃあお姉ちゃんとレオ兄ちゃんの関係も一歩前進だね」

 

「りみは何を聞いてそんなコメントをしてるんだよ……」

 

「違うの?」

 

「そもそも俺とゆりの関係に進むも何もないだろ」

 

「えぇー」

 

 

 家に帰って翌日、りみに合宿のことを俺なりに話したんだが、何をそんなに不満そうにするんだこの子は。俺とゆりの関係は今からどう変化するものでもないだろ。万が一にもりみが期待しているであろう展開にはならない。

 りみは慣れてきたからか、いつの間に敬語を使わなくなった。俺としては居候の身としか考えてないし、りみがどう接してきても受け入れる。

 だがりみは俺をただの居候としては見てないらしい。兄と呼称してる通り家族として見ているようだ。

 

 

「あれ? 二人とも何してるの?」

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「何もしてねぇよ。りみに合宿がどうだったか聞かれたから話してるだけ」

 

「ふーん? レ、レオくんはその……合宿楽しかった?」

 

「名前呼ぶときにいちいち詰まるのと恥ずかしがるのいい加減やめてくれね? 慣れないなら名字呼びにしろよ」

 

「駄目だめ! そうしたら君も名字呼びにするでしょ?」

 

「よく分かってるな」

 

 

 ゆりの予想通り俺は名字呼びになった瞬間にこっちもそうするつもりだ。外では別だな。俺が外ではゆりのことを牛込って呼ぶから、ゆりも名字になるし。

 それにしても、ゆりはなんでこんなに名前呼びに拘るんだろうな。慣れないくせに。呼ぶ度に視線そらしたりモジモジしたりするくせに。

 

 

「もう少しで慣れるから! だから名前呼び続行!」

 

「それは昨日もさんざん聞いた。何回もそう言うが、変化がないんだ。諦めろと言いたくもなるだろ」

 

「やだ。私はやめないから」

 

「なんでお姉ちゃんそんなに恥ずかしそうにするの? 私全然レオ兄ちゃんって呼ぶの恥ずかしくないよ?」

 

「うぐっ!」

 

 

 りみからトドメを刺されたな。ゆりとりみだとりみの方がなかなか自分を出せない。誰かの背に隠れがちだ。それなのにこれに関してはりみの方が平然としている。ゆりと同じように呼びたい呼び方だというのに。

 ちなみにこの呼ばれ方を外でされると俺の方がむず痒い。何かのグレーゾーンな気がする。何かは分からないが。

 りみの言葉が響いたのか、ゆりは覚束ない足取りで俺が座ってるソファに座ってきた。他のとこに行けばいいものを。一番近いとこをスルーしてたのも意味がわからん。

 

 

「もたれかかるなよ」

 

「休憩」

 

「なんでだよ。……りみヘルプ」

 

「写真撮ってお母さんに送っとくね」

 

「おいこら」

 

 

 こんな状態を撮られておばさんに送り付けられたらまた揶揄われるだろ。俺はやられてる側だからいくらでも躱しようがあるんだけどな。もたれかかってるゆりは話を聞いてないみたいだけども。本当に写真撮られたらどうするんだろうな。俺は助けないぞ。

 

 

「送っといたよ」

 

「シャッター音無かったぞ?」

 

「無音カメラだもん」

 

「えぇ……」

 

 

 携帯の画面を見せられて、そこにはたしかに俺達の写真が映っていた。そしてその画面はトーク画面で、相手はおばさんだ。りみは揶揄いではなく本当に送ったらしい。打ち解けたら結構アグレッシブなんだな。驚きだわ。そしてまだりみに言われたことを気にしてるゆりにも驚きだわ。いい加減立ち直れ。

 

 

「そういえばレオ兄ちゃん。今度の土曜日予定ある?」

 

「土曜日? あるにはあるけど、何時からとかある?」

 

「夕方から。ほら、お祭りあるじゃん」

 

「あるな。彩に誘われてるから彩と行くが」

 

「あー。じゃあレオ兄ちゃんとはまた今度かな。お姉ちゃんと三人で行きたかったけど」

 

「軽い調子で修羅場作ろうとするのはやめようか」

 

「え?」

 

 

 なんで何言ってんの、みたいに首傾げてるのかねこの子は。三人で遊ぶだけなら別に問題ないさ。三人で祭りに行くのも別にいい。

 だが今の人間関係でそれはない。俺とりみはともかく、ゆりは彼氏持ちだ。彼氏とは別の男といるだけで知ってる人から疑われる。そこに妹まで混ざったらとうとうカオスだ。それで彼氏に出会ってみろ。面倒くさいことこの上ない。

 それを説明したところでやっとりみは理解してくれた。彼氏が邪魔だねなんて言ったのは俺の聞き間違いだろう。りみに限ってそんなことは言わないはずだ。そんな攻撃的な子じゃないはずだ。いや、全然知らないけどさ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 土曜日の17時過ぎ。そろそろ家を出ようと支度を始める。支度と言っても大して用意するものはない。携帯や財布といった持ち回り品ぐらいだ。リビングに行って出かけることを伝え、玄関へと向かう。その途中でゆりに呼ばれて部屋へと向かうと、そこには浴衣に身を包んだゆりがいた。

 

 

「どう、かな。変なとこない?」

 

「鏡で見れるだろ」

 

「自分じゃわからないとこあるじゃん」

 

「まぁな」

 

 

 黄緑……じゃないな。エメラルドグリーンってやつか。帯は蒼色かな。それをベースにした浴衣に身を包んだゆりを見つめる。黙って近づき、ゆりの後ろに回ってこっちからも確認する。一人で着付けしたようだが、崩れてるところもないな。

 

 

「ちゃんと着れてるな。おかしなとこないぞ」

 

「ありがとう。でもそういうことじゃなくて……」

 

「だろうな。綺麗だぞゆり。不覚にも見惚れかけた」

 

「だから一言余計だってば。それとわざと耳元で囁かないでよ」

 

「悪い悪い。だが綺麗なのは本当だぞ」

 

「……うん」

 

 

 後ろから覗き込むようにゆりの目を見つめる。ゆりも軽く振り返り、目を真っ直ぐ見つめ返してくる。予想外にゆりに見惚れてしまったからか、雰囲気のせいなのか、ゆりの瞳に吸い込まれる。ゆっくりと顔を近づけ、ゆりも瞳を閉じる。

 

 

「──お姉ちゃんそろそろ出るんじゃなかったー? 携帯に電話来てるよー」

 

「っ! そ、そうだね! りみ教えてくれてありがとう!」

 

「俺も出るか。彩を待たせるわけにもいかないし」

 

「……別のお祭りがあったらさ。二人きりで行かない?」

 

「気が向いたらな。それとりみが拗ねるぞ」

 

 

 ゆりは携帯をリビングに置いていたらしく、りみに呼ばれてリビングへと向かう。俺は支度が終わっているから玄関へ。ゆりの誘いを適当に流したらやっぱりゆりは拗ねたが、姉妹揃って速攻で修羅場を作るのはやめろ。対岸の火事として眺めるならいいが、俺がそこに混ざるのはごめんなんだよ。さっきは危なかったけどな。

 

 

なにしてんだか

 

 

 真夏の暑さも夕方になれば少しはマシになってる。気休め程度でしかなくて、アスファルトは熱を持ってるんだけどな。

 だが、これは今は丁度いい。さっきのことも暑さのせいにしよう。涼しい家の中だったが、夏のせいなんだよ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「変なとこ……ないよね。忘れ物もないよね……。待ち合わせも間違えてないかな……」

 

「待ち合わせを間違えてないかを不安にさせたのは謝るが、その前の二つは今さらどうしようもないだろ」

 

「へ……? あ、玲音さん! っ、きゃっ!?」

 

「危ないな……。慣れない浴衣で走ろうとするな。俺はどこにも逃げないから」

 

「え、えへへ。ごめんなさい。玲音さんに会えたのが嬉しくて」

 

 

 見上げると呆れ顔だけども、優しい顔してくれてる玲音さんが目に入る。転けそうになった私を受け止めてくれたから、私は今玲音さんの胸に飛び込んでる状態。いつもならここが外ってこともあって恥ずかしいんだけど、今日は違う。玲音さんに会えるのが一週間ぶりだから。正確にはもう少し多いんだけどね。

 

 

「俺も彩に会えて嬉しいよ。安らげるから」

 

「そうですか? えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです!」

 

「いつもありがとう彩。……俺も私服じゃないほうがよかったか?」

 

「いえいえ。私が勝手にこうしてるだけなので、玲音さんは気にしなくていいんですよ。それより似合ってます?」

 

 

 自分から聞くのは勇気がいる。でもやっぱり気になっちゃうから聞いちゃう。玲音さんは優しいけどはっきり言う人だから、楽しみでもあって不安でもある。まだ玲音さんの胸の中にいたいけど、名残惜しさを捨てて離れる。ちゃんと見てもらいたくて、ゆっくり一回転する。

 薄い黄色の布にピンク、水色、黄色の傘が描かれてる浴衣。帯は濃いピンクで、髪を後ろに纏めてる。お母さんたちに太鼓判押されてるけど、でも玲音さんのお目にかなうかな。グリグリって綺麗な人たちが揃ってるから、それに見慣れてたら私なんて全然って思われちゃうかも。

 

 

「似合ってるさ。可愛いよ彩」

 

「ほ、ほんとうですか?」

 

「こういう時に嘘つかねぇって。俺は似合ってなかったらバッサリ言うだろ?」

 

「そうですけど……うぅ〜」

 

「褒めても泣くのか……。仕方ないやつだな」

 

 

 玲音さんに褒められたのが嬉しくて、思わず涙が出てきちゃった。涙を拭かなきゃ玲音さんに迷惑だって分かってるけど、思ってた以上に私は緊張してたみたいでその分涙が止まらない。そんな私の涙を玲音さんがハンカチでそっと拭いてくれる。迷惑そうになんて全然してない。

 

 

「玲音さん……行きましょう」

 

「ん? 泣き止んでからじゃなくていいのか?」

 

「歩いてる方が涙も止まると、思うので」

 

「彩がそういうならそうするか。ほら」

 

 

 ハンカチを手渡されて、その後に手を伸ばされる。歩きながらだと私が自分でやるしかないもんね。そして今から手を繋いでもいいみたい。それが嬉しくて私はすぐに玲音さんの手を握った。いつもは包み込まれるような手の繋ぎ方なんだけど、今日は私の甘えたい気持ちを前面に押し出す。

 

──恋人繋ぎ

 

 今日くらい。こういう特別な日くらい許してほしい。私が望んではいけない関係の手の繋ぎ方を。今日くらいはさせてほしい。けど、こんな暗い気持ちを玲音さんに悟られちゃいけない。だから私は精一杯の笑顔を浮かべて玲音さんの腕に抱きついた。誤魔化すために。

 腕に抱きついたら玲音さんも驚いてたけど、でも「甘えん坊め」と言うだけで許してくれた。私の秘めてる思いに気づいてるわけじゃなさそう。うまく誤魔化せてるみたいだね。

 

 

「さすがに人も多いが、どの屋台に行きたいとかあるか?」

 

「そうですね〜。んー、りんご飴食べたいですね」

 

「りんご飴ね。じゃあそれを探すか」

 

「探しながら他にも寄りません?」

 

「その方が手間も省けるしそうするか」

 

 

 この屋台の数と人の数だと見つけるの難しいかなって思ったけど、神社へと続く道に沿って屋台が横並びになってるから、そこまで難しくないのかな。左側通行みたいになってるから、右側の屋台に行くのは大変そう。りんご飴があっち側じゃなかったらいいな。

 

 

「遊び系のも寄るか?」

 

「せっかくなのでそうしましょう!」

 

 

 射的やヨーヨー釣り。輪投げもやった。どれも玲音さんは上手で、屋台の人も周りにいた人も驚いてた。小学生とか幼稚園の子にやり方を聞かれて、それを教えてたらその子たちも上手にやってた。屋台の人は苦笑いだったけど、子供が笑顔なのは良い事だって言ってたなー。

 屋台じゃあかき氷とか焼きそばとか綿菓子とか。かき氷も焼きそばも一個しか買ってないのに、スプーンやお箸を二つ貰った。彼氏さんとどうぞって言われて恥ずかしかったけど、玲音さんは彼氏じゃないんだよね。かき氷はお互いに食べさせ合いした。食べさせるのも食べさせられるのも恥ずかしかったけど、でも彼女気分を味わえた。

 

 

「りんご飴の屋台はあそこか」

 

「りんご飴買ったら移動しませんか? 花火があるみたいなので見やすい所に行きましょう」

 

「調べてるのか?」

 

「バッチリです!」

 

 

 ネットでバッチリ調べてあるから、見やすい場所に案内できる。たまには私も良いところを見せないとね。だから玲音さんにどの辺りか聞かれても教えないことにした。玲音さんはりんご飴を食べないみたいで、これも買ったのは一個だけ。それを味わいながら調べた場所に移動……したんだけど。

 

 

「見事に人が多いな」

 

「うぅー、なんでー?」

 

「ネットで調べりゃそりゃあみんなが来るとこになるだろ。さすが彩。トチったな」

 

「はぅっ!」

 

 

 結局良いところを見せられなかった。そう落ち込む私の頭を撫でてくれた玲音さんに手を引かれる。ここから離れるみたい。もしかしたら気持ちが萎えてしまったのかも。私のせいだよね。最後の最後で……。私はいっつも肝心なところで……。

 

 

「着いたぞ」

 

「ぇ、ここは……?」

 

「隠れ名所。人もいないから二人で花火を楽しめる。こんなふうにな」

 

 

 ちょうど花火が打ち上げられ始める。花火をしっかり見ることができて、人もいない。こんな場所があるのに知られない理由って、ここが暗いからだよね。私も玲音さんがいないとこんな所これないよ。友達とでも無理。

 ベンチに二人で腰掛けて肩をくっつける。私は頭を預けて、玲音さんが私の腰に手を回す。こうして二人だけで花火を見ることができるなんて、ロマンチックで好き。このシチュエーションがとても私好み。

 これはきっと夏のせい。だからかな……

 

 

「玲音さん……」

 

「彩?」

 

「んっ」

 

 

 玲音さんに私の唇を押し付けちゃったのは。

 こんなことしちゃいけないのに。

 玲音さんの心の状態は安定してるように見えて、全然安定してないのに。

 なんの拍子で壊れてもおかしくないのに。

 

 私からこんなことしちゃいけない。玲音さんも自分のことを戒めようとしてた。それなのに私がそれを邪魔しちゃった。だからすぐに離れようとした私の首に玲音さんは手を回した。呼吸が苦しくなるくらい長く。

 

──あぁ、なんでなんだろう

 

──なんで私はこんな……

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