同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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 どうにも時間が取れない。そして最近モチベが下がり気味。
 バレンタインには間に合わせたいですが、間に合わなかったらごめんなさい。


15話

 

 三週間ぶりぐらいになるのかな。彩とシフトが重なるのは、電話も一切してなかったからわりと心配だったんだよな。この前松原に頼んだんだが、「最終的には先輩がどうにかしないといけないんですよ」って言われたし。ひとまずは大丈夫とも聞いたが、俺が動かないとどうにも解決しないらしい。

 そもそもの原因が俺だってことは分かってる。言い訳にはなるが、疲弊してて彩に甘えていたから。面接の時から知り合ってるってこともあって、彩が俺に一番話しかけてきてたってのを利用してな。

 

──ほんと、クズだな

 

 

「レオくん。今日もバイト?」

 

「まぁな。飯はいらねぇから」

 

「あー、通しなのね。お昼はともかく、夜は家で食べなよ」

 

「いいんだよ別に。四人分で済むならそれに超したことないだろ」

 

「変わらないと思うんだけど……」

 

 

 晩飯を家で食べさせようとするゆりを躱して家を出る。嫌なパターンは、ご飯を用意したというメッセージが飛んでくることだが、それはされたことがない。居候だから、こっちが言うことを聞かないといけないのに、そのへんは流してくれてる。元々あまり強制しない教育方針らしい。

 見放されてる俺は無論強制なんぞ受けたことがないのだが、ああやって愛されている家族で強制されずに生きているのは純粋に羨ましい。俺はともかくとして、妹の方はあまり自由がないだろうから余計にな。

 

 

計画を練り直したほうがいいか

 

 

 今になって気づいた。俺が将来頼りにしていた資金が一度綺麗さっぱり無くなったということに。祖母の遺産があるにはあるが、あれはなんか使いたくない。使うのを申し訳なく思って躊躇う。

 それはひとまず置くとして、最初の考えは頓挫してる。軌道修正どころか新しいのを作り出す必要があるんだ。俺が社会に出て妹を取り戻す計画を。

 

 

「どうしたものか……」

 

「どうかされたんですか?」

 

「ん? ……彩? どうしたんだ? 家から店まででこの道は通らないだろ」

 

「えへへ、ちょっと寄り道したい気分だったので」

 

 

 10月になり、夏の反動もあってか肌寒く思えるようになってきた時期だ。そのためか彩の私服にももちろん変化が出てきてる。夏は腕を出すような袖が極端に短いものが多かったんだが、今は完全に長袖。セーターを着込んでる。反対に若干肩が見えるようになってるんだけどな。結局寒いんじゃないかと思ってみたり。

 

 

「まだそこまで気温は下がってませんからね。丁度いいんですよ」

 

「考え読むのやめてくれね?」

 

「あはは、すみません。なんか分かっちゃいました」

 

 

 なんかで分かるものなのだろうか。俺はそんな単純な人間じゃないと思うんだがな。ゆりによく捻くれ者って言われるし。……最近は言われてない気がしてきた。ということは捻くれ度合いがショボくなったってことか。どっちでもいいが。

 彩が軽やかな足取りで隣りに来る。歩くペースを彩のペースに合わせて、肩を並べて店へと向かう。歩いている間は彩の話を聞いていた。最近の些細なことでも楽しそうに話すから、聞いてるこっちも楽しめる。それに彩の感受性の高さに驚かされる。俺だとサッと流すようなことでも、彩には新鮮に見えるらしい。

 

 

「二人が一緒にいるの久しぶりに見たのだけど、相変わらず仲睦まじいわね」

 

「仲が良いの間違いでは?」

 

「あなた達のそれは仲睦まじいっていうのよ」

 

「あー、願望の現れですか」

 

「萩近くん。ちょーっとお話しましょうか」

 

 

 地雷を踏み抜いたようだからさっさと中に入って回避。彩がまだだが、あの人も関係のない彩を巻き込むことなんてしない。あとから来た彩に呆れ顔で注意はされたんだけどな。

 

 

「丸山さんの笑顔があるとみんなイキイキするよなー。単純というかなんというか」

 

「そうですね」

 

「お前はそうでもないみたいだけどな。にしても今日はまた一段と笑顔だな」

 

「そのうちまたトチるでしょうね」

 

「フォローは任せた」

 

 

 俺に押し付けるのかよ。たしかに彩がトチったらいつも俺がフォローしてるけども。彩はレジ打ちで、俺は裏方だからな。フォロー行くのなかなかしんどいんだよ。みんなも慣れてるから滞りなく回せるようになってるけども。

 

 

「玲音ー! 出番だぞー!」

 

「早いなおい!」

 

「うぅー。玲音さんごめんなさい!」

 

 

 早速やらかした彩のフォローに駆り出される。なんだかんだで従業員の間では風物詩みたいなことになってるから、誰も怒ることなく笑い話で済まされる。これも彩がみんなに好かれてるからなんだろうな。

 まだ世に出ていないアイドルの卵。でも、ここではすでにアイドルだ。丸山彩という少女が人に好かれやすい人間性であることは、もう証明されてる。

 

 だから──

 

 

「彩。後で話がある」

 

「うっ、ごめんなさい……」

 

「あ、別に怒るわけじゃないから」

 

「へ? そうなんですか?」

 

「あぁ。帰りながら話すから」

 

「分かりました」

 

 

 ──彩の話は聞いてあげないといけない。いや、聞き出さないといけないんだ。

 

 

 

「お待たせしました」

 

「待ってない。それじゃ帰るぞ。送っていくから」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 着替えを済ませた彩と一緒に、すっかり暗くなった帰り道を歩いて行く。俺が送って帰るのも久しぶりだし、そもそも珍しいことだ。だから彩は上機嫌になって、鼻歌交じりに足取りを軽くする。

 

 あぁ、上機嫌過ぎる(・・・・・・)な。

 

 

「彩ちょっといいか?」

 

「なんですかー?」

 

「何があった?」

 

「っ! ……何でもないですよ? どうしたんですか急に」

 

「隠せてると思ったのか? 俺だって彩の些細な変化に気づけるんだぞ」

 

 

 俺に心配されたくなかったのか、彩はあくまで笑顔で言葉を返してきた。無理に作った笑顔でな。だから俺はその仮面を剥ぐ。容赦なんてしない。彩が奥に仕舞い込んでるものを引き出させる。

 俺が切り込んだことで、彩は諦めたのか表情を固めてすぐに俯いた。小さく肩を震わせ、しばらくしたら泣きそうになってるのを無理に笑顔で抑え込んでる状態で、また「なんでもない」と言い放った。そう言われた俺は彩の肩を掴んで目線を合わせる。

 

 

「なんでもないわけだろ。そんな顔で言われて信じ込む奴がどこにいる」

 

 

 怒鳴りそうになるのを抑えて、彩を諭すように口調を和らげる。あくまでも彩から話させないといけないんだ。心の奥底にあるものを他人が強引に引っ張りあげちゃいけない。そんなの何の解決にもならないんだから。

 

 

「少なくとも俺が原因になってる案件だろ? 教えてくれ。俺にも彩を支えさせてくれ。ずっと彩だけに負担をかけるわけにはいかないんだから」

 

「れおと……さん。……あはは……なんでも、お見通し……なんですね」

 

「彩のことだからな」

 

ゆりさんでも同じなんだろうな

 

「彩?」

 

「いえ……私の部屋でいいですか? そこなら……話せるので」

 

「わかった」

 

 

 たしかに自分の部屋の方が落ち着いて話せるよな。こんな夜道よりかはリラックスできるはずだ。聞き出すことで思考が埋まってたな。

 ……ん? 彩の部屋?

 

 

 

「えっと〜。玲音さんが彩の責任を取るということでよろしいのでしょうか?」

 

「違います。手を出しておりませんので。そういうことは一切。本当に」

 

 

 やっぱこうなるよな! そりゃそうだわな! 愛娘がバイト終わりだからとはいえ22時過ぎに男連れて来ればなぁ!

 玄関で出迎えてくれた彩のお母さんに落ち着いて弁明する。大丈夫だ。事実として俺は彩に手を出していない。キスをしたことはあるが、それはきっと大丈夫。グレーゾーンだ。黙っていれば隠し通せる。

 

 

「ふふっ、冗談です。彩からお話は聞いてますので、優しい方だとは分かっていましたし。この時間に来られるのは予想外でしたけど、主人は出張で留守にしてるのでご安心を」

 

「夜分遅くに申し訳ないです」

 

「お気になさらず。彩がお世話になってますし、一度お会いしたかったのも事実ですので。あ、泊まっていってくださいね。明日改めてお礼しますので」

 

「いえいえお構いなく。娘さんにはむしろ俺の方が助けられてますので。本当に」

 

「そうですか? でもやっぱり泊まっていってください。次女も会ってみたいと言っていたので」

 

 

 これはもしかしなくても断れないパターンだな。彩に妹がいることは聞いていたんだが、その子に会いたいと思われていることまで言われたんだ。ここで帰ると言い張ってしまうと妹さんに悪い。

 結局俺が折れて一晩泊まらせてもらうことになった。口調は丁寧なのにわりとグイグイ来る人なんだな。落ち着きを身につけた彩って感じか。なるほど、親子だな。となるとトチるのはどっち似なんだろうか。

 なんてことを考えて軽く現実逃避しつつ、おばさんに『流れで友達の家に泊まることになりました』と連絡する。謝罪の一言も忘れずに送っといたが、速攻で返信が来て『若いうちに好き放題したらいいわよ』とのこと。

 おばさんや、俺はヤンチャするわけではないんです。よくしてたけども。

 

 

「許可も貰えたので一晩お世話になります」

 

「どうぞどうぞ上がってくださーい」

 

 

 彩と話があったから、店では何も食べてない。晩御飯もお世話になって、風呂にも入らせてもらう。着替えは出張中の親父さんのものを借りることになった。半端なく申し訳ない。先に風呂に入っていた彩は、俺が入浴してる間に部屋の片付けをしてたらしい。

 

 

「あ、玲音さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「玲音さんが彩との付き合いをどうするかは口出ししません。それはもちろんあなたのような人に彩と共に生きて貰えると親としては嬉しいですけども、でもあなた達の道ですから」

 

「それは……」

 

「ふふっ。本当に周りの人や私たち親のことは気にしないでください。周りに理由をつけて決めるのが一番ひどいやり方だと思うので。ですが、たとえどうなっても彩のことを支えてください。ご存知だから今日来たのでしょうけど、あの子は頑張りすぎるところがあるので」

 

「……分かりました。できるだけ彩の力になります」

 

 

 母親っていうのは、どこまでも見抜いてくるんだな。彩からしか俺の情報を得てないのに、会って1時間程度なのにここまで的確に言えるだなんて。しかも相手を縛り付けず、道を狭めさせるわけでもない。敵わないや、母親ってのは。

 

 

「あ、避妊はしてくださいね?」

 

「手を出すわけじゃないので!」

 

 

 こういうとこは牛込家の母親とも一緒だな! 娘のことを案じてるはずなのになぁ!

 "あや"と可愛らしく書かれてるネームプレートがある部屋をノックする。これで中から違う子が出てきたら詐欺だな。入っていいと許可をもらったところで扉を開ける。女の子らしい部屋という感じだな。彩が好きそうな蛍光色、特にピンクが多めの部屋に入った印象がそれだった。大切にされてるのが分かる人形も何個か置かれてる。

 

 

「ちょっと狭いですけど」

 

「そんなことないだろ。俺が前いた家の居間ぐらいはあるぞ」

 

「……すみません」

 

「はは、意地悪な言い方だったな」

 

 

 この部屋には椅子が一つしかない。俺は床に直接座ろうかと思ったんだが、彩にベッドに腰掛けるように言われたからお邪魔させてもらう。彩の隣りに少しだけ間を開けて座ると、彩が間を詰める。肩に頭を乗せられて、彩の髪の香りが鼻をくすぐる。普段見ることがない風呂上りの状態ということもあり、いつもと同じ感覚で接するのに苦労する。無言でいることで己を律することに集中する。

 

 

「……何も聞かないんですね」

 

「彩から話した方がいい案件だろ? 重たい内容だとはわかってるから」

 

「……玲音さん。……私、折れちゃいそうです」

 

「折れちゃいそうって……。そうか……アイドルのこと諦めようか悩んでるのか」

 

 

 これも言い当てることができたようで、彩は口を噤んで俺の腕を強く抱きしめる。彩は諦めずに努力を続けられる子だ。彩以上にひたむきに努力し続ける子を俺は知らない。そしてどれだけ"アイドルになる"ことを夢見てるのかをよく知ってる自信がある。

 そんな彩がその夢を諦めそうになってる。それはなかなか芽が出ないからというのもあるのだろう。だが、それだけなら彩はまだ頑張れたはずだ。それなのに、彩が諦めそうになってる。それはつまりそれだけ彩の精神が弱ってしまっているってことだ。

 

──俺のことを気にかけ過ぎて

 

 

「彩はさ、まだアイドルになりたいって夢があるか? その夢を叶えたいって思いはまだ彩の心に残ってるか?」

 

「……はい。ずっと目標にしてて、私の夢ですから。……でも、何をやってもだめで! オーディションを頑張ろうとしてもトチっちゃって! こんなのじゃアイドルになんてなれないって思ったら……頑張れなくなってきて……!」

 

 

 きっと彩はこれを誰にも言えなかったんだろう。彩のことを信じてずっと支えてくれてる家族には特に。だから溜め込んでしまった。みんなの目には『挫けることなく目標にひたむきに努力する丸山彩』として映るから、周りに言える人間もいない。そして追い込んだ張本人の俺にも。

 だから俺が彩の奥底にしまわれた感情を全て引き出させるんだ。彩に支えられた俺だからこそ、彩を支えないといけない。それが俺の責任で、そして俺がやろうと思えることだ。

 

 

「ごめんな彩」

 

「なんで玲音さんが謝るんですか! 玲音さんは何も……!」

 

 

 俺の謝罪を受け取らない彩を抱きしめる。抱え込むように彩の頭にも手を回して。体を震わせる彩を見て今さら気づいた。俺はこれだけ華奢な女の子に背負わせすぎたのだと。遅すぎるが、気づいたからには変えないといけない。

 

 

「本来の彩ならまだ頑張れただろう。でも、俺のことを彩に背負わせてしまったから、彩の余裕を奪ってしまったから」

 

「そんなの関係ないですよ! 私が駄目で! 弱くて!」

 

「そんなことはない! 彩は決して弱い人間じゃない!」

 

「それこそ違います! 私は──」

 

「彩! 自分を否定しないでくれ。少なくとも、彩は彩が思っている以上に強い子だから。だからみんな彩のこと好きなんだよ」

 

「……みんなのことはいいです。……玲音さんはどうなんですか? 私のことをどう思ってくれてるんですか?」

 

 

 溢れ落ちる涙を拭かずに、その瞳に不安の色を浮かべる。瞳を揺らしながらも俺の目を見つめてくる。その質問の意味を理解しないほど俺だって疎くない。彩が聞きたい答えがどういうものなのかも。だが──

 

『周りに理由をつけるのが一番ひどいやり方だと思うので』

 

 そうだ。さっきそう言われたばっかだ。彩のお母さんが言ったことは正しい。そんなので答えるべき事柄じゃない。

 

 

「ごめん、彩。俺には分からないんだ。彩に向けてるこの気持ちが何なのか。だからその質問を今答えることはできない」

 

「……ズルい人ですね」

 

「よく言われるし、自分でも酷い人間だと思ってる。……なぁ彩。自分だけじゃ夢を追い続けられないって言うならさ、俺が支えるよ」

 

「それは……お母さんに言われたからですか?」

 

 

 この子、話聞いていたのだろうか。あまりにも的確すぎる質問だ。だが、その真意なんてどうでもいい。俺が彩に答えることは決まってる。伝えたいことはすでに定まってる。

 

 

「そんなの関係ない。俺が彩に諦めてほしくないだけだ。自分勝手な思いさ。でも、彩には夢を諦めてほしくない。だって彩は夢を追いかけてる時の方が笑ってた(・・・・)。自然な笑顔だった」

 

「ほんとうに……勝手ですよ。そんなの……。私はもう頑張れそうになくて……」

 

「彩。俺は彩がどれだけ自分を責めても、彩のことを護るから。彩が自分のことを素直に認められるまで。いや、認められた後も。ずっと彩を護るから」

 

「……本当に護ってくれますか? 本番に弱くて、涙脆くて、すぐトチっちゃって、みんなに迷惑かけるような私でも、ずっと護ってくれますか?」

 

「あぁ。約束する。俺が彩を護る。彩の道を支え続ける。なんせ丸山彩の最初のファンだからな」

 

「うっ、うぅぅ……」

 

 

 本当に俺は最低な男だ。彩の心を護り続けるなんて言い張ったのだから。分かってることなのに。俺の気持ちに答えを出した時、半分の確率で彩を泣かせることになると。彩を護れなくなると。

 それなのに、道を閉ざされた俺とは違うようになってほしくて、ただ夢を掴み取る姿を見たいだけで彩を頑張らせるのだから。あのクソ親父とどう違うっていうんだろうか。このか弱い女の子に厳しい道を歩かせ続けるなんて。

 

 

「れおと……さん。……お願いしても、いいですか? それがあったら……頑張れると思うので……」

 

「いいぞ。彩の願いなら」

 

「今日は一緒に寝てください」

 

「…………。ん?」

 

「お願いしますね?」

 

「……はい」

 

 

 内容を聞かずに何でもオッケーな雰囲気を出してしまった自分を殴ってやりたい。ベッドに寝転がって、俺が入れるスペースを作った彩が寂しそうな瞳でこっちを見てくる。

 ただ寝るだけだ。もう時間も遅いから、明日に響かないように寝るだけだ。そう自分に言い聞かせ、意を決して彩のベッドに入る。腕枕を所望する彩に応え、体全体を密着させて速攻で寝た彩の髪を撫でながら俺も瞳閉じた。

 寝れるまでにニ時間はかかったけどな。

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