今年も残り一週間ほどだ。また年内最後にして大忙しの時期がやってきた。忙しいのはそういう職に就いてる人なんだけどな。大半の人間はゆったりと思い思いに冬休みを満喫してる。忘年会をハシゴする人もいるらしいけど、それは知らん。
残り約一週間。
つまり、今日はクリスマスイブだ。
去年はゆりに半強制でクリスマスパーティin牛込家に参加させられた。今思えば、あのクリスマスパーティに行って、両親と和解したからこそ俺は今の生活があるんだな。そこはゆりに感謝しとこう。
……あの日以降ゆりとはそこまで話していない。俺は自分がクズだと自覚してるからそこまで気にしてないのだが、ゆりが自分を責めてる節がある。俺の方に責任があるのにな。その話をしようにも避けられるから話せずにいる。
「レオ兄ちゃん今日もバイト?」
「ん? まぁな。夕方まで働いて、その後はちょっと用事。昼御飯と晩御飯はいらないから」
「えー。一緒にクリスマス過ごしたかったのに……」
「ははっ、ごめんなりみ。来年はそうしよう」
「ほんま? 嘘やない?」
「ほんまや。約束な」
りみに小指を立てた手を伸ばす。それを見たりみも手を伸ばしてきて小指を絡め合う。約束をする時の定番である指切りだ。嘘ついたら針千本っていう恐ろしい拷問……ではなく大量のチョココロネを要求された。肉体には何一つ被害がないが、俺の財布には大打撃だ。来年は必ずりみとクリスマスイブを過ごすことにしよう。
リビングから部屋へと戻り、バイトの用意を持って廊下に出る。今からバイトに向かおうというところで、廊下でゆりとバッタリ会った。家の中だから会うのはいつもなんだけどな。
「……今日もバイトなんだ。せっかくなんだから丸山さんと過ごせば?」
「夕方まで働いてその後そうするさ。彩もシフト合わせてきたし」
「ふーん? ラブラブだね」
「はいはい。ゆりは彼氏と過ごすんだろ?」
ゆりが挑発的な言い方をするようになったのもあの日から。だが大して苛つくこともない。ゆりが俺と話した後に言い方について悔やんでいるのをりみから聞いているからだ。何とも面倒なことをしているなと思うのだが、俺がどうこうできるわけでもない気がして特に行動してない。
だから適当に流して逆に切り替えした。ゆりの今日の予定を確認するために。俺にそれを聞かれたのが嫌だったのか、ゆりはそっぽを向いた。つまりそれが答えってわけだ。
「彼氏と過ごすのは当然だろうから別に反対とかしないが、気をつけとけよ」
「……何に」
「アイツの行動に。何があるか分かったもんじゃないぞ」
「なんで君にそんなこと言われないといけないの!? 神木くんのこと何も知らないくせに! 彼が変なことするわけない! それは私がよく知ってるよ!」
「……そうだな。じゃ、俺バイトあるから」
喧嘩別れってわけでもないが、朝からあまりいい話し合いにもならなかったな。後味の悪いやり取りになってしまったが、気持ちを切り替えるとしよう。どうせそこまで忙しくないんだ。
すっかり寒くなった外を歩くこと数分。いつぞやのように彩と出会った。店に行くまでで合流するはずもないんだが、わざわざ遠回りしてきたんだな。
「わざわざ待たなくていいのに。寒かったろ?」
「えへへ、玲音さんと一緒に行きたくて。それに、こうしたら寒くないですよ?」
「然程変わらんだろ……」
腕にしがみついてくる彩に雑にツッコミを入れ、彩の好きなようにさせて店へと歩いていく。午前中は大してカップルの姿も見えない。クリスマスイブでのデートって大抵日が沈む頃合いからが多いからかな。そんな決まりもないのにな。不思議なことだ。
彩との距離はよく分からない。縮まったような気もするし、前からこんなだった気もする。ただ、横で嬉しそうに朗らかに笑ってるのを見ると、今日も元気をもらえる。
──この笑顔をいつまで守れるんだろうな
〜〜〜〜〜
玲音さんから聞いてた通り、クリスマスイブはそんなに忙しくなかった。学生でバイトしてるのも私たちくらいで、パートのオバちゃんや社員さんと一緒にお店を回してた。花音ちゃんもおやすみ。花音ちゃんは今日家でクリスマスパーティするんだって。
「それじゃあ丸山さんも萩近くんも上がっていいよ〜」
「分かりました。お疲れ様です!」
「おつかれ〜。二人はこの後デートでしょ?」
「えっ!? なんで知って……! あ……」
「ふふふー。丸山さんは簡単に引っかかるから楽だわ〜。そっかそっかデートか〜。楽しんでらっしゃい」
社員さんにハメられたと知って、私は恥ずかしくなった。顔を俯かせながらタイムカードを打って事務所に入る。先に玲音さんがいて、私は戸を閉めたらすぐに抱きついた。赤くなった顔を隠すように玲音さんの背にギュッと張り付く。玲音さんが離れるようにと手をポンポンされるけど、私は力を強めた。
今度は後ろに手を回した玲音さんに頭をポンポンってされる。動けないから離れろって言われたけど、私はイヤイヤって首を振った。そしたら玲音さんがグルって回って、私と向き合う形になった。
「甘えん坊め」
「玲音さんにだけですよ? 玲音さんにだけこうしたいんだす」
「……そっか。でもまずは着替えような?」
「うぅー、分かりました」
玲音さんにもギュって抱きしめてもらった私は、着替えを持って更衣室に入る。ササッと服を着替えて、髪も整えて更衣室を出る。今日は今までで一番早く着替えられたはずなんだけど、玲音さんは着替えも済ませてのんびりしてた。今日は早かったなって言ってもらったのが何だか嬉しくて、私は玲音さんの手を取って勝手口へと急かす。
「外は寒いな」
「そうですね〜。でも、こうやって引っ付けるので寒いのもいいですね!」
「ポジティブだなー」
バイト前と同じように玲音さんの腕に自分の腕を絡めて抱きしめる。朝とは違ってこの時間になるとカップルも多い。私は玲音さんと付き合えてるわけじゃないけど、こうしてたらカップルに見えるのかな。それは嬉しくて心が暖かくなる。
「どの店も混んでそうだが、どこか空いてたらいいな」
「そうですね……。今からだと難しいんですかね?」
「かもな。……ぁ、あっこならすぐに入れるか」
「どこか知ってるんですか?」
「まぁな。知り合いの爺さんがやってる店がある。そこに行こう」
玲音さんの提案にすぐに頷いて、そのお店を目指す。玲音さんはいつもそこまで口数が多いわけじゃない。私が話を振るほうが圧倒的に多い。玲音さんはそれでも楽しいって言ってくれるし、私も聞いてもらえるのが嬉しいからそうする。でも、今日はいつも以上に玲音さんの口数が少ない気がする。なんとなくだけどそう思う。きっと何かあったんだ。そしてそれはたぶん──
「ゆりさんと何かありました?」
「……どうしてそう思う?」
「女の勘です!」
「すげーな。彩にもそんなのできるのか」
「どういうことですか!? 私だって女の子ですよ!」
「それは分かってる。彩が可愛らしい女の子だなんて百も承知だ。ただ、彩ってよくトチるから女の勘とかも全く働かないと思っててさ」
「すごく複雑です……」
玲音さんに褒められたことはとても嬉しかったんだけど、その後のことが図星で納得できたから複雑。たしかに私はよくトチる。全然できないことの方が多いもんね。でも、玲音さんのことなら分かってるつもり。そしてゆりさんのことで何かあったっていうのも、直感だけどどこか確信を持てた。
玲音さんがそんなに話したくなさそうだから、私も無理には聞き出さないんだけどね。適当にはぐらかす玲音さんに言葉を返していると、玲音さんが言っていたお店についた。お店の外からでも落ちける店だって分かった。
「爺さん。二人だ」
「おぉー? 玲音か。久しぶりだな〜! 可愛い子を連れよって。好きな席に座ってメニューでも決めとれ。五分後に聞く」
「分かった」
なんかこういうやり取り見ると新鮮な感じがする。顔見知りのお店だとこういうことできるのかな。それにしてもあの人何歳なんだろう。お爺さんって言うわりにはすごい元気なんだけど。マラソンとか笑顔で走り抜けてそう。しかもいい記録で。
玲音さんにメニューを手渡されて、それに目を通す。和食も洋食も載ってるし、どっちも種類が豊富。これを一人で作れるのって凄いよね。従業員さんは他にもいるけど、みんなホールだって玲音さんが言ってたから、作ってるのはお爺さんだけ。
きっちり五分後に注文を聞かれて、私と玲音さんはそれぞれ注文して料理が来るまでこの店の話をする。雰囲気とか、従業員さんたちがユニークだとか。働いてる人のほとんどが似たファッションしてるんだけど、あの人達は中学生の頃に玲音さんと殴り合いしてたチンピラさんなんだとか。
「……何してたんですか玲音さん」
「荒れてた時期もあるんだよ。沈んでるのとは違ってな」
お爺さんが作った料理はとても美味しくて、どうやったらこれだけ料理が上手になるのか聞きたかった。今回はそうするわけにもいかないから、また機会があれば。
家の方へと足を進めてたけど、途中に公園があって玲音さんとその公園のベンチに座った。空は晴れてるけど、街が明るいからそんなに星は見えない。玲音さんに体を傾けて目を閉じる。玲音さんも腕を回してくれて、よりギュって固まれる。
本当に心地よくて好き。
でも、このままじゃいけないんだ。
私はこのままの関係でいいとは思わない。
怖いけどね。でも、ここは勇気を振り絞らないといけない。
「……玲音さん」
「彩?」
体を起こして玲音さんと向き合う。私が真剣な目をしてると、玲音さんの雰囲気も引き締まった。こうやって合わせてくれるのも玲音さんの好きなところかな。
言ってもいいのだろうか。自分で駄目だって禁じてきたことなのに。
──そんなの関係ないよ。私にはもう無理だから
震える体を、怯える心を勇気づけるために両手を胸に添えて、強く握りしめる。今だけは逸らしていたいと、逃げそうになる目をなんとか玲音さんの目に合わせる。震える唇を重々しく開く。
「玲音さん。私は玲音さんのことが異性として、一人の男性として好きです」
「っ……」
もう言ってしまった。
そして、これを言ってしまったらもう止まれない。止めることなんてできない。私は今まで私の胸に仕舞い込んできた気持ちをすべて晒し出し始める。
「駄目だと思ってたんです。初めて玲音さんとゆりさんが話してるのを見た時、この二人は……付き合ってるんだって思ってました。素敵な関係だって……思ったんです。私も二人みたいな関係になれる人に出会いたいって、そう思って。でも、二人は付き合ってなくて……。だから、チャンスだって……そう思ったんです。恋に恋してる状態で玲音さんに近づいて、ゆりさんに彼氏ができた時にはやったって喜んじゃって。……玲音さんの……お婆ちゃんが亡くなって……それで玲音さんが危ない状態だったのも……じつは……どこか……喜んじゃって。これで玲音さんを支え続けたら、玲音さんが振り向いてくれるって! 私を見てくれるって! そう……思ったんです。あはは、汚い女の子……ですよね。でも、気づいた時には恋に恋してる状態なんかじゃなくて、玲音さんのことが本当に好きだって分かって……。でも、玲音さんはまだ危ない状態だったからこの気持ちをずっと隠してて……。でも、でももう限界なんです! 私はもうこの気持ちを抑えたくない! 私だって恋いしたい! 玲音さんといっぱい過ごしたい! 玲音さんの隣を、玲音さんの一番を私が独占したいんです!」
全部、全部を、何もかもを包み隠さずに話す。知らない間に私の頬をいっぱいの涙が伝ってた。でも今はそれを拭かない。玲音さんから目をそらしちゃいけない。だから、思いの丈を吐いてる間に下がっちゃった視線を上げる。それと同時に私は玲音さんに抱きしめられてた。手を頭に乗せられて、反対の手は私の背中に回ってて。
「彩……ごめんな、何度も何度も彩を傷つけて。彩にずっと苦しい思いをさせてきて。それなのに、こんなクズな男をずっと支えてくれて……。本当にありがとう」
「れおと……さん……」
私……分かっちゃった。
「こんな俺をそれだけ想ってくれて、本当に嬉しいよ。ありがとう」
私のこの恋は──
「でも俺は彩の気持ちに応えられない」
──実らないって。
玲音さんの胸に縋りついて涙を流す。悟れても、玲音さんの言葉を聞いても、綺麗さっぱり諦めがつくわけがないんだから。私は今やっと恋をできたのに。恋ができて失恋したんだから。
「彩のことが嫌いとか、彩に魅力がないとか、そんなことは決してない。彩がアイドルになるから、スキャンダルが怖いから、なんて理由でもない。俺はそんなの関係ないってゴリ押しする人間だから」
「なら……なんで、ですか? なんで私は駄目なんですか!?」
「俺が……俺が彩の気持ちにちゃんと応えられないからだ。真っ直ぐ向き合って受け止めることができない。そんなのを彩に味合わせるなんてできない! だから……ごめん」
「そんなの……そんなの分からないじゃないですか! だって、今だって玲音さんは逃げてます! 断る理由も! だから……!」
「ほんとに、ごめん。……こんなクズで……酷い断り方で……でも、俺は人を好きになっちゃいけないか──ん」
玲音さんの言葉を遮るために唇を重ねる。肩に手を添えて優しく離そうとする玲音さんに抵抗するように、玲音さんの頭に回した手の力を強める。息が苦しくなっても関係ない。悟ってもそんなの受け入れられない。玲音さんと離れたくない。諦めないのが私だから。
息が続かなくなった私の力が弱まって、玲音さんにそっと離される。
「彩……」
「嫌です! 嫌なんです……。玲音さんと一緒に……玲音さんの隣りに……いさせてください……」
「ごめん、彩……ごめん」
玲音さんは何度も私に謝った。私がまた玲音さんに気持ちを伝えようとしたら、着信音が鳴り始めた。私のじゃないから、これは玲音さんの。なんとなく分かる。ゆりさんからなんだろうって。
私は玲音さんに電話を取らせたくなかったけど、玲音さんが手に取るほうが早い。画面を見たらやっぱりゆりさんだ。玲音さんは冷たい目になって電話に出る。玲音さんがそんな目になるなんて何があったんだろ。
「何のようだ
──
「……ぇ?」
おかしい。今のこの電話は間違いなくゆりさんの携帯から。それなのになんで玲音さんはその神木さんって人の名前を出したんだろ。私が混乱してる間に玲音さんと相手の電話が進んでいく。
『なんでゆりってそこで言わないのかな?』
「ゆりは彼氏とのデート中に電話をかけてくるような馬鹿じゃない。……お前、
『怖い怖い。ところでさ、これ普通の通話じゃないんだよ。画面を見てみなよ。ビデオ通話だから』
『だ、だめ! レオくん見ないで!』
「……っ!」
『はははは! いいのが撮れてるだろ?』
「お前いい趣味してるな。こんなの俺に見せてただで済むと思うなよ」
『とはいえ君は僕らの居場所を──』
玲音さんはたぶん電話の途中なんだろうけど電話を切った。今まで見たことがないほど玲音さんは怒ってる。私に向けられたものじゃないのに、すっごく怖い。玲音さんがベンチから立ち上がった。ゆりさんの所に行くために。
「玲音さん! なんで、行くんですか? 玲音さんは関係ないのに……なんで……」
「たしかに俺は関係ないな。でもな彩。アイツは俺の琴線に触れたんだよ」
「……ゆりさんですか? ゆりさんだから玲音さんは行くんですか!?」
こんなの聞かなくても分かってる。二人が一緒にいるのを初めて見た時から分かってたことだもん。お互いに見てないだけ。この二人は誰がどう見ても両想いなんだから。
「
「っ! う、うそですよ! 玲音さんはゆりさんだから──」
「違う。たとえこの場にゆりがいて、向こうに彩がいても
──俺は彩を助けに行く」
「……!!」
「ごめんな彩。せっかくのイブなのに……。その袋、彩に買ったやつなんだけど、いらなかったら捨ててくれていい。……またな」
玲音さんは走って公園から出ていった。ゆりさんの所に行くために。でも、玲音さんが言うには理由は別にあるみたい。きっと、今の状況は玲音さんが全く許せないことになってるんだ。
私は玲音さんがくれたプレゼントを見てみた。中には前に一緒にショッピングモールに行った時に私が欲しがってたネックレスだ。
「うっ、うぅ……玲音さん、ズルい……ですよ。……こんなの……、私……プレゼント渡せてないのに……!」
そのネックレスを胸に抱きしめて、涙を流す。止められないし、止める気もない。私は一人公園で涙を流し続けた。
玲音さんが泊まりに来たあの日、
やっと玲音さんが
やっとスタートできたのに
──私の恋は短くて実ることもなかった
この話が分岐点です。
彩ルートになるか、ゆりルートになるか。この日が分岐点なのです。
彩ちゃんごめんね! こんな男が相手で!
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