「牛込ってスタイルいい方だよな」
「うぅっ……なんで……なん、でぇ…」
私の顔を固定してた手は離れたけど、体に沿うようにゆっくりと撫でてる。さっき彼が言ったように、私の体を確かめるためなんだろうね。制服越しだけど、彼の手の触れ方は、私の体になんとも言えない感覚を与えてきた。くすぐったいような、なんかゾクゾクってするような、そんな感覚を。
私は顔をそらして目を瞑った。そうしたところで現実は変わらないし、体を伝う彼の手も離れない。脇あたりから下へと動かして、腰を通り過ぎてそのまま太ももの方に。強く瞑った目からは涙が溢れてて、止まりそうになかった。
「んっ…ふぅっ……あぁっ」
私が顔をそらしてるのもあって、耳裏や首筋を彼の舌が這っていく。鎖骨の方にも舌が這ってきたし、耳を口でふくまれたり、耳穴も舌で舐められた。なんでか分かんないけど、耳をやられると変で恥ずかしい声が出ちゃってた。太ももを撫でた手が、また私の頬を挟んだ。とうとう唇を奪われるんだ。
初めてのキスは好きな人ができたらって、乙女チックだと笑われそうなことを今まで思ってた。でも、そんな願いは他でもない、自分のせいで叶わなくなる…。
─でも
─それは意味がなくて
─私はキスされなかった
「これでわかったろ?」
「はぁはぁ……ぇ?」
「男をそう簡単に信用するなってことを」
「…なん…で……?」
気づいたら私の体は起こされてて、目の前にいる彼はさっきまでとは正反対の、とても優しい目をしてた。私の手の拘束もなくなってて、彼は手が疲れたのか、プランプランって振ってる。
私は彼の行動が全然理解できなくて、思ったことをそのまますぐに言葉に出してた。混乱してて考える余裕がないから。そんな私の言葉に、彼は不思議そうに首を傾げた。
「キスされたかったのか?」
「ち、違う!」
「ならいいじゃねぇか」
「でも…君はさっき、お礼は身体でって…」
「…ヤりたいのか?」
「ふぇ!? …やり…!? しょ、しょにゃ…!」
「顔真っ赤…初だな〜」
「うぅー」
「ん? ……わけわかんないやつ」
「うるさい! …今はこうさせてよ」
熱くなった顔を隠すっていうのもあるけど、泣いてるとこを見られたくもない。…さっきまで見られてたけど、状況も違うし。だから、私は彼の胸に額を当てて、顔を見られないように隠した。彼はそれを拒まずにいてくれて、頭をそっと撫でてくれた。
「…こわかった。本当に襲われるって…そう思ったんだよ?」
「悪かったな。そうしないと牛込が理解しないだろうと思ったんだよ。頑固だし、これなら手っ取り早いし」
「ひどいよ…すっごい舐められたし、フェチなの?」
「んなわけあるか。…ともかく、俺はお前が思ってるような良い人間じゃない。平気で酷いことをする」
「…でも、優しさもあるよ。今みたいに」
「…はぁ、だからそういうとこが駄目なんだっての」
「ほら…また注意してくれた」
「…お前、知り合いの年中発情期共のとこに投げ込むぞ」
「それは嫌だね。うん、これ以上は言わないよ」
彼の目が本気だったから、私はすぐに言及するのをやめた。彼は優しさがないわけじゃない。でも、酷いことだって平気でする人なんだ…。きっと自分を基準に生きてて、自分の物差しで測って物事を決める。でも、気にくわないことはすぐに排除する。優しくて酷い、一見矛盾したような人だね。
私の目から流れてた涙もいつの間にか止まってて、目に溜まってるのを手で拭こうとしたら、彼に手首を握られた。
「目にゴミが入るかもしれないだろ。ハンカチ使えよ」
「…余計なお世話」
「そういう奴にはこうだな」
彼はポケットからハンカチを出して、私の涙を優しく拭ってくれた。彼が舐めたことで濡れてたとこも。…私からも何回も言いたい。君はやっぱり優しい人だって。でも、さっきみたいな会話になるだろうから言わない。代わりに素直にお礼を言おう。
「ありがとう」
「礼なんかいらない。俺はお前を襲ったわけだしな。…そろそろ帰るぞ。誰かさんが泣いたせいで遅くなったし」
「その誰かさんを泣かせたのは誰かな?」
「さぁ? 誰だろうな。きっと性格の歪んだ捻くれ者なんだろうな。関わらない方が良さそうなタイプ」
「…自分のことそこまで言う?」
「事実だからな。否定しても仕方ない。俺は俺を否定しないし、俺が決めた道を進むって決めてんだよ」
彼のその言葉は、ここにはいない誰かに向けて宣言してるように感じた。その人がいったいどういう人なのか分からないけど、少なくとも彼がその人のことを心底嫌ってるのは分かった。
私がそのことに何も反応できないでいると、彼は無言で鞄を取って帰り始めた。私はこのままじゃ置いていかれるって分かって、慌てて彼の後を追いかけた。走って彼に追いついて、横に並んで歩く。
入学式の時とは少しだけ違う距離感だね。私が道路側を歩いてると、腕を引っ張られて強制的に反対側に移動させられた。こういう気遣いは嬉しいけど、やり方が雑だよね。
「…そういや牛込の家はこっち方面なのか?」
「うん。あっちにあるマンションなんだ」
「ならマンションの前までは送ってやるよ。詫びも兼ねてな」
「ありがとう。律儀なんだね」
「どうだかな。……今何時かわかるか?」
「えっとね、22時46分だね。それがどうかしたの?」
横にいる彼の顔を見ると、彼は空を見上げながら何か考えてた。横にいても聞き取れないような独り言を呟いた後、視線を私の方に向けてきた。まさか視線を戻すんじゃなくて、こっちを見てくるとは思ってなくて焦った。だって私は彼を見てたわけで、そのことをまたからかわれそうだったから。
「やっぱ牛込の家行くわ」
「……え…えぇ!? あの、家はさすがに…ちょっと…男の子を家に泊めるのは…私達ってそういう関係じゃないし。そもそもそんなのありえないし」
「なんで俺が泊まりに行くんだよ…」
「え? そういうことじゃないの?」
「脳内ピンクめ」
「むっ、そういうこと言わないでよね」
「なら発言に気をつけろ」
彼は私から視線を外して前を見た。結局なんで家にまで来るって言ってるのかは教えてくれないみたい。その後は特に会話がなかった。でも、不思議と気まずさもなくて、マンションに着くまでの時間も短く思えた。
「このマンションだよ」
「いいとこ住んでんな」
(まじか。俺が住んでるアパートの隣じゃねぇか)
「…今さらだけどさ、君の家はこっちの方だったの?」
「ほんとに今さらだな」
「うっ…」
「方向はこっちだな。
「そうなんだ。…時間も遅いし、君もすぐに帰ったほうがいいんじゃない?」
「門限なんてないから問題ない」
そう言って彼はマンションの自動ドアを通って行く。1個目は鍵がなくても入れて、そのすぐ後にある2個目のドアは鍵がないと通れない。だから彼はそこで立ち止まって、早く開けろって目線で訴えてきた。
「…別にここまで来たら大丈夫なんだけど」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題? 教えてくれないと開けないよ?」
「
「…ズルい」
「褒め言葉だな」
私は聞き出すのを諦めてドアを開けた。その後は私が先を歩いて、後ろから彼がついてきた。部屋の場所は彼も分からないからね。
玄関を開けたら、ちょうどりみが廊下にいて、りみに「ただいま」って言った。いつもならすぐに「おかえり」って言ってくれるんだけど、りみは口をパクパクさせて固まってた。なんでだろうと思って後ろを見たら、彼も中に入ってた。
「なんで!?」
「親御さんに話があるからな」
「お父さんとお母さんに…、じゃ、じゃあお姉ちゃんの彼氏さん!?」
「え"っ…」
「それは違「お父さーんお母さーん! お姉ちゃんが!」話聞けよ」
「りみ勘違いしてるからね!? ちょっと待ってて! りみ止めてくるから!」
急いで靴を脱いでりみの後を追いかけた。けど、りみの行動は「いつものおどおどした感じはどうした」って言いたくなるぐらい早かった。お母さんは嬉しそうに「お赤飯炊いてたらよかったわね♪」なんて言うし、お父さんは「どこの馬の骨だ!」って騒いでる。
そしてりみが玄関に彼がいるって言ったせいで、お父さんは玄関に走って行くし、お母さんはノリノリで後を追いかけた。私は二人を止めれなくて、すぐさま追いかけて玄関に戻った。お父さんは彼を厳しい目で見てて、お母さんは成り行きを見守るって感じ…。
「君がゆりの彼氏か。こんな時間まで連れ回して、何を考えている」
「…お前誤解を解いてくるって言ってなかった?」
「だってみんな早いんだもん…」
「あっそ。…まず誤解を解くことから始めましょうか」
「誤解?」
「俺は娘さんとは付き合ってませんよ」
「違うのか」
「当然でしょう。お互いそういう意識はありませんからね。で、時間が遅くなったことも話しますよ」
「…ふむ」
お母さんとりみは、面白くないなんて小声で呟いてたけど、私としては付き合ってるってされる方が面白くないよ。父さんは少しホッとしてるみたいだけど、時間が遅くなったことはまた別問題だから、切り替えてすぐにまた厳しい目になった。
「おたくの娘さん。意識が低すぎますよ。だから俺みたいな男にすぐ
「…は? …君は今なんと言った?」
「だから、ちょっと優しくされたからって、会ってすぐの男を信用するのはよくないって言ってるんですよ。簡単でしたよ? 2週間前に迷子になってるのを助けて、お礼をしたいっていうのをわざと放置した。今日たまたま会ったら、まだお礼したいなんて言うから、人気のない公園に連れ込んで
「な、何言ってんの君!」
「ゆりはこっちに来なさい!」
私が彼の嘘を止めようと思ったらお母さんに腕を引っ張られてリビングの方に連れて行かれた。りみもお母さんに協力したから抵抗してもリビングまで力づくで移動させられた。
──バキッ! ドォォン!!
お父さんが彼を本気で殴ったのが見えた。彼は避けもしなかったし、防ごうともしなかった。殴り飛ばされて、すぐ後ろにある扉に頭を強く打ってた。お父さんがすぐに彼を追い出したけど、扉が閉まる寸前に彼の口角が上がったのが見えた。
─まるで
「ゆり…酷い目に合ってたんだな。大丈夫か」
「…大丈夫じゃないよ」
「…そうよね。今日はゆっくりしなさい。ちょうど週末だし、どこか出かけるのも「違う」ゆり?」
「
「ゆ、ゆり?」
「彼は何もしてない! 彼は何も悪くない!」
「それは彼に騙されてるのよ!」
お母さんのその言葉に、私の中で何かが切れた気がした。今までそんなこと今までなかったら、どうしたらいいのかわからなくて、感情に突き動かされる。
「ふざけないでよ!!」
「なにを…」
「なんでお母さん達が彼を
「っ!!」
「なんで娘の私の言うことより今日会ったばっかの彼の言うことを信じるの!? 私のことそんな信じられないの!?」
「ち、違うのよ」
「違わないでしょ!? 違うって言うならなんで私が彼を止めようとした時に、私を止めたの!? なんでお父さんは彼を殴ったの!」
「ゆり待て! ゆり!」
私は家を飛び出した。
彼に謝らないといけないから。
彼が殴られる理由なんてどこにもないんだから。
主人公の名前は決まってるんですよ?ただまだ出してないだけです。
またまた評価を入れてくださった方が!✧\( °∀° )/✧
お名前は伏せさせていただきますが、ありがとうございます!!
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