レオくんに電話を切られたから、神木くんはため息をついて携帯を横に壊れない程度にほっぽり投げた。私はそれをどこか他所事のように呆然と見てる。
「通話中に切るんだな」
「んあっ、やぁっ」
神木くんに与えられる刺激に耐えられなくて声が漏れる。耳が弱点だってこともバレてて、さっきから喋るときはわざと耳元で囁くようにされてる。息を吹きかけられたり、耳をなめられたりもしてる。それから逃れようとしてもせいぜい身をよじる程度。力も入らないから。
「萩近のやつ、場所言ってないのに来れんのかな。ま、来れなかったらゆりの
「ぁ……んんっ」
──なんでこんなことになってるんだろう
──レオくんの注意を私が聞かなかったからかな
ーーーーー
神木くんとデートをして、神木くんが予約してくれてたお店で夕食も食べた。クリスマスツリーとか、イルミネーションで綺麗になってる所があるからそこに行こうって話になった。そこはもちろん人が多いんだけど、人の密集にはバンド活動で慣れてるからそんなに気にならなかった。
「綺麗だね」
「ゆりの方が綺麗だよ」
「あはは、ありがとう」
「あ、そうだ。ゆりにクリスマスプレゼントがあるんだった」
そう言って彼が取り出したのは、紙で丁寧に包装された箱。中に何が入ってるのか気になって、人が密集してるここから離れて開けることにした。中に入ってたのはチョコレートで、神木くんが苦笑しながら説明してくれた。
「ゆりがチョコレート好きっていうのもあるんだけど、バレンタインだと貰う側だし、ホワイトデーのお返しでチョコレートは変だろ? だから今チョコレートにしたんだよ」
「なるほどね〜。食べていい?」
「どうぞどうぞ。一応味見してるから、不味くはないはずだよ。……ゆりの口に合うかは分からないけど」
「あむっ……美味しいよ!」
「ならよかった」
料理作りもできるって聞いてたけど、お菓子も作れるんだね。これは知らなかったなー。私はもう一つだけ食べて、残りはカバンの中にしまった。美味しいから家でも食べたい。
異変が起きたのは、歩き始めてすぐのことだった。視界がぼやけ始めて意識が朦朧とし始める。なんだか頭がぼうっとして考えも纏まらない。それに、外は寒いはずなのに今は何故か熱い。
「ゆりどうした? 大丈夫か?」
「だい、じょうぶ……ありがとう……心配してくれて」
「……近くに休めるとこあるから、そこでちょっと休もう。まだ遅い時間でもないし、休んでから帰っても心配されないだろ。むしろその状態で帰ったほうが心配されるだろうし」
「そう……だね」
自分じゃ禄に考えられない私は、神木くんの提案にそのまま従った。体を支えてもらいながらどこかの建物に入って、個室へと入っていく。着ていたコートを脱がしてもらう。
そこからが事の始まりだった。体を突き飛ばされた私は自分じゃ全然体を支えられないからそのまま部屋にあるベッドに飛び込む。
(なんでベッドが……あれ? もしか、して……ここって……!)
気づいた時には遅かった。私は上をシャツ一枚以外脱がされて、腕を後ろで縛られる。一切抵抗できない状態になって、神木くんに背を預けるように座らされる。神木くんは私を後ろから抱きしめるような状態で、その手が服の中に伸ばされて下着のホック外されて、服とまとめて鎖骨辺りまで捲し上げられる。肌が外気に晒されて寒い。
「ゆりが全然させてくれないし、キスもさせてくれないからさ。だからゆりからせがむようにさせるために今日仕上げてあげるよ」
「ひゃっ!」
「ん? あぁー、
耳を舐められながら、後ろから伸ばされる手に胸を揉まれる。途中で何か思いついたように、神木くんは私のポケットから携帯を取り出した。神木くんは私のパスワードを見て覚えたらしくて、操作されてトークアプリを開かれる。それを呆然と見ていると、相手がレオくんだと気づいた。私が止める前に電話をかけられる。ビデオ通話だと知ったときにはすぐに叫んだけど、レオくんに見られちゃった。
ーーーーー
──レオくんは気づいてたのに
今日も私に忠告してくれたのに、ついカッとなって喧嘩して。結局私の方が何もわかってなかったんだ。知った気になってただけで、私が見えていたのは表面だけ。上っ面だけ。全く本性を見ることができてなかった。
こんなの、レオくんも呆れて当然だよね。私に怒って当たり前で。
私は見捨てられても当たり前なんだ。
「ゆりの心の準備を待つのでもよかったんだけどね。ゆりっていつまで経っても萩近のことが最優先だからさ。彼氏は俺なのに。だから、俺の方から塗り替えないとなって」
身体を弄られるのを耐えながらその言葉が脳裏に焼き付く。たしかに私はいつもレオくんのことを優先してた。けど、その時には何も思ってなかった。気づいてなかった。今それを言われてやっと気づいた。私は神木くんを見てなかったって。
──本当に、最低な女だ
「ゆりが気づいてないようだから教えてあげるよ。ゆりは萩近のことが好きなんだよ。俺と出会う前から。いつから出会って、いつそうなったのかは知らないが、ゆりはずっと萩近のことが好きなのさ」
「わたしが……れおくんのこと……?」
「だからこそ奪ってやるよ。ゆりが俺無しじゃ生きられないようにしてやる。今日でな!」
相変わらず脳が働かない。抵抗する力も出ない。
でも、もうそんなの気づいたって遅いよね。いくら私だってこれから何をされるかわかる。
助けなんて来ないし。私は何もかも遅すぎる。神木くんのことを識るにも遅すぎて、自分の気持ちを理解するのも遅すぎた。レオくんの気遣いにも忠告にも気づくのが遅すぎた。
今さらレオくんのことを想うなんて許されない。私が
──でも、レオくんに助けてもらいたいって思ってしまう
──私を救ってほしいって
叶わない願いを望んでしまう。
『お客様ー。ルームサービスです』
「……チッ。今からってところに。てかルームサービスなんて頼んだ覚えないんだがな」
神木くんが私から離れてドアの方に行く。扉越しで会話できるようになってるみたいだし、なんかポストみたいなのもあのドアについてたかな。今そんなの関係ないはずなのに、そんなどうでもいいことを考えてる。支えがなくなったから後ろに倒れて天井を見てるけど、動く気力がない。はだけた服装も正さない。助けなんて来ないから。
──助けて……レオくん……
『当店はクリスマス限定サプライズルームサービスを実施しておりますので、こちらを入れておきますね。どうぞお使いください。あ、無料ですので料金に変更はございませんよ』
「……まぁ、タダならもらっとくか。ありがとう、次の部屋にでも行ってくれ」
『かしこまりました。私はこれで失礼しますね』
「お疲れさま。さて、続きといこうか、ゆり──って、何勝手にドアあけでぇっ!?」
「店の人ならちゃんとフロントに戻っていったさ。俺は殴り込みに来たけどな」
望んでた人が来た。聞きたい人の声が聞こえた。体を起こしてそっちに目を向けると、殴られて床に倒れてる神木くんと、走ってきたのか暑そうに汗をかいてるレオくんがいた。
「レオ……くん……」
「……なんて格好してんだゆり。露出癖があるとは思ってなかったぞ」
「へ? ぁ、〜〜〜〜!」
さっきまでどうでもいいって思ってたのに、レオくんに見られたって思った途端急に恥ずかしくなった。慌てて服装を正してると、神木くんが目を鋭くさせてレオくんを睨みながら立ち上がった。
その手に小型のナイフを持って。
〜〜〜〜〜
「萩近てめぇ、なんでここがわかった。しかもこの短時間でよ!」
「運が良かっただけだな。さっきのルームサービスの人は受付の人。そしてその受付の人はバイトを掛け持ちしてる大学生の先輩。ゆりのことも知ってるから、ゆりの様子がおかしいことにも気づいて連絡くれてたってわけだ。仕事中だからか電話じゃなかったけどな」
「なんだよそれ……!」
知らんがな。お前がたまたまそういう場所を選んだだけだろうに。とことん運が無かったというだけのことだ。哀れな奴だよ。同情なんてする気もないけどな。
「カッコよく駆けつけやがって……。そんなにゆりが大事なら手元に置いときゃいいものをよぉ! 他の男に叶わない恋させて楽しんでたってのか、あぁ!?」
「いや別に俺はゆりのこと好きじゃないしな。はっきり言ってやろう。お前が電話をしてこなければ放ってた。後からこのことを知って殴り込みに行く、なんてことはしない。お前が選んだ男だろって言って終わりだ。嫌なら別れろよってな」
「ならなんでだ!」
「お前が引き金を引いた。それだけだ。俺はこういうクズなのを見たら許せないんだよ。あのクソッタレと同じことをする奴がな。ゆりが泣いてなかったら見せられても来なかった。だがゆりは泣いてた。つまり同意の上じゃない。だからお前を潰す」
「ふざけるなよ……余裕ぶっこきやがって! 結局お前もゆりを最優先で考えてやがるだけだろ!」
人の話聞かないのな。それは前会った時もだったか。ほんと、器の小さい男だ。底が浅すぎる。いかにも恋愛してましたよ感出しやがって。初めから下心しかなかったくせによ。それもなければますます俺は放置していたというのに。あー、面倒だ。クソッタレと同類の奴とこれ以上会話をする気もねぇ。虫の居所が悪いわけだしな。
「お前さえいなければ……! 死ね萩近!」
「ナイフ持ってるぐらいで強気になるなよ。弱さが丸見えだぞ?」
いかにも初心者だ。扱いに慣れてない。武器があれば強くなるなんてご都合主義などないのに。
神木は真っ直ぐと小型ナイフを俺に突き立てて走ってくる。俺はそれを避けることもせず、わざと左手を小型ナイフへと食い込ませる。激痛で神経が焼ききれそうになるが、それを意地で耐えてナイフを食い止める。流れる血に動揺する神木の足を踏みつけて逃げられないようにし、その怯える顔を睨みつける。
「どうしたよ。血が流れる程度のことで慌てやがって。これぐらい覚悟してたんじゃないのか? 自分の手で人を殺すってのは、これ以上の血を流させないといけないんだぜ?」
「ぁ、ぁぁ……」
「少年院に入らずに済んだらいいな。カス」
右手を握りしめて顔面に叩き込む。足を踏んでいるから大きく仰け反るだけになり、俺は胸ぐらを掴んでもう一度引き寄せる。この程度で怒りが収まるわけがない。八つ当たり込みではあるが、こうなる覚悟もなかったなどさらに俺を苛つかせるだけだ。
踏んでいた足をどけ、溝うちに膝蹴りを入れる。今度は頭の横を思いっきり拳で振り抜いて壁に激突させる。それで気を失ったようだが、救急車を呼んでやる気はない。どうせ先輩が呼んでるからな。『殺人犯になるなよ』って言われたし、通報はしてるんだろうな。
「レ、レオくん……血が……!」
「こんなのそのうち止まるだろ。それより帰るぞ」
「待って! せめて今止血しなきゃ!」
服装を直したゆりが駆けつけてきてハンカチで俺の左手を包む。ナイフは証拠品としてその辺に転がしといたけど、どうでもいいか。なるようになるだろ。それよりもだ。
「ゆり」
「ごめん。後でいっぱい怒られるから、今だけは君の側にいることを許してほしい。せめて止血できるまでは……」
「……好きにしろ」
フロントに下りたら先輩が救急箱を用意してくれてた。ゆりがそれを使って俺の応急処置をたどたどしく行い。手に大げさなぐらいに包帯を巻かれた俺は、左手をポケットに入れながらゆりと家に帰った。足取りが覚束ないゆりを支えながら、だけどな。
ちなみに家に帰ったら速攻で病院送りにされました。警察の事情聴取にもやっぱり巻き添えくらったね。
そして──
──この日を境に俺とゆりの間に大きな溝ができた
描写は抑えれた……はず!
ちなみにここでもまた分岐点なんですよ。
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