同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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19話

 

 先週の一件をきっかけに、俺とゆりの間に溝ができた。具体的にはゆりが距離を取るようになり、俺はゆりに対して冷めた態度を取るようになった。

 そこまであからさまにしてるわけでもないが、りみ曰く『分かりやすい』らしい。俺のゆりに対する態度は元からだろうと思ったが、そうでもないのだとか。ぶっきらぼうな優しさが消えたと言われた。そう言われるとたしかに変わったのだなと納得するしかない。

 

 表面的には関係が壊れているってわけでもない。俺達の会話が減ったぐらいで、特にゆりの方から話しかけてくることがなくなった。俺は元々必要な時しか話しかけに行かないしな。

 そんな状態ではあるが、初詣には一緒に行くらしい。今年はグリグリメンバーで行こうと去年の時点から決めていたのだとか。そして例に漏れずそこに俺も組み込まれており、りみも一緒である。俺が把握しきってないだけで、りみはわりとグリグリと交流があるんだとか。

 

 

「レオ兄ちゃん。そろそろ時間だよ」

 

「わかった。すぐに出る」

 

「お姉ちゃんももう待ってるからね」

 

「そんな時間かからないって」

 

 

 振り袖に身を包んだりみが部屋まで呼びに来てくれて、俺は厚着をし、手荷物を確認する。最低限のものを持っておけばいいし、忘れ物もない。りみに続いて家を出て、外で待っていたゆりと合流する。ゆりは去年と同じ振り袖。今年は自分で着られたらしい。

 

 

「悪い、待たせた」

 

「ううん。そんなに待ってないよ。それじゃあ行こっか」

 

「そうだな」

 

 

 ゆりと交わす短い会話。今までならこれで終わることもなかったし、言葉ももう少しあっただろう。だが、今ではこの程度の会話しかない。最低限の会話だけ。りみが何か言いたそうにしているが、生憎と俺達はこんなもんなんだ。俺はゆりの隣にいるようにりみにお願いして、後ろを歩く。

 あの二人は姉妹なのだから、これが本来の形だ。俺が混ざるなどおかしな話なのだ。俺はこうして少し離れた場所にいる。そうすれば元通りだろ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 私とレオくんの間が広がった。私の方から距離をとっているんだけど、レオくんの方にも変化があった。むしろそれが当然だと思う。ずっとレオくんに迷惑をかけて、あんなことに巻き込んでしまったのだから。

 レオくんの左手も怪我させてしまって、レオくんはほとんど右手だけで生活してる。傷がそう簡単に塞がるわけがないから。左手に負担をかけると痛みが走ってしまうから。だからレオくんはバイトもできない。つまり、レオくんの代わりに誰かが働くことになる。私はそこにも迷惑をかけてしまってるんだ。

 

 ──私が何もわかっていなかったから

 

 

「お姉ちゃん。七菜ちゃんがいるよ」

 

「え、あ、ほんとだ。七菜、明けましておめでとう。相変わらず早いね」

 

「明けましておめでとう。ゆり達も10分前でしょ。あんまり変わらないわよ」

 

「リィとひなは?」

 

「あと5分くらいしたら来るんじゃないかしら」

 

 

 たしかにあの二人はいつもだいたい5分前に来る。それでも来なかった時は、ひながまた何かしてリィがその対応に追われてる時だね。今日はそうならなかったみたいで、リィがひなを引っ張りながら来た。この光景も慣れてくると平常運転だなって思ったり。

 

 

「みんなあけおめー! イェーイ!」

 

「あけおめー!」

 

「二人ともテンション高いね〜」

 

「振り袖なんだから控えめにしなさい。崩れるわよ」

 

「はーい」

 

「七菜ちゃんお母さんみたいだね」

 

「不本意ながらそういう役回りね」

 

 

 そんなこと言ってるけど、本当に嫌ってわけじゃない。こういうやり取りが私達にとっての日常だから。それを変わらずにできることがみんな楽しくて嬉しいんだ。今年も私達は私達でいられるから。

 全員が集まったところで神社へと歩いていく。初詣ってこともあって、地元の人たちがいっぱい集まってる。他の街から人が集まるほど有名で大きい神社じゃないけど、何かお祈りに来るなら絶対にこの神社。地元の人たちにとっては当たり前で大切な場所。

 

 

「去年はゆりちゃんが風邪引いちゃったからなー」

 

「ごめんってばー」

 

「けどゆりちゃんにとっては役得だったんでしょ?」

 

「なんのことかな?」

 

「だってずっと萩ぽんといたって言ってたじゃん」

 

「新年からお熱かったんですねー。お二人さん!」

 

「あ、あはは。そういうのじゃなかったんだけどね」

 

 

 今そういう話をされたくない。今は彼との話をどういう話であれ振らないでほしい。私が過敏なのかもしれない。考えすぎて、気にし過ぎなのかもしれない。だけど、私は今はそういう話をしたくない。

 そんな暗い感情を隠して、笑顔を作って言葉を返す。私から話せることなんてほとんどないし、あの時だって彼に迷惑をかけたんだ。我儘なことして、風邪引いて、彼に怒られて、でもやっぱりまた我儘言っちゃって。

 

 たくさん困らせて、愛想を尽かされてもおかしくなかった。関係を切られてもおかしくなかった。だけど彼は応えてくれた。だから私はずっと甘えちゃうんだろうね。気づいてなかった好意に従って甘えてたんだ。

 

 

「萩近はどうだったよ。役得だったんじゃない?」

 

「……別に」

 

「おろ? そう?」

 

「それよか前見て歩け。人も増えたし、余所見してるとぶつかるぞ」

 

「それもそうだねー」

 

 

 レオくんの言ったとおり、人が増えてきた。神社に近づいてるんだからそれも当然なんだけどね。ひなや他のメンバーと話しているのを見る限り、彼は私と同じように溝ができてるのを隠してるみたい。いや、彼の場合隠そうとしてるんじゃなくて、相手に合わせて完全に切り替えてる。だから彼からボロが出ることはない。出るとしたら私。それかりみだね。

 どんどん人も増えてるし、はぐれないように気をつけようねって話になったんだけど、早々にはぐれた。びっくりするぐらい早かった。横並びに歩くのは迷惑だからって縦になってたんだけど、たぶんその前後で、つまりニグループに別れたっぽい。

 

 

「もの凄い早さではぐれたわね」

 

「そうだね……。せめて半々だといいんだけど」

 

「ひなちゃん達大丈夫かな?」

 

「なんだかんだで全員しっかりしてるから問題ないでしょ。それより私達は、これ以上はぐれないように三人で固まって本殿を目指しましょう」

 

「うん。目的地が一緒なんだし、先に着いたら分かりやすい場所で待ってたらいいもんね」

 

 

 こっちは私と七菜とりみの三人。だから、たぶん向こうはレオくんとリィとひな。そこからさらに分裂してたら怖いけど、七菜が言った通りみんなしっかりしてるから大丈夫なはず。レオくんもここまで来て、帰るなんてことはしないだろうしね。

 三人で話すことは、バンドのことや学校のこと。りみが春から私達の後輩になるって話もする。また一緒に学校に行けたりするのかな。毎日ってわけじゃないだろうけども。りみにだってきっと高校でもお友達が増える。外部生もいるからきっと新鮮さを味わえるよ。

 私達グリグリは来年ももちろん活動する。ただ、受験を控えているからいつまで活動するのかはわからない。卒業までは必ず活動を続けるし、できれば大学に行ってからも一緒に活動したい。でも、どうなるかはわからない。全員が同じ大学に行くとも限らないから。

 

 

「お姉ちゃんと七菜ちゃんはどの大学にするか考えてるの?」

 

「私はまだかなー。オープンキャンパスとか行ってみようかと思ってるけど、七菜は?」

 

「候補は何個か絞っているわよ。その中のどれにするかは、私もオープンキャンパスで決めようかなって」

 

「七菜ちゃん凄いね。そこまで決めてるんだ」

 

「そうでもないわよ。早い人は去年の夏休みに動いてるし、決めてる人だっている」

 

 

 そう言って七菜は一度後方に目線を向けた。釣られて私とりみも後ろを見たけど、見えるのは他人ばっかり。七菜がいったい誰のことを言ってるかは分からない。はぐれた三人の誰かだろうし、要所要所を的確に抑えてる人で言えばひなだよね。

 ……違うね。私は目をそらして気づかないようにしてるだけ。七菜がいったい誰のことを言ってるかなんて本当はわかってる。(レオくん)のことだ。私は知らなかったけど、七菜は知ってるんだね。もしかしたら、私以外が知ってるのかもしれない。

 

 

「七菜──」

 

「ゆり。その事を知りたかったら本人から聞いてちょうだい。私だってそうしたんだから」

 

「……わかった」

 

「? なんのこと?」

 

「萩近くんがどういう進路を歩むのかについてよ。この話はひとまず置いといて、そろそろ順番が来るわよ」

 

 

 タイミングが良いのか悪いのか、七菜に追及するタイミングがちょうど無くなった。私達は巾着袋から小銭入れを取り出して、賽銭箱に入れるお金の準備をする。混んでるからすぐに終わらせられるように。

 順番が来たら三人でお賽銭箱にお金を入れて、一緒に鈴緒を持って鳴らす。二礼二拍一礼をして、静かに願い事を心の中で言う。こういうのって口に出さないほうがいいんだっけな。だから、お互いにも何をお願いしたかも言わない。気になるのは気になるんだけどね。

 きっと他の三人もいずれこの場所に来るはず。だから私達は邪魔にならない程度に、だけど見つかりやすい場所へと移動する。三人はどこかなって列を見ていると、七菜に話を振られた。しかも重たいやつ。

 

 

「それで、ゆりは萩近くんと何があったのかしら?」

 

「へ? 何って……大したこともないけど、どうしたの?」

 

「そんな分かりやすい嘘をつかれても、誰も信じないわよ。というか分かりやす過ぎ。露骨にお互い離れてるし、顔も合わさないし」

 

「えぇ……」

 

 

 そんなに分かりやすいのかな。……でも、言われてみればたしかにそうなのかもしれない。みんなによくレオくんの隣にいるって言われるし、何かある度にレオくんの方を見てたわけだし。だから、今日みたいになってると簡単に分かっちゃうみたい。

 あまり話したい話じゃないし、聞いてて気持ちいい話なんかでもない。だから話させないでほしかったんだけど、七菜は許してくれなかった。

 

 

「今回のはどうやら今までの喧嘩とか拗れとも違うようだし。最悪(・・)なことにならないようにしないといけない。だから教えて?」

 

「……でも……これは私の問題で……」

 

「ゆりはそうやって抱え込む。今までは萩近くんがなんとかしてくれてたし、ゆりも彼にしか吐き出さなかった。でも、今回はそうできないんでしょ? 私達はそんなに頼りない?」

 

「そんなことないよ! 絶対にそんなことない……! でも……」

 

「ゆり! お願いだから頼って! 友達の力になりたいの!」

 

「っ!」

 

「巻き込むことで迷惑をかける? そんなの気にしないでよ! 馬鹿にしないで! 迷惑なんて思うわけがない! それが友達でしょ?」

 

 

 七菜の叫びに、私は負けた。いつも落ち着いてる七菜が、こんなに熱くなって私のためを想ってくれてる。それが嬉しくて、そんなに想ってくれてるのに私は拒もうとして。

 私は最低だ。友達の想いを受け取ろうとしないなんて。何度も何度も間違えて、全然学ばなくて……。でも、私は変わりたいから。もっと周りに目を向けられるようになって、気づかない間に迷惑をかけるなんてことにならないように。

 これはその第一歩なのかもしれない。弱さを曝け出して、抱えてることも吐き出して。

 

 

「七菜……あのね──」

 

 

 私は話した。内容が内容だし、周りには知らない人がたくさんいる。だから全部を話せるわけじゃない。具体的に話すことはできなくて、でも掻い摘んで大まかなことは七菜に全部話した。横にいるりみも当然全部を聞くことになる。りみには特に知られたくなかったけど、それももういいの。見栄を張るだけのお姉ちゃんは今日でやめなきゃ。

 話してるうち、だんだんと気持ちが沈んでくる。沈んで、乱れて、荒れて。気づいたら涙も零れ落ちてる。だって、話しててわかるんだもん。嫌でも意識が強くなる。

 

 ──私はレオくんのことが好きなんだって

 

 どうしようもないぐらいに好きで、恋しくて、離れたくない。レオくんの側にいたい。私は今まで気づいてなかっただけで、ずっとずっとレオくんに恋してたんだ。

 

 ──他の誰でもなくて、萩近玲音くんが好き

 

 

「でも……だけど、もう遅くて……。私のせいでレオくんは怪我して……私はレオくんに迷惑をかけ過ぎて……! もうだめなの……。私にレオくんを好きでいる資格なんて──」

 

「そんなことないでしょう?」

 

「なな……?」

 

「たとえ何があっても、ゆりがどれだけそうしようとしても、その気持ちに嘘をついちゃ駄目。資格なんていらないじゃない。ゆりが好きでいる。それだけでいいの。ゆりは恋していいの」

 

「いい、の? ……ほんとうに?」

 

「もちろん。私だって応援してあげるから」

 

「お姉ちゃん。私もお姉ちゃんの力になるから、だからレオ兄ちゃんから離れるのはもうやめよ? 私、二人が一緒にいるの見るの好きだよ」

 

 

 七菜にそっと抱きしめられて、横からりみに頬を撫でられる。

 私は、恋していいのかもしれない。二人にこう言われても、まだ割り切れるわけじゃない。でも、逃げるのはやめよう。怖くても、気まずくても向き合おう。

 ひなに離れた所から声を張って呼ばれる。顔を上げてみればそっちにはやっぱり三人揃ってた。レオくんが不機嫌そうにしてるのは、二人のせいなのかな。何を話したのかは分からないし、聞いても教えてくれないと思う。だから、私は私のやり方でレオくんに歩みよろう。レオくんに私を見てもらうために。

 

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
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