同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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 短めです。というか三年生編はわりと短めばっかかもです。


2話

 

 バイトから上がり、彩の家に泊まりに行くために着替えを取りに帰る。22時過ぎに家に着いたんだが、ゆりはまだ帰ってきてないらしい。次のライブが近いから練習してるんだろうが、この時間ともなれば補導されてもおかしくない。その辺りのことは鰐部が弁えていると思うんだがな。

 

 

「あれ? レオ兄ちゃんもどこか行くの?」

 

「ちょっと友達の家に泊まりに行くことになってな。……も? もってことはゆりもなのか?」

 

「うん。晩御飯食べ終わったら七ちゃんの家に泊まりに行ったよ。ライブのことでみんなで集まるんだって」

 

「なるほど」

 

 

 通話とかでもできるんだろうが、たしかに顔を合わせての方がやりやすいか。時期的に最終確認というか、最後の打ち合わせになるんだろうな。練習を詰め込むことになるだろうし。俺は一応サポーターという立場だが、こういうの参加したことないな。断るからなんだけども。

 着替えを鞄に入れて、忘れ物がないかを確認してから家を出る。俺とゆりの両方がいなくなるからか、りみがだいぶしょんぼりしてた。今度りみに予定を合わせることで手を打ってもらおう。ゆりに。それに、今度修学旅行でまた俺とゆりは家を空けることになるわけだしな。日程の一部が被ってるから。

 

 

「そういや前もこんな時間に彩の家に行ったんだっけな。……非常識にも程があるよな」

 

 

 前回は彩の父親がいなかったし、母親のほうがわりと受け入れてくれたからまだ良かったものの。二連続でそんなことするとさすがに申し訳ないんだよな。行くことになってしまったし、彩から『親の許可は取れました!』って連絡入ってるし。あれってたぶん母親の(・・・)だろうな。俺が仕向けたこととはいえ、二年前の牛込家での一件があるから、わりと父親相手は気まずい。

 彩の家に近づくにつれてだんだんと気が進まなくなるが、ドタキャンするなんて論外だ。腹を括るしかない。そうして見えてきた彩の家なんだが、家の前に人がいる。よく知っている子だ。特徴的なふわふわしたピンクの髪の子。本番に弱くてよくトチる。誰かしら見守っていないと不安になる子。そして、誰よりも平凡という言葉が適してて、誰よりもひたむきに努力する子。

 

 

「わざわざこんなとこで待たなくてもよかったのに」

 

「えへへ、なんだか落ち着かなくて」

 

 

 頬を掻きながらはにかむ彩の髪を雑に撫でる。本人は髪が乱れるって文句を言いつつ、その頬は緩みまくってた。楽しそうにしてるからこれでもいいんだろうし、それに不意打ちをくらった仕返しもできたからこれでいいだろう。誤魔化しって言った方が適切だろうけども。

 彩が俺の手を止めるまでそれを続け、それから彩の家へと入る。人の家にお邪魔してるのに何も親に言わないわけにもいかず、俺は彩の後ろについて行く形でリビングへと向かった。そこには前にもあった母親と初対面の父親がいて、当然のように腕組みをしていた。これはまず父親と話すとこから始まるやつだな。母親に促されて父親の正面に座り、俺の隣に彩が座る。

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません」

 

「彩の我侭なんだろう? むしろよく付き合ってくれたね」

 

「わりと普段助けられてるので、少しでも応えようと思っていまして」

 

「……なるほど。彩や妻の言った通りの人物のようだ」

 

 

 なんか納得されたんだが、この二人いったい何を話したんだろうな。いや、彩の方はだいたい予想がつく。彩ってその日にあったことをわりと事細かに話すタイプだから。その積み重ねでたぶんイメージはすでにあったんだろう。

 だがお母様や。あなたいったい何を話したんですかね。全く読めないから怖いんですけど。

 

 横を見ると彩は嬉しそうに笑ってるし、斜め前に視線を変えると母親がピースしながら笑ってるし。むしろそれが怖さを助長させているんですけどね。気になるけど聞きたくないってこういうことなのか。でも、少なくとも父親に悪印象を抱かれてはいないらしい。そこは一安心だな。

 

 

「だが彩はやらん!」

 

「あらあら。お父さん必死ね〜」

 

「そりゃもちろん彩には幸せになってもらいたいさ。娘の幸せを望まない親などいないからな。彩に誰も言い寄ってこなかったのには『見る目がない男子め!』ぐらいに思っていたけども!」

 

「女子校ですからむしろ当然でしょう」

 

「バイトを始めると聞いて、良からぬ虫が言い寄ったときには叩き潰してくれる! と意気込んでみれば、君のような子と仲がいいときた。そこに文句はない。会ってみて納得したさ。だがしかし! 彩に彼氏はまだ早い! しかも彩はアイドルを目指しているんだ! ……俺はこの矛盾した気持ちをどうすればいいんだ?」

 

「父親ではない俺には分かりかねます」

 

 

 分かるわけがない。愛娘の将来を危惧する父親の気持ちなんて。俺の父親はただのクズだしな。好き勝手に奪い去るだけの男。だからこそ俺には父親の気持ちなどさっぱり分からない。

 ただ、共感できることもある。彩に幸せになってほしい。それはたしかに俺だって思う。俺にはそれができないんだけどな。彩のためにしてやれることなんて大してない。彩が一番望むものを俺は与えてやれないから。

 

 

「アイドルは恋愛禁止。その固定観念が無くなれば芸能人たちはもっと生きやすい世界を生きられるのだろうが、残念ながらその風潮はなかなか変わらない。『誰のものではない』という点にも価値があるらしいからな。……本当のファンとはそういうものなのか? 本人の幸せを望むのがファンではないかね?」

 

「俺もそう思いますよ。ただ、厄介なファンというのは『誰のものではない』を『みんなのもの』と捉えてるとは思えないですね。全員がそうではないと分かっていますが、『誰のものではない』=『自分のもの』と無意識下に思っているのでしょう。だからこそ交際や結婚に過敏に反応するんだと思いますよ」

 

「なるほど。……君はどうなんだい?」

 

「……俺は彩のことを応援してますが……自分のものとは思いませんね」

 

「……そうか」

 

 

 どの口が言っているんだろうな。彩を独占していた人間が。彩の心を傷つけている人間が。なんでこんなことを言っているんだろうな。彩を応援しているのは本音だ。たしかに本音なんだ。ただ、後半は自分に言い聞かせてるだけのようにしか聞こえない。

 話はこれで終わりとなり、俺は彩に連れられて彩の部屋へと行く。前に来た時と大して変化もない、彩らしく可愛らしい部屋だ。部屋に着いた途端俺は彩に腕を強く引っ張られ、ベッドに横並びで座らさせられる。

 

 

「彩?」

 

「……玲音さんは……やっぱり応えてくれませんか?」

 

「……そうだな。俺は彩に応えられない。これだけは……。彩のことが嫌いってわけじゃないんだがな……」

 

「分かってます。分かってる……つもりです……」

 

 

 無言になったところで、重ねられてる手が震えてることに気づいた。俺はその手を黙って握る。きっとこれが駄目なんだろうな。こうして彩に応えてしまうから。だが、俺はこれを綺麗さっぱりやめることなんてできない。彩には笑っていてほしいから。泣いてほしくないから。最低な行為だとは自覚してる。気持ちを知っていて、それには応えずに優しくするのだから。

 

 

「玲音さん。……これから、あんまりバイト入れないかもです」

 

「……今年が最後のチャンスだもんな」

 

「はい……。もう今年しかないから、だから……」

 

「こっちのことは気にせずに集中したらいい。彩の夢を今年で掴みとれ」

 

 

 彩の目を見て話す。申し訳なさそうにする彩に気にしなくていいと伝えるために。彩がそうするのは、俺のことを気にかけてくれているから。去年のことがあるからなんだ。だが、それはもう大丈夫だ。彩にこれ以上重荷を背負わせるわけにはいかない。自分の足で立てるさ。

 

 

「アイドルに、なれたら……。もっと会えなくなりますよね。……バレたら波風立てちゃって、事務所にも玲音さんにも迷惑かけちゃって」

 

「それはどうだろうな?」

 

「ぇ……」

 

「だって俺と彩は同じバイトの人間だろ? それで否定しきれるわけじゃないけど、会っていてもおかしくはない人物だ。こうして二人きりってのは難しいかもしれないがな」

 

 

 彩が望んでいるのはその難しいことなんだろう。だが、それが一番いけないと彩だって分かってる。俺としては事務所の方なんて知ったことではないのだが、彩にバッシングがいくのは困る。俺の存在で彩の夢を壊しちゃいけないから。

 こっちに持たれてくる彩を受け止め、彩の髪を今度はそっと撫でる。改めてこれからのことを考えたら、今日が最後だろうから。最後だからって甘やかしていいのかは分からないが。

 

 

「何かあったら遠慮なく電話をしてきたらいい。二人で会うなら、俺達が一緒にいてもおかしくない場所で落ち合えばいい。俺にできることは少ないが、それでもできるだけ彩の力になるから」

 

「……玲音さんは、やっぱりズルい人です。私、諦められなくなるじゃないですか」

 

「……ごめん」

 

「えへへ。ちょっと揶揄っちゃいましたね。でも、私が困った時はお願いしますね? 玲音さんから元気もらうのが私には一番効果があるんですから」

 

 

 この子は俺にズルいって言ってくるけど、ブーメランな気がするんだよな。たしかに諦められないって言ってるけどさ。遠慮なくこっち落とそうとしてるよね。落とされたら落とされたで俺は彩に向き合えないことで後悔するんだけども。ゆりもゆりだが、彩も彩で俺からしたら眩しすぎるんだよ。

 笑顔で腕にしがみついてくる彩のデコを指先で突きながら、俺はふと疑問に思ったことを聞くことにした。前回と同じ流れはゴメンだからな。

 

 

「ところで彩。俺はどこで寝ればいい?」

 

「ここです♪」

 

「駄目だろ」

 

「それこそ駄目ですよ〜」

 

 

 彩が全体重をかけて俺の腕を引っ張り、俺の体勢が崩れた途端俺の頭に腕を回してくる。本当に彩なのか疑いたくなる早業と力業に負けて俺もベッドに寝転ぶことになった。

 そこから力業で抜け出そうとした途端涙目になるという反則コンボに負け、俺は結局ここで寝ることになった。女の子って怖いな。彩にも警戒力上げないと。

 

 次の日の朝にはゆりから連絡が来ていて『丸山さんと寝た件について』とだけ書かれていた。なんでそこまで知ってるんだろうな。彩の家に泊まることも言ってないのに。

 

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