前期卒業が確定していますが、一応就活とやらもやります。春卒業しない奴を取ってくれる企業があるかは分かりませんが、その様子見を兼ねてって感じです。
りみの入学式が終わり、始業式も終わり、俺たち三年生は嫌でも進路と見向きしなければいけなくなった。うちの学校は生徒の半数が就職。残りの半数が進学。毎年ほぼ同じ数だけ別れるらしい。当然勉学に励む者と、企業研究に励む者に別れる。企業研究の方はどれだけやるかが本人次第だし、学校側もどちらかといえば面接対策の方に力を入れてる。
そんな学校生活へと一変した中で、最後のイベントとも言える修学旅行が早々にある。日程は三泊四日。場所は沖縄だそうだ。馬鹿たちが地元警察の世話にならなければいいな。
「用意はだいたいこんなとこか」
『レオくん起きてる?』
「起きてるぞ。まだ寝る時間でもないしな。……入ってこいよ」
『うん』
まだ夜の10時にもなっていない。いくら睡眠時間を必ず確保する俺でも寝る時間ではない。それはゆりも知ってるのだが、夜に部屋に訪れる時は必ず起きてるかを聞かれる。
しおりを見ながら荷物を小分けし、忘れ物がないかを確認しながらトランクに入れていく。ふと目線を上げればゆりがドアのすぐそばで立ち尽くしていた。いつもなら中に入ってくるのにな。
「どうした?」
「今は邪魔かなって……」
「用意はほぼ終わってる。邪魔にならないから気にするな」
手でベッドに座るように指示すると、ゆりはそれに大人しく従ってベッドに腰掛け、俺の用意が終わるのを見守る。もう全員風呂を済ませているから、ゆりも部屋着になっている。珍しく落ち着かないのか、自分の髪を手櫛で梳いたりいじったりしてるけど。
「今日は何の用事だ?」
「……その言い方だと私がいっつも用事を持ちかけてるみたいじゃん」
「事実だろ。それ以外で部屋に来たことないくせに」
「うっ……」
荷物をトランクに入れ終わり、俺は立ち上がってゆりを冷めた目で見る。ゆりは気まずそうに視線を逸らすだけで言葉を返さない。図星だからなんだろうな。俺はそれに溜息をついてゆりの隣に腰掛けた。時間があるとはいえ明日はいつもより早く家を出る。だから話があるなら遅くならないうちに終わらせたい。
「それで? 話ってなんだよ」
「えっとね……」
「……聞くだけ聞いてやるから遠慮するな。どうするかはそれから決める」
「けち。……修学旅行の日程でさ、自由行動の日が一緒でしょ?」
「諦めろ」
「まだ何も言ってないじゃん」
これはもう言ってるようなものだろ。その後に続く言葉なんて手に取るように分かるぞ。そしてその前日のお互いの予定からして合流するのが面倒だ。それで時間を潰したくはない。そのことをゆりに伝えたら、ゆりは分かりやすく機嫌を悪くした。わりかし子供なんだよな。こういうとこ成長してほしいね。
「いいじゃん。一緒に過ごそうよ」
「グリグリメンバーで過ごせよ。四人で過ごせる時間があとどれくらいなのか、分かりきってるだろ?」
「……でも……それならレオくんと五人で……」
「俺はメンバーじゃない。名義上のサポーターだ。諦めろ」
「……レオくんのバカ」
〜〜〜〜〜
結局レオくんとの約束は取り付けられなかった。五人みんなで思い出を作れる機会になると思ったのに……。もちろんレオくんと一緒にいたいって気持ちも強かったんだけどね。でも今回は、それ以上に五人での思い出を作りたかった。私たちの進路を考えたら、この最後の一年でいっぱい思い出を作りたいんだもん。
「ゆりちゃん仕方ないぞー? 萩近は頭が固いからなー」
「そうそう。萩ぽんはカッチカチー。だから、四人でいっぱい楽しんで『勿体無いことした』って思わせるのだ!」
「……レオくんはそう思わない人だよ」
「んがっ。ここに来て萩ぽん検定一級のゆりちゃんの実力が……」
そんな検定ないけどね。ひなに一回もレオくんのことで採点されたことないもん。それに、レオくんのことを理解してるなんて口が裂けても言えない。私は未だにレオくんのことを知らないんだから。まだ、レオくんの家族のことを知らない。レオくんの進路のことも聞いてない。何も……。
「おっ、鰐ちゃん戻ってきた〜」
「みんなお待たせ。班長会議が思ったより長くて」
「待ってないぜー。今萩ぽんのことを諦めきれないゆりちゃんを、どう諦めさせるかで悩んでたとこ〜」
「……そう。ひとまずお風呂に行かないかしら? 大浴場みたいだし、気分転換になると思うわよ」
「行く行くー! ゆりちゃんは?」
「……行く」
レッツゴー! と意気揚々とするひなに手を引っ張られて部屋から駆け出す。ひなはお風呂の用意と着替えも持ってるけど、私はいきなり引っ張られたせいで着替えも用意も持ってない。それを言ってもひなは止まってくれないし。というか、たぶん聞こえてない。大浴場ってことで弾けてるから、誰の声も届かない状態っぽい。
「とうちゃーく!」
「なんで……お風呂の前に……こんなに、走らないと……いけないの?」
「いい運動でしょ?」
「そうだけど……いきなりだったから、私用意持ってきてないよ?」
「……ゆりちゃんって露出癖あるの?」
「ないよ! ひなのせいだよ!」
笑顔でなんてことを言うんだろ。近くにいたクラスの人が目を見開いてちょっと距離取ったじゃん。まったくのでまかせなのに。これ最悪の場合誤解のまま広まっちゃうやつじゃん。学年中に広がったりしたら明日からの修学旅行が辛いんだけど……。
「そんなゆりちゃんでもひなちゃんは好きだよ?」
「私今否定したよね!?」
「あー、急いで追いかけてきたけど、案の定なことになってる……」
「はいこれ。ゆりの用意と着替え」
「あ、ありがとう」
遅れてきたリィと七菜のおかげで私の変な噂が立つ前に落ち着いた。一件落着だって楽しそうに言うひなには、あとで何か罰ゲームを用意しないとね。リィに任せるのが適任って気もするけど。
大浴場はすごく広かった。温泉じゃないらしいんだけど、50人は余裕で入れるんじゃないかってくらい浴槽が広いし、何種類かに分かれてる。私達はさっそく体を洗ってからお湯に浸かることにした。
「リィちゃん見てみてー!」
「んー?」
「トリプルアクセル!!」
「するな馬鹿! 他の人が危ない!」
「ひな。お風呂では静かにね」
「はーい」
いきなりひなが浴槽から出てトリプルアクセルするなんて……。誰も予想できないよそんなこと。まさか成功させるとも思わないし、着地もしっかりできてて綺麗だったけど。裸ですることじゃないよね。
七菜に注意されたひなは、大人しくなって今度は浴槽内を肩まで浸かりながら動き回ってた。泳いでるわけじゃないから、誰も何も言わないんだけど、この子はジッとはできないのかな。
「温泉じゃないはずなのに、温泉みたいに安らげるわね」
「そうだね。広いからかな?」
「かもしれないわね」
『ここだー! ここからなら覗けるー!』
「分かりやすい覗き犯だね」
「……? このホテルって花女以外の学校は来ないって聞いてたんだけど」
七菜が首を傾げながら悩んでる。それを聞いて私達も首を傾げた。だって、ホテルの入り口のところに団体の名前が書かれてて、そこには花女しかなかったはずだから。一般の人の可能性もあるんだけど、向こうの騒がしさからして多分違う。それに、こっちも知らない女の子たちが増えたし。
「お隣いいですか?」
「あ、はい」
「失礼します」
丁寧な口調の人。たぶん同い年なんだろうけど、とてもそう思えない。七菜に近いタイプだけど、七菜ともまた違う感じ。……って、この人たしかバレンタインの時にレオくんといた人なんじゃ!
私がマジマジ見ちゃったからだね。彼女は恥ずかしそうに照れ笑いしちゃった。私は慌てて謝って、視線を逸した。なんだろう。フッたって聞いたのに、なんでか胸がざわざわする。私じゃ勝てない感じって言えばいいのかな。なんでレオくんがフッたのか全く分からないよ。
「たしか……萩近くんとよく一緒にいる花女の方ですよね?」
「うぇっ!? なっ、え?」
「ふふっ、すみません。少しだけ有名なんですよ? 波風立てないようにしてる萩近くんを慌てさせることをする人って」
「あ、あはは……」
「ゆりちゃん有名人だね〜」
有名になったのって、私が正門前に行ったことがあるからだよね。その時にレオくんがいつも大変そうにしてるし、よくその後走る羽目になってる。私のせいだけど。
それはともかくとして、この人がここにいるってことは、レオくんの高校がこのホテルに来たわけで、向こうで騒いでるのもその高校の人たちだよね。レオくんは覗きなんてしないだろうし、あれだけ騒いでたらすぐにお風呂出てそう。
「……何? ひな」
「ゆりちゃん今萩ぽんのこと考えてたでしょ?」
「へ!?」
「会いたいなら会ってきたら?」
「それは……」
ひなはなんてことを言ってくるのだろう。たしかにレオくんがいるって分かったら落ち着けなくなったけど。今すぐに出て連絡取りたいんだけども。でも、今隣にはレオくんがフッた相手がいるわけで。すごく気まずいんだよね。
「私のことなら気にしないでください。あなたに会ってみて分かりましたから。萩近くんにフられた理由が」
「え!? なんで……。私はますます分からなくなったんですけど……」
「ふふっ、それなら教えない方が良さそうですね」
『……あっ! マドンナがいる! しかもその横に何回かうちに来てたあの可愛い子も!』
『なに! その場所代われ! 萩近は部屋風呂で済ませるっつってたからチャンスだ!』
あ、レオくんは部屋にいるんだ。そもそも大浴場には来なかったんだね。騒がしくなるのを予想して最初から避けてたのかな。レオくんらしいと言えばレオくんらしい。とにかく、レオくんの居場所が分かってよかったよ。でも今は出られない。見られてるってわかってて浴槽から出るなんて無理。見られたくない。
「うちの男子たちがすみません」
「大変そうですね」
「萩近くんがいればこうならなかったんだと思いますけど、彼はめんどくさがるので」
「ですよね。巻き込むなって言って距離を取りますよね」
「そうなんですよ。昨日の団体行動の時も──」
まさかここからレオくんの話で盛り上がるとは思わなかった。しかも相手は恋敵みたいな相手なのに。それに、聞く限りレオくんって彼女のこと気に入ってるよね。間違いなく気に入ってるよね。丸山さんほどじゃないにしても、普段から気にかけて手伝ってるよね。
羨ましい。レオくんと同じ学校で、同じクラスで、今回は班も一緒だなんて羨ましい。
「ゆりも良い思いしてるでしょうに……」
知らない知らない。七菜が横で何か言ってるけどそんなこと知らない。私はレオくんと学校生活を過ごしてみたかったんだもん。出会ったのが高校からだから無理なんだけどさ。でも、好きになったんだもん。ずっと一緒にいたいって思うんだもん。
『クソっ! 湯船から出ねぇ! 萩近に自慢してやりてぇのに──お、萩近良いところに……って、は!? なんでお前がここに……しかも部屋着で! たんま! 頼むから慈悲を……ぎゃあぁぁ!!』
「んー? 萩近来たのか。部屋着で」
「これは愛かなー? ゆりちゃんへの愛が成せる技かなー?」
「揶揄わないでよ。……レオくんはそういうのじゃないだろうから……」
「……明日私たち自由行動なんですよ。たしか花女さんもそうでしたよね?」
リィとひなが私を揶揄ってくるのをしょんぼりしながら躱してると、彼女が私たちの確認を取ってきた。なんで知られてるんだろって思ったけど、学校外での友人関係も当たり前だし、知ってても不思議じゃないか。
「萩近くん一人だけ別行動させますね」
「え? それはそれで問題あるんじゃ……」
私が言えたことじゃないんだけどね。だって私は修学旅行に来る前にレオくんにそうさせようとしてたんだから。でも、やっぱり班の人からそう言われると躊躇っちゃう。しかも、レオくんを想う相手から。彼女は気にしてないようで、華のような笑顔で首を振った。自由行動は本当に自由みたい。班の形を崩しても問題ないって。
「萩近くんを誘うのはご自分でしてください。この後の班内連絡で各々自由行動と通達しておきますので」
「ありがとう……ございます」
「よかったわね。ゆり」
レオくんと過ごせる……。私が諦めたことを、彼女のおかげで実現できる。レオくんは捻くれてて、頑固なとこもあるけど譲らない。思い出を作るんだ。
お風呂から上がって、一旦部屋に手荷物を置きに行ったら、財布とスマホだけを持って部屋を出た。七菜たちは部屋で待ってるみたい。みんなでお願いに行った方がレオくんを説得できると思ったんだけど。
仕方ないから私はレオくんに電話して、エントランスに来てもらった。ホテルの人ぐらいしか他にいないし、バレないで済むよね。
「電話の時点でバレたけど?」
「あれ?」
「まぁいいけどさ。……諦め悪いんだな。まさか協力者が出るとは思わなかったぞ」
「お風呂でたまたま会ったの。……ね、明日一緒に……グリグリメンバーで過ごそう?」
「いいぞ」
「すぐには納得してくれないとは思……え? なんて?」
私がキョトンってしてると、レオくんがムスッとしてため息をついた。レオくんのこういう瞬間は子供っぽいんだけど、すぐにそれもなくなる。レオくんにそっと髪を撫でられてから頬に手を添えられる。レオくんの表情も優しい表情に変わってた。そんなレオくんにドキッてしちゃうけど、今は抑えなきゃ。私はレオくんが好きだけど、資格なんてないんだから。
「明日はゆりたちと一緒に過ごす。そう言ったんだよ。嫌か?」
「そんなこと……ないけど……。でも、なんで? ずっと断ってたのに……!」
「思い出を作りたいってゆりの考えに共感できたからかな。俺の進路からして、時間も限られてるわけだしさ」
レオくんが微笑むのが嫌だった。だって、もう会えなくなりそうな気がして。レオくんが遠くに行っちゃいそうで。来年の春からは側にいられなくなりそうで。
──嫌……そんなの嫌……!
「ゆり?」
私の頭が認識した時にはすでにレオくんを抱きしめてた。レオくんの腕の中にいて、力いっぱいしがみついてて。
「とおくに……いっちゃうの? あえなくなるの?」
「まぁ……会える機会は激的に減るだろうな」
「いや! そんなのいや!」
我儘だ。自己中だ。レオくんの進路なのに。レオくんがずっとしてた人生設計がそういう道だってだけなのに。私に口出しする権利なんてないのに。
でも私は我慢できない。レオくんと離れたくない。付き合ってないけど、想いも伝えてないけど。答えを突きつけられるのを先延ばしにして、今の甘えられる状態に甘えているだけ。そんな私なのに、グリグリメンバーとも進路は別れるのに。
「分かってくれとは言わない。納得できなくていい。けど、俺は俺の道を行く」
「……ばか……!」
「あぁ。馬鹿だよ。俺はこういう奴だ。それはゆりがよく知ってるだろ?」
知ってる。嫌というほど知ってる。自分にとって重要なことだけは、誰になんて言われても曲げない人だって。お願いしても止まってくれない。私と同じ場所にはいてくれない。
私は、こういうところを知らない。レオくんがどこ見てるのか。本当に同じ場所に立てているのか。私は把握できてない。
「一緒に……いてよ……!」
「期限付きなんだよ……」
レオくんの腕が背中に回されて、優しく抱きしめられた。そっと髪も撫でてくれる。レオくんにこうされるのは好きで、ずっとこうしていたい。だけど、これももう回数が限られてるんだね。
〜〜〜〜〜
「とうとう萩ぽんはゆりちゃんに籠絡されたか!」
「されてねぇわ」
「えー? ……ま、いいや。だいたい予想つくし」
「萩近も殊勝になったか〜」
「鵜沢も分かるのかよ……」
レオくんが一緒に来てくれる。それが分かった途端二人がニヤニヤしてたのって、こういうことだったんだね。レオくんをイジれるチャンスだから。
「二人なりに楽しんでるんでしょうね。こうして五人でっていうのは両手で数えられる程度だったから」
「そういえばそうだね。……今年はいっぱい五人で過ごしたいね」
「……彼がSPACEに来れば増えるのでしょうけど、そこは強要できないものね」
「うん」
私達はライブをする時は必ずSPACEでやる。学校の文化祭でっていうのもあるけど、それ以外は全部SPACE。そしてレオくんはSPACEに来ない。妹さんへの後ろめたさがあるから。その事情を聞いた私達もそこは弁えてる。その結果五人で何かをする。どこかへ行くって回数が減っちゃってる。
揶揄いをやめない二人の対応に追われてるレオくんは、それでも私からすれば楽しめてるように思えた。本人はたぶん否定するけど、息抜きにはなってるはず。明るさがあるからね。
「ヒャッホーー!! これ楽しい!!」
「ちょっと目を離したらこれか!」
「ひな! ハウス!」
「しょぼーん……」
なんでひなはいつの間にかセグウェイに乗ってたんだろ。たしかにどこかに行ってるなーとは思ったけど、まさかセグウェイに乗って帰ってくるなんて思わなかった。あれって安くはないと思うんだけど、しかもぶつけたりして壊したら請求高そう。ひなはそんな失敗しないだろうけどさ。
私達は沖縄のいろんな文化が紹介されてる施設に来てる。テーマパークとも言えそうな所だけどね。そこに着いてちょっとしたら、ひながあんなことしちゃって。でも時間制だからって降りずにゆっくり移動してる。初めてのはずなのに、なんで使いこなせるんだろ。
「鍾乳洞行くんだったな?」
「うん。入り口は向こうみたいだね」
「ひながあれを終えるまで入れないのだけどね」
回転しながら移動するっていう、セグウェイでやるもんじゃないようなことをして遊んでるひなに目を向ける。あそこまでやってると圧巻としか言えないんだけども、他の人の目が集まっててこっちはヒヤヒヤしてるよ。
ひなが無事にセグウェイを傷つけずに帰ってきたところで、やっと鍾乳洞に入るわけなんだけど。
「ひな何してんの?」
「レオぽんに引っ付いてるー!」
「なんで? ひながそんなことする理由ないよね?」
「そうだね! ゆりちゃんなら理由あるよね!」
「うん……じゃなくて!」
「ゆり……抑えられてないわよ……」
鍾乳洞へと入っていってるから、私たちの話し声も大きくなるとそれだけ反響しちゃう。今のやりとも他の人に聞こえてるかもしれない。つい条件反射で言っちゃったけど、恥ずかしくて顔が熱くなる。リィとひながニヤニヤしてるのがちょっと追い打ちになるし、七菜の何とも言えない表情も軽く追い打ちだ。唯一の救い……とも言えないけど、先頭を歩いてるレオくんが振り向かないのはある意味助かってる。
「……あれ? ひなはいつの間にレオくんのこと違う呼び方になったの?」
「今だけど?」
「レオくんはそれでいいの?」
「何言っても二十騎は聞かないだろ」
「……ばか」
「なんでだよ」
レオくんの馬鹿。やっぱり私以外の子だと簡単に許すんだから。ひなが意見を一番曲げないのはみんな知ってるけど、レオくんもレオくんで大概だよ。そのはずなのに簡単に許すなんてズルい。私だけ損してる気分になる。
「まぁまぁゆりちゃん。玲音のこれは今に始まったことじゃないじゃん?」
「そうよゆり。玲音くんなんだから」
「そうだけど……。ねぇ、なんで二人も今呼び方変えるの? 私への当てつけ?」
「ゆりちゃんが怒ったー! 玲音後は任せたー!」
「お前らまじか……」
七菜まで悪乗りするし。三人は奥に先に行っちゃった。だから、取り残されたレオくんの腕を思いっきり掴んで逃さないようにする。私ぐらいの力じゃ全然抑えられないけど、レオくんは振りほどこうとしないから効果はある。できるだけ落ち着いてレオくんに話を聞かないとね。
「ゆり。顔が笑ってないぞ」
「そう? そんなのは今はどうでもいいの。さっきのことについて詳しく教えてほしいんだけどな〜?」
「本人たちが言ってた通りだ。今日勝手に呼び方を変えられた。それだけだよ」
「ふーん? けど私の時は全然許してくれなかったじゃん?」
「前にも言ったろ。ゆりのおかげでちょっとは思考が柔らかくなったって。それより俺達も行こうぜ。時間は限られてるんだからな」
「ぁ……」
腕を掴んでた私の手は振りほどかれた。けど、その代わりにレオくんの手が私の手と繋がれた。レオくんは何も言わずに歩き始めて、私は手を引かれる。だんだん今の状況を飲み込めたら、レオくんの方からこうしてくれたのが嬉しくって歩くペースを上げた。隣並んだところで歩くペースを合わせて、レオくんの肩に頭を預ける。
「……歩きにくい」
「慣れて」
「無茶苦茶だな」
「これも思い出作りだから」
「そう言えば何でも許されると思うなよ?」
「えへへ」
口では離れるように言うけど、振りほどこうとはしなかった。レオくんの中で、このレベルはギリギリ許容できるってことなんだろうね。それはつまり、今日一緒にいる間はこうしていていいってこと。たぶん帰ってからはさせてくれないから、今日一日時間いっぱいこうしようっと。
「ヒューヒュー。熱いねお二人さーん」
「二十騎。お前後で覚えてろよ」
「いいじゃんいいじゃん。写真撮ってあげるからそこに立って〜」
「ほんと話聞かないのな……」
ひな相手にペースを掴めるわけもなく、レオくんは諦めてひなに言われた通りの場所に立った。当然一緒にいる私もその横に立つわけなんだけど、なんでここで写真撮るんだろう。しかも三人は写らないみたいだし。そんな疑問をよそに、ひなはいつも以上に笑顔を弾けさせてシャッターを押した。あそこまでだと絶対何か企んでるよね。もう遅いけどさ。
「ひな。ここって何なの?」
「初恋広場だよ〜」
「ふぇっ!?」
「……小学生かよ」
私だけ顔が赤くなって恥ずかしくなってるのが納得いかないけど、でもレオくんだから仕方ないか。私が勝手に好きになってるだけなんだから。レオくんの反応が薄かったせいで、ひなはちょっとつまらなさそうに頬を膨らませる。私まで巻き込まないでよね。
この後は出口まで途中のを眺めて楽しみながら歩いた。一番気に入ったのは青の泉って所かな。本当に青色でびっくりしたよ。青色らしい青色というか、例えての青じゃない綺麗な青色。あの紅葉とはある意味正反対かな。
鍾乳洞の端まで行ったら出口に繋がってて、そこから出た後はガラス工房に行って、ガラス作りを体験させてもらった。私達はガラスのコップを作ったんだけど、レオくんだけは別のを作った。レオくんが作ったのは一輪挿し。時期的に誰かへのプレゼント用かな。
「今から美ら海水族館行こうよ!」
「時間厳しいんだがな……」
「とか言って。玲音くん
「したのは俺じゃないけどな?」
この感じだと、もしかしなくても私だけが知らないことだよね。仲間外れみたいな感じがして寂しいんだけど。リィは全然教えてくれないし。七菜も微笑んでるだけで教えてくれない。若干拗ねちゃった私をレオくんが手を引いてくれて、私はそれに従って大人しく歩いた。向かった先はまさかの駐車場で、私達は一台の車の所に移動した。
「……まさか……車乗るの? 誰が運転するの?」
「え? レオぽんだけど?」
「えぇ!? 免許持ってるの!? いつ取ったの!?」
「この前」
いやいや本当にいつの間に取ったの。私そんなの全然聞いてないし、気づかなかったんだけど。だっていつも家を空けてるというか、学校行ってそのままバイトに行ってるし。休みの日だって朝から夜までいないしさ。
「ゆり。乗らないなら置いてくぞ」
「乗るからそれはやめて」
レオくんが運転席に座って、私は助手席に座った。後部座席は三人に先に抑えられてたからね。露骨というか、隠す気がサラサラないよね。助手席だからどうってわけでもないけどさ。
「んじゃ行くか。時間もないし、高速を飛ばして行くから全員シートベルトしとけよ」
「もちろんよ」
「あれ? この車家にあるのとなんか違うね」
「家にあるのはATで、これはMTだからな」
「なにそれ?」
「免許取るときに学べ」
レオくんは本当に初心者なのかなってぐらいスムーズに運転してた。家にあるのと違って運転中に何回もレバー動かしてたね。レオくんが言うには、それが最大の違いなんだって。それと自分で調整できるから楽しいんだとか。珍しく生き生きしてたけど、程々にさせないと危ないやつだよね。
「美ら海だ〜! 可愛い子探してくるー!」
「駄目よひな。みんなで回るって決めたでしょ?」
「んー……そうだね! その方が大事だね!」
「さっさと回るぞ」
高速道路で飛ばしてくれたとはいえ、安全面も考慮しての速度だったから、1時間は移動で使っちゃった。レオくんは今日が帰りだから時間はそんなに多くない。すぐに入場券を買って、館内マップ片手に見て回った。自分たちの希望を出し合って、七菜が最適ルートを作る。七菜に先導してもらって私達は水族館を堪能した。魚の種類が多かったし、ドーム状になってる所とか凄かったな。360度どこを見ても魚が泳いでるんだもん。海の中にいるみたいだった。
「で、案の定こうなるわけか」
「あはは……、みんな露骨だよね」
「そろそろ出ないといけないんだがな……。連絡は入れとくか」
スマホを取り出して駐車場に集まるようにレオくんが連絡を入れる。レオくんは一応グリグリのグループチャットに入ってるから、それでみんなに連絡ができる。私もなんとなく自分のスマホでそれを確認して、……寂しさを覚えた。私だって明日には帰る。一日ズレてるだけ。またすぐに会えるのに、それなのに離れたくないって思う。
「レオくん……」
レオくんに手を伸ばす。服を掴んだら、レオくんも見てくれるから。
「ん? ……はぁ。仕方ないやつだな」
「ごめん……」
「いい。慣れたから」
スマホをポケットにしまったレオくんが、一旦私の手をどけて体を引き寄せてくれる。私はそれに甘えてレオくんに体を預ける。私がこうするだけだったら、レオくんは支えるために強く抱きしめてくれるから。
「誰かに見られても知らないぞ?」
「その時は責任取って」
「無茶苦茶なこと言うなよ」
別に見られたって私は困らないもん。恥ずかしいのは恥ずかしいけど、でも嘘はつきたくないから。資格なんてなくたって好きな人は好きなんだ。むしろ日に日にこの気持ちが大きくなってるぐらいだよ。
でも、甘えられる期間は決まってるから、だから、レオくんのことを少しは知らないといけない。家族関係のことは全然教えてくれないし、妹さんのことは絶対無理。だから、進路のことを教えてもらおっかな。レオくんが目指してる場所を知りたいから。
「……レオくんはさ、高校出たら……どうするの?」
自分でも驚くことに、声が全然スムーズに出ない。震えちゃって、詰まっちゃって、胸も苦しくて……。それはきっと、知ったらレオくんが遠のいてしまうのを予感してるから。
「言ってなかったな。俺は
──日本を出るよ」
「…………ぇ」
──君はいつだってそうだ
──唐突で、何考えてるか分からなくて
──そして
──私が見えてない景色を見てる
沖縄行きたい(切実)
もし作者が書く気が出た場合
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