高校三年生となり、文化祭もこれで最後だ。最後だからどうするってわけでもないし、逆に無碍にするわけでもない。ただ、去年まではなぁなぁで過ごしていた文化祭だが、今年はグリグリメンバーとの思い出を作るっていう目的がある。文化祭をどう過ごすかを前もって意識するだけでも、不思議と変わってくるものだ。
「ゆりちゃんとデートすればいいんじゃない?」
「人の心を読むな。それとゆりとはそういう関係じゃない」
「意固地だね〜。見方を変えるんじゃなかった?」
「そう言った覚えはないぞ」
背に飛び乗ってくる二十騎を振り払う。すでに花女の中にいるから、周りの視線が痛い。男からは嫉妬の視線。女からは温かい目と何してるんだという冷たい目。
女の方は仕方ない。そうなるのも分からなくはない。だが男ども。お前らは騙されてるぞ。二十騎は超面倒なんだからな。こいつは黙っていれば美少女なだけで、その化けの皮を剥がせば面倒なやつだ。
引き剥がしたところでまた飛びついてこようとする二十騎を抑えていると、一際冷たい視線を感じた。凍傷でもさせられるんじゃないかと思うほど冷たい視線を。さらに面倒な事態になったことに落胆しつつ、片手で二十騎にアイアンクローをしながら後ろを振り向く。
「こんなとこで何してるのかな?」
「見ての通りだ」
「ふーん? 文化祭を私と回ってくれるって言ってたのにね?」
「それも言ったが、一応グリグリメンバーとも回るって話になったろ」
「ばか」
理不尽だ。今の状況からして俺はどちらかと言えば被害者である。ゆりとの集合場所に立っていたら、二十騎に絡まれただけだというのに。まぁ、ゆりのこれは今に始まったことでもないか。頻度が増えただけで。
ゆりが来たから二十騎も俺から離れ、今度はゆりの手を取って校舎へと歩き始めた。二十騎も二十騎で思い出づくりをしたいらしい。ゆりもそれには何も言えないし、ゆり自身もそれを望んでいる。俺はその後ろをついていくだけ。ゆりが手を差し出してくるけど、三人が横並びは迷惑だし、縦一列だと間の人間が歩きにくい。という建て前をつけて断った。
残念そうに、寂しそうに笑って「そうだよね」と諦めたゆりの姿が脳裏に焼き付く。
「どこに行くかは決めてるのか?」
「まずはりみのクラスかな」
「マイシスターに会いに行くぜー!」
「お前の妹じゃないだろ」
二十騎がりみのことをマイシスターと呼んで、それを本人か周りの人間が否定する。このやり取りは定番で、単純なことなのに妙に飽きることがない。二十騎の人柄なのか、俺も打ち解けられてきたのか。あるいはその両方か。
"最後だから"ということにかこつけて意識を変えた。それだけでも今まで見えていたものの受け止め方が変わるもんなんだな。
〜〜〜〜〜
私達のクラスの出し物はお化け屋敷。レオくんがお昼頃に来たのは、私がそれぐらいにとお願いしたから。私とひなの担当時間が最初で、それが終わる時間だったから。今は七菜とリィがお化け屋敷の方にいるかな。七菜ってこういう時は遠慮なく楽しむから、さっきから聞こえてくる悲鳴はそういう事なんだろうね。……今ならレオくんを怖がらせることってできるのかな。
「ゆりちゃん。それは無理だ〜よ?」
「やっぱり?」
「うん。レオぽんは驚いたとしても怖がらないよ。
「お前らなんの話してんだよ」
「レオぽんがお化け屋敷で怖がるのかって話」
「あー、そういう話か。ゆり、諦めろ」
淡々と答えるレオくんに私はため息をついた。いつも見られない一面だって見たいからね。でも、そういうことならまたの機会にしよう。もっと本格的な所か、レオくんが怖がるものを聞いて、それで怖がらせよう。
なんでひながレオくんのことを把握してるのかは、小学校の修学旅行でお化け屋敷にも行ったからなんだって。仕掛け人が出てくる度に『お疲れ様です』って挨拶したんだとか。これ、まず驚いてすらいないよね。驚かすためにはレオくんの想定を超えないといけないって、ハードル高過ぎるよ。
妙に行列ができてるのを横目にりみのクラスである1年A組に行ったんだけど……。
「あの列ってここのだったの!?」
「お〜! マイシスターのクラスは人気が高いね〜!」
「……あー、やまぶきベーカリーのパンを使ってるのか。とりあえず並ぶぞ」
驚いてる私とはしゃいでるひなの手をレオくんが引っ張る。列が長いせいで隣のクラスの列と重なっちゃうけど、看板を持ってる子がいてくれたおかげで間違わずに済んだ。
列に並んでる間はこの後の予定を話し合ってた。ここで時間がそこそこ使われそうだから、もしかしたらこの後にでも七菜たちと合流して5人で回るかも。七菜たちの担当時間が終わったら連絡をくれるし、それ次第ではあるんだけどね。
楽しい時間を過ごしていると、待ち時間もあっという間に感じる。お客さんの数が数だから、りみたちも早めの退席をお願いしてるのかもね。でも、やっぱり仲がいい人といるからってのも大きいよね。メンバーといる時は本当に時間を忘れちゃう。レオくんといる時はまた少し違う理由で時間を忘れる。その少し違う感覚を同時に今味わえている。贅沢なのかな。
「何を感傷に浸ってるんだか」
「レオぽんは乙女心が分かってないね〜」
「悪かったな。……ゆり。順番が来たぞ」
「あ、うん」
肩をポンポンってされて私は意識を切り替える。りみたちのクラスは、喫茶店みたいになってて、可愛らしい装飾が教室を彩ってた。さっそく席に案内されて、私とレオくんは隣。ひなが向かい側に座る。そのひなの両隣にりみのクラスメイト。
「なに自然な流れで後輩引っ掛けてんだよ」
「お持ち帰りで!」
「先輩。ここはそういう店じゃないです」
「えー! じゃあドンペリ!」
「そういう店でもないんです」
「あんま後輩困らせるなよ。頭かち割るぞ」
「暴力はんたーい」
「ひな。大人しくしてね?」
レオくんの言葉が酷かったのはあるけど、ひなもひなではしゃぎ過ぎ。後輩ちゃんはどこか楽しそうにしてるけど、お客さんが多いのにそんなことしてたらお店が回らなくなる。二人を解放させたらひなが口を尖らせて拗ねる。そして、そんなタイミングでりみが来ちゃった。
「マイシスター!」
「違うよ」
「ガーン! ……これは誰が入れたやつ?」
「全部私がやったやつだよ」
「おぉー!」
りみが入れた飲み物と聞いて、ひなが目を輝かせて写真を撮り始める。りみが恥ずかしいからって止めてる間に私も写真をこっそり撮っとく。記念になるからね。レオくんは写真を撮らずにゆっくり喉を潤してる。なんだろ。この前のライブの時もだったけど、雰囲気が柔らかくなった気がする。
この前のライブと言えば、背中合わせで演奏して……その後も……。
「なんで顔赤くしてんだよ。そんな熱くないだろ?」
「そもそもゆりちゃん飲んでなくなーい?」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫だから。気にしないで」
「当てちゃうね! この前のライブでしょ?」
「なっ!」
顔をニヤつかせてひなが言い当ててくる。私は思わずそれに反応しちゃって、それが正解であると示しちゃった。りみは変に温かい目で見てくるし、レオくんは反対に冷めた感じで見てくる。悪いのはレオくんなのに。
「レオぽんがゆりちゃんの肩抱いてたもんね〜。夢心地だったんでしょ?」
「……ノーコメント」
「ゆりちゃんは分かりやすいな〜。レオぽんがああした理由は何ー?」
「特に意味はない。場の雰囲気に当てられただけだ」
素っ気なく答えるレオくんにムッてなるけど、ひなはそれを聞いてますます楽しそうに顔をニヤつかせる。りみも口元を隠しながら小さく笑ってるんだけど、私にはその理由がさっぱりわからなかった。
レオくんは
「レオぽんがそう言うならそれでいいよ〜」
「嘘ついてるわけじゃないんだがな」
「そうだね。……そろそろ出なきゃかな」
「だな」
お客さんはまだまだ入ってくる。私達だけ長居するわけにもいかないから、飲み物とパンに手を伸ばす。りみがラテアートしてくれたやつを私は狸だと思ったんだけど、リミ曰くパンダだったみたい。私が分からなくてレオくんが分かったのはわりとショックだったな。
この後は、やっぱり七菜たちと合流することになって、五人でいろいろと回った。飲食系も遊び系も、それぞれの感性に任せて選んだ。ライブがあるから、それもある程度したら終わらないといけなくなる。私達のライブは最後なんだけど、りみたち「Poppin'Party」の結成ライブがあるからね。見ないわけにはいかないよ。
「私達は舞台袖から見るけど、レオくんは?」
「観客席しかないだろ。ちゃんと両方見るから」
「絶対だよ? あとでどうだったか聞くからね?」
「分かってる。楽しんでこい」
〜〜〜〜〜
座席に座って始まるまで待つ。その間に隣にも人が座っていく。当然のことだし、どんどん人が増えてきているのだが、隣に座ったのは俺がよく知る人物だった。よく知る、だけで片付けていい相手じゃないな。大切な後輩だ。
「ふふっ、やっぱり見に来てたんですね。予想が当たってよかったです」
「とうとう当てられるようになったのか」
俺の隣に座ったのは、バイト先の後輩で俺がそこで一番気にかけてる子。特徴的なピンク色の髪をふわりとさせて、人懐っこい雰囲気が滲み出てるアイドル。新アイドルユニット「Pastel*Palettes」のボーカルでリーダーの丸山彩。
念願のアイドルになれたが、そのデビューイベントでの事件があり、その後のライブでなんとか盛り返すという中々に波乱万丈なスタートをしてる。
「アイドルの方は少しは落ち着いたか?」
「はい。まだ目の前のことにしか取り組めてないんですけど、とりあえずは落ち着けました。本当にありがとうございます」
「俺は何もしてないだろ」
「そんなことないですよ。Augenblickのみんなにももちろん助けられましたけど、玲音さんにも私は助けられたんです」
「大げさだっての」
実際に俺は何もできてない。あのデビューライブを知って、彩から話をすべて聞き出して、俺の意見を言っただけだ。
Augenblickってことは、雄弥たちがいろいろとやったんだろ。彩から聞いてるのは、デビューライブでのフォローとリベンジライブの用意。そのためにはおそらくだが、前々から準備してたんだろう。その辺は疾斗あたりがやったか。本当に同年代なのかと疑うほどに疾斗はできることが多い。厄介なやつだよ。
りみたちのライブが始まる。ドラムだけ誰もいないが、それでも用意されてる。誰かが間に合っていないってことなんだろうか。それにしてはどこか自然体な気もするが、深くは詮索しない方がいいんだろうな。
一曲目が終わり、二曲目が始まろうとしたところでドアが勢い良く開けられた。後方を見れば、息を切らしてる花女の子が立っていた。どうやらあの子がドラムの子のようだ。というか沙綾じゃん。ドラムできたのかよ。
「なんか、こういうのも青春って感じがしますよね」
「そうだな。なんにせよ、揃ったようで何よりだ」
待ち人が来たことでさっきまで演奏していた四人の表情がさらに明るくなる。曲合わせもしてなかったようで、沙綾は好き勝手に演奏していたが、それでも演奏が成り立つ範囲には留めていた。さっきチラッと見えた音楽プレイヤーに今演奏してる曲が入ってるんだろうな。
五人の演奏は、お世辞にも上手いとは言えない。始めたばかりのメンバーもいるのだから当然だ。だが、それを気にさせない程に演奏してる五人が楽しめていた。それができているのだから上出来だろう。音楽はまず弾いてる人たちが楽しむのだから。
りみたちのライブが終わると一旦幕が下りる。この間にゆりたちの機材へと入れ替えるようだ。待ってる時間を退屈そうにしている生徒たちはいない。それはグリグリの人気が高いこともあるが、さっきの演奏でも盛り上がったからだろう。
「成功してよかったですね」
「そうだな。りみもしっかり弾けてたようだし、楽しめてた」
「ふふっ、本当にお兄さんみたいですね」
言われてみて気づく。たしかにどこか兄目線で見ていたことに。引っ込み思案なりみが、友達と一緒にバンドを組んで人前で演奏できてる。それがこうも嬉しく思えるとはな。
俺がそのことの思考に耽っていると、彩が腕を絡ませてくる。どう考えてもスキャンダルものになるが、俺は彩を拒めないから受け入れるしかない。度が過ぎればやめさせればいいし、ひとまずは釘を差すとしとくか。
「アイドルがそんなことしていいのか?」
「今は花女の丸山彩ですから」
「強かになったな……」
「玲音さんのおかげです♪」
周りまで笑顔にさせるような柔らかい笑顔。それを向けられた俺は何も言葉を返せず視線を反らした。これを知り合いに見られたら面倒だなと思っていたらかん高いギター音が響いた。わざと音を外したようで、目線をステージに向けるとゆりが笑顔で睨んできてた。これは後で追求されるやつだな。
最近ゆりたちが練習してるのを見て、こうしてライブしてるのを見て思う。
一つの空間を自分たちが支配し、観客を引っ張って完成させる"ライブ"。
それを演者という名の特等席で見られている。
──ゆりたちは俺が見ることがない景色を見てる
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