「うぅ〜」
週明けの学校で、自分の席に座ってた私は机に突っ伏しながら唸ってた。というのも、結局彼を見つけることができなかったからだ。マンションの廊下から下を見て、彼が歩いていく方向を確かめた。
エレベーターを待つのも煩わしくて、階段を駆け下りたんだけど、マンションの外に出た時には彼の姿は見当たらなくなった。一応彼が進んだ方向をしばらく走ったけど、それでも人影すらなかった。
お父さんとお母さんとは仲直りできた。それでも二人ともまだ彼のことを信じられないみたいだったけど。それは仕方ないよね。
…彼は人の心理を利用するのが上手なんだ。その人の立場、その時の状況、そんなことも踏まえた上で発言して信じ込ませる。しかも知らない人からしたら簡単に信じれちゃうし、嘘だとは見抜けないように彼も立ち振る舞う。
「どうしたの? ゆり」
「…七菜、おはよう」
「はいおはよう。それで、彼のことで何かあったの?」
「うん…………うん!?」
「ゆりって家族と仲いいんでしょ? バイトもしてないし、そんなに悩むなら最近の出来事からして彼かなって」
「七菜って探偵?」
「違うわよ」
苦笑した七菜も席に座って、私の方に視線を向けてくれた。私は先週のあの後に何があったのかを話して、彼に謝りたいのだと伝えた。そしたら七菜は口元を手で隠して、何か考え込み始めた。
「七菜?」
「…ゆり、それが
「…え? どうゆうこと?」
「ゆりの話を信じるなら、彼はわざとご両親を怒らせたのよね?」
「…うん。私にはそう見えた」
「それでゆりが彼に負い目を感じてまた接触を図る。それが彼の狙いの可能性もあるんじゃない? 2回同じことを忠告して、2回目なんてわざと行為を未遂で終わらせた」
「……それで?」
「……今ゆりは彼のことを信じてる。そんなことしないのは、ゆりに警戒心をつけさせるためって。でも、彼がそうする理由がどこにあるの? 普通ならそんなことする必要ないわよね?」
「それ……は……」
否定する材料が無かった。七菜が言ってる可能性も十分ある。だって先週は少しだけヤられたのだから。でも、七菜が言ってることも彼のことを考えたらおかしい点がある。
「彼は別にそういう狙いは無いと思うよ」
「なんでそう言えるのかしら?」
「だって、彼は私に興味ないんだから」
「そうなの?」
「うん。むしろ関わろうとしてないから、お父さんとお母さんを怒らせたんだと思う」
「……なるほど」
お父さんとお母さんを怒らせて、二人が私に彼との接触をやめさせるように仕向ける。それで彼は私と関わらないで済むから。なんで彼がそうしたいのかも明白だね。彼は私に興味がないのだから、関わろうとも思わないわけで、距離を取ろうとしてるんだ。
彼がその気でも、私の気が済まない。だから私は彼の思惑を推理しても、彼の狙い通りになんてしてあげない。我儘だって言われても気にしない。"やりたいことをやる"って決めてるんだから。
「それで、七菜に協力してほしいことがあるんだけど、いい?」
「……どうしようかしら」
「え、渋るの!?」
〜〜〜〜〜
「き、きた! サトカンが来やがった!」
「クソっ! もう来やがった!」
「まだ時間足んねぇぞ!」
「この世の終わりだぁー!」
阿鼻叫喚してる馬鹿達がいるが、なんてことはない。課題をやり忘れた奴らが騒いでるだけだ。サトカンっていうのは、これから授業する先生のあだ名だ。この学校には佐藤先生が二人いるから、上の名前と下の名前を組み合わせて呼びわけている。怖い人だから、誰も当人に向かってその呼び方はしてないが…。
「何を騒いでる。席につけ」
『ハッ!』
「……軍隊か。まぁいい。課題の答え合わせからするぞ。今日は……出席番号15番から」
「俺……この授業が終わったら彼女作るんだ」
「安心しろ。お前ならフラレる」
「先生酷くないっすか!?」
「答えを言え。答えを」
「血も涙もねぇ!」
課題をやらないからそうなるんだ。間違ってたって別に怒られるわけでもないし、むしろ解説が始まる。この科目が苦手なやつからすれば、当たった人が間違った答えを言う方がありがたいだろうな。
……先生の眼力が強過ぎるからみんな必死になって正解を求めるわけだが。怒られるのは、"やってこなかった"場合と、"どう考えてもその間違え方はしないだろ"って場合だけだ。
退屈な授業が大半なのがこの学校の嫌なところだ。簿記とプログラミングだけだぞ、この学校が力を入れてる授業って。普通科の科目なんて教科書に書かれていることしか喋らないからな。
授業を受けている意義なんてない。自分で読んで理解すればいいだけなんだから。テストも事前にプリントを配られて、それを丸暗記したは100点取れるからな。
「明日の連絡ですが──」
テキトウに授業を受けている間に、いつの間にかHRが始まっていた。明日は何やら外部から講師が来るんだとか。……めんどくさいな。明日は自主休校だ。
今日はバイトもないしさっさと帰ろうと思ったら、校門前が何やら騒がしい。……騒いでるのは一部の生徒……じゃないな。男子たちだ。あの騒ぎようから判断すると、他校の女子でも来てるんだろうな。誰かの彼女かなんかだろう。ま、俺には関係ないし、あっこの騒いでる奴らからはできるだけ離れて帰るとしよう。
「ねぇねぇ! 誰かの彼女?」
「い、いえ、そういうわけじゃ……。ちょっと人を探してまして……」
「見つけられるかわかんないんだし、俺と遊ぼうぜ?」
「テメェ! 抜けがけしやがって!」
(……最近聞いた声な気がするが、まさか……)
あの集団に目を向けたのが間違いだった。もしやと思って見たら、たしかに思っていた通りの人物がそこにいた。確かめられたのは、まぁいいとしよう。よくないのは、そいつと目があったことだ。目があった瞬間、その女子は大声をあげて俺を指差しやがったからな。
「いたー!」
「え? え?らあいつのこと?」
「そうです! ちょっと通らせてもらいますね!」
「…めんどくせー」
「やっと見つけられた!」
「ダルいことしてくれたな」
「え?」
「はぁ…、まぁ牛込はそういうやつだよな。ちょっと走るぞ」
「なんで?」
「後ろ見たら分かる」
「後ろ? ……あれ?」
牛込の後方には、さっきまでナンパしてた男たちが殺意に満ちた目でこっちを睨んでいた。牛込はその理由が分かっていないようだが、とりあえず何かヤバイ程度には分かったらしい。
苦笑いしてる牛込の手を引いて逃走を開始。無論馬鹿たちは俺達を追いかけてくる。俺は身体能力に自信があって、後ろの奴らから逃げられることは分かっている。だが、それは俺一人の場合だ。今は牛込がいる。
正直に言おう。この女の速さは俺からしたら遅い。女子の中では動ける方だろう。だが、男子の動ける人間からすれば遅いのだ。このままでは追いつかれるのは明白。しかし、そんな面倒なことにはなりたくない。ならば取る手段は一つだけだ。
「捕まってろよ」
「え、きゃっ!? ちょっ……え? え!?」
「お前走るの遅いんだよ。それと口閉じてろ。舌噛むぞ」
牛込を抱きかかえ──俗に言うお姫様抱っこ……これも走りにくいから、これで追いつかれそうになったらこいつを捨てて逃げる──加速して走る。牛込を抱きかかえた途端後ろの奴らが発狂し、雄叫びを上げ始めた。
「あいつら…。チッ、久々にやってみるか」
「や、やるって何を?」
「だから口閉じてろって」
「ひゃっ…!」
「あの野郎何てことしやがる! また高校にクレーム来るじゃねぇか!」
「何人かは回り込め!」
俺が今やっていることは、完全に非常識なことだ。民家の塀の上を走って、逃走してるんだからな。これは怒られても仕方ないが、とりあえずあいつらの追跡はかわせる。
〜〜〜〜〜
「…はぁ〜、つっかれた〜」
「ご、ごめんね?」
「なんで謝ってるんだよ」
「だって私のせいなんでしょ?」
「そうなんだが…、理由は分かっているのか?」
私たちは商店街にある喫茶店に逃げ込んでた。彼は他の男の子達を振り切れたと判断するまで私を抱えて走っていたから、すごい疲れてるんだろうね…。だから私は謝ったんだけど、そもそもの原因に関してはいまいち分かってなかった。そこなんだろうね。彼が聞いてきてるのは。
「…ごめん、分かってない」
「だろうな。まず、牛込は男に対する意識が低すぎる。これは前から言ってるよな?」
「うん」
「他校の生徒が来るだけでもみんな関心を持つ。これも分かるな?」
「……うん」
「で、うちの男子たちは自校の女子たちを女子って思ってない」
「うん……んん!?」
「そこは気にするな。話がめんどくなるから。で、牛込は自覚してないだろうが、お前は十分可愛い女子だから」
「にゃっ……!?」
「猫かよ……。ともかく、女に飢えてる男子たちがいる場所に、牛込みたいな子が来たらみんな食い付くわけ」
「……なるほど」
たしかに男の子たちにすぐに声をかけられた。彼の学校に着いてすぐに声をかけられて、気づいたら人が増えてた。そのすぐ後に彼を見つけられたからよかったけど、そうじゃなかったらどうなってたんだろ…。
「んでな。そんなお前が俺を呼んだわけだろ?」
「そうだね。だって君を探してたわけだし」
「そのせいで追いかけられたんだよ」
「え?」
「付き合ってるって勘違いされたんだよ!」
「えぇ!?」
「それで嫉妬した奴らに追いかけられたんだよ!」
「ごめんなさい!」
「まぁいいんだけどな」
「いいの!?」
コロって態度が変わる彼に翻弄されてて気づいたけど、私またからかわれてるみたい。彼は本当に気にしてないみたいで、店員さんにおかわりを頼んでた。……ここ珈琲店なのにコーヒー飲まないんだね。
「それよか、よく学校わかったな?」
「あ、うん。制服の特徴を友達に言ったら教えてくれたんだ」
「なるほどな。で? 何の用なんだよ」
「先週のことを謝らないとって思って」
「先週? ……あー、あれか」
「本当にごめんなさい!」
「牛込が謝ることじゃないだろ。それにあれは──」
「
「……へー。気づけたのか」
彼は一瞬意外そうな顔をした。どうやら私に気づかれることはないって思ってたみたい。……私も、彼が帰る時に笑ってるのを見てなかったら気づけなかったけど。
「気づけたのなら、なおさら
「お礼兼お詫びをさせてほしい」
「いらん」
「私の気がすまないの」
「知ったことじゃないな」
「1回だけ、1回だけでいいから」
「それフラグだろ。どうせズルズル付き合わされていくようになるんだろ?」
「それは分かんないよ? だって私は君と仲良くなりたいって思ってるわけじゃないから」
「自己中め」
「それはお互い様♪」
なんとか私が押し切ることができて、彼は心底嫌そうにため息をついてから了承してくれた。連絡を取れるようにするために、彼の連絡先も交換できた。それじゃあさっそく。
「……なんで目の前にいるのに電話かけるんだよ」
「え? 疑うってこういうことでしょ? 本当の連絡先かわかんないし」
「マウント取られた気分……」
「君のおかげかな〜♪」
「めんどくさい奴を助けちまったもんだ」
ちゃんと彼の連絡先って分かったところで、改めて画面に映ってる彼の名前を見る。……なんて読むんだろ。名字は分かるけど。
「……ねぇ。なんて読むの?」
「
「萩近くんか〜。よろしくね!」
「よろしくはしたくないな」
「捻くれ者!」
初めて追加された男の子の連絡先は、とても捻くれた人物の連絡先だった。
やっとこさ出ました主人公の名前。名前は決まってたけど名字に悩んでた…。
もし作者が書く気が出た場合
-
海外編(単発デート)
-
グリグリ全員との絡み
-
陽だまりをくれる人とのリンク回
-
結婚式