同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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 最終回です。


10話

 

 11月ともなると上着がないと寒い。病院の屋上ともなれば風も強いから尚更寒く感じる。私はともかくとして、患者服の上に上着を羽織っただけのレオくんは余計に寒いよね。

 

 

「悪いなゆり。妹が迷惑をかけた」

 

「ううん。数年ぶりの再会だもんね。家族水入らずのところに入っちゃったのは私達だし。……いろいろ凄かったけど」

 

「結花も結花で見ない間に変わったとこもあったってことかな」

 

 

 苦笑して屋上の扉に目を向けるレオくんは、誰にも見せたことないような穏やかな表情をしてた。私も知らないし、あんな目で見てくれたことなんてない。嫉妬しちゃうと同時に、二人の関係の強さには敵わないんだって嫌でも理解させられる。

 つい感情的になって、二人を引き離そうとした時の結花ちゃんのあの顔(怯え方)。あれを見ちゃったら強く出られない。私が待ってた数カ月とは比べ物にならない年月。長い月日を耐えて耐えて耐えて、やっと出会えた兄から離れたくないというあの想いを知ったら、きっと私が身を引くべきなんだ。

 

 そう思ってたのにね。

 

 

『結花。少しここで待っててくれるか? ゆりと二人で話してくるから』

 

『ぇ……』

 

『そんな顔するな。話が終わったら戻ってくるから。しばらくは入院も続くだろうし、何回でも来たらいい。なんなら今日泊まっていけばいいから』

 

『……うん。あのねお兄ちゃん、いつも誕生日プレゼントありがとう♪』

 

『!? 気づいてたのか』

 

『最初はそうだったらいいな〜、だったけどね。今年ので気づいちゃった。プレゼント託してるの見ちゃったし』

 

『……そっか』

 

『嬉しかったよ。考えて選んでくれてたのが分かったもん。それとね──』

 

 

 結花ちゃんがレオくんに何を言ったのかは誰も聞こえなかった。耳打ちしてたからね。でも、それがレオくんの力になることなんだってことは分かった。『最高の妹だよ』って笑顔で言って頭を撫でてたから。

 結花ちゃんはそれだけでも幸せそうにニコニコしてた。なんとなく近い気持ちなら分かるけどね。レオくんに褒められたら嬉しいもん。

 

 起きたばかりのレオくんが外に出るのは、七菜が真っ先に止めてたけど、知っての通りレオくんは自分を曲げない。気分転換をしたいから、なんて言い訳にもならない理由でベッドから出て、私の手を引いて病室を出た。

 きっと私は止めるべきだった。だけど、レオくんと話をしたいという私の我儘が勝っちゃった。だからこうして屋上に来てる。

 

 

「みんなには謝らないといけないことばっかだな」

 

「そりゃそうだよ。五ヶ月弱は寝てたんだから。……本当に心配した」

 

「ゆり……ごめん……」

 

「っ! そんな……こと……! ……っ、わたし……こわかったんだよ? ポピパのオーディションのときもレオくんがいなくて……、いえにかえったらレオくんがびょういんにって!」

 

 

 ずっと我慢してた。弱音を吐いていられない時期だったから。みんなの進路の邪魔をしたくなくて、七菜たちといっぱい喧嘩もした。弱音を吐いてってお正月の時に言われてたから。でも、私は……それを言ったら私が壊れそうって思って、「大丈夫」としか言えなくて。

 手術が無事に終わったって聞いても、その後がどうなるかは分からないって言われて。レオくんは目を覚まさなくて。呼びかけても駄目で、抓ったら起きるかな、なんて考えてもそれも駄目で。どうしたらいいか分からなくて。

 

 

「もしかしたらずっとねてるんじゃないかって! もうはなせないんじゃないかって! こわくて……、そんないやなことばっかりかんがえちゃって……! SPACEのラストライブだっていやだった! レオくんがいなかったから!」

 

 

 思い返しては胸が締め付けられる。SPACEは私達の始まりの場所だった。あの場所があったから、私はレオくんとの繋がりを保てた。そのラストライブが怖かった。何もかも終わってしまいそうで、全てが過去のことになりそうで。

 

 ──その中に君の存在もそこに混ざってしまいそうで

 

 

「Augenblickの復活ライブもいやだった! なんでレオくんがおきてないのにって! 二人の幸せをねたむじぶんがいやだった!!」

 

 

 本当はもっとちゃんと祝ってあげたかった。私達の弟子とも言える雄弥くんの復帰を。リサちゃんとの結婚を。心からちゃんと祝福してあげたかった。

 だけどそんなことできなかった。彼らが復活してもレオくんは起きない。リサちゃんの幸せそうなあの姿を見ても、自分がそうなれないことが嫌で、悔しくて。そんな自分にこそ嫌気が差した。

 

 

「こんなのらしくなくて! 私がわたしじゃなくなって……! こんな私なんていなくなっちゃったほうがって、なんかいもかんがえて!」

 

 

 いつの間にかレオくんの腕の中に包まれてて、私はそこでずっと思いの丈を吐き出してた。レオくんの胸を私の涙が濡らす。でも寒くない。心だってもう寒くない。レオくんの手が私の背に回ってるから。包まれてて、やっとこの温かさを感じられてる。狂おしいほど好きで、愛おしい。

 

 

「俺は起きた今日にゆりを見られてよかったよ」

 

「ぇ……」

 

「結花と再会できたのも嬉しいし、ゆりが来てくれたのも本当に嬉しい」

 

「レオ……くん……」

 

 

 初めて向けられるレオくんの優しい表情。その声に私の心の氷が溶かされる。溜め込んでた感情が全て放出される。声にならない声が出る。感情がグシャグシャで、頭の中もグチャグチャ。今の自分の状態なんてもう分かんない。ただ心に従ってるだけ。

 

 

「レオくん……落ち着けた」

 

「そうか? 本当に大丈夫か?」

 

「うん。……あはは、レオくんって心配性なんだね」

 

「うっせ。大切な奴だけだよ

 

「ふぇっ!?」

 

 

 ボソッと呟かれた内容が耳に入って、私は一瞬で顔が赤くなる。捻くれ者のはずのレオくんが、ストレートに言ってくるんだから。早まる心音を落ち着かせようという思いよりも、もっとこれを感じていたいって思う自分がいた。だってこれも久しぶりなんだから。

 この感覚すら愛おしいと思えてきた。隣りでそっぽ向いてるレオくんの肩に頭を乗せる。腕を絡ませて手を握って。たしかにここにレオくんがいるんだって。そう認識できる。

 

 

「ねぇレオくん。話がまだあってね?」

 

「どれだけでも聞くぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 レオくんから一旦離れて正面に立つ。真っ直ぐレオくんを見られるように。

 

 早い鼓動を抑えられない。深呼吸しても煩いまま。

 

 でも、これでいいや。抑えられないのは分かりきってたし。

 

 

「私ね?」

 

 ──言うの? ずっと逃げてたのに

 

 うん。もう逃げないって決めたから

 

 

「レオくんのこと……」

 

 

 ──怖がってたのに?

 

 怖くてもだよ

 私は欲張りだからさ

 

 『やりたいこともやらないといけないことも全部やる』から

 欲しいものも掴み取りたいんだ

 

 

 自分を自分で振るい立たせる。唇だって震えてるし、手足も怖さで震えてる。怖さはもちろん、駄目だったときのを考えちゃってのこと。自信満々に、なんて無理だよ。無理だけど、伝えなきゃ。

 

 ──居場所(君の隣)を求めて痛いくらいに心が叫んでる

 

 

「好き……です

 

 

 この後にも言葉を続けたい。この先をどうしたいとか、レオくんといたらどうとか、いっぱい言いたいけど言えない。気持ちを伝えた恥ずかしさもあるし、これ以上言葉が口から出てくれない。

 思わず目を瞑っちゃってる。顔が熱いからまた顔が赤くなってるのも自覚できる。

 

 ──怖い……こわい……

 

 出会った時からずっと迷惑をかけてきた。私と距離を置こうとするレオくんの邪魔をして、逆に距離を縮めた。生活が苦しいと知っておきながら連れ回した。

 二年生の時もいっぱい迷惑かけて、怪我だってさせて。そんな迷惑な私がレオくんを好きになるなんて烏滸がましいにも程がある。だから、フラレたって納得できちゃう。でも、もし……。

 

 

(ゆりの気持ちには当然気づいてはいたんだが……これ──って言ったら……どんな反応するんだろうな)

 

「ゆり。……ありがとう」

 

「っ! あ、はは……うん、そう……だよね。迷惑……だもんね。ごめんね!」

 

「ちょい待ておい!」

 

「なんでだって──んっ」

 

 

 レオくんから離れようと、走り出そうとしたところで腕を掴まれて引き寄せられる。反対の手で腰に手を回されて、腕を引っ張った手で今度は顎を持ち上げられた。レオくんの顔が目の前にあって、口には温もりを感じて……。

 私の力が抜けたところでレオくんが離れた。レオくんもちょっと顔が赤くなってるけど、それ以上にきっと私の方が赤い。

 人生で初めてのキス。好きな人とっていう淡い願いも今叶った。でも、以前はレオくんに拒まれたのに……。

 

 

「なん、で……?」

 

「俺がゆりのことを好きだからだよ」

 

「っ!? ぇ、うそ……いつから……? だって全然そんな素振りなかった!」

 

「初めてゆりに紅葉を見せた時から。好きじゃなかったらあの場所は教えてない」

 

「っ!?」

 

 

 そんなに前から……。気づけないよ。全然分かるわけないじゃん。レオくんは全くそんな素振りなかったし、それどころか私のせいではあるけど、疎遠気味にもなったし。分かんない。ほんとに全然わかんないよ。

 私を優しく包んでくれるレオくんが、独白するように語ってくれる。レオくんの当時の心境を。

 

 

(こうしてゆりに伝えられるのも結花のおかげだけどな。『"自分のために涙を流してくれる人は貴重。そういう人こそ大切にしないといけない"って、お母さんがそう言ってたの、私も覚えてるよ。お兄ちゃんも幸せにならなきゃ』って背中押されたし、二十騎には『正直になって向き合いなよ』って言われてた)

 

「……怖かったんだ。俺は大切な人を失ってばかりだからさ。もしゆりと交際を始めたら、また失うんじゃないかって。ゆりまで消えたらって」

 

「ぁ……」

 

 

 レオくんはお父さんの方とは全然絆が無くて、お母さんの方は亡くなられてる。妹さんとは引き離されて、お祖母さんも事故で亡くなられた。

 だから……、だからレオくんはみんなと距離を取ろうとしてたんだ。仲良くなったらって、親密になっちゃったらまた失うかもしれないから。 

 

 今になって初めて知ることができたレオくんの弱さ。私はいつも遅いね。でも、これからはもう大丈夫。私がレオくんを支えるから。

 私はレオくんの首に腕を回して背伸びする。そしたらちょうどレオくんと唇を重ねられるから。背伸びしながら倒れ込むように体重をかけるけど、レオくんは受け止めてくれる。さっきよりも長くて深いキスをする。離れたら私達の口を繋ぐ橋がかかってた。

 

 

「大丈夫だよ。結花ちゃんとも再会できたんだし、私はいなくならないから。ずっとずっとレオくんの側にいるから」

 

「苦労するぞ。ある意味疫病神なんだから」

 

「レオくんと一緒なら平気だよ」

 

「……改めて聞くが、こんな奴でいいのか? 捻くれてて、ガキで、弱いやつだぞ?」

 

「そんなのどうでもいいよ。私はレオくんに、いつまでも冷めない恋をしてるんだから。二人の未来図を描こうよ」

 

「俺には勿体無いぐらいの女の子だよ」

 

 

 三度目の口付け。今度はどちらからともなく近づけあって唇を重ねた。お互いに腕の力を強める。今目の前にいる恋人ともう離れないですむように。誰にも奪われないように。存在()を刻みつける。

 

 

「っふぅ……。あ、レオくんって海外はどこに行くの? それ聞いてなかったから進路決めれなくて」

 

「あー、そういや言ってなかったな。ゆりが(・・・)行きたい(・・・・)場所(・・)だよ。いろんな世界を見たいって思ってるだろ? そのための貯蓄だけは死守してるし」

 

「……まさかレオくんに最初に気づかれるなんてね。でも、そっか……。それなら私の方で決めるね!」 

 

「任せた」

 

 

 レオくんが見てる景色、見ようとしてる景色。それと同じのを見ようとしても、そりゃあ見えるわけないよね。()互い(・・)()相手の見たい景色を見ようとしてたんだから。

 

 でも、こうしてそれが分かったのは本当に良かった。私達はようやく望んだ景色を見られるようになるんだから。

 病室に戻るためにレオくんと手を繋いで歩く。付き合う前からたまにしてたことだけど、やっぱりカップルってなったら少し違う感じがするね。

 

 

「今年も紅葉見たいし、卒業旅行も行きたいかな」

 

「全部行くぞ。紅葉は退院したらすぐって感じになるが」

 

「レオくんが無理しなかったらそれでいいよ」

 

 

 できなかったこともある。それでもこれからできることだっていっぱいあるんだ。またこうして隣同士歩けること、それがとても嬉しくて心がはしゃいじゃう。

 部屋に戻ってみんなに報告したら結花ちゃんと喧嘩した。やっぱり駄目だったみたい。でも、卒業するまでの間はレオくんとの時間を優先的に譲るってことで落ち着いたもらった。私が彼女なんだけどね。でも同じ家で生活できてるからいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は気づいておくべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオくんの心音が弱まってたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママー。パパのお話ー」

 

十璃(とおり)はパパの話好きだね〜。うん、いいよ。こっちにおいで」

 

「やったー! 続きね続き! こーこー1年生の夏休みからだよ!」

 

「うん、分かってる。高校1年生の夏休みはね、バンドメンバーとパパとで海に行ったんだよ。それでね──」

 

 

 君との時間は短過ぎたね。でも、私の人生を最高に彩ってくれてたよ。

 

 

 

 ──ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って夢を見たんだけど」

 

「おいこら俺を勝手に殺すな」 

 

 

 今日が出立日。前日はレオくんと同じベッドで寝させてもらった。そしたらあんな怖い夢見たんだけどね。起きたらレオくんがちゃんと隣りに居てくれて安心できた。

 レオくんが目を覚ました日から交際は続いてる。レオくんが退院したら報告していったけど、みんな『今さら?』って反応だった。オーナーは普通に祝ってくれたのにね。

 

 ラストライブは盛り上がった。レオくんが作ってくれた曲も披露できたし、りみや香澄ちゃんたちも見てくれたしね。レオくんはステージに立ってくれなかったけど、舞台袖で見ててくれた。終わったらすぐに駆け寄って抱きしめちゃったよ。あと結花ちゃんとはステージに立ったことには嫉妬した。

 帰国してライブする時には意地でも一緒に立ってもらうからね。他にもいろいろ思い出がある。それを胸にしまって、隣にいるレオくんの手を取りながら確認するように話しかける。

 

 

「レオくんはずっと側にいてくれるもんね?」

 

「当たり前だろ。ゆりを残して死ねるかっての」

 

「……レオくんが起きたあの日。すっごいびっくりしたんだけど。部屋に戻ったらいつの間にか寝てて、てっきり……」

 

「あれなー。あれは疲れがドッと来たからな。やっぱ起きてすぐに寒い屋上は無理があったな」

 

 

 レオくんは、あの日私と結花ちゃんが話をつけてる間に眠ってしまっていた。てっきりそれで……って慌てたんだけど、ひなとリィがレオくんの脈とか呼吸を確認してくれて、ただ寝てるだけって分かった。人騒がせにも程があるけど、無理させたのは私だから何も言えないよね。

 

 

「まぁでも、お互いの気持ちを伝えあえてよかった」

 

「ふふっ、それもそうかな。レオくん。──大好きだよ」

 

「あぁ俺もだよ」

 

 

 春風が吹いて、桜も道に咲いてる花もみんな踊ってる。今はまだこうして触れていたい。

 

 

 ──心地よくて大切な関係

 

 

 そんな朝焼けの中で君と手をつないで歩く。

 

 

 ──ずっとずっと君と生きていくよ

 

 

 




 
 最後まで読んでいただいてありがとうございます! 無事(?)に最後まで書き切ることができました! 我ながらニッチにも程があるなって思いましたが、好きなんだから仕方ない!! 皆さんも好きになりましょう!
 グリグリメンバーをもっと出せれば良かったんですけどね。なんせ口調が掴みきれない。特にリィさんとひなさんのノリの違いがさっぱりです。アニメ見返したらさらに混乱するという始末。その末、ゆりさんメインなのでいいかなと開き直ってました!
 彩ちゃん√はのんびりやろうかなーと。そんな多くないです。3〜5話程度を想定してます。

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
  • グリグリ全員との絡み
  • 陽だまりをくれる人とのリンク回
  • 結婚式
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