同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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二年生編のクリスマスまで読まれることを推奨します。(一年生編を読まなくてもなんとかなるかな?)


彩ルート
もう一つの可能性


『ごめん彩』

 

 

 その短い一言だけを告げて玲音さんはいなくなった。向かう先は分かってる。ゆりさんがいる場所に行ったんだ。ゆりさんの彼氏さんとのトラブルを解決するために。ゆりさんを助けるために。

 ──優先されるのはゆりさん。

 分かってるつもりだった。理解してるつもりだった。それでも、そんなの関係ないのがこの感情()で、奪いさりたいと思ってしまう。私を優先してほしいって思う。私だけを見ていてほしいって。

 私だけが愛したい。私だけが愛したい。独占したいし独占されたい。お互いにお互いの一番っていう関係になりたい。それだけを望んでいて、そうありたいと願ってる。

 

 

「はぁ〜……寒いや……」

 

 

 玲音さんに想いを告げたかった(告白したかった)。望みなんて全然ないのが分かっていても、それでも少ない希望に縋りたかった。それなのに、現実を突きつけられるのが怖くて、今のままでもいいんじゃないかって頭によぎってしまった。そのせいで言葉にできなくて、その間に玲音さんの携帯に電話がかかってきた。そして玲音さんはゆりさんを助けるためにすぐにいなくなった。

 

 ──告白できずにフラレた

 

 それがクリスマスイブ(今日という日)の出来事だった。それがどれだけ辛いことか。後からジワジワと私の心を締め付けて、痛めつけてることか。

 一人家に帰る途中の公園に寄って、冷えた指先に吐息をかけて温める。指先が温まっても、私の心は温まらない。舞い落ちる純白の淡雪。積もることなく溶けてしまう雪。まるで私の恋愛みたい。

 どれだけ悲しんでも、どれだけ彩ろうとしても、ゆりさんという大きな存在の前ではかき消されてしまう。玲音さんの心のキャンバスには、丸山彩の色が残らない。

 

 だって私の色がこの雪のように純白なんだから

 

 「彩」という名前に反して、私には色なんてない。いっぱい抱え込んで、ストレスも疲労も闇も背負う。そんな玲音さんの黒いキャンバスを元の状態(白色)に戻すだけの存在。

 だから私の心だって元に戻るんだ。どれだけ頑張っても結果という色を得られない私へと。玲音さんと過ごした9ヶ月で彩られた私が消える。現実を思い知らされる。この結果(白色)こそがお前にふさわしいと。分相応なのだと。

 

 

「夢……くらい……見させてよ……。一回ぐらい……願いを叶えさせてよ……!」

 

 

 誰に向かって言ってるわけでもない。ここには私一人しかいないのだから。もし神様がいるのなら、その神様に言ってるのかもしれない。だって人は神様に願うのだから。

 玲音さんと過ごした時間を思い出す度に涙が溢れてくる。目に溜まった涙はすぐに溢れて頬を伝っていく。溢れ落ちる涙が淡雪に当たって、白色すら消していく。それを目にして、嫌な思考になっちゃってる私は自分をさらに否定する。丸山彩には、白色(・・)すら(・・)烏滸(・・)がま(・・)しい(・・)と。無色こそが私なんだと。

 

 

「いやだ……いやだよぉ……寒いよ……助けてよ…………あたためてよ」

 

 

 自分の体を抱きしめるように体を丸める。それでも寒さは変らない。だって私の心が一切温まらないんだから。雪の中でこうしてるから体も冷えていく。温もりを感じられるのは、頬を伝う自分の涙だけ。自分で慰めるしかないんだ。

 

 

 

 どれだけ泣いたのか分からない。時間なんてわからない。涙がいっぱい溢れた。これ以上は涙も溢れないんじゃないかな。これだけ泣いたのはいつぶりだろう。もしかしたら一番泣いたのかもしれない。

 冷えきった心と冷えきった体を動かして家へと変える。たぶん目も赤くて涙の跡は消えてないはずだから、お母さんたちにバレちゃうね。妹にまた泣き虫って言われちゃうかな。でも、今日のだけは許してほしいな。お姉ちゃんすっごい頑張っても駄目だったんだから。

 暖かい家に帰ろう。暖かいご飯を食べて、暖かいお風呂に入って、暖かいベッドに包まって寝よう。そうしたらきっとこの冷たい私も温かくなるはずだから。きっと明日からまた"丸山彩"になれるはずだから。笑顔いっぱいの私に。

 

 

「なんか入りにくいな……」

 

 

 自分の家なのに入りにくい。おかしいよね。だけど、私はこの理由がなんとなく分かっちゃってる。家に入ったら今日がもう終わりだからだ。今日が終わるということは、玲音さんとの日常ももう終わりということ。明日から私達の関係はきっと変わる。言葉にできるほどの変化でもない。だけど、その変化は大きな変化。もう今まで通りにはできないのだから。

 踏ん切りがつかない。いつものくよくよする私だ。家の敷地に入るための小さな門。それを開けるためのドアノブに伸ばした手が震えてる。力が入らない。重さを感じないほど軽いはずなのに、開けることができない。

 

 ──私は……

 

 未練も何もかも全て振るい落とすように私は思いっきりドアノブを下げた。勢いをつけすぎたせいでカシャン! って大きな音がした。門を開けた音だけど、その音は私の心に鍵をかけた音でもある。忘れ去るために、この感情を深く落としてこんで閉じ込めるための鍵。一度失敗してることだけど、今回は大丈夫。失敗なんてしない。綻びなんてない。

 

 

「彩!!」

 

「っ!? なん……で……」

 

 

 壊れないように頑丈にしたはずの心の壁に、その声だけでヒビを入れられる。声に反応して振り返った視線の先には、もちろんその人がいて、その姿を見るだけでヒビが大きくなる。

 どれだけ走ったんだろう。玉のような汗が溢れてる。息が乱れてて、肩も大きく上下してる。その中でも目に入ったのは玲音さんの手。血が溢れてる。

 

 

「その手は」

 

「ただの刺傷だ」

 

「……なんで来たんですか? ゆりさんは?」

 

「ゆりは家に送り届けた。そっから急いでこっち来たんだ。彩に連絡入れても反応なかったからさ、もしものことがあったらって不安になって来たんだよ」

 

 

 玲音さんに言われて携帯を確認する。そこにはたしかに玲音さんからメッセージが入ってて、電話も来てた。全然気づけなかった……。

 

 

「……気づけなくてごめんなさい。来ていただいてありがとうございます。私は大丈夫ですから」

 

「みたいだな。表面は(・・・)

 

「っ!」

 

「彩。寒いだろうが、もう少しだけ時間くれるか?」

 

 

 私の肩に自分の上着をかけた玲音さんが、真剣な眼差しでそう言ってきた。真剣だけど、優しさもあって、私は玲音さんのそういうとこが好きで……。

 腕をクロスさせるようにしながら、かけてもらった上着を引っ張る。玲音さんのお願いに頷きながら顔を伏せる。この気持ちはもう終わりにするんだ。短くても彩ってくれたけどの時間をもう望んじゃいけないんだ。私の心が壊れる。

 

 

「んー、考えが纏まらないから直球でいくな?」

 

「どうぞ……」

 

 

 怪我をしてまでゆりさんを助けたんだ。電話が来たときも凄い怖い感じになってた。きっと恋愛漫画みたいに、助けてそのまま付き合うって流れになったんだ。ゆりさんが玲音さんを好きなのは分かってたこと。玲音さんだって口ではああ言ってるだけで、ゆりさんを想ってるのは誰だって分かる。玲音さんはきっちりしてる人だから、きっと私にそれを告げて、私達の関係も一区切りつけるんだ。

 

 

「彩のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」

 

「……ぇ」

 

 

 なにを……言って……。あ、きっとこれは夢なんだ。私はもう家に帰ってて、もうベッドで寝てるんだ。そうじゃなかったらこんな展開になるはずがない。私が望んでる展開になるはずがない!

 

 

「もう覚めて……もうこんな夢いらない!」

 

「彩?」

 

「玲音さんももういいです! 私のために夢にまで出て来てもらわなくていいです!」

 

「彩!!」

 

「っ!」

 

「これでも夢だって思うか?」

 

 

 玲音さんの右腕が背に回されて体を引き寄せられる。玲音さんの体温、心音。全部知ってる。たしかに夢じゃないかもしれない。けど、分からない。もう私には何も分からない。

 

 

「だって……玲音さんはゆりさんが好きで、ゆりさんも玲音さんが好きで……。だから私が玲音さんに好きって言われるはずがなくて!」

 

「残念ながら、今この状況が現実だ。俺が彩のことを好きなのが現実なんだよ」

 

「そんなの……。じゃあ証明してみてくださいよ! 玲音さんが私のこと好きって! ゆりさんじゃなくて私を選んだことを信じさせてみてください!」

 

「分かった。文句言うなよ?」

 

 

 玲音さんが私の後ろに回していた手をどけて、私の顎を軽く持ち上げる。そのまま被さるように唇を塞がれる。そこから玲音さんの想いが流れ込んできて、私の冷えた心が温まる。無色な私が、萩近玲音という一人の異性の色に染まっていく。

 これが夢なんて思いたくない。これが現実であってほしい。私は夢中になって玲音の首に腕を回して、離れられないように唇を押し当て続けた。

 

 これが現実であってほしい

 

 私にだって叶うものがあるんだって

 

 そんな結末もあるんだって

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

 ふと気づいたら私は自室にいた。私のベッドにいて、時間はいつも起きる時間より10分早いかな。

 ふと胸が苦しくなったのを感じた。そうだ。私はさっきまで凄い幸せで……。でもやっぱりあれは夢だったんだ。これが現実なんだ。

 そこで、右手が動かしにくいことに気づいた。そっちを見て理解した。そこには玲音さんがいて、夢なんかじゃなかったって。私は昨日いっぱい玲音さんに愛されて、私も玲音さんを愛したんだった。

 私はまだ寝てる玲音さんに被さるように寝転び直す。聞こえてくる玲音さんの心音。大好きな人の温かさ。私だけが感じられる玲音さんの全て。その全てが愛おしい。

 

 

「玲音さん、大好きです」

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