朝からいろんなリアクションを取っては騒いでる牛込に手を引っ張られること3分。牛込の言っていたショッピングモールに着いた。ショッピングモールとかデパートはたいてい10時から開店するが、ここは9時から開いているらしい。
「で? いつまで手繋ぐ気だよ」
「あ……ご、ごめん!」
「……どこ行くんだ?」
「えっとね、洋服屋さんに行こうかなって。ちょっと早いけど夏服も売ってるはずだし」
「夏服なぁ。……女子ってすぐ服買うよな」
「萩近くんは買わないの?」
「着れるやつを着回す」
「え!?」
なんでそんな驚かれないといけないんだよ。服なんて着れるやつ着てたらいいじゃないか。どこに問題があると言うんだ。どうせ着なくなったやつとかあるだろ。2着あったらいいんだよ2着。
「……君の分も買うよ」
「え、牛込の金でか?」
「なんで!?」
「貧乏人舐めんなよテメェ! こちとら生活切り詰めてんだよ!」
「……ごめん」
「……ったく」
申し訳なさそうに目を伏せる牛込を置いて服屋に入る。少し足取りが重くなった牛込が後ろからついてくるが、俺としては先に行ってほしい。
なぜならここは女物の服しか置いてないからだ。まず場違いでしかない場所なのに、率先して入っていってるようで嫌気が差す。男物の服が置いてあるなら関係ないのだがな。見ていたとしても買う余裕もないから、どのみち行っても仕方ないのだが。
「……どういうのを買うか決めてんのか?」
「……え?」
「え、じゃねぇよ。買いに来たんだろ? ある程度決めてるもんじゃないのか?」
「あ、うん……。でもいろいろ見たいから時間かかるよ?」
「丸一日潰されることが確定してんだ。どこでどれだけ時間かかろうと気にしねぇよ」
「棘のある発言だね」
「隠す気はないからな」
とは言ってもずっと不貞腐れても仕方がない。時間を長く感じるだけだし、その方がダルい。そんなわけで、女物しかないが軽く見てみることにした。さすがに牛込から離れて見てたら不審だから、同じ場所にいて違う服を見るって形になる。
「あ、これ可愛い」
「そういうのが好きなのか?」
「うん。こういうの
「……ちなみにこっちは?」
「え…? それも可愛い! 好き!」
「……何でもいいんじゃねぇか」
「それは違うからね! 好みはあるの! 可愛いと思うけど好みじゃない、みたいなのもあるんだよ?」
「わけわからねぇ」
どういう感覚してたらそんなことになるんだよ。可愛いけど可愛くない、みたいな発言だぞ。……女子は日頃から哲学でもしてるってのか。哲学好きの女子なんて全然見たことないが。あ、存在自体が哲学なのか。
「今変なこと考えなかった?」
「考えてないぞ。お前のスリーサイズなら今測ってたが」
「え!?」
「嘘だけどな。引っかかりやがって」
「〜〜! もう! からかわないでよ!」
「だってスリーサイズなら前把握したし」
「もう引っかからないよ? それも嘘でしょ」
「牛込がそう思いたいならそれでいいんじゃないか?」
「……え、うそ……え? ほんとに?」
相変わらず反応が面白いな。純粋なくせにノリがいいから、からかい甲斐がある。まぁスリーサイズなんぞ知らんけどな。……おい距離を取るな。
「冗談だから。そんなん見ただけで分かるわけないだろ?」
「……じゃあ今証明してみて」
「は?」
「今上から順番に言ってみて。それで外れてたら嘘って信じられるから」
「……なるほど。じゃあ上から─────。な? 外れてるだろ?」
「……」
「……まさか」
「外れてるよ」
「外れてんのかよ! ややこしい反応すんな!」
「あはは! 仕返しだよ〜だ」
くそ、一気に疲れた。精神的に疲れたぞ。俺にそんな不名誉な特技があったとは……ってなるとこだった。
俺に仕返しをできたことがよっぽど嬉しかったのか、牛込は上機嫌で服選びに戻った。手にとってはみては元に戻し、候補になった服は手に持ったままだった。3着ほど候補に絞ったところでこちらに視線を向けてきた。この状況で言われることは分かるが、断固として断る。ファッションなんぞ分からないからな。
「この中だったら「店員に聞け」……早くない?」
「俺に聞いてどうする。今の俺の服装を見ろ。ファッションなんて皆無だろ」
「……そうだけど、男の子の意見だって聞きたいし」
「なんだ気になる男でもできたのか?」
「んー、ある意味気になる子かな」
「それなら尚更俺と関わるのはやめた方いいぞ。お前が頑張ってアプローチかけても、『あの男誰?』ってなるから」
「……そうだね」
こいつなんで軽く拗ねるんだよ。わりと真当なアドバイスしたじゃねぇか。昼ドラでよく女の人が『あの女誰なのよ!』みたいなことするじゃん。
それを男がしないなんてなんで言い切れるんだよ。このご時世じゃ草食系男子って呼ばれる奴らが多いんだぞ。『僕だけを見てればいいんだよ』みたいな男が湧いてるんだからな。
正直そんな男や女とは絡みたくないけどな。そういうことになるってことは、自分が相手に魅力がないって思われてるってことだろ。拘束しようとするなよな。自分を磨け。これは誰にも負けないって胸張って言えることを一つでも身につけろ。
ちなみに俺は"自分を誇る"ことなら誰にも負けない自身がある。自分を好きになれない奴がどうやったら人生を楽しめるってんだ。生きている以上"自分"とはずっと付き合っていくんだ。受け入れるしかないだろ。今は受け入れられなくても、折り合いはつけられるようにしろ。それすら嫌なら死ね。
「とにかく、私は萩近くんに選んでほしいの」
「奇抜なファッションだねって友達に言われても知らねぇぞ? ……あ、友達いないのか」
「いるからね!? 萩近くんと一緒にしないで!」
「さらっと酷いこと言うよな。合ってるけど」
「え……いないの? 前にあったチャラい人は?」
「……ぱし……じゃなかった。舎弟」
「今パシリって言おうとしてなかった?」
「気のせいだ。それと友達なんぞいらん。俺の人生にプラスになる奴ならともかくとして、足引っ張る奴なんかいても邪魔なだけだからな」
「ほんっと捻くれてるよね」
何を今さら言っているんだこいつは。既に分かりきってることじゃないか。自覚もしているが、改める気もない。自分の邪魔をする奴と一緒にいる意味がどこにある。極端な例え話だと、受験勉強しているところに「遊びに行こうぜ」って言ってくる、そういう奴はいらないだろってことだ。他にはタバコ勧めてくる奴とかな。
「私は友達って、良いことも悪いことも受け入れあえる人のことだと思うよ。お互いに直し合って高め合えるような」
「……友達、ね。それなら今のお前にそんな相手がいるのか?」
「そうなれそうな人ならいるよ。七菜がそうだと思う」
「七? 数字が友達なのか? 案外寂しいやつなんだな」
「違うよ! 七菜! ほら、前私と一緒に君のバイト先に行った子」
「……あぁ、あのクソ真面目そうな子か」
「クソは余計だよ」
いやな、だってあの子はどう考えても超堅物だろ。教師陣が優等生の鏡とか言いそうな子だよな。俺とは絶対に相容れない存在だわ。完全に正反対の性格してるしな。
「ほら、話を逸らそうとしてないで服選びしてよ」
「チッ、覚えてたか」
「手に持ってるからね」
「男なら誰でもいいんだろ? ならそのへんの男捕まえて意見聞いたらいいんじゃないか? 俺よか断然良いコメントしてくれるぞ」
「知らない人には頼みたくないかな。それに、そういう事するのは良くないんでしょ? 知らない人を警戒しろって言ったの萩近くんだよ?」
「……はぁぁーーーーーー、わかったよ。期待なんてするなよ?」
「ため息長すぎ。うん、どう見えるかを言ってくれたらそれでいいから」
実際に着てもらった方がまだマシなコメントできるかもしれない。そんなわけで牛込には試着してもらうことにした。試着室に入った牛込が「覗かないでね」って言うから、「それはフリか?」って聞いたら怒られた。タイプじゃない女の着替えを覗くわけないのだが、ああやって言われたらやってやるしかない。
というわけにもいかなかった。後ろの方で店員がこっちをガン見してるし、片手にはスマホが握られているからだ。これで中を覗いたら即通報される。イタズラ心を抑えるしかないな。
「ど、どうかな?」
なんかイタズラできないものかと考えていると、牛込が着替え終わったようだ。別に下着やら裸やらを見せるわけでもないくせに、何を気恥ずかしそうにしているのやら。さっきまで着ていたタイプとは打って変わって、今牛込が着ているのはワンピースタイプの服だった。夏用だからか、爽やかな水色を選んだんだろうな。
「いいんじゃね?」
「むぅ、テキトウだね」
「だから期待すんなって言っただろ」
「もうちょっとマシなこと言ってくれると思った」
「……夏を意識してるからその色にしたんだよな? その目的は果たせてるし、どことなく落ち着いた印象を与えてるし、牛込に似合ってるとは思う。だが、どこか少し違う気もする。何がかは分からないけどな。……これでいいか?」
「……」
「なんだよ」
「ちゃんと言えるなら最初からそうしてよ!」
「俺の好みを言うだけになりそうだからやりたくねぇんだよ。牛込も俺みたいな人間を対象とした服を着たいわけじゃないだろ?」
「……そうだけど」
少し違う、というのも似合ってないってわけじゃない。正確には何かが足りないんだ。そのへんはアクセサリー類で解消しそうだが、それこそ牛込が俺の着せ替え人形と化すからやらない。牛込は元々の素材がいいんだからたいていの物を着こなせる気がするんだよな。……だからこそ悩んでるのかもしれないが、贅沢な悩みだ。
「とりあえず他のも着てみろよ」
「うん。そうする」
残りの2着も試着させ、それぞれ雑にコメントもしといた。雑すぎて文句を言われたが、雑にするか俺の好みに沿って細かく言うかしかできないから仕方がない。それに、何が嬉しくて好きでもない女のために真面目に評価しないといけないんだ。
「結局どれにするんだ?」
「うーん、2個目のがいいかなって思ったんだけど、萩近くんはあんまいい反応じゃなかったし、……どれもだけど」
「そりゃあまぁ相手が牛込だからな」
「どういうこと!?」
「そのまんまの意味だ。一応言っといてやるが、2個目のが1番合ってたぞ」
「ほんと!?」
「俺にはそう見えた」
「じゃあこれにするね! ありがとう♪」
嬉しそうに分かりやすくはしゃいで服をレジへと持っていっていた。さり気なく他の2着を俺に押し付けているあたり、ガメつい面もあるようだ。男が持っていても気持ち悪いだけだから、すぐに元の場所に服を戻して店の外に出る。牛込が買ったのは青系統の服で、少し首元の緩い服だった。鎖骨がはっきり見えてたしな。その服が入った袋を持ち、笑顔で出てきた牛込に次の予定を聞くことにした。
「別の服屋さんだよ♪」
「……は?」
「まだ1着しか買ってないもん」
「……まじか」
女の買い物は長い。
その理由が少しわかった瞬間だった。
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