同じ景色を見られたら   作:粗茶Returnees

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7話

 

 約3時間に渡るショッピングに付き合わされ、俺は精神的に疲れた。楽しい時間ならあっという間に終わる。それは誰しもが分かっていることだろう。そしてその逆も然り。楽しめない時間は本来の何倍も長く感じる。俺とって今回のこれは後者だ。と言ってもそこまで極端というわけではない。服の組み合わせによる印象の違いについて考えることは楽しめた。

 

 

(でもそれだけなんだよな。俺には縁のない話だから考えても虚しいだけだし、飽き性だからすぐに暇になるわけだし)

 

 

 飽きてからはただただしんどかった。全く進まないように感じる時間を過ごし、尽く俺に意見を聞いてくる牛込の相手をした。最終的に牛込は3時間程で6着買っていた。そんなに余裕がない俺からしたら何とも贅沢な話だ。

 

 

「お昼にしよっか」

 

 

 こちらの疲労を知ってか知らずか、牛込は覗いてくるように顔を傾けてそう言ってきた。これも無意識にやっているんだろうな。牛込に気がある男だったらイチコロだろう。そういうことも教えながら足を運び、やって来たのはイタリアンの店。なぜここなのかは、牛込の気分なんだそうだ。

 

 

「どれにしよっかな〜」

 

「一番安いやつ」

 

「じゃあ萩近くんはデザートだね」

 

「言うようになったな。味はバニラで」

 

「え、いやいや! ちゃんとご飯食べてよ!」

 

「一番安いやつって言ったろ? それに牛込もデザートにしろって」

 

「しろとまでは言ってないよ!? 冗談で言ったわけだし……」

 

 

 またからかってるだろって疑いの目を向けていた牛込だが、俺が聞く耳もたないって態度を取ると本気だと受け取ったようであわてふためき始めた。メニュー表を何度も捲り、何やら頭を悩ませている。やはり女子は分からん。

 

 

「……何してんだ」

 

「……これなら君も食べられるんじゃない?」

 

「は?」

 

 

 牛込は俺がメニューを見やすいようにメニュー表の向きを変え、あるメニューを見せてきた。もしやと思ったが、どうやら本当に俺が食べるものを考えていたらしい。ネタの提供が上手い女子だ。

 

 

「俺は本気でアイスだけを食べるなんて考えてないぞ」

 

「……え?」

 

「俺をからかおうなんて100年早いぞ」

 

「〜〜っ! ばか!」

 

「うるせぇな。……ま、これにするよ」

 

「へっ?」

 

「牛込が選んでくれたしな」

 

「なっ……! ズルいよ

 

 

 急に視線を合わせなくなったが、こいつまだ自分のを選んでないだろ。視線そらしてないで決めてくれよ。……あれか、決めてもらったから俺が決めてやればいいのか。そう判断してメニュー表を見ていたら、復活した牛込に没収された。俺が変なもの頼もうとでも思っているのか。だとしたら失礼な奴だな。それと結局自分で決めるんだな。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 萩近くんとのお昼ご飯を食べ終わって、お店も混んでるからすぐに出ることにした。食べ終わった時に「ジッとしてろ」って言われて、何だろうって大人しくしてたらナフキンを片手に口の周りを拭かれた。

 高校生になって、しかも異性の人にそんなことされるなんて思ってなくて、すっごく恥ずかしかった。口角を上げていたから、からかうって目的もあったんだろうね。

 

 

「次どこ行くか決めてるのか?」

 

「えっと……少しお店見て回ったら楽器屋さんに行こうかなって思ってるよ」

 

「楽器屋?」

 

「うん。私音楽好きだから」

 

「…………そうか」

 

 

 何やら不思議な間があったんだけど、萩近くんは音楽好きじゃないのかな。チラッと顔を見てみたらそれなら楽器屋さんは今日じゃない方がいいかな。そう思って代案を言おうと思ったんだけど、それより先に彼が口を開いた。

 

 

「楽器屋に行く以外の予定が無いなら本屋に寄っていいか?」

 

「うん、いいよ。どういうの買いに行くの?」

 

「いや買わない」

 

「え」

 

「パラ読みするだけだ。そこまで時間を取るわけでもないし、悪いが付き合ってくれ」

 

「私も付き合ってもらってるわけだし、それぐらい全然いいよ」

 

 

 エスカレーターで下の階に降りて本屋さんに行く。彼がどういうのに興味があるのか気になって後ろを付いていくと、参考書にザッと目を通し始めた。捻くれてるけど勤勉な人みたいだね。一通り5科目に目を通したらいろんな資格のコーナーに移動してた。どの資格がどう使えるかを見ては難しい顔をしてた。

 

 

「資格取るの?」

 

「就職で使えるやつならな。就職したあとでも活用できるのがベストだが……」

 

「それは就職先次第だよね」

 

「そうだな」

 

 

 完全に手探りってわけでもないみたい。どういう方面に就職するかは考えてるみたいで、目を通すどころか手に取らなかった分野もあったしね。彼の目的は本当にすぐに終わったみたいで、もう本屋を出るみたい。

 

 

「もういいの?」

 

「ああ。ひとまず仮定はしたが、そっち方面のバイトしてから決める。俺には無作為に時間を潰す余裕もないからな」

 

「……ごめんね。大事な1日だったんだよね」

 

「……いいさ。予定を組み直せばどうとでもできる。やりたいこともやらないといけないこともやる。それだけだ」

 

「それいいね。私気に入っちゃった」

 

「使いたきゃ使え」

 

「やった!」

 

(俺はもうそう言ってられないからな)

 

 

 彼の信条……なのかな。とりあえずその言葉は私にもスッと入ってきて、すっごい同意できた。どこか冷めたような態度ばっかり取る人だけど、根底には熱い気持ちがあるのかな。ただ捻くれてるだけじゃない気がしてきて、そしたら不思議な人って印象も出てきた。そんな彼の目がある雑誌をずっと見てた。女性向けの雑誌で、可愛いかったり大人っぽかったりするアクセサリー類が紹介されてるやつだった。

 

 

「気になるの?」

 

「……少し、な」

 

「へー意外。興味無さそうな感じなのに」

 

「興味があるわけじゃない。ただ贈り物としては悪くないかと思っただけだ」

 

「贈り物? 萩近くんが女の子に?」

 

「まぁな。これを男に送るわけないだろ」

 

……女の子に

 

「1ヶ月先がそいつの誕生日なんだよ。1ヶ月なんてあっという間だし、慣れないジャンルだから早めに行動しとこうかと思ってな」

 

「へ、へー? ……うん。いいと思うよ……」

 

 

 萩近くんが知らない子に贈り物をする。別に私がどうこうする話じゃない。全然人と関わろうとしないのに女の子目線の意見も知ってたりする人だもの。きっとその人に教えられてるんだろうね。それなら萩近くんがお礼として誕生日プレゼントを買ったっておかしくない。

 その人のことは性格ぐらいしか教えてくれなかったけど、明るくて元気な子だということは分かった。……これ教えてくれたって言っていいのかな。そんなツッコミもしたかったけど、話す気がないみたいだし仕方ないよね。

 二人で雑誌を見てはどういうのが良いか話した。彼の中でどういうのにするか決まったところで今度こそ本屋さんを出た。

 電車に乗って街に戻って、私が行こうと決めていた楽器屋さんに行くことにした。向かっている時に彼が"音楽"に微妙な反応を示したことを思い出して、そのことを聞いてみた。でも予想通り教えてくれなかった。私の中にあるこのひっかかりは、当分取れそうにないね。

 

 

「いらっしゃいませ〜。ややっ! お二人さんデートですかな?」

 

「その人形もぐぞ」

 

「それだけは勘弁を!」

 

「過剰になりすぎでしょ……」

 

「牛込となんてごめんだからな」

 

「むっ! 私だって萩近くんが彼氏なんてごめんだから!」

 

「お二人とも仲いいね〜」

 

「「人形もぐぞ/もぐよ」」

 

「えぇ!?」

 

 

 失礼なことを言ってくる店員さんだったけど、冷静になってみれば同い年くらいの人だった。ここでバイトでもしてるのかな。なんか仲良くなれそうな感じがするけど、今はそれが目的じゃないから後回しだね。

 私が店の奥に歩いていくと萩近くんも付いてきてくれた。……単純にあの人と絡みたくないのかもしれないけど。私がここに来たのはちゃんと目的があってのことだけど、萩近くんはそうじゃない。それに彼はあまり音楽と関わりたくないみたいだしね。

 

 

「……ギターか?」

 

「うん。ベースなら持ってるんだけど、ギターもやりたくて」

 

「へー」

 

「聞いたわりに反応薄いんだね」

 

「牛込が何やろうと俺には関係ないからな。それより買えるだけの金あるのか?」

 

「あるよ。ベースを妹に譲るって言ったらお父さんがお金出してくれた」

 

「…………愛されてるな」

 

 

 彼のその返しに私は何も言えなくなった。言葉を聞いただけなら何か言えたと思う。でも、彼の表情を見たら言葉を失っちゃった。

 彼の表情はとても怖かったから。今まで見たことなくて、まるで何かに取り憑かれたんじゃないかって、そう疑いたくなるぐらい恐怖を覚える表情だった。彼は家族と上手くいってない……どころじゃないみたい。そこは流石に踏み込めないや。

 雰囲気を変えるためにもギターへと目を向け、どれか自分に合うものがないか探す。焦り気味に目を動かしていたけど、なんとか気になるギターを見つけることができた。それを取ろうと思ったんだけど、ちょっと手が届かなかった。なにか台が無いかと辺りを見回してると、横にいた彼が私が取ろうとしたギターを取ってくれた。白色のギターを。

 

 

「これでいいんだろ?」

 

「そう。ありがとう」

 

「ちょこっと弾いてみるー?」

 

「うわっ!? びっくりした〜」

 

「カウンター離れていいのか?」

 

「社員さんが今カウンターにいるからね〜」

 

 

 カウンターを覗いてみるとこの子の代わりに男の人がたってた。あの人が社員さんなんだね。視線を戻すと目の前にさっきの女の子が立っててまたびっくりさせられた。

 

 

「私は鵜沢リィ。花咲川の1年生だよ。よろしく!」

 

「あ……私は牛込ゆり。私も花咲川の1年生なんだ。よろしくね!」

 

「うん! それでそっちの君は?」

 

「……萩近玲音だ。同じ1年だな。よろしくはしたくない」

 

「もう! またそんなこと言って!」

 

「あはは! 面白い人だね!」

 

 

 鵜沢さんと少し話し込んだらすぐに打ち解けられて、お互いに名前呼びになった。彼はその間ずっと他の楽器を眺めてた。音楽に対して微妙な反応してたのに、興味はあるのかな。それもこれから分かるのかな。

 試し弾きをさせてもらったら余計に引き込まれちゃって、私はこの白いギターを買うことにした。ケースとピックも買ったけど、それ以外の機材は今日は買ってない。重たいのもあるし、お父さんとくる時に買うことにする。

 その後もリィと話しこんじゃって、萩近くんは店員さんと話してた。さすがに申し訳なかったね。夕飯も萩近くんと食べることにして、日が暮れてからお店を出た。

 

 

「ごめんね。家の前まで送ってもらっちゃって」

 

「気にするな。俺も帰り道がこっちだからな」

 

「ありがとう。ところで……その、楽しんでくれた?」

 

「まぁそれなりにな(・・・・・・)

 

「よかった〜」

 

 

 リィと話してたときのことを思い出すと、今日を楽しんでくれなかったんじゃないかって思っちゃってた。でも、彼は楽しんでくれたみたいで、そのことにすごい安心しちゃった。

 

 

──だから

 

 

「そんなわけで牛込。俺の連絡先を消せ」

 

…………え

 

 

 

──彼に言われたことを理解できなかった

 

 

 

 

もし作者が書く気が出た場合

  • 海外編(単発デート)
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