タイトル未定(少年向け・王道バトルもの)   作:リル★

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前回までのあらすじ

綾達は殺人鬼討伐のため三重に行った。
 そこで、葵と殺人鬼の明里が衝突。葵は糸を張り巡らした空間を作り上げるのであった。
 一方で、綾、紗希、愛は謎の男 透と衝突。綾は透を追い込むが……。実は、透は狼男だった?


1-3 救世主

◇唯一の男◇

 

 透の身体から少しずつ毛が生えていく。段々と狼男…に?

「今日の調子だとこれぐらいだ!どうだ!!」

 中途半端に狼の要素があるため変な感覚を覚える。半獣の透は今とても"ださい"!!

「ダサッ」と思わず声を出してしまった。

「仕方ねぇ。今日は昼で月もそんなにない三日月。力が出ねぇ。」

 今透が攻めてくるのなら、あたしが出るしかない。倒れている愛とそれを背負う綾に戦わせられない。

「それで?あたし達とやるつもり?」と威圧をかけた。

「今度の相手はそっちか…。忠告しておく!女だからって容赦しない!」

「舐められてるわね…」

()()()()()()()()()()()!!」

その言葉、きっちりそのまま返してやろうと思った。

 

 こうして、第2ラウンドのあたしと透の勝負が始まった。

 邪気を纏う狼の一撃を喰らわせようと透が飛びかかってくる。その攻撃をバリアで防いだ。

「やるな…。なら、この攻撃でどうだ?」

 透は素早いフットワークで後ろに回り込む。多分、元気の能力を使っている。相性的に不利な技だ。

 しかし、実力が違う。あたしはバリアを外し、すぐに受けの体制に入った。守りの型を取るため、強いダメージは受けにくい。

 

「どうだっ『回り込みスーパー蹴り』は!!」

 …と言われても、そんなにダメージは喰らっていなかった。まだまだ未熟なのだろう。蹴りが弱い。

 あたしは透に本物の蹴りを魅せてやった。腹を(えぐ)るように直撃する蹴りによって、透は吹き飛び木に打ち付けられた。

 

「ぐはっ。まだだ、『憑依:木の魔人ツリラー』」と苦しそうに叫ぶ透を見ると痛々しい気持ちになっていく。

 透が触れた木は、霊気を帯びた。つまり、霊となった。

 霊となった木のモンスターであるツリラーがあたしを襲う。が、バリアで(ことごと)く守ってやった。

 

「そのバリアを破壊して、俺は勝……」透は何かに気付いたらしい。

 あたしの右手をガン見しているのを見るに、紫色の龍のタトゥーに気付いたのだろう。この印は暴力団山川組の幹部であることを示している。

「勝てないじゃないか……。あの暴力団の幹部が相手って…」

 

 透はおどおどした態度を取り始めた。

 暴力団山川組は日本で一番強い裏の派閥だ。その中で幹部となると、強いに決まっている。

 

「くそっ、だが俺は負けない。俺は選ばれた男なんだ!」

「選ばれた?」と綾が問う。

「ああ、芦屋家は安倍家に負けてきた。だからこそ、強い子孫を残しいつか勝てることを願ってきた。」

「それが…お前なのか?」

「そうだ。俺は生まれながらにして、邪気の力を持ち、霊気の家庭に生まれ、元気の才能がある。俺は前代未聞の《唯一》の男なんだ!」

 

 透はライバルに勝つために幾度も厳しい修行を積んできたらしい。そして、ついにライバルとなる安倍祓魔師有限会社の舐めた姿勢が許せない。

 そして、勝負を仕掛け負けかけている。ここで諦めるわけにはいかない…。負けるわけにはいかない。

 …と透は言っていた。

 

 あたしも負けてあげる気はそうそうない。

 透が突っ込んでくる。あたしは、何発もの蹴りだけで痛みつけた。

「おいおい殺さないでよ…」という綾の嘆きを聴く。

 安心しろ!殺すのではなく、生け捕りにするだけだ。こうでもしないとまた襲いかかってきて面倒だ。

 

 とどめの蹴りが入り、透はその場に倒れた。

()()()()()()()()()()()!」

 あたしは透に向かって言い返してやった。透はその場から動かない。

 

「いや、逃げれないぐらいにボコボコにやられてますよ!」と綾。

 ピクッと痙攣をしかける透を見ると、本当に動けないのだろう。

「まあ、早く葵さんの所へ行きましょう!」

「はい!!」

 

 

◇赤兎VS青鷹◇

 

 張り巡らされた糸──。俺は鷹のように空中を翔ける。身動きが全く出来ない兎は俺の標的。狙ったものは逃がさない。

 

「『青鷹(ホーク):空中攻撃(ピーク)』」

 

 空を翔ける俺は素早い動きで獲物に攻撃する。鉄パイプが明里の頬をかすった。

 まだ、俺の攻撃は終わらない。糸を利用し、トランポリンのようにして跳ね返る。そして、再び明里へ攻撃をする。

 そう、この技は糸の柔軟性を利用し、このフィールドを素早く翔けて鉄パイプの連続攻撃を与えるという血も涙もない脅威さを持つ。

 だが、明里は殺人鬼と呼ばれるほどの実力者。頬に傷をつけることしか出来なかった。逆に俺がダメージを喰らった。

 明里の木刀による突きが俺の調子を狂わした。これ以上の攻撃は俺自身にも危険だ。糸を自由に翔けるなど簡単なことではないからだ。

 

「…。【新馬刀(しんばとう)】……。秘技……」

 

 明里は木刀を振る。空を切るように振られたその刀に俺は一瞬目を奪われた。

 その一瞬が命取りだった──。

 一瞬にして明里は消えた。そして、後ろに気配を感じた。

 不意をつかれた俺は避けることが出来なかった。攻撃をモロに受け、地面に叩き落とされた。

 

「まだだ…。」と俺は再び糸を伝っていく。

 それが間違いだった。俺は自由に糸を翔けていた。標的も自由に糸を伝っていたのだ。

 "戦いながら成長する"と言った所だろうか。明里の可憐な動きは俺を一気に不利な状況へと追い込む。

 

 しかし、俺はまだ負けた訳ではない。一発さえ当てれば致命傷になるはずだ。一撃を狙って俺は獲物を狙う。

「『青鷹(ホーク):頭脳的破壊(ブレイク)』」

 糸の伸縮性を利用し、極限まで押し込むことで俺の突撃速度は速くなる。この素早さなら獲物を捕えられる。

 

 

 俺は明里に向かって突撃した。その速さは目で見ると残像が現れるほど。

 ──それなのに、明里は俺の攻撃は軽々と避けた。さらに、追撃を加えてきた。俺の実力では…かすり傷一つしかつけられないのか…。

 俺は勢い余って糸のフィールドの外へと堕ちた。

 俺はこのまま勝てないのか……。身体中の痛みが俺を襲う。俺は鉄パイプを支えにして立ち上がる。

 

 獲物を狙う野性のような目──。戦いながら、糸のフィールドに慣れていき、俺を実力で捩じ伏せてくる。

 野性味に溢れたその目が俺を狙っている。

 獲物側と狩る側……。俺に有利な状況下で、見た目も格下に見える相手。俺は狩る側だと思っていた……のに。

 

 

 どうやら、それは違ったみたいだ。俺は狩られる獲物であり、兎のような敵こそが狩る側であったのようだ。

 

 

◇殺人鬼の真の姿◇

 

 だからって、俺が負けると決まった訳ではない。知恵さえ使えば狩る側にさえ回れるはずだ。

 俺は真っ向から対立する気はない。なぜなら俺の目的は《倒す》ことではないからだ──。

 

俺の目的は《捕らえる》ことなんだ。

 

 この技で終わらせる。終わらせられなかったら俺はもう勝てない──。やるしかない。

 俺は腹を括った。

 

 

 俺は鉄パイプを少しばかりいじった。そうすると、糸が鉄パイプの中へと逆戻りしていく。

 絡み合って出来た糸のフィールドが中心に集まっていく。真ん中へ真ん中へと絡んでいく糸が明里を捕らえていく──。

 明里は木刀と兎を落とした。絡んでいく糸の中には明里一人だけが取り残された。

 

「『繭吐虫(ワーム):封印結晶(クリスタルシール)』」

 

 明里は糸で作られた繭の中に閉じ込められた。俺の隠し技だ。これを喰らえば中からの脱出は不可能に近い!

 俺は勝ったと思った。まさか、殺人鬼の本当の脅威は他にもあったなんで思いもしなかった。

 

 

 糸がどんどん切られていく。目には見えない速度で糸の繭が切られている──。そして、無傷で脱出する明里。

「なかなかやるじゃないか…」

 兎が刀の先を俺に向けながら発した言葉だ。

 

 実は明里が抱いていた兎は霊だったのだ。

「明里…。こいつは強い!俺も戦う!!」

「……。ウサ 分かった…」

「こいつの記憶を奪わなきゃならねぇから、一気にケリをつけるぞ!明里…」

「うん……」

 

 謎の殺人鬼として、正体が分からなかった理由は"記憶を奪われていた"からだった。ここで負ければ、殺人鬼の存在を一から追うことになる。

 愛の仇がある。負けられない──。が……

 

 俺の後ろに現れるウサと呼ばれる兎。その兎は持っている刀を投げた。

 鉄の刀は当たれば致命的だ。俺は間一髪避けた。

 飛んでいった刀を明里が掴む。そして、刀は木刀へと変わった。ウサは霊力によって木刀を鉄の刀に変えていたのだろう。

 明里は背中を狙って木刀を振った。俺は──負けそうだ……。

 

 明里の攻撃は止まない。意識が飛ぶのも時間の問題だ。俺はここで…負けて…下手したら、死ぬのか?

 

 

◇救世主◇

 

 

 

 思い出が走馬灯のように蘇っていく。俺は──ここで死ぬのか?

 辺りは一面真っ暗だ。今、晴天の昼っていうのに。

 

「私が相手をするわ!殺人鬼さん」

 

 幻聴か?見知らぬ女の人の声が聴こえる。

「【誘引】こっちよ!」

 技を使ったのだろうか?気になる──。

 

 俺は辛うじて目を開けた。そこには、謎の美少女がいる。

 金髪で顔立ちが外国人っぽいが日本人っぽくもある。多分、ハーフだろう。

 

「大丈夫?」と心配してくれた。

 

 だいぶ意識を取り戻した。だけど、まだ眠い。

「ああ、助かった!ありが……」

 そこまで言い残すと俺は眠ってしまった。だが、死んだ訳ではない!短時間の夢の中(ショー)へと入り込んだだけだ。

 

 

◇救世主ローラ◇

 

 

 僕と紗希と愛は葵の元へと向かった。

 葵の姿は無残な姿だった──。そして、それを抱える金髪の女。

 

 僕はこの人のことを知っている。()()()だ。

 安倍祓魔師有限会社に所属する社員の娘だ。元気の素質はなく、霊や悪魔とも契約を結んでいない。あるのは、頭脳のみ──。

 それでも、僕よりも祓魔師としての素質がある。未だに、祓魔師の資格をとれでいないが───。

 

 僕はローラに葵の安否を聞いた。そして、返ってきたのは「ええ」という言葉だった。葵は生きている。

 ローラは逃げるふりをして、隠れたのだろう。予め仕組んでいる足跡によって、敵は逃げていると勘違いし足跡を辿っていく。

 

「早く逃げましょう!戻ってきたら危険よ」

 

 ローラの提案によって、僕らは逃げることにした。

 

 

◇邪竜蛇ヨルムンガルド◇

 

 

 僕らは殺人鬼から逃げて本部へと帰宅する頃。岐阜のとある町で強さが尋常ではない悪魔が現れた。

 

 

「誰だ?こいつ」と町の人々は声を荒らげる。

 フードを被った透明人間──のような存在。

 一枚の布が宙に浮かんでいる。まるで、透明人間かのように……。

 その透明人間のような存在は召喚魔法陣を繰り出した。これは、悪魔や霊を別空間から召喚するための魔法である。

 そこから現れたのがその尋常ではない悪魔だったのだ。

 

────邪竜蛇ヨルムンガルド。

 その悪魔の名前だ。

 

 ヨルムンガルドが現れて数分でその町は崩壊した。辺りは毒と死人と廃材があるのみだった。その悪魔の強さは町を一つ滅ぼすほどだった。

 僕がそんな危険な悪魔と対面することになるとは、今の僕には予想だにしないことだった……。




キャラ紹介

ライバル:ウサ

 明里の持つぬいぐるみ。実は霊がこもったモンスターだった!

 持った木刀を鉄の刀に変えることが出来るが、手から離すとすぐに木刀へと戻ってしまう。
 また、相手の記憶を奪うことが出来る。さらには、脳内に思念伝達でイメージ化したものを送ることが出来る。

相当厄介な相手だぞ!!

【一人称】ウサ
【見た目】白い兎。右耳に赤いリボンがついている。
【能力】霊気

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