神々が作り、賽子によって全ては決まる四方世界。
今日も今日とて神々は、シナリオ作りや賽子振り、お気に入りの者を見守るのに忙しいようです。
そんな中、彼らの元に
異なる世界、その最古の女神がやって来た事によって、四方世界の理にほんの少し頁が追加されるのです。すわ戦争か、と身構えた神々に対し、彼女は自らを光を司る者と称し、しかし争う姿勢はないと言います。彼女の求めはたった一つ。ある一人の、
そんなことならお安い御用。神々は二つ返事で承諾し、その理を了承したのでした。
新たな
一体この四方世界で、これから何が起こるのか。ひょっとすると、賽子の女神様すら知らないことなのかもしれません。
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デヴァラ───いや、今は光の神か。彼女に導かれ、私はこの世界へ足を踏み入れた。ここは、元いた世界とは何もかもが違う。
クラウケンなどという海の深きところに潜む物などおらず、代わりにあるのはゴブリン、トロル、デーモンと言った
───ソルトボーンなど、もっての他だ。この世界の者たちは、あの炎のような生命から生まれ、それは神々の祝福に満ちている。
この世界は、神々の祝福に満ちている。私には、それがどこか、酷く眩しい。
「GBRG!?」
「GR───!??」
弓を引き絞り、解き放つ。その繰り返しのただ単純な作業だが、この弓は私に応えてくれる。身の丈ほどの岩が浄化されたクラウケンの魂によって結合されたこの大弓は、弓に適した柔軟性を見せ、去れども放たれた弓は瞬く間に敵を撃ち抜いてくれる。
この巣で倒したのは32体。恐らくは
隅に横たえていた少女を介抱する。小鬼どもの苗床となりかけたその身体には、おぞましいと思える程の凌辱の後がある。腕はあらぬ方向へ捻曲がり、きっと艶やかであっただろう黒髪は無惨に乱れている。身体には幾重もの擦り傷と、打撲傷。臀部には爪が食い込んで破られた傷があり、この少女に何をしたのかをまざまざと見せつける。
光の神へと《祈り》を捧げる。古き神であろうと、新しい神であろうと、また純粋なる人の意志だろうと、人智を越えた信仰は、必ず結果となって帰ってくる。前の世界ほど潤沢に使える訳ではないが、一回や二回の《治癒》ならば、どうということはない。
─────光の神よ。貴女の光は私の光。私とは貴女の器。その輝きをもって、この哀れな巡礼者に癒しの手を授け給え。
骨が折れたり、内蔵が潰れたりすれば、ただの水薬では誤魔化す事は出来ようと、それを塞ぐことはままならない。それらを癒す事が出来るのも、《祈り》の長所であると言えよう。しかし、その治癒には精神的苦痛を伴う。この少女はこれまで散々苦痛を強いられてきたのだから、その負担を和らげるよう努めなければならない。
《治癒》の継続祈祷など、あの世界にいた頃はしたことすら無かったものだが、慣れたものだ。《大いなる治癒》はまだしも、《霊妙なる治癒》など自分相手以外に用いた事はない。傷口に塩を塗るどころか、極めて純粋な酒精を注ぎ続けるような苦痛を味わう嵌めになる。傷を負った者にそれは、酷というものだ。
少女が負っていた傷が全て塞がった。後は目覚めるのを待つばかりだが、何もこのような所で起きるのは寝覚めが悪かろう。起きる前に、この祠から離脱しなければならない。サンクチュアリ無き今、《帰還の鐘》はその役割を変えた。己の信仰の器を置いた先への帰還装置になった。今使う事を考えて見たが、差し迫った脅威もない今、限りある消耗品を使う必要はないだろう。少女をマントにくるみ、抱き抱える。すっかり消耗しきっていて、暫くは目を覚まさないだろう。起きる頃には、暖かなシーツにくるんでやらねばなるまい。せめてもの安らぎを祈ろう。
「──ん、ぅ───」
─────もう少し休んでいなさい。起きるには、貴女の心身は癒えきっていないよ。
「──ん──すぅ…すぅ…」
村へ送り届け、村長に依頼達成の旨を伝えた。彼女は地母神の教会で、安らかに眠っているとの事だった。少女の傍らに幾ばくかの《紅蜜の雫》を置き、村人達に感謝されながらその場を後にした。どうか、神々の加護があらんことを。
「お疲れ様でした、巡礼者さん。」
依頼を受けた冒険者ギルドに着くと、受付嬢が出迎えてくれた。その手には、まっさらな報告書。彼女は私がやろうとしていることを汲み取り、先んじて促してくれる。冒険者たちはこのような関係をツーカー言っていたが、どこか嬉しいような気もする。
報告書を受け取り、今回の状況を綴っていく。一人で相手取るのは些か手間だったが、帰る道すがら使った矢を回収し、また武器の消耗も短刀が二本駄目になったのを除けば特に損害もなかった。毎度毎度、今回のように上手く行けばいいのだが、そうも行かない。その実を言えば、私自身、一度小鬼どもに負けた事がある。
万全を期したつもりだったが、やはり
私は身ぐるみを剥がされ、あれだけ刺しては使い物にならないのか捨て置かれた。毒の効果を《解毒》で消し去ってから《帰還の鐘》を自らのソルトから取り出して帰還し、《霊妙なる治癒》を二度使ってどうにか立ち直る事は出来た。強化された装束や、金属で出来たがプレートメイルを装備したならああはならなかった筈だ。その日の内に私は、
それからは滅多に一人で子鬼どもの巣に赴くのは極力控え、また単独の場合は万全に万全を期して行くようにしている。警戒など、してもしすぎるものは無いものだ。
受付嬢に報告書を渡すと、彼女は微笑みながら私に話しかけてきた。
「またすぐ発たれるのですか?」
─────えぇ。巡礼は止みません。光が私と共にあるのですから。
そう返すと、どこか表情を曇らせた。
「そうですか…いえ、いつもありがとうございます!」
─────いえ、困っている人がいるのならば、光の神の名に懸けて見過ごす事はできません。無辜の民の道が閉ざされようとするならば、その道を拓くのが巡礼者の役目です。
冒険者ギルドを後にし、巡礼の旅を再開する。光の神はその威光を広めようとはせず、私を見守ってくれる。光の神は、この世界ではたった一人の為の神である。なんとおこがましく、図々しい。あの島に捕らわれる前の、一介のパラダインであった時では考えもしなかった事だ。私は彼女の期待に応え続けなければならない。途方もない重圧だ。だが、それは今の私の使命である。使命とは、自身を特別にしてくれるものだ。だから私は、彼女の光であり、器であることが出来る。
さぁ、行こう。巡礼は止まぬ。光とともにある限り。